なぜ惑星は順行・留・逆行を繰り返して見えるのか?

夜空で惑星を数週間から数か月追いかけると、背景の星々に対して少しずつ位置を変えていきます。多くの期間では西から東へ進むように見えますが、ある時期になると動きが遅くなり、いったん止まったように見え、その後は反対向きへ戻り始めます。そして再び止まり、元の向きへ進み始めます。

この見かけの動きを、順に順行・留・逆行・留・順行と呼びます。

惑星が本当に公転方向を反転しているわけではありません。原因は、観測者である地球自身も太陽のまわりを動いているため、地球から見た惑星の方向が時間とともに変わることです。

目次

結論:逆行は惑星の公転が逆向きになる現象ではない

惑星は基本的に同じ向きに太陽のまわりを公転しています。それでも地球から見ると、一時的に背景星に対する動きが逆向きに見えることがあります。

国立天文台暦計算室は、惑星が通常は恒星の間を西から東へ進むように見える順行をし、留を境に東から西へ逆戻りするように見える逆行へ切り替わると説明しています。

外惑星の場合、この逆行は地球が内側の速い軌道から外惑星を追い越すころに起こります。内惑星では反対に、水星や金星が地球を内側から追い越すころに同じような見かけの向きの変化が生じます。

つまり、逆行は惑星自身の軌道運動が急変するのではなく、地球と惑星の相対運動によって生じる見かけの現象です。

順行とは何か

背景の恒星を基準にしたとき、惑星が通常見せる西から東への見かけの移動を順行と呼びます。

惑星は一晩のうちには地球の自転によって東から西へ空を横切りますが、ここでいう順行・逆行はその日周運動とは別です。

数日から数週間にわたって、同じ時刻ごろに惑星と周囲の星を比べると、惑星だけが星座の中を少しずつ移動していきます。この長期的な背景星に対する位置変化が、惑星の見かけの公転運動です。

したがって「東から昇って西へ沈む」ことと「順行」は別の現象です。前者は主に地球の自転、後者は地球と惑星の公転の相対関係から生じます。

留では本当に惑星が止まるのか

留とは、背景星に対する惑星の見かけの動きがほぼ止まり、順行と逆行の向きが切り替わる時期です。

国立天文台では、留を惑星の地心視赤経の時間変化が0となる瞬間として定義しています。

ただし、惑星そのものが宇宙空間で停止するわけではありません。地球も惑星も公転を続けています。

地球から見た惑星の方向の変化だけが、一瞬0になるため「止まったように見える」のです。

外惑星が逆行する仕組みは追い越しで考えると分かりやすい

火星、木星、土星、天王星、海王星は地球より外側の軌道を回ります。

太陽に近い地球は、それらの外惑星より短い周期で太陽を一周します。たとえば地球は約1年、火星は約1.88年で一周します。

そのため地球は、外惑星を内側のコースから定期的に追い越します。

陸上トラックで内側の速いランナーが外側の遅いランナーを追い越す場面を想像すると分かりやすいでしょう。追い越す直前までは相手が前方へ動いて見えますが、横に並んで追い越す間は背景に対して相手が後ろへ下がるように見えます。追い越し終えると、再び本来の方向へ動くように見えます。

NASAも火星の逆行について、地球が内側のより速い軌道で火星を追い越すことで、火星が一時的に背景星に対して逆向きへ動いて見えると説明しています。

外惑星ではなぜ衝の近くで逆行するのか

外惑星では、太陽・地球・外惑星がほぼ一直線に並び、地球が中央に入る配置を衝と呼びます。

このころ地球は外惑星を内側から追い越しているため、見かけの逆行が起きます。

国立天文台暦計算室も、外惑星では「留→衝→留」の間に逆行することを示しています。

衝のころは地球と外惑星の距離も比較的小さくなるため、惑星は明るく大きく見えやすくなります。つまり、逆行と衝は別の現象ですが、同じ地球と外惑星の位置関係から生じるため近い時期に起こります。

火星の逆行はなぜ特に分かりやすいのか

火星は地球のすぐ外側を回る惑星です。そのため、地球との相対運動が大きく、逆行による見かけの位置変化も比較的観察しやすくなります。

NASA/JPLは、地球が火星を追い越す約26か月ごとに、火星が星座の中を東向きに進んだ後、いったん止まり、西向きへ戻り、再び東向きへ動くように見えると説明しています。

写真を数週間おきに撮影して背景星を重ねると、火星が空にループ状や折り返し状の軌跡を描いて見えることがあります。

このループは火星が宇宙空間で急カーブしている軌跡ではなく、地球から見た視線方向を天球上に投影した結果です。

木星や土星も逆行するのか

木星や土星も外惑星なので、地球が追い越す時期に逆行します。

ただし火星より太陽から遠いため、地球との相対的な位置変化は火星ほど急ではありません。逆行の見え方も、火星とは速度や期間が異なります。

それでも数か月にわたって星図や写真で位置を記録すると、背景星に対して順行から逆行へ切り替わる様子を確認できます。

2026年5月のNASA Astronomy Picture of the Dayでも、土星と海王星が数か月にわたり逆行する様子が紹介され、地球が内側の軌道から外惑星を追い越すために起こる見かけの現象と説明されています。

