なぜフェーン現象には湿ったフェーンと乾いたフェーンがあるのか?

フェーン現象は、山を越えた風が風下側で乾燥し、気温を上昇させる現象です。ただし、その起こり方は一つではありません。気象庁はフェーン現象について、「湿った空気が山を越える途中で雨を降らせ、その後に乾燥して高温になる場合」と、「上空の高温位の空気が山地の風下側へ力学的に降下して乾燥・昇温する場合」の二つを示しています。

つまり、フェーン現象は必ずしも「山の風上で雨が降ったから風下が暑くなる」という一つの仕組みだけではありません。水蒸気の凝結と降水を伴う湿ったフェーンと、山越え気流そのものの下降・圧縮が中心になる乾いたフェーンを分けて考えると、現象の構造が理解しやすくなります。

目次

フェーン現象とは山の風下側で乾燥した高温の風が吹く現象

気象庁は、風が山を越えて斜面に沿って下降したとき、風下側で気温が高くなる現象をフェーン現象としています。NOAA/National Weather Serviceも、フェーンを山脈の風下側に吹く暖かく乾燥した風と定義し、その暖かさと乾燥は下降時の断熱圧縮によると説明しています。

共通しているのは、空気が山を越えた後に下降し、その過程で圧縮されて暖まることです。ただし、その空気が山を越える前にどのような状態だったかによって、フェーンの発生過程は変わります。

湿ったフェーンでは風上側の上昇で雲と雨が生まれる

湿った空気が山にぶつかると、斜面に沿って上昇します。上昇する空気は周囲の気圧が低くなるため膨張し、気温が下がります。やがて空気が飽和すると水蒸気が凝結して雲ができ、さらに上昇すれば雨や雪として水分の一部が失われます。

気象庁のFAQでは、湿った空気が山を上るときには雨を降らせながら気温が下がり、その後、山を下る乾燥した空気は100mにつき約1℃の割合で昇温すると説明しています。上昇中に凝結が起きると潜熱が放出されるため、乾燥した空気だけが上昇する場合よりも気温の低下が緩やかになります。

この結果、風上側で水分を失った空気が山頂を越えて下降すると、風下側ではより乾燥し、元の高さまで下りたときには風上側より高温になることがあります。

湿ったフェーンは「上りでの凝結」と「下りでの乾燥断熱昇温」の組み合わせで起こる

湿ったフェーンの核心は、山を上るときと下るときで空気の温度変化の仕方が違うことです。上昇途中で雲ができると、水蒸気が凝結する際に熱が放出されるため、空気の冷え方が弱まります。一方、山頂を越えた後は空気が乾いているため、下降時には乾燥断熱的により大きく昇温します。

そのため、同じ高度まで戻ったとき、風下側の空気は風上側より暖かくなることがあります。ここでは「山を下るから暖かくなる」だけではなく、上昇中に水分を失い、熱の収支が変わったことが重要です。

この仕組みが、教科書でよく説明される典型的な湿ったフェーンです。

乾いたフェーンでは風上で雨が降らなくても高温になる

気象庁は、フェーン現象には湿ったフェーンだけでなく、乾いたフェーンもあるとしています。乾いたフェーンでは、上空の高温位の空気が山地の風下側へ力学的に降下し、下降に伴う圧縮によって乾燥・昇温します。

この場合、風上側で大量の雨が降ることは必須ではありません。重要なのは、もともと上空にあった空気が山の風下側へ強く下降することです。空気は下降すると周囲の気圧が高くなるため圧縮され、外部から熱を加えなくても温度が上がります。

したがって、フェーン現象を「風上で雨が降る現象」とだけ覚えると、乾いたフェーンを説明できません。気象庁の用語説明が二つの発生機構を併記しているのはこのためです。

湿ったフェーンと乾いたフェーンは違っても、風下での下降・圧縮は共通している

湿ったフェーンと乾いたフェーンは、山を越える前後の水分過程が異なります。湿ったフェーンでは、風上での上昇・凝結・降水が重要です。乾いたフェーンでは、上空の空気が風下側へ下降する力学過程が中心です。

それでも両者には共通点があります。どちらも山の風下側で空気が下降し、断熱圧縮によって昇温し、相対湿度が低下しやすいことです。NWSの用語集も、フェーンの暖かさと乾燥は山腹を下降する際の断熱圧縮によるとしています。

つまり、「風下で暖かく乾く」という見える結果は共通でも、そこへ至るまでの経路が一つではないのです。

フェーンの強さは山だけでなく気圧配置や風の流れ方でも変わる

フェーン現象は、山があれば必ず起こるわけではありません。山を越える向きの風があり、その空気が実際に風下側へ下降する必要があります。気象庁の北陸地方の解説では、日本海の低気圧に吹き込む南風や台風に伴う風によってフェーンが起こり、高温になった事例が示されています。

また、乾いたフェーンでは、上空の高温位空気がどの程度風下側まで下降するかが重要です。背景の気圧配置、山地の形、風速、大気の安定度などによって、風下のどこまで高温・乾燥した空気が到達するかは変わります。

そのため、同じ山でも毎回同じ気温上昇になるわけではありません。

フェーン現象は一つの説明だけでは足りない

フェーン現象を理解するときは、まず風下側で空気が下降・圧縮されて暖まり、乾燥するという共通点を押さえる必要があります。そのうえで、湿ったフェーンでは風上側での凝結・降水が加わり、乾いたフェーンでは上空の高温位空気の力学的下降が中心になると整理できます。

この違いを知ると、「フェーンは必ず雨の後に起こる」という誤解を避けられます。現実のフェーンは、湿った過程と乾いた過程が完全に別々とは限らず、複数の要因が組み合わさる場合もあります。

したがってフェーン現象は、単なる山越えの風ではなく、空気の上昇・凝結・降水・下降・断熱圧縮がどのように組み合わさるかで姿が変わる大気現象です。

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参考資料

  • 気象庁「フェーン現象」
  • 気象庁「気温、湿度」
  • 気象庁「気温について」
  • NOAA/National Weather Service「Glossary: Foehn」

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