なぜ同じ地震でも地域によって被害の種類や広がり方が違うのか?

地震の地域差が周囲の自然や暮らしに影響するのは、地域ごとにプレートや活断層の条件、地盤・地形・地下構造が異なり、同じ規模の地震でも揺れ方や起こりやすい災害、被害の広がり方が変わるからです。

さらに、建物の耐震性、人口密度、道路・鉄道・港湾・上下水道など社会インフラの配置も地域によって違います。そのため「地震が起きた」という同じ出来事でも、ある地域では強い揺れが中心となり、別の地域では津波・液状化・斜面崩壊などが大きな問題になることがあります。

つまり、地震の地域差とは単に「地震が多い県・少ない県」という意味ではありません。地震の起こり方、地震波の伝わり方、地盤の揺れやすさ、自然環境、社会条件が地域ごとに異なることで、自然と暮らしへの影響にも地域差が生まれるということです。

目次

まず、地震そのものの起こり方が地域で違う

日本では、地域によって関係するプレート境界や活断層が異なります。

地震調査研究推進本部は、日本各地の地震活動について、海溝型地震、沈み込むプレート内部の地震、内陸活断層の地震などを地域別に整理しています。

たとえば太平洋側では海洋プレートの沈み込みに伴う大規模な海溝型地震が重要で、内陸部では活断層による浅い地震が問題になる地域があります。

この違いによって、想定される地震の規模、震源の深さ、揺れの継続時間、津波の可能性などが変わります。

そのため、地域ごとの防災では「全国共通の一つの地震像」を考えるのではなく、その地域で起こりうる地震のタイプを知ることが重要です。

同じ地震でも地盤によって揺れの強さが変わる

地震波は震源から地表へ伝わる途中で、地下の岩盤や堆積層の影響を受けます。

防災科学技術研究所のJ-SHISでは、表層地盤増幅率という指標を使って、工学的基盤から地表へ地震波が伝わる際にどれだけ揺れが増幅されるかを示しています。

一般に、硬い岩盤の上では揺れが比較的小さく、柔らかい堆積層が厚い場所では揺れが増幅されやすくなります。

そのため、同じ市内や隣接する地域でも、地盤条件が違えば震度や被害に差が出ることがあります。

「震源からの距離がほぼ同じなのに、片方の地区だけ大きく揺れた」という現象には、このような地盤の地域差が関係する場合があります。

兵庫県南部地震でも町ごとに被害差が見られた

1995年兵庫県南部地震では、いわゆる「震災の帯」と呼ばれる強い被害地域の中でも、町丁目単位で建物被害に大きな差がありました。

J-STAGE掲載の研究では、地形・表層地質・地盤特性を詳しく調べた結果、表層地盤に入った地震波の増幅度の違いが、建物被害差の主な要因の一つと考察されています。

つまり、数kmどころか、より小さな範囲でも地盤条件によって揺れ方が変わることがあります。

このため、防災では「県全体」「市全体」だけでなく、自宅や職場周辺の地盤・微地形まで確認することが役立ちます。

平野や盆地では揺れが長く大きくなることがある

関東平野、大阪平野、濃尾平野などの大規模な平野・盆地では、硬い地震基盤の上に厚い堆積層があります。

こうした場所では、地震波が堆積層の中で増幅されたり、反射・屈折を繰り返したりして、揺れが長く続くことがあります。

特に長周期地震動では、深い堆積盆地の影響が大きく、高層ビルなど長い固有周期を持つ建物が大きく揺れる場合があります。

大都市の多くが平野部に発達しているため、自然の地下構造と人口・建物の集中が重なることで、社会への影響が大きくなりやすいのです。

沿岸地域では津波という別の地域差がある

海底下で大きな地震が起き、海底が広く上下すると津波が発生することがあります。

このため沿岸地域では、強い地震動に加えて津波が重要なリスクになります。

一方、内陸の山間部では津波の直接被害はありませんが、斜面崩壊や落石、道路寸断など別の危険が大きくなることがあります。

同じマグニチュードの地震でも、海岸、平野、山地では被害の種類が違うのはこのためです。

地域差を理解するとは、「どこが一番危険か」を単純に順位付けするのではなく、その地域では何が起こりやすいかを知ることです。

低地や埋立地では液状化リスクが高くなることがある

地下水位が高く、緩い砂質地盤が広がる低地や埋立地では、強い揺れによって液状化が起こる場合があります。

液状化すると、住宅の沈下・傾斜、道路の段差、マンホールの浮上、上下水道・ガス管の損傷などが起こります。

一方、硬い山地の岩盤では液状化しにくい反面、急斜面では落石や崩壊の危険があります。

このように、自然環境の違いによって「被害が出やすい場所」だけでなく、「被害の種類」そのものが変わります。

山地では地震後の斜面災害が大きな問題になる

