銀河はどれも同じように回っているわけではありません。ある銀河では中心から外側へ向かうにつれて回転速度が急に上がり、その後ほぼ一定になります。別の銀河では、回転速度がゆっくり上昇したり、中心部に大きなピークが現れたりします。最大の回転速度そのものも、銀河によって数十km/s規模から数百km/s規模まで大きく異なります。
この違いを生む基本的な理由は、銀河ごとに星・ガス・バルジ・暗黒物質がどのように分布しているかが違うからです。回転曲線は、銀河の各半径でどれほどの重力が働いているかを映すグラフです。したがって、銀河の質量、表面密度、ガスの割合、暗黒物質ハローの分布、棒構造や相互作用の有無が変われば、回転曲線も変わります。
結論:回転曲線は銀河の「質量の置かれ方」を映すから
円盤銀河でガスや星がほぼ円運動していると考えられる場合、ある半径で必要な回転速度は、その内側にある総質量とその分布によって決まります。単純化すると、内側の質量が大きいほど、その半径で強い重力が必要となり、回転速度も大きくなります。
ただし銀河の質量は一種類ではありません。中心部には超巨大ブラックホールやバルジがあり、その外側には恒星円盤とガス円盤、さらに広い範囲には暗黒物質ハローが分布します。各成分が回転速度へ寄与する割合は半径によって変わります。
そのため、中心に質量が集中した銀河は内側で回転速度が急上昇しやすく、低密度の銀河ではゆっくり上がることがあります。外側では暗黒物質の寄与が相対的に大きくなり、多くの円盤銀河で回転速度が大きく低下しない「平坦に近い回転曲線」が見られます。
そもそも回転曲線とは何を比べるグラフなのか
回転曲線とは、銀河中心からの距離と、その場所を回る星やガスの円運動速度の関係を表したものです。渦巻銀河では、水素のHα線、21cm中性水素線、CO分子線などのドップラー効果を測り、円盤のどの場所がどの速さで近づいたり遠ざかったりしているかを調べます。
日本天文学会欧文研究報告のレビューでは、回転曲線を使って銀河の質量分布を調べるとき、ブラックホール、バルジ、恒星円盤、暗黒物質ハローなど複数の成分に分けて考える方法が整理されています。
つまり回転曲線の違いは、単なる「回る速さの個性」ではありません。その銀河のどこにどれほどの質量があるかという内部構造の違いを反映しています。
大きく重い銀河ほど回転速度も大きくなりやすい
銀河全体の質量が大きければ、一般に重力も強くなります。そのため大質量の円盤銀河は、小型の矮小銀河より大きな回転速度を示す傾向があります。
ただし「質量が2倍なら回転速度も2倍」という単純な比例ではありません。重要なのは、質量の総量だけでなく、どの半径までどのように広がっているかです。同じ総質量でも、中心へ強く集中した銀河と広く分散した銀河では、内側の回転曲線の形が変わります。
観測的には、円盤銀河の回転速度と通常物質の質量や明るさには強い関係があります。これは銀河の回転が、その銀河全体の質量構造と深く結びついていることを示します。
中心に大きなバルジがあると回転曲線はどう変わるのか
バルジは銀河中心付近に集まった星の高密度成分です。大きなバルジを持つ銀河では、中心から比較的近い範囲に多くの質量があります。そのため内側で重力が急に強まり、回転速度が短い距離で大きく上がることがあります。
一方、バルジが小さく、恒星やガスがより広く円盤に分布する銀河では、内側の回転速度が比較的ゆっくり増えることがあります。
このため同じ「渦巻銀河」でも、中心部の回転曲線は同じ形にはなりません。銀河の形態分類と回転速度の特徴には一定の関係がありますが、個々の銀河には大きな幅があります。
表面密度が高い銀河と低い銀河では何が違うのか
銀河の「表面密度」は、一定の面積にどれほどの星やガスの質量が集まっているかを表します。高表面輝度・高表面密度の銀河では、内側で通常物質の重力が強く、回転曲線が急に立ち上がる傾向があります。
