なぜ扇状地では季節や環境によって水と土砂の動きが変わるのか?

地形の扇状地が季節や環境によって変化するのは、豪雨・洪水・土石流・融雪・地下水・植生・人間活動などによって、水と土砂の動きが時期や場所ごとに変わるからです。 ただし、扇状地全体の形が一季節で大きく作り替えられるわけではありません。短期的には、流路が変わる、砂礫が堆積する、扇面の一部が削られる、地下水位が上下するといった変化が起こり、それが長期間積み重なることで扇状地の地形や内部構造が変わっていきます。

扇状地の変化を理解するときは、一回の豪雨や季節ごとの水位変化と、何十年・何百年・何千年かけて進む扇状地の成長や開析を分けて考えることが重要です。

目次

扇状地はどのような場所で変化しやすいのか

扇状地は、山地の狭い谷から河川が平地へ出る場所で形成されます。国土地理院は、扇状地を、河川が谷口から平地へ出たところで洪水とともに土砂や砂礫を堆積させてできた、扇状に広がる比較的緩やかな地形と説明しています。

そのため、変化が起こりやすいのは主に扇頂付近の流路、洪水や土石流が広がる扇央、地下水が浅くなりやすい扇端です。同じ扇状地でも、位置によって起こる変化は異なります。

梅雨や台風の豪雨は扇状地をどう変えるのか

大雨が降ると、山地の斜面や谷から多くの水と土砂が流れ出します。河川が谷口から扇状地へ出ると勾配がゆるくなり、運べなくなった礫や砂が堆積します。

国土地理院は、扇状地が洪水時の氾濫・堆積によって形成されること、谷口に近い場所では大雨時に土石流や土砂・洪水氾濫の影響を受けることを示しています。

ただし、豪雨のたびに扇状地全体へ均等に土砂が広がるわけではありません。流れは既存の河道に集中したり、河床が高くなって別の低い場所へ移ったりします。そのため、一回の豪雨でも「堆積する場所」と「侵食される場所」が同時に生まれます。

土石流が起こると扇状地の形は一気に変わるのか

土石流は、水と大量の砂礫が一体となって流れるため、通常の洪水より短時間に地形を変えることがあります。

静岡県の土石流扇状地を2年間観測した研究では、前半の土石流イベントでは既存流路内への堆積が中心でしたが、その後のイベントでは流下方向が変わり、扇状地上に幅約10mの新しい流路が形成されました。

この研究は、土石流の規模だけでなく、扇頂付近の勾配やそれまでの堆積状態によって、次のイベントで「堆積」が起こるか「侵食・流路変更」が起こるかが変わることを示しています。

つまり、扇状地は豪雨のたびに同じ反応をするのではなく、前の洪水や土石流でどのような地形になったかによって次の変化も左右されます。

流路が季節や洪水によって変わるのはなぜか

扇状地では、流路に砂礫がたまると河床が周囲より高くなることがあります。すると次の洪水時に、水が別の低い方向へ流れ出し、新しい河道が形成されることがあります。

このような流路変更が繰り返されることで、土砂は扇頂から一方向だけでなく、時間をかけて扇状地全体へ広がります。

USGSがコロラド州の土石流扇状地を調べた研究でも、活動中の扇面と放棄された古い扇面が共存し、土石流でできた地形がその後の流水などによって修正されることが確認されています。

したがって、現在の河道だけを見ても、扇状地の変化全体は分かりません。旧流路や古い扇面を見ることで、過去に土砂がどこへ広がったかを読み取れます。

春の融雪は扇状地にどんな影響を与えるのか

積雪地域では、春になると山地の雪が融け、河川流量が増えることがあります。融雪水が河川へ集中すると、扇状地上の河道で砂礫が移動しやすくなります。

また、河川水の一部は砂礫の多い扇状地へ浸透し、地下水を涵養します。扇状地は一般に透水性の高い砂礫層が発達しているため、地表を流れていた水が地下へ入りやすい場所があります。

そのため、春の変化は地表の流路や砂礫だけでなく、地下水位や湧水量にも現れることがあります。

地下水は季節によってどのように変わるのか

扇状地では、山地から入った河川水や降水が地下へ浸透し、地下水として扇端方向へ流れることがあります。

手取川扇状地を調べた研究では、地下水位に明瞭な季節変動があり、水田の灌漑期には非灌漑期より地下水位が約5m高くなる地点が確認されています。また、手取川から地下へ浸透する水も地下水涵養に寄与していました。

大間々扇状地の研究でも、地下水位の季節変動は降水量とおおむね対応していました。

このため、扇状地の「環境変化」には、地表の侵食・堆積だけでなく、降水・融雪・灌漑・河川水による地下水位変化も含まれます。

扇頂・扇央・扇端では季節変化が同じなのか

同じ扇状地の中でも、位置によって水と土砂の動きは違います。

  • 扇頂:谷口に近く、洪水や土石流で粗い礫が運ばれ、河道侵食や流路変更が起こりやすい
  • 扇央:砂礫が広く堆積し、河川水が地下へ浸透しやすい場所がある
  • 扇端:勾配が緩く、地下水位が浅くなったり湧水が見られたりする場合がある

国土地理院も、扇状地の扇端部では地下水位が浅いことが多いとしています。したがって、大雨時の土砂移動が目立つ扇頂と、地下水の季節変動が目立つ扇端では、「変化」の意味が異なります。

