なぜ海風の絶対湿度は内陸へ進むにつれて変化するのか?

海から陸へ吹く海風は、海上の湿った空気を内陸へ運びます。しかし、海岸で観測した絶対湿度が、そのままの値で内陸まで保たれるとは限りません。

理由は、海風が陸上を進む間に、地表から水蒸気を受け取ったり、乾いた空気と混ざったり、上昇流で水蒸気が上空へ運ばれたり、凝結によって水蒸気が減ったりするからです。さらに、絶対湿度は「単位体積あたりの水蒸気質量」なので、空気の膨張・圧縮や温度変化に伴う体積変化の影響も受けます。

そのため、海風の絶対湿度は「内陸へ行くほど必ず高くなる」「必ず低くなる」とは言えません。地表の湿り具合、都市や農地の分布、上昇・下降流、混合の強さなどによって増える場合も減る場合もあります。

目次

絶対湿度は何を表す量なの?

絶対湿度は、空気1m³あたりに何gの水蒸気が含まれているかを表す量です。

米国国立気象局は、absolute humidity を「空気1立方メートルあたりの水蒸気量」と説明しています。空気中の水蒸気量が多いほど絶対湿度は高くなります。

ただし、絶対湿度は水蒸気の総量そのものではありません。単位体積あたりの量なので、同じ水蒸気質量でも空気の体積が変われば値も変わります。

そもそも海風はなぜ内陸へ吹くの?

晴れた日の日中は、陸地の方が海面より速く暖まります。

陸上の空気が暖められて上昇すると、地表付近では相対的に気圧が低くなり、海上の比較的冷たい空気が陸へ流れ込みます。これが海風です。

NOAAは海風を、陸上の地表温度が海面より高いときに、海から内陸へ向かって流れる空気として説明しています。

海上の空気は海面から蒸発した水蒸気を含むため、海風は水蒸気を内陸へ輸送する役割も持ちます。

内陸へ進むと地表から水蒸気を受け取ることがある

海風が陸上へ入った後、その下にある地表が湿っていれば、土壌や水面、植物などから水蒸気が供給されます。

田畑、草地、河川、湖、濡れた土壌などでは蒸発や蒸散によって空気へ水蒸気が加わります。

この場合、海風は内陸へ進む途中で水蒸気を受け取るため、地表付近の絶対湿度が海岸より高くなることがあります。

日本の海風研究でも、地表面が湿っている条件では、内陸へ移流するにつれて空気中の水蒸気量が増える場合が示されています。

逆に絶対湿度が下がることもあるのはなぜ?

内陸の地表が乾いていたり、周囲に乾いた空気が多かったりすると、海風は進む途中で乾燥した空気と混ざります。

海風の空気塊だけを完全に保存したまま移動するわけではなく、地表付近では乱流によって周囲の空気と混合します。

そのため、海岸で湿っていた空気が、内陸へ行くほど乾いた空気と混ざって絶対湿度が低下することがあります。

また、海風前線の前面では下降流や乾いた空気の存在によって、水蒸気量が一時的に低下する場合も観測されています。

上昇流があると地表付近の絶対湿度はどうなる?

海風の先端には「海風前線」と呼ばれる境界ができます。

海風前線では、冷たく密度の高い海風が内陸の暖かい空気の下へ入り込み、暖かい空気を持ち上げます。そのため上昇流が発生しやすくなります。

上昇流が強いと、地表付近にあった水蒸気も上空へ運ばれます。

関東平野を対象とした日本建築学会の研究でも、海風と都市の熱対流が組み合わさることで上昇流が強まり、地表付近の湿った空気が上空へ輸送されることが示されています。

このような鉛直輸送が強い場所では、地表付近の絶対湿度が単純に増え続けるとは限りません。

海風が都市を通ると水蒸気量は変わる?

