春と秋には、太陽の高さや昼の長さが似ている時期があります。それなのに、実際の気温は同じにはなりません。たとえば東京の平年値では、3月の平均気温は9.4℃、9月は23.3℃で、大きな差があります。
理由は、気温がその日の太陽高度だけで決まるのではなく、海や地面、大気がそれまでの季節に蓄えた熱の影響を受けるからです。春には冬の冷えが残り、秋には夏に蓄えた熱が残っています。
このように、日射が最も強い時期と実際の気温が最も高くなる時期、日射が弱い時期と最も寒くなる時期にはずれがあります。これを「季節の遅れ」と考えると、春と秋の気温差を理解しやすくなります。
春と秋では太陽高度が本当に似ているの?
春分と秋分のころは、太陽の通り道や昼夜の長さがよく似ています。
地球は地軸を傾けたまま太陽の周りを公転しているため、春分と秋分では太陽が赤道付近の真上に来ます。日本のような北半球中緯度では、この二つの時期の太陽高度や昼の長さは近い条件になります。
それでも気温は秋の方が高くなりやすくなります。ここから、気温が日射条件にそのまま即応しているわけではないことが分かります。
東京では春と秋でどれくらい気温が違うの?
気象庁の1991〜2020年平年値では、東京の月平均気温は3月が9.4℃、9月が23.3℃です。
4月は14.3℃、10月は18.0℃で、こちらも秋の方が高くなっています。
同じ年の中で太陽高度が似てくる春と秋を比べても、気温は秋の方がかなり高いことが分かります。
これは、春が冬から暖まり始める途中であるのに対し、秋は夏の暑さから冷え始める途中だからです。
なぜ気温は日射にすぐ反応しないの?
地表に届いた太陽エネルギーは、すべてその場で空気の温度上昇に使われるわけではありません。
地面や海を暖めたり、水を蒸発させたり、地中や海中へ熱を蓄えたりします。
逆に夜や冬には、地面や海が蓄えていた熱を大気へ放出します。
そのため、ある日の太陽高度が同じでも、地面や海がどれだけ暖まっているかによって、その日の気温は変わります。
春には「冬の冷え」が残っている
冬の間、太陽高度は低く、昼も短いため、地表が受け取る日射エネルギーは少なくなります。
地面や海は長い期間をかけて冷え、周囲の大気も低温になります。
春になって日射が増え始めても、冷えた地面や海を暖め直すには時間がかかります。
そのため、春分を過ぎて太陽高度が高くなっても、地表や海の温度はまだ十分に上がっておらず、空気も暖まりにくい状態が続きます。
秋には「夏の熱」が残っている
夏の間は太陽高度が高く、昼も長いため、地表や海は多くのエネルギーを受け取ります。
特に海は大量の熱を蓄えることができます。
秋になって日射が弱まり始めても、夏に蓄えた熱がすぐなくなるわけではありません。海や地面から大気へ熱が放出され続けます。
そのため、秋分のころに太陽高度が春分と似た条件になっても、周囲の地表・海・大気は春より暖かく、気温も高くなりやすいのです。
海はなぜ季節の遅れを大きくするの?
水は、同じ質量の陸地材料に比べて温度を変えるのに多くの熱が必要です。
さらに海では、表面だけでなく波や対流によって熱が深い層へ混ざります。
そのため海は、夏に受け取った熱を大量に蓄え、秋から冬にかけてゆっくり大気へ返します。
日本海の熱収支を調べた研究でも、夏に海へ熱が蓄えられ、その熱が冬の大気への熱供給に大きく寄与することが示されています。
日本のように海に囲まれた地域では、この海の蓄熱が季節の気温変化へ大きく影響します。
夏至が最も暑い日にならないのも同じ理由?
基本的には同じです。
北半球では夏至ごろに日射条件が最も強くなりますが、実際の気温のピークは多くの地域でその後に現れます。
NOAAは、夏至のあともしばらくは昼間に受け取る熱が夜間に失う熱より大きいため、気温上昇が続くと説明しています。この現象が季節の遅れです。
日本でも、最も暑い時期は一般に夏至より後の7月下旬から8月ごろになります。
春と秋の気温差も、この遅れを半年の季節サイクルの中で見た現象だと考えられます。
冬至が最も寒い日にならないのも同じ?
