なぜ台風の中心では気圧が低くなるのか?

台風のニュースでは「中心気圧950hPa」「中心気圧920hPa」といった数字がよく示されます。では、なぜ台風の中心では周囲より気圧が低くなるのでしょうか。

結論からいうと、台風の中心付近では暖かく湿った空気が上昇し、水蒸気の凝結で放出された熱によって台風内部が周囲より暖かい「暖気核」になります。暖かい空気柱は厚くなり、上空では空気が外側へ流れ出します。こうして中心付近の空気の質量が減ることで、地上の気圧が低くなります。

目次

そもそも気圧とは何か

気圧は、その場所の上にある空気の重さによって生じる圧力です。地上のある地点で上空まで積み重なっている空気の質量が多ければ気圧は高くなり、少なければ気圧は低くなります。

つまり、台風の中心気圧が低いということは、その中心上空の空気柱の質量が周囲より少ない状態だと考えられます。

台風の中心付近では強い上昇流が続く

台風は暖かい海から水蒸気を含んだ空気を取り込みます。地上付近の空気は渦を巻きながら中心へ流れ込み、眼の壁付近で強く上昇します。

上昇した空気の中では水蒸気が凝結して雲や雨になり、そのとき潜熱が放出されます。この熱が空気を暖め、上昇流を維持します。

上昇流が続くと、地上付近から空気が上へ運ばれます。もし上空でその空気が外側へ効率よく流れ出せば、中心付近の空気柱の質量は減り、地上気圧は下がります。

暖気核ができるとなぜ気圧が下がるのか

熱帯低気圧は、中心付近の大気が周囲より暖かい「暖気核」を持つ低気圧です。NOAAも、熱帯低気圧を暖気核を持つ低圧系として説明しています。

暖かい空気は同じ気圧差の中で冷たい空気より膨張し、空気柱の厚さが大きくなります。台風では潜熱の放出や眼の中の下降流による昇温によって、中心付近の空気柱が周囲より暖かくなります。

この暖気核と上空の空気の流出が組み合わさることで、中心付近の地上気圧は低く保たれます。

上空で空気が外へ逃げることが重要

地上付近では空気が中心へ流れ込みますが、それだけでは中心に空気がたまり、気圧が上がってしまいます。台風が発達するには、上昇した空気が上空で外側へ流れ出す必要があります。

この上空の流出が十分に働くと、地上から中心へ流れ込んだ空気が上昇し、その後外側へ排出されます。結果として、中心付近の空気柱の質量が減り、中心気圧が下がりやすくなります。

反対に、上空の流れが悪くなったり、強い鉛直シアで対流構造が崩れたりすると、中心気圧の低下が止まり、台風の発達も抑えられます。

中心気圧が下がると風が強まりやすい

中心気圧が下がると、周囲との気圧差が大きくなりやすくなります。空気には気圧の高い方から低い方へ動こうとする力が働くため、気圧差が大きいほど強い風が吹きやすくなります。

気象庁も、台風の発達期には中心気圧が下がるとともに中心付近の風速が急激に強くなると説明しています。

ただし、風の強さを決めるのは中心気圧そのものではなく、どれだけ短い距離で気圧が変化しているかという「気圧傾度」です。

同じ中心気圧でも風の強さが違うことがある

中心気圧が同じ台風でも、風速は同じとは限りません。小さく引き締まった台風では、中心から少し離れただけで気圧が急に高くなるため、気圧傾度が大きくなり、強い風が吹くことがあります。

一方、大型で広がった台風では、同じ中心気圧でも気圧の変化が緩やかで、最大風速が異なることがあります。

NOAAも、熱帯低気圧の風は中心気圧だけでなく気圧傾度によって決まり、同じ中心気圧でも大きさによって最大風速が異なりうると説明しています。

中心そのものは最も風が強い場所ではない

発達した台風では、中心付近に「目」と呼ばれる比較的風の弱い領域があります。気象庁によると、気圧が最も低い中心のごく近くは目であり、その周囲の眼の壁付近で最も強い風が吹きます。

