図書館や博物館では、カビ対策のために温度と湿度を継続的に測り、記録します。
理由は、カビの発生リスクが「今この瞬間の湿度」だけでなく、高湿度がどのくらい長く続いたかで大きく変わるからです。
紙、布、皮革、木材などの資料は、周囲の湿度に応じて水分を吸収します。高湿度が続くと材料表面や内部の水分が増え、カビが活動しやすい条件になります。だから資料保存では、一度だけ湿度計を見るのではなく、時間変化を記録して危険な状態が続いていないか確認する必要があります。
なぜ「今の湿度」だけでは足りないの?
カビは湿度が上がった瞬間に、すぐ目に見えるほど増えるわけではありません。
胞子が発芽し、菌糸が伸び、目に見えるカビになるまでには時間が必要です。
Canadian Conservation Instituteは、暖かい条件では相対湿度が高いほど目に見えるカビが現れるまでの時間が急激に短くなると説明しています。
つまり、同じ高湿度でも「一時的に上がっただけ」なのか、「何日も続いている」のかで危険度が違います。
このため、保存環境では瞬間値よりも湿度の履歴が重要になります。
図書館では湿度65%が一つの目安になる
国立国会図書館は、図書館資料の劣化や虫菌害を抑えるため、低温低湿で変動の少ない環境が望ましいとしています。
また、恒常的に相対湿度65%を超えるようになると、カビが発生する確率が高まるため、65%を一つの目安として考えられると説明しています。
重要なのは「65%を一度超えたら即カビ」という意味ではないことです。
高湿度が続く時間、温度、空気の動き、資料表面の汚れなどによって発生しやすさは変わります。
だからこそ、一定間隔で記録を残し、「いつから」「どのくらい」高湿度だったかを把握する必要があります。
紙はカビでどんな被害を受けるの?
紙にはセルロースや表面処理剤など、カビが利用できる有機物があります。
高湿度になるとカビが活性化し、紙の表面や内部で成長します。
Canadian Conservation Instituteは、カビが紙のセルロースや表面処理剤などを分解し、紙を軟らかく弱くすることがあると説明しています。
また、カビが生み出す色素によって、取り除きにくい着色が残る場合があります。
このような損傷は、カビを除去しても完全には元に戻らないことがあります。
布や皮革も高湿度の影響を受ける
博物館には、紙だけでなく、衣服、織物、革製品、毛皮、植物素材など、多くの有機材料があります。
こうした材料も高湿度が続くとカビの影響を受けます。
特に、でんぷんやたんぱく質を含む仕上げ剤、ほこり、手垢などが表面にあると、カビにとって利用しやすい栄養源になることがあります。
カビは見た目を損なうだけでなく、繊維を弱くし、場合によっては崩れやすくします。
なぜ継続監視が予防につながるの?
連続記録があれば、カビが発生する前に異常を発見できます。
たとえば、夜間だけ湿度が高い、梅雨に数週間だけ高湿度になる、空調停止後に急上昇する、収蔵庫の一角だけ湿度が高い、といった変化は、一度だけ測った値では分かりにくいものです。
データロガーなどで記録しておけば、時間帯や季節ごとの変化を確認できます。
Canadian Conservation Instituteも、温度と相対湿度の連続記録によって現在の環境だけでなく過去の状態を把握し、今後の環境管理に役立てられるとしています。
高湿度を見つけたら何を確認する?
湿度が高いことが分かったら、単に除湿機を置くだけでなく、原因を探すことが重要です。
- 雨漏りや配管漏れがないか
- 地下や外壁から湿気が入っていないか
- 空調が停止している時間帯がないか
- 空気がよどむ棚の裏や隅がないか
- 資料を壁や床へ密着させていないか
- 外気の湿度が高いときに換気しすぎていないか
湿気の原因を除かないと、いったん湿度を下げても再び高くなる可能性があります。
空気の流れも重要なの?
重要です。
同じ室内湿度でも、空気が動かない場所では資料表面の近くに湿った空気がたまりやすくなります。
壁際、棚の奥、箱の中などでは、部屋中央の湿度計とは違う局所環境ができることがあります。
Canadian Conservation Instituteは、カビ予防では相対湿度を下げるだけでなく、良好な空気循環も重要だとしています。
そのため、監視機器は部屋の一か所だけでなく、リスクの高い場所へ配置することがあります。
湿度は低ければ低いほどよいの?
そうとも限りません。
カビだけを考えれば低湿度は有利ですが、資料には乾燥しすぎによる別の劣化があります。
紙、木、皮革、繊維などは乾燥すると収縮したり、硬くなったり、割れやすくなったりする場合があります。
また、急激な湿度変化を繰り返すと、吸湿と乾燥による寸法変化が繰り返され、資料へ機械的な負担がかかることがあります。
資料保存では「とにかく低湿度」ではなく、対象資料に適した範囲を安定して維持することが重要です。
なぜ季節変動まで記録するの?
日本では梅雨や夏に外気の水蒸気量が増え、収蔵庫の湿度も上がりやすくなります。
冬は逆に、暖房によって室内が過乾燥になることがあります。
一年を通した記録があれば、「毎年6月から7月に湿度が上がる」「冬だけ乾燥しすぎる」といった周期的な問題を把握できます。
これにより、空調の設定変更、除湿設備の運転開始時期、資料配置の見直しなどを事前に計画できます。
カビを見つけてから対応するのでは遅いの?
文化財や希少資料では、できるだけ発生前に防ぐことが重要です。
カビが生えた資料は、清掃や隔離が必要になるだけでなく、着色や材質劣化が残ることがあります。
さらに胞子が周囲へ広がれば、ほかの資料へ影響する可能性もあります。
そのため資料保存では、発生後の除去より、環境を監視してカビが成長しにくい状態を維持する「予防保存」が重視されます。
湿度記録から何を読み取る?
- 高湿度が何時間・何日続いたか
- 季節や時間帯で繰り返す変動があるか
- 空調停止時に急上昇していないか
- 雨天後だけ高くなっていないか
- 部屋中央と棚奥で差がないか
- 急激な上昇・下降を繰り返していないか
こうした情報を確認することで、単なる「現在50%RH」という数字より、保存環境の問題を具体的に判断できます。
まとめ
図書館や博物館でカビ対策のために湿度を継続的に監視するのは、カビの発生リスクが湿度の瞬間値だけでなく、高湿度がどのくらい長く続いたか、どの場所で繰り返しているかによって変わるからです。
紙や繊維などは高湿度が続くとカビによる着色や強度低下を受け、損傷が完全には元に戻らないことがあります。
連続記録があれば、カビが見える前に異常を発見し、空調、除湿、換気、資料配置などを見直せます。
資料保存では、「カビが出てから取る」のではなく、「カビが育つ時間を作らない」ために湿度の履歴を管理することが重要です。

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