シベリア高気圧が「背が低く」、太平洋高気圧が「背が高い」といわれるのは、両者をつくる空気の温度と大気層の厚さが違うからです。
冬のシベリア高気圧は、強く冷やされた大陸上にたまる冷たく密度の大きい空気を中心とする寒冷高気圧です。冷たい空気柱は鉛直方向に薄いため、地上では強い高気圧でも、高度が上がるにつれて高圧性が弱まり、上空では低圧側になることさえあります。
一方、太平洋高気圧は亜熱帯の大規模循環に伴う暖かい高気圧です。暖かい空気柱は膨張して厚くなるため、高い高度まで高いジオポテンシャル高度を保ちやすく、地上だけでなく対流圏のより深い層に高気圧性の構造が続きます。
「背が高い」「背が低い」とは何を表すの?
高気圧の中心気圧の数字ではなく、高気圧性の構造が鉛直方向にどの高さまで続くかを表す言い方です。
地上では高気圧でも、上空へ行くとその高圧部が消えたり低圧部へ変わったりするなら「背が低い」といえます。反対に、上空まで高い高度場や高気圧性循環が続くなら「背が高い」と表現できます。
気象庁はシベリア高気圧と太平洋高気圧をどう説明しているの?
気象庁の「はれるんランド」では、太平洋高気圧は低緯度の海上で暖められた空気が上昇し、日本に近づいたところで下降して吹き出すことでできると説明しています。
一方、シベリア高気圧は寒冷な空気が下降して地上付近にたまることで形成され、地上付近では高気圧でも上層では低圧になると説明されています。
このため、気象庁は太平洋高気圧を「背の高い高気圧」、シベリア高気圧を「背の低い高気圧」と呼ぶことがあるとしています。
なぜ冷たい空気は大気の層を薄くするの?
空気は冷えると密度が大きくなり、同じ質量でも鉛直方向に縮みます。
暖かい空気は膨張して密度が小さくなるため、同じ気圧差に達するまでの鉛直距離が長くなります。
この違いは、1000hPa面と500hPa面のような二つの気圧面の間隔、つまり大気層の厚さに表れます。
冷たい空気柱ではなぜ上空で高気圧が弱くなるの?
冷たい空気は密度が大きく、気圧が高さとともに比較的速く低下するからです。
地上付近では冷たい空気がたまって大きな質量を持つため高気圧になっていても、上空へ行くと暖かい空気柱より気圧面の高度が低くなります。
そのため、地上高気圧の真上に同じような高気圧性の高度場が高い所まで続くとは限りません。
シベリア高気圧はなぜ冷たいの?
冬のユーラシア大陸が強く放射冷却するからです。
雪や氷に覆われた広大な大陸では、夜が長く太陽高度も低いため地表面が非常に冷えます。
地表付近の空気も冷やされ、密度の大きい寒気が下層にたまります。その結果、冬のシベリアやモンゴル付近には優勢な高気圧が形成されます。
シベリア高気圧は「冷たい空気が重いから」できるの?
それだけで説明すると不十分です。
地上気圧は空気柱全体の質量で決まり、上空の流れによる質量の出入りも重要です。
ただしシベリア高気圧では、強い地表冷却によって下層に非常に冷たい空気が形成されることが、その寒冷で浅い構造の重要な特徴です。
海外の気象資料では寒冷高気圧をどう説明しているの?
米国National Weather Serviceの用語集では、cold core highを「高緯度で発生する冷たい地上高気圧のドーム」と説明しています。
シベリア高気圧は、このような寒冷高気圧の代表例です。
太平洋高気圧はなぜ暖かいの?
太平洋高気圧は、亜熱帯高気圧の一部だからです。
気象庁は、太平洋高気圧を緯度20〜30度付近を中心に存在する亜熱帯高気圧の一部としています。
熱帯・亜熱帯の大規模な循環では、暖められて上昇した空気が上空を移動し、亜熱帯付近で下降します。この下降流を伴う高圧部が太平洋高気圧の形成・維持に関係します。
暖かい空気柱ではなぜ上空まで高気圧性が続きやすいの?
暖かい空気は膨張し、大気層が厚くなるからです。
同じ500hPaという気圧に達するにも、暖かい空気柱ではより高い高度まで上がる必要があります。
そのため地上だけでなく中層・上層でも等圧面高度が高くなり、高気圧性の構造が深い層に現れやすくなります。
500hPa天気図を見ると違いが分かるの?
分かります。
寒冷高気圧は地上では強くても、500hPa付近では必ずしも高高度域になりません。むしろ冷たい空気柱のため高度が低い場合があります。
一方、暖かい高気圧では500hPaなどの中層でも高度が高くなりやすく、地上から上空へ高気圧性の場が続いていることが分かります。
太平洋高気圧だけで対流圏上層まで全部を覆うの?
