空気が乾燥しすぎると、植物は水を失いすぎないように葉の「気孔」を閉じます。
ところが気孔は、水蒸気の出口であると同時に、光合成に必要な二酸化炭素を取り込む入口でもあります。そのため、乾燥から身を守るために気孔を閉じると、二酸化炭素の取り込みまで減って光合成が弱くなるというジレンマが生じます。
この反応を理解するときに重要なのが、単なる相対湿度ではなく、葉から空気へ水が逃げやすい度合いを表す「飽差」やVPD(飽差・水蒸気圧差)です。
気孔とは何をする場所?
気孔は、主に葉の表皮にある小さな開口部です。
植物は気孔を開くことで、空気中の二酸化炭素を葉の内部へ取り込みます。取り込まれた二酸化炭素は、光エネルギーを使って糖などの有機物をつくる光合成に利用されます。
一方、気孔が開いていると、葉の内部にある水も水蒸気として外へ出ていきます。これが蒸散です。
つまり気孔は、植物にとって「二酸化炭素を得る入口」であると同時に、「水を失う出口」でもあります。
なぜ空気が乾くと葉から水が逃げやすくなるの?
葉の内部は水分が多く、気孔付近の空気は水蒸気で満たされやすい状態です。
外の空気が乾燥していると、葉の内部と外気との水蒸気圧の差が大きくなります。
この差が大きいほど、水蒸気は葉から外へ移動しやすくなります。
大気が植物から水を奪おうとする強さを表す指標として、VPD(Vapor Pressure Deficit)がよく使われます。VPDが高いほど空気は植物に対して「乾燥要求」が強い状態です。
相対湿度が低いほど必ず危険なの?
相対湿度だけでは十分に判断できません。
相対湿度は気温によって変わるため、同じ50%RHでも20℃と35℃では空気の乾燥要求が違います。
気温が高いほど飽和水蒸気圧が大きくなるため、同じ相対湿度でも高温時の方がVPDは大きくなりやすくなります。
そのため植物栽培では、相対湿度だけでなく温度と組み合わせて飽差やVPDを見ることが重要です。
植物はなぜ気孔を閉じるの?
高いVPDが続くと、気孔を開いたままでは蒸散による水分損失が大きくなります。
根から吸い上げる水より葉から失う水の方が多くなれば、葉の水分状態が悪化し、細胞の働きや葉の構造そのものが維持しにくくなります。
そこで植物は気孔の開度を小さくし、水蒸気が外へ逃げる量を抑えます。
森林総合研究所も、樹木は乾燥ストレスを受けると気孔を閉じ、葉からの水分損失を抑えると説明しています。
気孔を閉じるとなぜ光合成も弱くなるの?
光合成には二酸化炭素が必要です。
気孔を閉じると、水蒸気が外へ出にくくなる一方で、外気から葉内部へ入る二酸化炭素も減ります。
葉内部の二酸化炭素濃度が低下すると、光合成の原料が不足し、光合成速度が低下します。
森林総合研究所は、この現象を「水分損失の抑制」と「二酸化炭素獲得」のトレードオフとして説明しています。
植物は、成長を最大化するために常に気孔を全開にしているのではなく、水を守りながら炭素を得るバランスを取っています。
実際の樹木でも空気の乾燥で光合成は下がるの?
そのような観測があります。
東シベリアのカラマツを調べた研究では、大気飽差が大きくなるにつれて気孔コンダクタンスが低下し、光合成速度も徐々に低下する傾向が報告されています。
研究では、高温・乾燥条件になると葉が気孔を強く閉じて蒸散を抑え、その結果として光合成も低下すると考えられています。
つまり、土が完全に乾いていなくても、空気側の乾燥が強いだけで植物のガス交換が抑えられることがあります。
土に水があっても空気が乾燥しすぎれば影響するの?
影響することがあります。
植物の乾燥ストレスというと、土壌の水不足だけを考えがちです。しかし葉から見れば、根から水を供給できるかだけでなく、外気がどれだけ強く水を奪うかも重要です。
米国森林局が紹介する長期観測研究では、高いVPDは低い土壌水分と同じように、森林の光合成による炭素吸収と蒸散を抑えることが示されています。
特に暑く乾いた日には、土壌にある程度水が残っていても、大気の乾燥要求が強いために気孔閉鎖が起こる場合があります。
なぜ気孔を閉じても蒸散は完全にゼロにならないの?