雨が少ない季節には扇状地は変化しないのか

雨が少ない時期には、大規模な洪水や土石流が起こりにくくなるため、地表の急激な地形変化は少なくなります。

しかし、河道では小規模な流れによる砂の移動が続き、裸地では風による細粒物質の移動、植生の成長による地表の安定化などが起こります。地下水位も降水量や灌漑の有無によって変化します。

つまり、乾燥期は「変化が止まる時期」ではなく、大規模な土砂移動が少なく、地表の安定化や地下水低下が目立ちやすい時期と考えられます。

土砂の粒の大きさで季節変化の現れ方は変わるのか

扇状地では、礫・砂・シルトなどさまざまな大きさの土砂が運ばれます。

大きな礫を運ぶには強い流れが必要なため、粗粒の土砂は主に大洪水や土石流など強いイベントで移動します。一方、細かな砂や泥は比較的小さな流れでも動き、扇端や流路外まで運ばれることがあります。

USGSの扇状地縦断形研究では、扇頂から扇端へ向かって勾配が小さくなるとともに、河道外への礫の堆積などによって下流へ運ばれる砂礫量が減少することが、扇状地の形に関係すると考えられています。

このため、一回の洪水でも、扇頂付近では礫の移動、扇端側では砂や泥の堆積が目立つなど、場所によって変化の内容が異なります。

植生は扇状地の変化を弱めるのか

植物の根は表層の土をまとめ、草木は水流の速度を弱めることがあります。そのため、植生が密な古い扇面では、裸地の活動的な流路より侵食されにくい場合があります。

一方、大きな土石流や洪水では植物ごと土砂が流されることもあります。流木が流路にたまれば、流れを別方向へ変える原因になる場合もあります。

そのため、植生は扇状地を安定させる要因の一つですが、豪雨規模や流路条件によって効果は異なります。

現在も変化している扇面と古い扇面は何が違うのか

国土地理院は、現在も形成されつつある扇状地を現成扇状地とし、河川の侵食で開析され、現在の河床より高い位置に残る古い扇状地を開析扇状地と区別しています。

現成扇面では洪水や土石流による新しい堆積、流路変更、侵食が起こりやすい一方、古い扇面では現在の主河道から離れ、直接的な土砂供給を受けにくい場所があります。

USGSの研究でも、土石流扇状地には活動中の面と放棄された面があり、古い面はその後の流水や風化など二次的な作用で徐々に修正されることが示されています。

したがって、「扇状地だから季節ごとに動く」と一括りにはできず、どの面が現在も活動しているかを確認する必要があります。

人間活動は扇状地の季節変化をどう変えるのか

扇状地では、砂防ダム、堤防、河川改修、水田灌漑、地下水揚水、道路や市街地造成などが水と土砂の動きを変えます。

砂防施設は土石流や砂礫を捕捉し、下流の扇面へ届く土砂量を減らします。堤防や水路で河道を固定すれば、自然状態で起きていた流路変更が抑えられます。

一方、手取川扇状地の研究が示すように、水田灌漑は地下水位を季節的に大きく変えることがあります。地下水揚水や水田面積の減少も、地下水環境を変える要因になります。

そのため、現在の扇状地を観察するときは、自然の洪水・土石流だけでなく、河川管理や土地利用も重要な変化条件です。

扇状地の変化は防災とどう関係するのか

扇状地は、過去の洪水や土石流が砂礫を運び、堆積させて形成した地形です。そのため、谷口に近い場所では現在も土石流や土砂・洪水氾濫の影響を受ける可能性があります。

また、扇面上には現在使われていない旧流路が残っていることがあります。大洪水時に流れが旧流路や周囲の低い場所へ移る可能性もあるため、現在の河道だけを見るのは十分ではありません。

扇端では地下水位が浅い場合があり、地震時の液状化にも注意が必要な場所があります。

実際の危険度を判断するときは、地形分類図、土砂災害警戒区域、洪水ハザードマップ、過去の災害記録を組み合わせて確認することが重要です。

扇状地の季節・環境変化を観察するポイント

扇状地がどのように変化しているかを見るときは、同じ場所を季節や年代を変えて比較すると分かりやすくなります。

  • 大雨や土石流の前後で流路の位置が変わっていないか
  • 扇頂付近で新しい礫の堆積や侵食が見られないか
  • 古い流路跡と現在の河道がどのように分布しているか
  • 雨期・融雪期・灌漑期で地下水位や湧水量が変わっていないか
  • 植生の少ない活動面と古い安定面で地表の状態が違うか
  • 古い空中写真と現在を比べ、河道や扇面の土地利用が変化していないか

一回の観察では変化が小さくても、大雨の前後や数年・数十年の写真を比較すると、流路変更、扇面の侵食、堆積域の移動などが読み取りやすくなります。

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まとめ

地形の扇状地が季節や環境によって変化するのは、豪雨・洪水・土石流・融雪・地下水・植生・人間活動などによって、水と土砂の動きが変わるからです。

  • 豪雨や土石流では、砂礫の堆積だけでなく流路変更や扇面侵食も起こる
  • 一回のイベントの結果が、次の洪水や土石流の流れ方を左右する
  • 積雪・降水・河川伏没・灌漑によって地下水位は季節的に変動する
  • 扇頂・扇央・扇端では、水と土砂の動きや地下水環境が異なる
  • 現在も活動する扇面と古い扇面では、季節変化の受け方が違う

扇状地を見るときは、「今の季節にどれだけ水が流れているか」だけでなく、「前の洪水でどこに土砂がたまり、次の洪水で流路がどこへ移る可能性があるか」「地下水が季節や土地利用でどう変わるか」を合わせて考えると、変化の仕組みを理解しやすくなります。

参考資料

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