夜空に見える銀河は、地球から同じ距離に並んでいるわけではありません。天の川銀河のすぐ近くには同じ局所銀河群に属する銀河があり、その一方で、何十億光年も離れた遠方銀河も観測されています。しかも、遠くを見るほど、私たちはその銀河の「昔の姿」を見ています。
なぜ銀河の距離にはこれほど大きな違いがあるのでしょうか。答えは、銀河が宇宙空間に均一な間隔で並んでいるのではなく、重力によって銀河群・銀河団・フィラメント・ボイドからなる大規模構造を作りながら分布し、その空間自体が宇宙膨張によって時間とともに広がってきたからです。
さらに、光には有限の速度があるため、距離の違いはそのまま「どれだけ昔を見ているか」の違いにもつながります。銀河の距離を考えることは、現在の宇宙の地図だけでなく、宇宙の歴史を考えることでもあるのです。
結論:銀河は大規模構造の中で不均一に分布し、宇宙膨張で距離が変化してきたから
銀河は宇宙空間にランダムかつ均等に置かれているわけではありません。重力によって集まり、数十個ほどの銀河群、数百から数千の銀河を含む銀河団、さらにそれらをつなぐフィラメント状の構造を作っています。その間には、銀河が少ないボイドと呼ばれる大きな空洞状の領域があります。
国立天文台の宇宙構造形成シミュレーションでは、宇宙初期に存在した小さな密度のむらが重力によって成長し、暗黒物質のハローが形成・合体し、その中で銀河が生まれて網目状の大規模構造が発達する様子が示されています。
私たちの天の川銀河も、その大規模構造の中の一か所にあります。したがって、地球から見た銀河までの距離が違うのは、各銀河が同じ半径の球面上に並んでいるのではなく、三次元空間のさまざまな場所に存在しているからです。
近くの銀河はなぜ「集団」を作っているのか
天の川銀河は孤立しているわけではなく、複数の銀河とともに局所銀河群を作っています。このような銀河群では、銀河同士の重力が互いを束縛しているため、比較的近い範囲に複数の銀河が集まっています。
NASAは、銀河群や銀河団を重力で結びついた銀河の集合として説明しています。銀河群はより小規模で、銀河団はさらに多くの銀河を含む大きな構造です。
つまり、近くに銀河が何個も見つかるのは偶然ではありません。宇宙の構造形成では、密度の高い場所ほど重力によって物質が集まりやすく、銀河も集団を作りやすくなります。
銀河のない「空白」があるのはなぜか
銀河の分布図を見ると、銀河が密集した場所と、ほとんど銀河がない場所がはっきり分かれています。銀河が少ない大きな領域をボイドと呼びます。
宇宙初期には物質が完全に均一だったわけではなく、ごく小さな密度差がありました。少し密度が高い領域は重力によってさらに物質を集め、逆に密度の低い領域からは物質が外へ移動します。
この過程が長い時間続くことで、物質が集まったフィラメントや銀河団と、物質が少ないボイドの差が大きくなりました。国立天文台のシミュレーションでも、暗黒物質が網目状のフィラメントを作り、その交点に大きなハローや銀河団が形成される様子が再現されています。
したがって、私たちからある方向には比較的近い銀河が多数あり、別の方向には大きな空白の先に遠い銀河がある、といった違いが生まれます。
宇宙膨張は銀河同士の距離をどう変えるのか
宇宙は現在も膨張しています。ここでいう膨張は、銀河が何もない空間の中を爆発の破片のように飛んでいる、という意味ではありません。大きな尺度では、銀河同士の間の空間そのものが時間とともに広がっています。
そのため、互いに重力で強く束縛されていない遠方の銀河同士は、平均的には時間とともに距離が大きくなります。遠い銀河ほど大きな後退速度を示すというハッブル・ルメートルの関係は、この宇宙膨張の重要な観測的特徴です。
NASAは、遠方銀河から届く光が宇宙膨張によって長い波長へ引き伸ばされる現象を「宇宙論的赤方偏移」と説明しています。一般に、遠い銀河ほど赤方偏移が大きくなります。
近くの銀河も宇宙膨張で一様に遠ざかるのか
そうとは限りません。宇宙膨張の効果は大きな尺度で明瞭になりますが、近距離では銀河群や銀河団内部の重力による運動が重要です。
重力的に束縛された銀河群の中では、銀河は互いの重力によって近づいたり、周回したり、将来合体したりすることがあります。この局所的な運動は、宇宙膨張による平均的な後退運動とは別です。
そのため、「遠い銀河ほど後退速度が大きい」という関係を、すべての近傍銀河へ機械的に当てはめることはできません。近くでは銀河自身の固有運動の影響が相対的に大きくなります。
遠い銀河ほど「昔の姿」に見えるのはなぜか
光は瞬間的に届くわけではありません。光速は非常に速いものの有限なので、遠い天体から出た光ほど地球へ届くまで長い時間がかかります。
たとえば、ある銀河から届く光が10億年かけて地球へ到達したなら、私たちが今見ているのは、その銀河の10億年前の姿です。さらに遠い銀河を見るほど、より昔に出た光を観測することになります。
NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の解説でも、遠方銀河の光を観測することは、その銀河が宇宙の過去の時代にどのような姿だったかを見ることだと説明されています。
つまり、銀河の距離の違いは単なる「場所の違い」ではありません。観測する宇宙の時代の違いでもあります。
130億光年先の銀河は「今も130億光年先」にあるのか
ここは宇宙の距離で特に誤解しやすい点です。非常に遠い銀河では、光が私たちへ向かって進んでいる間にも宇宙が膨張しています。そのため、「その光が何年間旅したか」と「現在その銀河までどれほど空間的に離れているか」は同じ数値になるとは限りません。
