熱中症警戒アラートは、単純な「最高気温」ではなく、暑さ指数(WBGT)を基準に発表されます。
理由は、人の体にたまる熱は気温だけで決まらず、湿度、日射・輻射、風によって汗の蒸発や体への熱の入り方が大きく変わるからです。
同じ35℃でも、空気が乾いて風がある日と、湿度が高く日射が強い日では、体が熱を逃がせる量が違います。熱中症の危険度を知るには、気温だけを見るより、人体の熱収支に関係する複数の環境要因をまとめて見る必要があります。
そのため、2026年度の熱中症警戒アラートは、府県予報区内のいずれかの暑さ指数情報提供地点で、日最高WBGTが33以上になると予測された場合に発表されます。
そもそもWBGTとは何?
WBGTは「Wet-Bulb Globe Temperature」の略で、日本では「暑さ指数」と呼ばれています。
屋外では、自然湿球温度、黒球温度、乾球温度を組み合わせて計算します。
環境省が示す屋外での式は、次の通りです。
WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
乾球温度はいわゆる気温、湿球温度は水の蒸発による冷却を反映する温度、黒球温度は日射や路面・壁などから受ける輻射熱の影響を反映する温度です。
この三つを組み合わせることで、単純な気温よりも、人体が受ける暑熱環境を捉えやすくしています。
なぜ最高気温だけでは熱中症リスクを十分に表せないの?
人の体温は、体内で生じる熱と、周囲へ逃がす熱のバランスで決まります。
暑い環境では、皮膚から空気への放熱だけでは足りなくなり、汗を蒸発させて熱を逃がすことが重要になります。
ところが、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなります。
気温が同じでも、高湿度の日は汗による冷却が弱くなるため、体内に熱がたまりやすくなります。
さらに直射日光や熱くなったアスファルトから強い輻射熱を受ければ、体へ入る熱も増えます。
このため「今日は35℃だから昨日の35℃と同じ危険度」とは限りません。
湿度が高いとなぜ熱中症リスクが高まりやすいの?
汗は、皮膚から出ただけでは十分な冷却になりません。
汗が液体から水蒸気へ変わるときに気化熱を奪うことで、体が冷えます。
空気が乾いていれば、皮膚表面と周囲空気の水蒸気圧差が大きく、汗が蒸発しやすくなります。
しかし空気が湿っていると、その差が小さくなり、汗が蒸発しにくくなります。
その結果、汗は出ているのに体温が十分下がらず、脱水だけが進むこともあります。
WBGTでは自然湿球温度が、この蒸発しやすさを含む環境条件を反映します。
「WBGTは湿度が7割」という意味なの?
そう単純に考えるのは正確ではありません。
WBGTの屋外式では自然湿球温度の係数が0.7ですが、自然湿球温度は相対湿度だけで決まる値ではありません。
湿球温度は気温、水蒸気量、風などの影響を受けます。また黒球温度や乾球温度も互いに独立した「割合」ではなく、人体の熱環境を実用的に評価するために組み合わされた温度です。
日本生気象学会誌でも、「湿球温度の係数0.7=湿度の寄与が7割」と解釈するのは誤りだと指摘されています。
WBGTは、湿度だけを強調する指標ではなく、気温・湿度・日射・風などを含む暑熱環境の総合指標として使うことが重要です。
黒球温度は何を見ているの?
黒球温度は、黒く塗った球の内部で測る温度です。
黒い球は、太陽からの日射や、熱くなった路面・壁・建物などからの赤外線を受けます。
そのため、日陰より日なた、芝生より熱いアスファルトの近くなどで高くなりやすくなります。
気温が同じでも、炎天下では体が受ける放射熱が増えるため、黒球温度を含むWBGTの方が熱中症リスクを捉えやすくなります。
風もWBGTに関係するの?
関係します。
風があると、皮膚の周囲にたまった暖かく湿った空気が入れ替わり、汗が蒸発しやすくなります。
また、湿球温度や黒球温度の測定値も風の影響を受けます。
そのためWBGTは、式に「風速」という項が直接書かれていなくても、自然湿球温度や黒球温度を通じて風の影響をある程度反映します。
ただし、衣服、活動量、暑さへの順化など人側の条件まですべて一つの数値で表すものではありません。
2026年度の熱中症警戒アラートはどんな基準?