山間部では、強い揺れが斜面を不安定にし、がけ崩れ、地すべり、落石などを引き起こすことがあります。

道路や鉄道が谷沿いや斜面沿いを通っている地域では、一か所の崩落で集落が孤立することもあります。

また、本震で亀裂が入った斜面は、その後の余震や大雨でさらに崩れやすくなる場合があります。

そのため、山地では建物の耐震性だけでなく、避難路の代替ルート、土砂災害危険箇所、河川のせき止めなども地震防災の重要な対象になります。

地震波の伝わり方も地域によって違う

USGSは、地震の揺れの地域差には表層地盤だけでなく、地殻構造や堆積盆地の厚さなども重要だと説明しています。

米国では、同程度の地震でも東部のほうが西部より遠くまで揺れが伝わりやすいことが知られています。

その背景には、地殻の性質や地質史の違いがあり、地震波の減衰のしかたが地域によって異なります。

これは日本でも同様に、震源からの距離だけで揺れの強さを完全には説明できないことを示しています。

地域ごとの地下構造を知ることが、地震動予測や耐震設計に重要なのはこのためです。

建物の種類や耐震性も地域差を大きくする

同じ震度でも、建物の耐震性が違えば被害は変わります。

古い木造住宅が多い地域と、新しい耐震基準の建物が多い地域では、同じ揺れを受けても倒壊率が同じになるとは限りません。

また、高層ビルが多い都市では長周期地震動、木造住宅が密集する市街地では倒壊や火災、沿岸工業地帯では大型タンクや港湾施設など、それぞれ重点的に備える対象が違います。

つまり、地震の地域差は自然条件だけでなく、人間がどのような街をつくってきたかによっても拡大・縮小します。

人口密度やインフラ配置で社会への影響は変わる

人口の多い都市部で地震が起きると、多数の人が同時に交通・通信・医療・物流の影響を受けます。

鉄道が止まれば帰宅困難者が増え、エレベーター停止や停電が高層住宅の生活へ大きな影響を与えることがあります。

一方、人口が少ない山間部では人的被害の絶対数が少なくても、道路寸断によって集落が孤立し、救援に時間がかかる場合があります。

つまり、「被害人数が多い都市」と「復旧しにくい地方」では、同じ地震でも課題の形が違います。

地域差を知ることは防災計画に直接役立つ

地震本部の全国地震動予測地図やJ-SHISでは、地震発生の長期評価と地震動評価を組み合わせ、地域ごとの揺れやすさや地盤条件を確認できます。

こうした情報は、住宅の耐震化、避難所配置、道路・橋梁の補強、ライフライン対策、自治体の防災計画などに活用されます。

個人でも、自宅周辺の地盤増幅率、活断層、液状化、津波、土砂災害などを複数のハザードマップで確認することが役立ちます。

一つの地図だけで「安全・危険」を決めるのではなく、地域固有の弱点を組み合わせて見ることが重要です。

「地震が少ない地域だから安全」とは限らない

過去に大地震が少なかった地域でも、将来の地震リスクがゼロとは限りません。

活断層の活動間隔は非常に長く、人の生活時間の中ではほとんど動かないことがあります。

また、離れた海域の巨大地震によって強い揺れや津波の影響を受ける地域もあります。

地域差を正しく理解するには、過去の体験だけでなく、長期評価、地震動予測地図、地盤・地形情報などを使って考える必要があります。

自然への影響と暮らしへの影響はつながっている

地震によって斜面が崩れれば道路や河川がふさがれ、液状化で地盤が沈下すれば住宅や下水道が使えなくなります。

津波で海岸地形が変われば、港湾・漁業・農地にも影響します。

つまり、自然環境の変化と社会被害は別々ではありません。

地域ごとの地形・地盤・水環境が変化することで、その上に成り立つ住宅、交通、産業、生活も影響を受けます。

地震防災で地域差を重視する理由は、自然条件と暮らしが密接につながっているからです。

まとめ

地震の地域差が周囲の自然や暮らしへ影響するのは、地域ごとにプレート・活断層・震源特性、地盤・地形・地下構造、人口・建物・インフラ条件が異なるためです。

その結果、同じ規模の地震でも、強く揺れる場所、津波が問題になる場所、液状化しやすい場所、斜面崩壊が起こりやすい場所、復旧に時間がかかる地域などが異なります。

J-SHISや地震動予測地図が地域ごとの地盤・揺れやすさを細かく示しているのは、こうした地域差が地震被害を考えるうえで重要だからです。

つまり、地震の地域差とは「地震の多さの違い」だけではなく、自然条件と社会条件の組み合わせによって、同じ地震でも影響の出方が変わることを意味します。自分の地域でどの地震が想定され、どの地盤・地形・暮らしの弱点があるかを知ることが、実際の防災につながるのです。

参考資料

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