反対に、星の分布が薄く広がった低表面輝度銀河や一部の矮小銀河では、回転曲線がゆっくり上昇することがあります。175個の円盤銀河を集めたSPARCデータベースでも、銀河の明るさ、表面輝度、ガス割合は大きく異なり、通常物質が観測される回転速度へ寄与する割合にも系統的な違いがあることが示されています。
この違いは、銀河の中心部で「星の重力が主役なのか、暗黒物質の寄与が相対的に大きいのか」を考える手掛かりになります。
矮小銀河ではなぜ回転曲線が特に多様なのか
矮小銀河は質量が小さく、通常物質に比べて暗黒物質の影響が大きいと考えられるため、暗黒物質ハローの構造を調べる重要な対象です。
ところが、似た最大回転速度を持つ矮小銀河でも、中心部の回転曲線が急に立ち上がるものと、ゆっくり立ち上がるものがあります。研究では、こうした回転曲線の多様性と、星やガスの表面密度との間に関係があることが報告されています。
さらに矮小銀河では、活発な星形成と超新星フィードバックによってガスが出入りし、重力場が時間的に変化する可能性があります。これが暗黒物質の中心分布にも影響し得るという研究があります。ただし、矮小銀河の回転曲線の多様性を一つの原因だけで完全に説明できているわけではありません。
暗黒物質ハローが違えば外側の回転も変わる
国立天文台の解説にもあるように、多くの渦巻銀河では、目に見える星やガスが少なくなる外側でも回転速度が高く保たれます。通常物質だけなら外側で速度が大きく下がるはずなので、広がった暗黒物質ハローの存在が必要だと考えられています。
ただし、すべての銀河がまったく同じ暗黒物質ハローを持つわけではありません。ハローの総質量、集中度、中心部の密度分布は銀河ごとに異なり得ます。そのため外側まで含めた回転曲線の形にも違いが生まれます。
また、暗黒物質ハローだけを変えれば何でも説明できるわけでもありません。観測される回転曲線には、恒星円盤やガスの質量分布も強く関わります。回転曲線を解釈するときは、見える物質と見えない物質の両方を合わせて考える必要があります。
ガスが多い銀河と星が多い銀河でも違いは出る
大きな渦巻銀河では恒星が通常物質の質量の大部分を占めることがあります。一方、低質量の矮小不規則銀河では、恒星に比べて中性水素ガスの割合が大きいことがあります。
ガスは恒星より外側まで広がることが多いため、外縁部の回転曲線を測る重要なトレーサーになります。また、ガス自身にも質量があるので、その重力も回転速度に寄与します。
したがって、同じ総光度の銀河でも、ガス割合や恒星の質量対光度比が違えば、通常物質の質量分布が変わり、回転曲線の形も少しずつ異なります。
棒構造や渦巻腕があると「きれいな円運動」からずれる
回転曲線は、本来は銀河の平均的な円運動を表すものです。しかし実際の銀河では、すべての星やガスが完全な円軌道を描いているわけではありません。
棒渦巻銀河では、中心の棒状構造がガスや星へ重力トルクを与え、楕円形に近い軌道や流入運動を生みます。渦巻腕の近くでも、ガスは密度構造に沿って非円運動をすることがあります。
こうした運動は観測された速度場に局所的な凸凹や非対称性を作ります。そのため、精密な回転曲線を作るには、単純な円運動からのずれを分離して考える必要があります。
銀河同士の相互作用や合体も回転を乱す
孤立した円盤銀河では比較的規則的な回転速度場が得られますが、別の銀河と接近・衝突している場合は状況が違います。潮汐力によって円盤がゆがみ、星やガスの軌道が変化し、回転速度場が左右非対称になることがあります。
大きな合体では、それまで整っていた円盤そのものが壊れる場合もあります。合体後の銀河では、回転だけでなく、星がさまざまな方向へ動く速度分散によって全体が支えられることがあります。
そのため「銀河の回転速度」を比較するときは、すべての銀河を同じ種類の回転円盤として扱えません。とくに楕円銀河では、円盤銀河の回転曲線と同じ考え方だけでは運動を表せない場合があります。