環境省の2026年度の運用では、熱中症警戒アラートは、府県予報区内にある暑さ指数情報提供地点のうち、いずれかの地点で日最高WBGTが33以上になると予測された場合に発表されます。
前日の17時頃と当日の5時頃に、予測値をもとに発表されます。
つまり、最高気温が何℃になるかだけではなく、その地域で予想される湿度や日射などを含めたWBGTを使って、危険な暑さへの「気づき」を促す仕組みです。
熱中症特別警戒アラートとはどう違うの?
熱中症特別警戒アラートは、より広域で極端な暑さによって重大な健康被害が生じるおそれがある場合の情報です。
原則として、都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点で、翌日の日最高WBGTが35以上になると予測される場合に発表されます。
通常の警戒アラートが「府県予報区のいずれかの地点で33以上」であるのに対し、特別警戒アラートは「都道府県内の全ての対象地点で35以上」が基本条件です。
どちらも最高気温ではなくWBGTを基準にしています。
同じ最高気温でもWBGTが違う例
たとえば、二つの日がどちらも最高気温35℃だったとします。
一方は乾燥して風があり、日陰中心の環境。もう一方は湿度が高く、風が弱く、強い日射を受ける環境だったとします。
後者では汗が蒸発しにくく、体へ入る放射熱も大きくなります。
このため、最高気温は同じでもWBGTは後者の方が高くなりやすく、熱中症リスクも高くなる可能性があります。
最高気温だけでは、この違いを表現できません。
逆に、気温が極端に高い日は低湿度でも安全なの?
いいえ。
空気が乾いていれば汗は蒸発しやすくなりますが、気温そのものが非常に高ければ、体から空気へ熱を逃がしにくくなります。
近年の研究では、低湿度でも著しい高温の日には熱中症搬送が増える場合があり、WBGTの値だけに機械的に頼りすぎない注意も必要だと指摘されています。
つまり「湿度が低いから安全」「WBGTが少し低いから無理をしてよい」という意味ではありません。
WBGTは優れた指標ですが、体調、活動量、衣服、暑熱順化なども合わせて判断する必要があります。
WBGTが31以上ならどう考える?
環境省の熱中症予防情報では、WBGT31以上は「危険」の領域として示されています。
運動に関する指針では、31以上で運動は原則中止とされています。
ただし、熱中症警戒アラートの発表基準である33は、この日常・運動指針の31とは別の制度上の基準です。
「アラートが出ていないから31未満で安全」という意味ではありません。身近な場所のWBGTが高ければ、アラートの有無にかかわらず休憩や活動中止を検討する必要があります。
なぜ地域全体のアラートだけでなく身近なWBGTも見る必要があるの?
WBGTは場所によって大きく変わります。
同じ市内でも、日なたの運動場、体育館、アスファルトの駐車場、木陰、冷房の効いた室内では条件が違います。
環境省も、熱中症警戒アラートが発表された地域でも、個々の場所では黒球付きのWBGT測定器などを使って確認することを勧めています。
特に学校、スポーツ、屋外作業では、地域代表地点の値だけでなく、実際に活動する場所の暑さ指数を見ることが重要です。
海外でもWBGTは使われているの?
使われています。
米国のNIOSHは、暑熱環境で働く人の熱ストレス評価にWBGTを推奨しています。
NIOSHは、WBGTが乾球温度、湿度、放射エネルギーなどを測定して労働者への熱負荷を評価する指標だと説明しています。
単純な気温やHeat Indexだけでは日射・輻射などを十分に評価できない場面があるため、労働環境ではWBGTが重要になります。
WBGTを見るときに注意したいこと
- WBGTは「気温の別名」ではない
- 湿球温度の係数0.7を「湿度が7割」と解釈しない
- 日なた・日陰、地面の種類、風で値は変わる
- 地域の予測値と実際の活動場所の値は一致しないことがある
- アラートが出ていなくても高WBGTなら予防行動が必要
- 高齢者、子ども、持病のある人などは同じWBGTでもリスクが高くなる場合がある
まとめ
熱中症警戒アラートが最高気温ではなく暑さ指数(WBGT)を基準にするのは、熱中症の危険度が気温だけでは決まらず、湿度による汗の蒸発のしやすさ、日射・輻射による熱の受け取り方、風などを含む人体の熱収支で決まるからです。
最高気温が同じでも、湿度が高く、日差しが強く、風が弱い環境では、体に熱がたまりやすくなります。
WBGTは、湿球温度・黒球温度・乾球温度を組み合わせることで、その違いを最高気温より適切に捉えます。
そのため、熱中症対策では「何℃まで上がるか」だけではなく、WBGTと実際に活動する場所の環境を確認し、休憩・水分補給・活動中止を判断することが重要です。

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