いつでも単独で同じ強さの高気圧が上層まで続くわけではありません。
日本の盛夏には、下層の太平洋高気圧に加えて、上層のチベット高気圧が日本付近へ張り出して重なることがあります。
気象庁は、このように下層と上層の高気圧が重なると、日本付近が「背の高い高気圧」に覆われ、猛暑になりやすいと説明しています。
チベット高気圧とは何?
春から夏にかけてアジアからアフリカの対流圏上層に現れる高気圧です。
気象庁では、特に100hPa付近、およそ高度15〜16kmの天気図で明瞭になる高気圧として定義しています。
太平洋高気圧が下層で強まり、チベット高気圧が上層から重なると、日本付近の高気圧性の構造は非常に深くなります。
「背が高い高気圧」だと、なぜ猛暑になりやすいの?
深い層で下降流が続きやすく、雲が発達しにくくなるからです。
晴天が続くと強い日射で地表が暖まり、さらに下降する空気は圧縮されて昇温します。
気象庁も、上層のチベット高気圧と下層の太平洋高気圧が重なる「背の高い高気圧」に覆われると、晴れて気温の高い日が続きやすいと説明しています。
「背の低い高気圧」でも晴れるの?
晴れることはあります。
高気圧では下降流や地表発散が起こりやすいため、雲ができにくい傾向があります。
ただし冬の寒冷高気圧では、地表付近に強い逆転層ができ、霧や低い雲、寒さが続くこともあります。
シベリア高気圧の中心気圧が高いなら「背も高い」のでは?
中心気圧の高さと、高気圧の鉛直方向の深さは別の概念です。
シベリア高気圧は地上で非常に高い中心気圧を示すことがありますが、その高圧性が上空まで同じように続くわけではありません。
冷たい空気柱が薄いため、地上では強くても上空では高圧性が弱くなるのが特徴です。
太平洋高気圧は中心気圧がそれほど高くなくても「背が高い」の?
あり得ます。
高気圧は固定されたhPa以上で決まるものではなく、周囲との相対的な気圧・高度差で決まります。
地上中心気圧がシベリア高気圧ほど極端に高くなくても、暖かく厚い空気柱によって中層・上層まで高気圧性の構造が続けば「背が高い」といえます。
同じ高気圧なのに、季節によって天気が全く違うのはなぜ?
高気圧を構成する空気の温度・湿度・発生場所・鉛直構造が違うからです。
冬のシベリア高気圧は寒冷・乾燥した大陸性の空気を日本へ送り出し、冬型の気圧配置を作ります。
夏の太平洋高気圧は暖かく湿った海洋性の空気を日本付近へ運び、晴天と高温をもたらしやすくなります。
オホーツク海高気圧もシベリア高気圧と同じなの?
同じではありません。
オホーツク海高気圧は初夏などにオホーツク海付近で発達し、下層に寒気を伴う停滞性高気圧です。
気象庁は、冷たい海面や上空の偏西風の蛇行などが形成・持続に関係すると説明しています。
このように、高気圧には発生場所や季節によってさまざまな鉛直構造があります。
高気圧を比べるときは何を見ればいいの?
地上の中心気圧だけではなく、高層天気図も見る必要があります。
500hPaや300hPaなどで高気圧性の高度場がどこまで続いているか、気温分布がどうなっているかを確認すると、その高気圧が寒冷で浅いのか、暖かく深いのかを判断しやすくなります。
「高気圧がどう発達するか」の記事とは何が違うの?
既存記事では、上空で空気が集まって空気柱の質量が増えると、地上気圧が上がり、下降流・地表発散を伴う高気圧が形成・強化される仕組みが中心です。
一方、この記事では、形成された高気圧でも、寒冷なシベリア高気圧と暖かな太平洋高気圧では、なぜ高気圧性の構造が続く高さが違うのかを比較しています。
「500hPa面が暖気で高くなる」記事とは何が違うの?
既存記事では、一定気圧面の高度が大気層の平均温度と厚さによって変わる一般原理が中心です。
一方、この記事では、その原理を実際の代表的な高気圧に当てはめ、シベリア高気圧と太平洋高気圧の鉛直構造の違いとして説明しています。
まとめ
シベリア高気圧が背が低く、太平洋高気圧が背が高いのは、両者を構成する空気柱の温度と厚さが違うからです。
シベリア高気圧は強く冷えた密度の大きい空気を主体とするため、大気層が薄く、地上では強い高気圧でも上空では高圧性が弱まりやすくなります。
太平洋高気圧は暖かい亜熱帯の空気を伴い、大気層が厚いため、高気圧性の構造がより高い高度まで続きやすくなります。盛夏には上層のチベット高気圧と重なり、日本付近がさらに深い高気圧に覆われることもあります。
「背の高さ」は中心気圧の数字ではなく、高気圧という構造が鉛直方向にどこまで続いているかを表しているのです。

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