気孔を閉じても完全密閉にはなりません。
わずかな気孔開度が残ることがありますし、葉の表面を覆うクチクラからも少量の水分が失われます。
また、気孔を閉じすぎると光合成ができなくなるため、植物は水分状態や光、気温などに応じて開閉の程度を調整します。
この細かな調節によって、水を守りながら可能な範囲で二酸化炭素を取り込もうとします。
乾燥すると葉の温度も上がることがあるの?
あります。
蒸散には、汗の蒸発と似た冷却効果があります。葉から水が蒸発するときに気化熱が奪われるため、葉の温度上昇を抑えます。
乾燥ストレスで気孔が閉じ、蒸散が減ると、この蒸発冷却も弱くなります。
その結果、晴天時には葉温が高くなることがあります。
農研機構の栽培計測研究でも、干ばつ時に気孔を閉じた植物では蒸散が減り、葉面温度が上がることを利用して乾燥耐性を評価しています。
気孔閉鎖は植物にとって悪いことなの?
悪いことだけではありません。
短期的には、水を失いすぎて萎れたり、導管内で水輸送が不安定になったりするのを防ぐ重要な防御反応です。
気孔を閉じなければ、乾燥した日に急速に水を失い、より深刻な損傷につながる可能性があります。
その一方で、閉鎖が長く続けば光合成量が減り、成長速度が落ちます。
つまり気孔閉鎖は「成長を少し犠牲にして、水不足による致命的な損傷を避ける」ための調節と考えられます。
乾燥に強い植物なら気孔を閉じないの?
そうとは限りません。
乾燥への対処方法は植物によって異なります。
早めに気孔を閉じて水を節約する植物もあれば、ある程度気孔を開いて光合成を続ける植物もあります。
森林総合研究所は、樹種によって乾燥ストレス時に気孔を閉じるタイミングが異なり、水を節約する戦略と炭素を獲得する戦略のバランスに種間差があると報告しています。
そのため「乾燥に強い=気孔を閉じない」という単純な関係ではありません。
農業では飽差をどう利用するの?
施設園芸では、温度と湿度を調整して飽差を適正範囲に保ち、気孔が極端に閉じない環境をつくる管理が行われます。
空気が乾燥しすぎる場合には、細かなミストで湿度を上げたり、換気や遮光で温度上昇を抑えたりします。
逆に湿度が高すぎると蒸散が進まず、病害が増えることもあります。
つまり植物にとって理想なのは「湿度が高ければ高いほどよい」のではなく、水を失いすぎず、適度に蒸散とガス交換を続けられる環境です。
温暖化でVPDが高くなると森林にも影響する?
影響する可能性があります。
気温が上がると、飽和水蒸気圧は大きくなります。実際の水蒸気量が同じように増えなければ、VPDは高くなります。
米国森林局が紹介する研究では、VPDの上昇が森林の光合成による炭素吸収を減らす可能性が示されています。
空気側の乾燥要求が強まれば、樹木は水を守るために気孔を閉じやすくなり、その結果として二酸化炭素吸収量が減る可能性があります。
これは植物個体だけでなく、森林全体の炭素循環を考える上でも重要です。
葉がしおれていなくても光合成が落ちていることはある?
あります。
植物は目に見えてしおれる前から気孔を調節します。
外見上は元気に見えても、気孔が部分的に閉じて二酸化炭素の取り込みが減り、光合成速度が低下している場合があります。
そのため農業や森林研究では、葉の見た目だけでなく、気孔コンダクタンス、葉温、蒸散量、VPDなどを測って乾燥ストレスを評価します。
空気の乾燥と植物の反応を整理すると
- 空気が乾燥すると葉と外気の水蒸気圧差が大きくなる
- 葉から水蒸気が失われやすくなる
- 植物は水分損失を抑えるため気孔を閉じる
- 気孔閉鎖で二酸化炭素の取り込みも減る
- 二酸化炭素不足によって光合成速度が低下する
- 蒸散冷却が弱まり、葉温が上がることもある
- 反応の強さや気孔閉鎖のタイミングは植物種によって異なる
まとめ
空気が乾燥しすぎると植物が気孔を閉じて光合成を弱めるのは、葉から水が失われる速度が大きくなり、水分を守る必要が生じるからです。
気孔を閉じれば蒸散を減らせますが、同時に光合成に必要な二酸化炭素も取り込みにくくなります。
そのため植物は、成長のためのCO₂獲得と、乾燥から身を守るための水分節約との間でバランスを取っています。
植物への乾燥の影響を見るときは、相対湿度だけでなく、気温と湿度を組み合わせた飽差・VPD、土壌水分、葉温、気孔の開き方を合わせて考えることが重要です。

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