なぜ雲は放射と水の相変化の両方で気温を変えるのか?

雲が気温を変えるのは、太陽光や地表からの赤外線を反射・吸収・再放射する「放射」の働きと、水蒸気が水滴や氷へ変わるときに熱を放出し、逆に蒸発するときに熱を吸収する「相変化」の働きが同時にあるからです。雲は単なる日傘や毛布ではなく、放射と水の相変化を通じて、大気のどこで熱を受け取り、どこへ運び、どこで放出するかを変える存在です。

このため、雲と気温の関係は「雲が多いと何℃下がる」という一方向のルールでは表せません。低く厚い雲は太陽光を強く反射して地表を冷やす方向に働きやすく、高く薄い雲は地表から出る赤外線を吸収・再放射して暖める方向に働きやすくなります。さらに、雲ができる過程では水蒸気の凝結に伴って潜熱が大気へ放出され、対流の発達にも影響します。この記事では、雲が放射収支と水の相変化をどう結び付け、大気の気温構造を作るのかを仕組みから整理します。

目次

雲は「水滴や氷の粒」でできている

雲は水蒸気そのものではなく、大気中に浮かぶ微小な水滴や氷晶の集まりです。空気が上昇して気圧が下がると、空気は膨張して冷えます。気温が露点まで下がり、空気が飽和すると、水蒸気が凝結して水滴や氷の粒が作られ、雲が形成されます。

雲ができるには、空気が冷えて飽和することに加えて、凝結の核となる微粒子も必要です。海塩、ちり、煙などのエーロゾルが雲粒の核として働きます。

この「上昇→冷却→凝結」という過程は、雲を作るだけではありません。水蒸気が液体や氷へ変わるときに熱のやり取りが起こるため、雲の形成そのものが大気の温度変化に関与します。

水蒸気が凝結すると、潜熱が大気へ放出される

水を液体から水蒸気へ変えるにはエネルギーが必要です。海や地表から水が蒸発するとき、そのエネルギーは周囲から奪われ、水蒸気の中に潜熱として運ばれます。

NASAは、地表で水が蒸発するときに吸収された熱が、水蒸気が雲の中で凝結するときに大気へ放出されると説明しています。気象庁も、海から蒸発した水蒸気が大気中で凝結して雲を作る際、熱を大気へ放出するとしています。

つまり、水蒸気は「水」だけを運んでいるのではありません。蒸発した場所で受け取ったエネルギーを水蒸気として運び、雲ができる場所で放出します。

雲の形成は、水の循環と熱の輸送が同時に起こる過程です。

凝結で出る熱は、上昇する空気の冷え方を弱める

雲ができる前の乾いた空気塊は、上昇して膨張すると比較的速く冷えます。しかし、飽和して凝結が始まると、凝結で放出される潜熱が空気を暖める方向に働きます。

そのため、雲の中を上昇する空気は、凝結がない乾いた空気よりゆっくり冷えます。これが湿った空気の上昇時に乾燥断熱減率より温度低下が小さくなる理由です。

この潜熱放出は、積乱雲や台風のような強い対流を考えるうえでも重要です。気象庁は、台風中心部で水蒸気の凝結に伴って放出される熱量が多いほど、台風の発達を促すと説明しています。

雲の中では、相変化が単に温度を少し調整するだけでなく、浮力や上昇流の強さを変え、さらに雲の発達へ戻ってくるという循環が起こります。

雲は太陽から来る短波放射を反射する

雲が気温へ関わるもう一つの大きな経路が放射です。太陽から地球へ届くエネルギーの多くは短波放射です。

雲粒や氷晶は、この太陽放射を反射・散乱します。NASAは、雲は一般に下にある地表面より反射率が高く、特に低く厚い雲は多くの太陽放射を宇宙へ反射すると説明しています。

地表へ届く日射が減れば、地面や海面が吸収するエネルギーが減り、地表から空気へ渡る熱も少なくなります。そのため、雲の短波放射に対する働きは、地表や下層大気を冷やす方向に作用しやすくなります。

気象庁も、下層雲は地球へ入射する太陽エネルギーを反射し、降温効果を持つ傾向があるとしています。

雲は地表から出る長波赤外線も吸収・再放射する

地表は太陽放射を吸収して暖まると、長波の赤外線としてエネルギーを放出します。雲はこの赤外線をよく吸収し、自身の温度に応じて上向きと下向きの両方向へ再放射します。

NASAは、雲が地表からの長波放射を吸収し、その一部を地表方向へ戻すため、雲には地表を暖める方向の温室効果もあると説明しています。

したがって雲は、太陽光を反射することで冷却する一方、赤外線を吸収・再放射することで保温するという、反対向きの二つの放射作用を持ちます。

雲の放射効果は「冷やすか暖めるか」の二択ではなく、短波の冷却効果と長波の加熱効果の差し引きで決まります。

低く厚い雲と高く薄い雲では、気温への作用が違う

雲の高さや厚さが重要なのは、短波反射と長波放射の強さが変わるためです。

低く厚い層積雲のような雲は太陽光を強く反射しやすく、地表への短波エネルギーを大きく減らします。一方、雲頂温度は地表と比べて極端に低くないため、長波による温室効果は高い雲ほど強くありません。結果として冷却作用が優勢になりやすくなります。

