河岸段丘は、かつて川底や氾濫原だった平らな面が、川の下刻によって現在の流路より高い位置に取り残されることで成り立つ地形です。 川はいつも同じ高さを流れているわけではありません。ある時期に谷底を広げて平坦な面をつくり、その後に河床を深く掘り下げると、古い河床や氾濫原は川沿いの高い場所に残ります。この平らな面が段丘面、現在の低地との間の急な斜面が段丘崖です。
河岸段丘が階段状に何段も並ぶことがあるのは、川が「平坦面をつくる時期」と「下へ掘り下げる時期」を繰り返してきたからです。その切り替わりには、地盤の隆起、海や湖などの基準面の変化、気候変動、流量、土砂供給量、岩盤の性質など複数の要因が関係します。
河岸段丘とはどのような地形なのか
国土地理院は、河岸段丘を河川の流路に沿って見られる階段状の地形で、現在の氾濫原より高い位置にあるものと説明しています。時代の異なる段丘面の間にある急な斜面を段丘崖と呼びます。
重要なのは、段丘面の多くが「昔から高台だった」のではないという点です。現在は川より数メートル、数十メートル、ときにはそれ以上高い位置にあっても、形成当時は川とほぼ同じ高さの河床や氾濫原だった場合があります。
つまり河岸段丘は、過去の川の高さを地形として保存したものです。そのため段丘面の高さや年代、そこに残る砂礫層を調べると、川がいつ、どの程度下刻してきたのかを考える手がかりになります。
河岸段丘ができる基本の仕組み
1.川が谷底に平らな面をつくる
河岸段丘ができる前には、まず川がある高さでしばらく流れ、谷底に比較的平らな面を形成します。
川が蛇行して横方向に河岸を削ると、河床周辺の岩盤や堆積物が広く削られます。また、洪水時に砂や礫が堆積すると、谷底に氾濫原が発達します。この時期の地表が、後に段丘面として残るもとの面になります。
そのため河岸段丘には、岩盤を川が横に削ってつくった面の上に薄い砂礫がのるタイプと、厚い砂礫が谷を埋めた後、その堆積物が削られて残るタイプがあります。
2.川が河床を下へ掘り下げる
次に、川がそれまでの河床より低い位置へ流路を掘り下げます。この作用を下刻といいます。
下刻が始まると、川は古い平坦面を切り込むように新しい谷をつくります。現在の川の位置だけが低くなり、以前の河床や氾濫原の一部は両岸または片岸に残ります。
この「古い面が削り残される」ことによって、河岸段丘ができます。段丘面が高くなったように見えても、実際には川の方が低い位置へ移った結果である場合があります。
3.古い河床と新しい河床の間に段丘崖ができる
川が下刻すると、新しい河床と古い平坦面の間に高さの差が生まれます。その境界にできる急斜面が段丘崖です。
下刻が進んだ後、川が再び横方向へ侵食したり、砂礫を堆積させたりして新しい平坦面をつくれば、より低い位置に次の段丘面のもとができます。
この過程が何度も繰り返されると、高さの異なる段丘面が階段状に並びます。一般には高い段丘ほど古いことが多いものの、地殻変動や侵食、地形の保存状態によって単純に高さだけで年代を決めることはできません。
なぜ川は下刻を始めるのか
河岸段丘を理解するうえで最も重要な疑問は、「なぜ、それまで平らな面をつくっていた川が急に下へ掘り始めるのか」という点です。
その理由は一つではありません。代表的なのは、地盤の隆起、基準面の低下、流量や土砂供給量の変化です。
地盤が隆起すると川の勾配が変わることがある
地殻変動によって土地が隆起すると、河川は下流側に対して相対的に高い位置を流れることになります。川の勾配が大きくなれば侵食力が増し、河床を掘り下げる方向へ変化することがあります。
USGSがワシントン州のヤキマ川で行った研究では、河岸段丘の年代と高さを用いて、河川の下刻と地殻の隆起との関係が調べられています。段丘は、長期的な地殻変動を読み取るための重要な地形記録になります。
ただし、河岸段丘があるからといって必ず隆起だけが原因とは限りません。隆起は数ある要因の一つです。