内惑星の逆行は外惑星と何が違うのか

水星と金星は地球より内側の軌道を回る内惑星です。

内惑星は地球より公転周期が短いため、今度は内惑星が地球を内側から追い越すことになります。

このとき地球から見た内惑星の方向変化が反転し、逆行が起こります。

国立天文台暦計算室では、内惑星は「留→内合→留」の間に逆行すると説明しています。

外惑星では衝の近く、内惑星では内合の近くという違いがありますが、どちらも本質は地球と惑星の追い越しによる相対運動です。

内惑星の逆行が観察しにくいのはなぜか

水星と金星が逆行する時期は内合付近です。

内合では、地球から見て惑星が太陽とほぼ同じ方向にあります。そのため太陽の強い光に紛れ、背景の恒星と一緒に観測することが難しくなります。

国立天文台も、内惑星では太陽に近いため、背景星に対する逆行を直接追うより、最大離角を境に太陽の前後を移動すると考えるほうが理解しやすい場合があると説明しています。

つまり逆行は内惑星にもありますが、観測条件のため外惑星ほど実感しやすくありません。

なぜ逆行の前後に「留」が2回あるのか

順行していた惑星が、突然ある瞬間に全速で逆行へ切り替わるわけではありません。

地球と惑星の位置関係が少しずつ変化するにつれて、背景星に対する見かけの移動速度は徐々に小さくなります。

そして見かけの速度が0になったところが最初の留です。その後は逆向きの速度が増えて逆行し、追い越しの中心を過ぎると再び逆行速度が小さくなります。

再び見かけの速度が0になる2回目の留を通過すると、惑星は順行へ戻ります。

したがって、順行→留→逆行→留→順行という一連の変化は、地球と惑星の相対速度が連続的に変わることの自然な結果です。

逆行のループの形は毎回同じなのか

惑星の逆行軌跡は、単純な一直線の往復になるとは限りません。

地球と惑星の軌道は完全な円ではなく、軌道面も完全には一致していません。そのため天球上へ投影すると、逆行の軌跡はループ状になったり、S字に近くなったり、ほぼ直線的な折り返しになったりします。

また、惑星が黄道のどの位置で逆行するかによって、赤経・赤緯方向への動き方も変わります。

逆行の基本原因は追い越しですが、実際の空で描く形には軌道の離心率や傾斜も反映されます。

逆行の期間や間隔は惑星ごとに違う

逆行が起こる頻度は、地球とその惑星の公転周期の差で決まります。

同じような地球と惑星の位置関係が再び現れるまでの周期を会合周期と呼びます。

火星では約780日、つまり約2年2か月ごとに衝付近の配置が繰り返されます。一方、木星や土星など遠い外惑星では、地球がほぼ1年ごとに追い越すため、逆行もおおむね毎年起こります。

内惑星でも、水星と金星で公転周期が異なるため、内合と逆行が繰り返される間隔は異なります。

したがって「逆行は何年に1回」と一つの周期でまとめることはできません。

地球自身の動きを無視すると逆行が不思議に見える

空だけを見ていると、惑星が順方向へ進み、止まり、逆方向へ戻るように見えます。

古代の天文学では、この複雑な動きを説明するために周転円などの幾何学モデルが使われました。

しかし、地球も惑星の一つとして太陽のまわりを公転していると考えると、逆行は追い越しによる見かけの変化として自然に理解できます。

国立天文台の暦Wikiも、地球中心に見た周転円的な運動が、実際には外惑星本来の公転と地球自身の公転を合成した見かけの運動として表せることを説明しています。

観測する基準によって「動き」は変わる

惑星の運動を説明するときは、どこを基準にしているかが重要です。

太陽を基準にすれば、惑星は基本的に同じ向きへ公転し続けています。

地球を基準にすると、地球自身が動いているため、惑星の見かけの方向は複雑に変わります。

さらに地上から見る場合には地球の自転も加わり、惑星は一晩の中では東から昇って西へ沈みます。

「惑星がどちらへ動いているか」という問いには、太陽基準なのか、背景星に対する地球基準なのか、一日の地平線上の動きなのかを区別する必要があります。

順行・留・逆行を整理すると

  • 順行:背景星に対して惑星が通常、西から東へ進んで見える
  • 留:見かけの移動速度がほぼ0になり、方向が切り替わる
  • 逆行:背景星に対して一時的に東から西へ戻って見える
  • 外惑星:地球が内側から追い越す衝付近で逆行する
  • 内惑星:内惑星が地球を内側から追い越す内合付近で逆行する
  • 本質:惑星の公転方向が反転するのではなく、地球との相対運動による見かけの変化

まとめ

惑星が順行・留・逆行を繰り返して見えるのは、惑星自身が公転方向を変えるからではありません。

観測者である地球も太陽のまわりを公転しているため、地球から惑星を見る視線の方向が時間とともに変化します。外惑星では地球が内側の速い軌道から追い越すとき、内惑星では水星や金星が地球を内側から追い越すときに、背景星に対する見かけの動きが反転します。

その変化は連続的なので、順行の速度が落ちて留となり、逆行へ移り、もう一度留を通って順行へ戻ります。

つまり惑星の逆行は、地球も動く観測点であることを示す代表的な見かけの運動です。太陽を基準にした実際の公転と、地球から見た見かけの運動を分けて考えることで、複雑に見える惑星の動きを理解できます。

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