高く薄い巻雲は、太陽光を比較的通しやすい一方、地表から出る赤外線を吸収します。高い雲頂は低温なので、宇宙へ放射する赤外線は地表より弱くなります。その結果、地球系から宇宙へ逃げる熱を減らし、暖める方向の作用が相対的に大きくなります。

気象庁も、下層雲は降温効果、上層雲は昇温効果を持つ傾向があると説明しています。

積乱雲では「放射」と「潜熱」が同時に強く働く

積乱雲のような深い対流雲では、放射と相変化の両方が非常に活発になります。

厚い雲は太陽光を強く反射するため、短波では地表を冷やす方向に働きます。一方、雲頂は非常に高く低温なので、宇宙へ出る長波放射を小さくし、温室効果を強める方向にも働きます。

さらに、積乱雲の中では大量の水蒸気が凝結・凍結し、潜熱が放出されます。この潜熱が上昇気流を支え、雲をさらに高く発達させることがあります。

NASAは、深い積乱雲では短波による冷却と長波による温室効果が大きく、平均的には互いにかなり打ち消し合う場合があると説明しています。

つまり大きな雲ほど単純に「冷やす」「暖める」と決められるわけではなく、放射と潜熱輸送を同時に見る必要があります。

雲が蒸発するときは、周囲から熱を奪う

凝結が熱を放出するなら、逆の変化である蒸発では熱が必要になります。雲粒や雨粒が乾いた空気の中で蒸発すると、周囲の空気からエネルギーを受け取り、その空気を冷やす方向に働きます。

地表の蒸発でも同じ仕組みがあり、気象庁は台風時の強い蒸発によって海面から熱が奪われ、海面水温が低下すると説明しています。

大気中でも、雲粒や雨粒の蒸発が起これば、潜熱の吸収によって空気が冷えます。この冷却で空気の密度が大きくなれば、下降流が強まることもあります。

そのため雲の相変化は、凝結による加熱だけでなく、蒸発による冷却も含む可逆的なエネルギー交換です。

気温は雲を変え、雲も気温を変える

雲と気温の関係は一方向ではありません。気温が変わると、空気が保持できる水蒸気量や飽和に達する条件が変わるため、雲のできやすさや消えやすさも変化します。

空気が冷えて露点に達すれば凝結が起こり、雲粒が増えます。逆に空気が暖まり、飽和から遠ざかれば雲粒は蒸発しやすくなります。

そして雲が増えれば、短波と長波の放射収支が変わり、凝結・蒸発による潜熱交換も変わります。つまり、気温が雲を制御し、雲がまた気温へ戻って作用する相互関係があります。

気候モデルで雲の扱いが難しいのは、このような放射・相変化・対流のフィードバックが同時に起こるためです。

雲による「気温変化」は、地表と雲の中では意味が違う

雲が気温を変えると言っても、地上気温と雲内部の気温では主な仕組みが少し異なります。

地表付近では、雲による短波日射の減少や下向き長波放射の増加が、地表面熱収支を通じて気温へ影響します。

一方、雲の内部では、水蒸気の凝結・凍結・蒸発・融解などの相変化に伴う潜熱交換が、空気塊の温度や浮力へ直接関わります。

地上の気温を見るときは放射収支、雲の発達を見るときは潜熱と浮力まで含めると、雲と気温の関係を整理しやすくなります。

雲と気温の仕組みは「放射・相変化・輸送・フィードバック」で読む

雲が気温へ関わる仕組みは、次の4点に整理できます。

  • 放射:雲は太陽の短波放射を反射する一方、地表からの長波赤外線を吸収・再放射する。
  • 相変化:水蒸気が凝結・凍結すると潜熱を放出し、蒸発・融解では熱を吸収する。
  • 輸送:水蒸気は地表で得た潜熱を大気中へ運び、雲ができる高度でその熱を放出する。
  • フィードバック:気温が雲のでき方を変え、雲が放射と潜熱を通じて再び気温を変える。

雲と気温の関係の本質は、雲が「光を遮る物体」ではなく、水とエネルギーを大気中で変換・輸送する装置であることです。短波と長波の放射収支を変えながら、同時に水蒸気の相変化を通して潜熱を受け渡すため、雲は地表の気温、上空の温度構造、対流の強さのすべてに関わります。

雲の影響を見るときは、雲量だけでなく、雲の高さ・厚さ・粒子の状態、凝結や蒸発がどこで起きているかまで考えると、「なぜ同じ曇りでも気温への作用が違うのか」を仕組みとして理解できます。

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参考資料

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