楕円銀河は「回転していない」のか
楕円銀河にも回転するものはあります。しかし、多くの楕円銀河では、恒星が一方向へ整然と回る運動だけで形を支えているわけではありません。さまざまな方向へ動く恒星の速度分散が重要です。
そのため、渦巻銀河のような薄いガス円盤の回転曲線を測る方法と、楕円銀河の運動を調べる方法は同じではありません。楕円銀河では、恒星スペクトルの幅や惑星状星雲、球状星団などの運動を利用して重力場を推定します。
つまり銀河の「回転の違い」には、回転速度の数値だけでなく、そもそも回転運動とランダム運動のどちらが銀河を支えているかという違いも含まれます。
観測する角度によっても回転速度は違って見える
銀河自体が同じでも、円盤をどの角度から見ているかによって、視線方向に見える速度は変わります。円盤を真横に近い角度から見ると回転速度の視線成分は大きく見えますが、ほぼ正面から見ると小さくなります。
そこで天文学者は、銀河円盤の傾斜角を推定し、観測されたドップラー速度を補正して本来の回転速度を求めます。
特に小さく不規則な矮小銀河では、円盤の傾きや中心位置を正確に決めることが難しく、回転曲線の形に系統誤差が入りやすい場合があります。そのため、銀河間の違いを議論するときは観測上の不確かさも重要です。
回転曲線の違いを調べると何が分かるのか
多数の銀河の回転曲線を比較すると、銀河の質量と大きさ、表面密度、ガス割合、暗黒物質ハローの構造がどのように関係しているかを調べられます。
また、銀河形成シミュレーションが実際の銀河の多様性を再現できるかを検証する材料にもなります。とくに矮小銀河の中心部の回転曲線は、暗黒物質の密度分布や恒星フィードバックの効果をめぐる重要な研究対象です。
回転曲線は「暗黒物質があるかどうか」を調べるだけの道具ではありません。銀河ごとの形成史と現在の質量構造を比較するための、非常に情報量の多い観測量なのです。
まとめ
銀河によって回転曲線の形や回転速度が違うのは、銀河ごとに質量の総量と分布が違うからです。中心のバルジ、恒星円盤、ガス円盤、暗黒物質ハローが、それぞれ異なる割合と広がり方で重力を作ります。
大質量で高表面密度の銀河では内側の回転速度が急に高くなりやすく、低表面密度の銀河や矮小銀河ではゆっくり上昇する回転曲線が見られることがあります。外側では暗黒物質の寄与が重要になり、多くの円盤銀河で回転速度が高く保たれます。
さらに、棒構造、渦巻腕、ガス割合、銀河同士の相互作用、観測する傾斜角なども回転速度場に影響します。楕円銀河のように、回転より恒星のランダム運動が重要な銀河もあります。
つまり回転曲線の違いは、銀河が持つ重力の「設計図」の違いです。複数の銀河を比べることで、星やガスだけでなく暗黒物質まで含めた銀河の成り立ちを調べることができます。
関連記事
- なぜ銀河には渦巻銀河・楕円銀河・不規則銀河など、さまざまな形があるのか?
- なぜ同じ銀河の恒星でも、質量によって色・温度・寿命・最期が大きく違うのか?
- なぜ銀河の衝突には天体や条件による違いがあるのか?
参考資料
- 国立天文台「ダークマター」
- Publications of the Astronomical Society of Japan「Rotation and mass in the Milky Way and spiral galaxies」
- SPARC「Mass Models for 175 Disk Galaxies with Spitzer Photometry and Accurate Rotation Curves」
- Monthly Notices of the Royal Astronomical Society「Baryonic clues to the puzzling diversity of dwarf galaxy rotation curves」

コメント