海面や湖面などの基準面が低下すると下刻が進むことがある
河川がどこまで河床を低くできるかは、下流の海面や湖面、合流先の河川高度などに影響されます。こうした侵食の高さの目安を基準面といいます。
海面が低下したり、下流側の河床が下がったりすると、河川はそれに合わせて上流側でも河床を掘り下げることがあります。氷期には世界的な海面低下が起きたため、海に近い河川では基準面変化が下刻の一因になることがあります。
一方、内陸の河川では地域の隆起や河道変化などの影響がより重要になる場合もあります。段丘形成の原因は流域ごとに検討する必要があります。
流量と土砂供給量のバランスが変わる
川は水だけでなく砂や礫を運んでいます。河床を削るか、逆に土砂をためるかは、流水の力と運ばれてくる土砂量のバランスで変わります。
土砂供給が非常に多い時期には、川が運びきれない砂礫が谷底にたまり、河床が高くなることがあります。その後、土砂供給が減ったり流量が増えたりすると、川はそれまでにたまった堆積物を削り込み、低い河床へ移ることがあります。
日本の河岸段丘研究でも、氷期・間氷期の気候変化にともなって河床の埋積と下刻が繰り返された事例が検討されています。
気候変動は河岸段丘の形成にどう影響するのか
気候が変わると、降水量、積雪、植生、凍結融解、斜面崩壊、川へ供給される土砂量などが変化します。その結果、河川の侵食と堆積のバランスも変わります。
たとえば寒冷期に斜面から大量の砂礫が供給される地域では、谷底に土砂がたまりやすくなることがあります。その後、気候が変化して土砂供給と流量のバランスが変わると、河川がその堆積物を掘り下げ、堆積面を段丘として残すことがあります。
USGSがアーカンソー州バッファロー川の段丘を調べた研究では、河川の堆積と下刻の時期が気候条件と関係し、さらに岩盤の硬さによって下刻速度に違いがあることが示されています。
このことから、河岸段丘は地殻変動だけでなく、過去の気候や流域環境の変化を記録する地形でもあるとわかります。
河岸段丘にはどのようなタイプがあるのか
侵食段丘
川が岩盤や古い堆積物を横方向に削って比較的平らな面をつくり、その後に下刻して残した段丘です。段丘面の下には岩盤が比較的浅く、その上に薄い河川砂礫がのることがあります。
英語では、岩盤上の平坦面を基準にしたものをstrath terraceと呼ぶことがあります。こうした段丘は、過去の河床高度や下刻量を考えるために利用されます。
堆積段丘
谷が一度厚い砂礫で埋められ、その堆積面が後の河川侵食によって切り下げられ、残されたものです。英語ではfill terraceと呼ばれるタイプに相当します。
この場合、段丘面の下には厚い河川堆積物が残っています。段丘形成前に「谷が埋まる時期」があったことを示すため、過去の土砂供給量や気候変動を考える重要な資料になります。
実際の河岸段丘では、侵食と堆積が複雑に重なっていることもあり、地表の形だけでタイプを判断できない場合があります。露頭やボーリング資料、地質調査が必要です。
なぜ川の両側に同じ高さの段丘があることがあるのか
昔の谷底が川の両側に広がっていた場合、下刻後にその一部が左右両岸に残ることがあります。そのため、向かい合う同じ高さの平坦面が、もとは一続きの河床や氾濫原だった可能性があります。
地形図上で左右岸の段丘面をつなげて考えると、昔の谷底の幅や川の位置を復元できることがあります。
ただし、左右岸で隆起量が違う場合や、断層運動で地形が変位している場合、段丘面の高さがずれることもあります。段丘面の高度差は活断層や地殻変動を研究する際にも利用されます。
段丘面の高さから何がわかるのか
段丘面は過去の河床高度の目安になるため、現在の河床との比高を測れば、その後に川がどれだけ下刻したかを推定できます。
さらに段丘を構成する砂礫や火山灰、年代測定可能な堆積物の年代がわかれば、「いつから現在までに何メートル河床が下がったか」を検討できます。