国立天文台は、10億光年を大きく超える遠方天体の距離を赤方偏移から推定するとき、採用する宇宙モデルと宇宙論パラメータが必要であり、さらに「光度距離」「共動距離」など複数の距離定義があると説明しています。
一般向けの記事で「130億光年先」と表現するときも、それがどの距離定義を使った数字なのかによって意味が異なる場合があります。宇宙膨張が無視できない遠距離では、「距離」は日常的な物差しの長さより複雑な概念なのです。
赤方偏移が大きければ、必ず距離も大きいのか
遠方宇宙では、赤方偏移は距離を推定する重要な手掛かりです。宇宙膨張によって光の波長が引き伸ばされるため、一般に赤方偏移が大きいほど、光が長い時間をかけて遠くから届いたことを示します。
ただし、赤方偏移そのものが距離を直接表す「宇宙のメートル目盛り」ではありません。赤方偏移から距離へ変換するには、宇宙がどのように膨張してきたかというモデルが必要です。
また近距離では、銀河自身の固有運動によるドップラー効果も赤方偏移や青方偏移に影響します。そのため、近傍銀河と非常に遠い銀河では、赤方偏移の解釈の仕方が少し違います。
遠方銀河の距離と「距離はしご」はどう違う話なのか
銀河までの距離を実際に測定するときには、年周視差、セファイド変光星、Ia型超新星などを段階的に校正する「宇宙の距離はしご」が使われます。これは「どうやって距離を測るか」という問題です。
一方、この記事で扱っているのは「なぜ銀河がそもそも近くから遠くまでさまざまな距離に存在するのか」という問題です。
前者は測定方法、後者は宇宙の三次元構造と膨張の歴史です。両者は関係していますが、同じ問いではありません。距離はしごによって銀河の距離を測ることで、初めて銀河の三次元分布や宇宙膨張を詳しく調べられるようになります。
遠い銀河ほど小さく暗く見えるだけではない
一般に同じ明るさ・同じ大きさの天体なら、遠いほど暗く小さく見えます。しかし遠方銀河の観測では、それだけではありません。
遠くを見るほど昔の宇宙を見るため、観測される銀河そのものの性質も時代によって変わります。初期宇宙の銀河には、現在の大きな渦巻銀河や楕円銀河とは異なり、小さく不規則で活発に星を作っているものが多く見つかっています。
そのため「近い銀河と遠い銀河の違い」は、単なる距離による見かけの差と、宇宙の異なる時代の銀河を比べていることによる本質的な差の両方を含みます。
銀河の距離分布を調べると宇宙の立体地図ができる
空の写真だけでは、銀河が同じ方向に重なって見えていても、手前にあるのか奥にあるのか分かりません。そこで赤方偏移や各種距離指標を使って奥行きを測ると、銀河の三次元地図を作れます。
国立天文台の銀河サーベイ研究では、銀河の三次元分布に、銀河団、フィラメント、ボイドといった特徴的なパターンが現れることが示されています。
こうした地図を調べることで、宇宙の物質がどの程度凸凹しているか、暗黒物質がどのように分布しているか、宇宙膨張がどのように進んできたかを検証できます。
私たちは宇宙の中心にいるから遠い銀河ほど遠ざかるのか
いいえ。遠い銀河ほど大きな赤方偏移を示すことは、地球や天の川銀河が宇宙膨張の中心にいることを意味しません。
大きな尺度で宇宙が一様に膨張しているなら、十分離れたどの銀河から見ても、他の遠い銀河がおおむね遠ざかって見えます。よく使われるたとえは、膨らむ風船の表面に点を描いた場合です。表面上には特別な中心点がないのに、風船が膨らむと各点の間隔は増えます。
実際の宇宙は三次元で、しかも銀河群やフィラメントなど局所的な構造を持つため、このたとえは完全ではありません。それでも、「膨張の中心が私たちの場所にあるわけではない」という点を理解する助けになります。
まとめ
銀河が近くから遠くまでさまざまな距離に存在するのは、銀河が宇宙空間に均一な間隔で並んでいるのではなく、重力によって銀河群・銀河団・フィラメント・ボイドからなる大規模構造を作っているからです。
さらに、重力で束縛されていない大きな尺度では宇宙膨張によって銀河同士の距離が時間とともに広がっています。その膨張は遠方銀河の宇宙論的赤方偏移として観測されます。
そして光には有限の速度があるため、遠い銀河ほど昔に放たれた光を見ています。非常に遠い銀河では、光が旅している間にも宇宙が膨張するため、距離の定義も一つではありません。
銀河の距離の違いは、単に「近い・遠い」という位置の差ではありません。宇宙の大規模構造、膨張の歴史、そして私たちがどの時代の宇宙を見ているかを結びつける重要な情報なのです。
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参考資料
- 国立天文台「遠い天体の距離について」
- 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト「ダークマターハローの形成・進化(II. 大規模構造の形成)ver.2」
- NASA Science「Large Scale Structures」
- NASA Science「Hubble Cosmological Redshift」
- NASA Webb Mission Team「Measuring the Distances to Galaxies With Space Telescopes」

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