つまり、「最も気圧が低い場所」と「最も風が強い場所」は一致しません。風は気圧の低さそのものではなく、周囲との気圧差とその空間的な変化によって強まるからです。

台風が発達すると中心気圧はどう変わるのか

気象庁は、台風となってから中心気圧が下がり、勢力が最も強くなるまでを発達期としています。暖かい海から水蒸気が供給され、積乱雲が活発になると、潜熱の放出によって暖気核が強まり、上昇流と上空の流出も維持されます。

この状態が続けば、中心付近の空気柱の質量がさらに減り、中心気圧が下がります。

最盛期には中心気圧が最も低くなり、最大風速も最も強くなる傾向があります。

台風が弱まると中心気圧が上がる理由

台風が冷たい海へ進んだり、陸地へ上陸したりすると、海からの熱と水蒸気の供給が減ります。積乱雲の活動が弱まると潜熱の放出も減り、暖気核や上昇流を維持しにくくなります。

また、強い鉛直シアや乾いた空気の流入で台風の構造が崩れると、中心付近から上空への効率的な空気の排出も弱まります。

その結果、中心付近の空気柱の質量が増え、中心気圧は上がる方向へ変化します。

中心気圧はどうやって求めているのか

陸上や島の近くでは気圧計による観測ができますが、海上の台風の中心を直接観測できる場所は限られます。

気象庁は、島や船舶などの観測結果に加え、気象衛星画像を用いて台風の中心気圧や風速を解析しています。衛星画像では、目の有無や形、中心付近の雲の発達状況、雲頂温度などを使い、統計的な手法で強度を推定します。

そのため、海上の台風の中心気圧は必ずしも中心で直接測定した値とは限りません。

中心気圧が低いほど台風は必ず危険なのか

中心気圧は台風の強さを知る重要な指標ですが、それだけで災害の大きさは決まりません。

気象庁では台風の「強さ」を最大風速で分類し、「大きさ」は風速15m/s以上の強風域の半径で分類しています。つまり、中心気圧、最大風速、強風域の広さはそれぞれ別の指標です。

また、実際の被害は進路、移動速度、雨量、高潮、地形などでも大きく変わります。中心気圧の数字だけで危険度を判断しないことが重要です。

暖気核と温帯低気圧の違い

台風は中心付近が暖かい暖気核を持ち、主に暖かい海から供給される熱と水蒸気をエネルギー源としています。

一方、温帯低気圧は暖かい空気と冷たい空気の温度差を主なエネルギー源とし、前線を伴います。

台風が北上して冷たい空気を取り込むと、暖気核の構造が崩れ、温帯低気圧へ変わることがあります。このときは中心気圧が低いままでも、低気圧のエネルギー源や風の分布は台風とは異なる構造へ変化しています。

関連する台風の仕組み

台風が渦を巻く構造になる理由については、なぜ台風は渦を巻く構造になるのか?で詳しく解説しています。

台風の進路がどのような仕組みで成り立つのかについては、なぜ台風の進路はどのような仕組みで成り立つのか?、高潮の仕組みについては、なぜ台風で高潮が起こるのか?も参考になります。

まとめ

台風の中心で気圧が低くなるのは、暖かい海から供給された水蒸気が積乱雲の中で凝結し、潜熱を放出して暖気核をつくり、中心付近の強い上昇流と上空への空気の流出を支えるためです。

上空へ運ばれた空気が外側へ流れ出すと、中心上空の空気柱の質量が減り、地上の中心気圧が下がります。中心気圧が下がると周囲との気圧差が大きくなり、強い風も生まれやすくなります。

ただし、風速は中心気圧だけでは決まりません。台風の大きさや気圧傾度、内部構造なども重要です。中心気圧は台風の状態を示す重要な数字ですが、最大風速や強風域、雨、高潮などと合わせて見る必要があります。

参考資料

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