変わることがあります。

都市では、アスファルトや建物が多く、郊外より地表面温度が高くなりやすい一方、植物や水面が少ない場所では蒸発散が弱くなります。

また、高温な都市域では熱対流が発達し、空気が強く混ざることがあります。

日本地理学会の研究では、首都圏で海風前線が内陸へ進む際、都心の風下側で水蒸気量の少ない領域が形成され、その領域が海風前線とともに内陸へ移動する例が報告されています。

つまり都市を通過した海風は、海岸での性質をそのまま保つとは限りません。

農地や草地では絶対湿度が増えやすいことがある

植物は根から吸った水を葉から水蒸気として放出します。これを蒸散といいます。

農地や草地では、土壌からの蒸発と植物からの蒸散が組み合わさり、地表付近へ多くの水蒸気を供給することがあります。

海風がこうした湿った地表の上を通れば、空気はさらに水蒸気を取り込むことがあります。

反対に、乾いた裸地や市街地では水蒸気供給が小さく、絶対湿度の増加も小さくなる場合があります。

気温が上がるだけで絶対湿度は変わることがある?

あります。

絶対湿度は水蒸気の質量を体積で割った密度です。そのため、水蒸気の総質量が変わらなくても、空気の体積が変化すれば絶対湿度も変化します。

海風は海上では比較的冷たいことが多いですが、暖かい陸上を進むうちに加熱されます。圧力条件によって空気が膨張すれば、同じ水蒸気質量でも単位体積あたりの量は小さくなります。

このため、絶対湿度の変化をすべて「水蒸気が増えた・減った」だけで説明することはできません。

相対湿度の変化とはどう違うの?

相対湿度は、実際の水蒸気量と、その気温での飽和水蒸気量との割合です。

そのため海風が内陸へ進み、気温が上がると、水蒸気量が増えていても相対湿度が下がることがあります。

たとえば、地表から水蒸気を受け取って絶対湿度が少し増えたとしても、気温が大きく上がれば飽和水蒸気量の増加の方が大きくなり、相対湿度は低下することがあります。

絶対湿度と相対湿度が別方向に変化することがあるのは、二つが異なるものを表しているためです。

凝結や雲ができると絶対湿度はどうなる?

海風前線などで空気が上昇すると、膨張して温度が下がります。

十分に冷えて飽和すると、水蒸気の一部が凝結して雲粒になります。

このとき、水蒸気として存在する質量は減るため、絶対湿度も低下する方向に働きます。

さらに雨が降れば、水は液体として空気中から取り除かれます。

そのため、強い対流や雲・降水が生じる場所では、水蒸気の輸送だけでなく相変化も考える必要があります。

「海風=湿った風」なら内陸ほど絶対湿度が高いのでは?

そうとは限りません。

海風が海上で湿っているのは事実でも、陸上へ入った後は地表との水分交換、乾いた空気との混合、鉛直輸送、凝結などが始まります。

海風は、ひとつの閉じた袋の空気がそのまま移動する現象ではありません。

したがって、海岸からの距離だけを見て絶対湿度の大小を決めることはできません。

海風前線の通過を観測すると何が分かる?

海風前線が通過すると、風向、気温、水蒸気量などが短時間で変わることがあります。

内陸の観測点では、海風前線の到達後に気温が下がったり、水蒸気量が増えたりする例があります。

一方、前線の直前に下降流がある場合は、先に乾燥が現れてから海風が到達することもあります。

このため、海風の研究では風向・風速だけでなく、気温や水蒸気量の時間変化も一緒に観測します。

海風の絶対湿度を考えるときのポイント

  • 海風は海上の水蒸気を内陸へ運ぶ
  • 湿った地表では蒸発・蒸散によって水蒸気を受け取る
  • 乾いた空気との混合で絶対湿度が下がることがある
  • 上昇流は地表付近の水蒸気を上空へ運ぶ
  • 凝結が起これば水蒸気としての質量は減る
  • 絶対湿度は単位体積あたりの量なので、体積変化の影響も受ける

まとめ

海風の絶対湿度が内陸へ進むにつれて変化するのは、海風が陸上を移動する間に、地表からの水蒸気供給、周囲の乾いた空気との混合、鉛直輸送、凝結、空気の体積変化が起こるからです。

湿った農地や草地の上では絶対湿度が増えることがあります。一方、乾いた空気との混合や強い上昇流、凝結がある場所では低下することもあります。

したがって、海風の絶対湿度は海岸からの距離だけで決まりません。海風が通過する地表の状態、都市や農地の分布、大気の混ざり方、上昇・下降流まで含めて考えることで、内陸へ進む途中の水蒸気変化を理解できます。

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