水を蒸発させて空気を冷やす「気化式冷却」は、湿った地域より乾燥した地域の方が効きやすくなります。
理由は、乾燥した空気ほど、まだ多くの水蒸気を受け入れる余地があり、水が蒸発するときに空気から多くの熱を奪えるからです。
反対に、空気がすでに高湿度なら、水蒸気を追加できる余地が小さくなります。水の蒸発が進みにくいため、気化熱による冷却も小さくなります。
このため、米国エネルギー省も気化式冷却は乾燥気候で最も効果的だと説明しています。
気化式冷却とは何?
気化式冷却は、水が液体から水蒸気へ変わるときに周囲から熱を奪う性質を利用した冷却方法です。
たとえば、濡れた布に風を当てると布が冷たくなります。汗をかいた皮膚に風が当たると涼しく感じるのも同じ原理です。
気化式冷却器では、湿らせたパッドへ空気を通し、その水を蒸発させます。水が蒸発するときに必要な気化熱を空気から受け取るため、通過した空気の温度が下がります。
一方で、水蒸気が空気へ加わるため、空気の湿度は上がります。
なぜ水が蒸発すると温度が下がるの?
液体の水分子が水蒸気になるには、分子どうしの結びつきを離れて空気中へ飛び出すためのエネルギーが必要です。
このエネルギーを気化熱と呼びます。
水が蒸発するとき、そのエネルギーを水や周囲の空気・物体から受け取るため、残った水や周囲の温度が下がります。
つまり、気化式冷却はコンプレッサーで熱を移動させる一般的なエアコンとは異なり、水の相変化そのものを冷却源として利用します。
乾燥した空気ではなぜ水が蒸発しやすいの?
水面のすぐ近くでは、水蒸気圧はその水温に応じた飽和水蒸気圧に近づきます。
一方、乾燥した空気では実際の水蒸気圧が低くなっています。
この差が大きいほど、水面から空気へ水分子が移動しやすくなり、蒸発が進みます。
つまり、乾燥した空気は「水蒸気を受け入れる余地」が大きいため、水が次々に蒸発できます。
その結果、蒸発に使われる気化熱も大きくなり、冷却効果も大きくなります。
湿った空気ではなぜ冷えにくいの?
高湿度の空気では、すでに多くの水蒸気が含まれています。
そのため、水面の飽和水蒸気圧と周囲空気の水蒸気圧との差が小さくなり、蒸発速度が低下します。
蒸発する水が少なければ、空気から奪われる気化熱も少なくなります。
そのため、湿った地域では気化式冷却を使っても、乾燥地域ほど大きく温度を下げられません。
「湿球温度」が気化式冷却の限界を表す
気化式冷却を考えるときに重要なのが湿球温度です。
湿球温度は、濡れた表面から水が蒸発するときの冷却効果を反映する温度です。
乾燥した空気では、通常の気温である乾球温度と湿球温度の差が大きくなります。
この差が大きいほど、蒸発によって空気を下げられる温度幅も大きくなります。
反対に相対湿度が100%に近づくと、乾球温度と湿球温度はほぼ同じになり、蒸発冷却の余地はほとんどなくなります。
日本の研究でも外気の湿り具合が重要とされている
空気調和・衛生工学会の研究では、屋根散水などの蒸発冷却面温度を計算する際、外気の絶対湿度から湿球温度を求める方法が使われています。
これは、蒸発冷却面の温度が単に外気温だけでなく、空気中にどれだけ水蒸気が含まれているかに強く左右されることを意味します。
同じ35℃の外気でも、乾燥している場合と高湿度の場合では、蒸発によって到達できる温度が違います。
乾燥地域ではどのくらい冷やせるの?
具体的な冷却幅は気温と湿度によって変わりますが、乾燥地域では乾球温度と湿球温度の差が10℃以上になることがあります。
理想的な直接式気化冷却では、空気温度は湿球温度に近づく方向へ下がります。
実際の装置では熱交換効率や風量、パッドの濡れ方などがあるため湿球温度そのものまで下がるとは限りませんが、乾燥しているほど大きな冷却余地があります。
米国エネルギー省も、蒸発冷却器は乾燥気候の住宅で、圧縮式エアコンに代わる省エネルギーな冷却方法になり得るとしています。
高温多湿の地域ではなぜ使いにくいの?