同じ考え方です。
冬至を過ぎると昼は少しずつ長くなりますが、その直後に急に暖かくなるわけではありません。
地面や海、大気は冬至までに冷えており、その後もしばらくは失う熱の方が多い状態が続くためです。
そのため、北半球中緯度では最も寒い時期は冬至より後の1月や2月に現れることが多くなります。
陸地と海では季節の遅れ方が違う
陸地は海より温まりやすく冷えやすいため、日射の変化に比較的早く反応します。
一方、海は温まりにくく冷えにくいため、季節変化への反応が遅くなります。
そのため内陸では春の昇温が比較的速く、秋の冷え込みも早く進む傾向があります。
沿岸では海の影響を受けるため、春は海からの冷たい空気で気温上昇が抑えられ、秋は暖かい海からの熱で気温低下が緩やかになることがあります。
北海道と九州でも春秋の差は同じ?
同じではありません。
緯度、海からの距離、標高、雪の有無、季節風、海流などによって季節の遅れ方は変わります。
雪が長く残る地域では、春に受け取った太陽エネルギーの一部が雪を融かすために使われ、地表温度の上昇が遅れます。
一方、暖流の影響を受ける沿岸では、秋から冬に海から供給される熱が大きく、冷え込みが遅れることがあります。
したがって「秋は春より必ず何℃高い」という固定的な差ではありません。
雲や雨も春と秋の気温差を変える
季節の遅れが基本にあっても、実際の気温はその日の天気に左右されます。
春に晴天が続けば気温は急に上がることがあります。
秋雨前線や台風で雨や雲が続けば、秋でも日中の気温が低くなることがあります。
そのため、個々の日を比較すると春の方が暑い場合もあります。ここで説明しているのは平年値として見た季節的な傾向です。
地面が蓄える熱も無視できない
海ほど大きくはありませんが、土壌や建物も熱を蓄えます。
夏に暖められた地面や建物は、日没後や秋になっても熱を放出します。
特に都市では、コンクリートやアスファルトが熱を蓄えるため、秋の夜も気温が下がりにくいことがあります。
反対に春は、冬の間に冷えた地面や建物を再び暖める必要があります。
「同じ太陽高度なら同じ日射量」でもない
太陽高度が同じくらいでも、地表が実際に受け取る日射量まで完全に同じとは限りません。
雲の量、大気中の水蒸気やエーロゾル、空気の透明度などが季節によって違うためです。
また、春と秋では地表面の状態や植物の葉の量も違います。
そのため、太陽の幾何学的な条件が似ていても、地表の熱収支は完全には一致しません。
春と秋の湿度の違いも気温へ影響する?
影響します。
水蒸気は赤外線を吸収・放射するため、大気中の水蒸気量が多い季節は夜間の放射冷却が弱まりやすくなります。
秋は春より海面水温や絶対湿度が高いことが多く、夜間の気温が下がりにくい条件になることがあります。
ただし、春秋の気温差の主因を湿度だけで説明することはできません。蓄熱、海面水温、地表熱収支、気団の違いなどが組み合わさっています。
春と秋の気温差を理解するポイント
- 太陽高度が似ていても、地面や海の温度は同じではない
- 春は冬の冷えが地面・海・大気に残っている
- 秋は夏に蓄えた熱が残っている
- 海は熱容量が大きく、季節変化を遅らせる
- 気温のピーク・最低は日射のピーク・最低より遅れる
- 雲、雪、湿度、地形、海流でも季節差は変わる
まとめ
春と秋で太陽高度が同じくらいでも気温が同じにならないのは、気温がその日の太陽高度だけでなく、それまでに地面・海・大気が蓄えたり失ったりした熱の履歴に左右されるからです。
春は冬の冷えが残っているため、日射が強くなっても地面や海を暖め直すのに時間がかかります。秋は夏に蓄えた熱が残っているため、日射が弱くなっても地面や海から熱が供給されます。
この「季節の遅れ」があるため、春分と秋分のように太陽高度や昼の長さが似た時期でも、秋の方が暖かくなりやすいのです。
気温の季節変化を見るときは、太陽高度だけでなく、海や地面の蓄熱、前の季節からの熱の持ち越し、雲や雪、海流なども合わせて考えることが大切です。

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