高木俊男ほかによる日本の河岸段丘研究では、段丘面や埋没谷底の高度を用いて、長期的な河床低下と氷期・間氷期に対応する周期的な河床変動が検討されています。
このような解析によって、河岸段丘は単なる景観ではなく、数万年から数十万年規模の地形変化を記録する「地形の年表」として利用できます。
河岸段丘と谷はどのようにつながっているのか
河岸段丘は谷の発達過程の一部です。川が谷底を横に削って広い面をつくった後、下刻によって新しい谷をその内側に掘り込むと、古い谷底が段丘として残ります。
つまり、段丘面をつなげると、現在より広く高い位置にあった昔の谷底を想像できます。さらに低い段丘面があれば、その後の別の時期の谷底を示します。
河岸段丘を観察すると、谷が一度に現在の深さまで掘られたのではなく、何段階にも分けて深くなったことがわかります。
河岸段丘と平野はどのようにつながっているのか
段丘面の多くは、かつて川がつくった氾濫原や谷底平野です。その意味では、河岸段丘は「古い平野が高い場所に残った地形」と考えることもできます。
現在の低地では洪水によって新しい土砂が堆積しますが、段丘面は現在の川より高いため、通常の洪水では浸水しにくくなります。この違いから、集落や道路が段丘面上に発達している地域もあります。
ただし、段丘面だから災害がないわけではありません。段丘崖では斜面崩壊が起こることがあり、段丘面上にも小さな谷や低地があれば大雨時に水が集まることがあります。
河岸段丘はどのように地図で見分けるのか
地形図や陰影起伏図では、川に沿って細長い平坦面が並び、その外側または川側に急な斜面があるかを確認します。
- 現在の河原や氾濫原より一段高い平坦面がある
- 川とほぼ平行に平坦面が続く
- 平坦面の縁に段丘崖がある
- 異なる高さに複数の平坦面が階段状に並ぶ
- 左右岸に対応する高さの平坦面が残る場合がある
国土地理院の地理院地図では、色別標高図や陰影起伏図を重ねることで段丘面と段丘崖を確認しやすくなります。
ただし、平らな高台がすべて河岸段丘とは限りません。火山麓地形、海成段丘、人工造成地なども似た形に見えることがあるため、河川との位置関係や地質を合わせて判断します。
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まとめ
河岸段丘は、かつて川底や氾濫原だった面が、河川の下刻によって現在の川より高い位置に取り残されることで成り立ちます。
- 最初に川が谷底を広げたり土砂を堆積させたりして平坦面をつくる
- その後、河川が下刻すると古い平坦面が段丘として残る
- 平坦面の形成と下刻が繰り返されると、複数段の階段状地形になる
- 下刻には地盤の隆起、基準面変化、流量・土砂供給量、気候変動などが関係する
- 段丘面の高さと年代を調べると、過去の河床高度や地殻変動を考える手がかりになる
河岸段丘を見るときは、「この平らな高台は、いつ川と同じ高さだったのか」「その後なぜ川だけが低くなったのか」と考えると、現在の地形に残された川の長い変化の歴史を読み取りやすくなります。
参考資料
- 国土地理院「4.河川の作用による地形」
- 高木俊男ほか「河岸段丘から推定した河床高度変化の歴史」地学雑誌
- U.S. Geological Survey「The role of lithology and climate on bedrock river incision and terrace development along the Buffalo National River, Arkansas」
- U.S. Geological Survey「Differential uplift and incision of the Yakima River terraces, central Washington State」

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