高温多湿の地域では、外気の湿球温度が高くなります。
つまり、蒸発で空気を冷やせる理論的な下限温度そのものが高くなります。
さらに直接式気化冷却では、冷やした空気へ水蒸気を追加するため、室内湿度も上がります。
もともと湿度の高い地域でさらに湿気を加えると、不快感が増えたり、カビや結露のリスクを高めたりする可能性があります。
このため、DOEの資料でも高温多湿気候では一般的な気化式冷却は推奨されにくいとされています。
乾燥地域で「涼しいのに湿度が上がる」のは問題ではないの?
乾燥地域では、ある程度湿度が上がることがむしろ快適性を高める場合があります。
極端に乾いた外気では、気化式冷却によって温度が下がると同時に湿度が上がるため、室内環境が人にとって過ごしやすい範囲へ近づくことがあります。
ただし、換気が不足したり装置を過剰に運転したりすると湿度が上がりすぎる可能性があります。
直接式気化冷却では、外気を取り入れながら室内空気を排出する十分な通風が重要です。
直接式と間接式では湿度への影響が違う
直接式気化冷却では、冷やしたい空気そのものへ水を蒸発させます。
そのため、空気は冷えると同時に加湿されます。
一方、間接式気化冷却では、別の空気流を水の蒸発で冷やし、その冷たさを熱交換器を通じて給気へ伝えます。
この方式では、室内へ送る空気の湿度上昇を抑えながら冷却できます。
さらに間接式と直接式を組み合わせた二段式などもあり、利用できる気候範囲を広げる工夫がされています。
気化式冷却器と普通のエアコンは何が違うの?
一般的なエアコンは冷媒を圧縮・膨張させ、室内の熱を屋外へ運び出します。
湿度が高い場合には、熱交換器で結露を起こして水分を取り除くこともできます。
気化式冷却器は、水を蒸発させることで空気自体から熱を奪います。
そのため、乾燥した気候では少ない電力で冷却できる一方、湿った気候では性能が大きく低下します。
気化式冷却は「どこでも使える低電力エアコン」ではなく、空気の乾燥度に強く依存する冷却方式です。
扇風機だけでも気化冷却は起きる?
皮膚や濡れた表面があれば起こります。
風が当たると、水面近くにたまった湿った空気が運び去られ、新しい乾いた空気が供給されます。
そのため蒸発速度が上がり、気化冷却が強まります。
汗をかいたときに扇風機の風で涼しく感じるのは、この作用が大きな理由です。
ただし、周囲の湿度が非常に高ければ、風を強くしても蒸発できる余地そのものが小さいため、気化冷却効果は限定されます。
打ち水も同じ仕組み?
基本的には同じです。
地面へまいた水が蒸発するとき、地面や周囲の空気から気化熱を奪います。
乾燥して風が適度にある条件では蒸発が進みやすく、表面温度を下げる効果が期待できます。
一方、高湿度で風が弱い日は水が蒸発しにくく、冷却効果が小さくなります。
また、狭い空間で大量の水をまけば湿度上昇も起こるため、効果は気温だけでなく湿度・風・日射の組み合わせで変わります。
都市のミスト冷却でも湿度が重要
屋外ミストは細かな水滴を噴霧し、その水を蒸発させて周囲の熱を奪う仕組みです。
乾燥した条件では水滴が空中で蒸発しやすく、気温低下につながります。
高湿度では水滴が蒸発しきらず、人や地面を濡らす割合が増えることがあります。
したがって、ミスト冷却でも「どれだけ水をまくか」だけでなく、その日の湿度が性能を左右します。
気化式冷却が乾燥地域向きである理由を整理すると
- 乾燥空気は実際の水蒸気圧が低い
- 水面との水蒸気圧差が大きく、蒸発が進みやすい
- 蒸発量が多いほど多くの気化熱を奪える
- 乾球温度と湿球温度の差が大きく、冷却余地が大きい
- 高湿度では蒸発速度が下がり、湿球温度も高くなる
- 直接式では冷却と同時に加湿するため、高湿度地域では不利になる
まとめ
気化式冷却が湿った地域より乾燥地域で効きやすいのは、乾燥した空気ほど水蒸気を受け入れる余地が大きく、水が多く蒸発して、その気化熱によって空気から多くの熱を奪えるからです。
乾燥地域では乾球温度と湿球温度の差が大きいため、蒸発によって温度を下げられる幅も大きくなります。高湿度地域では空気がすでに水蒸気を多く含み、蒸発も冷却も進みにくくなります。
そのため気化式冷却の性能を考えるときは、気温だけでなく、相対湿度、絶対湿度、湿球温度、風量を見ることが重要です。

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