なぜ銀河によって星形成率や星形成効率が大きく違うのか?

銀河では、冷たいガスが集まって星が生まれます。しかし、同じようにガスを持つ銀河でも、星を作る勢いは大きく違います。1年間に多くの星を作るスターバースト銀河がある一方、ガスを残していても星形成が弱い銀河や、ほとんど新しい星を作らない銀河もあります。

この違いを理解するには、「星形成率」と「星形成効率」を分けて考えることが重要です。星形成率は、銀河が一定時間にどれだけの質量を新しい星へ変えているかを表します。星形成効率は、持っている分子ガスのうち、どれだけ速く星へ変えられるかを表す考え方です。

銀河ごとの差は、冷たいガスの総量だけでなく、ガスの密度、分子ガスの割合、乱流やせん断運動、銀河の形、衝突・合体、周囲の環境、恒星やブラックホールからのフィードバックによって生まれます。

目次

結論:星形成の「材料の量」と「材料が重力収縮しやすい条件」が銀河ごとに違うから

星を作る材料は主に冷たい分子ガスです。そのため、一般には分子ガスを多く持つ銀河ほど多くの星を作れる可能性があります。しかし、分子ガスが存在するだけでは十分ではありません。

ガスが星になるには、局所的に高密度になり、自分自身の重力が乱流、熱圧力、磁場、銀河の回転によるせん断などを上回る必要があります。つまり「材料がどれだけあるか」と「その材料がどれだけ重力収縮しやすいか」は別の問題です。

このため、同じ程度の分子ガス量を持つ銀河でも星形成効率が異なり、結果として星形成率にも大きな差が生まれます。

星形成率と星形成効率は何が違うのか

星形成率は、たとえば「1年間に太陽何個分の質量が新しい星になったか」という形で表されます。大きな銀河は単純にガスの総量も多いため、星形成率が高くなりやすい傾向があります。

一方、星形成効率は、星形成率を分子ガス量などで割り、「持っている材料をどれだけ速く星へ変えているか」を見る指標です。逆に、現在の星形成率のままガスを使い続けたとき何年で使い切るかを表す「ガス枯渇時間」を使うこともあります。

したがって、星形成率が高い銀河が必ずしも星形成効率も特別に高いとは限りません。単にガスを大量に持っているため星形成率が高い場合と、ガスを非常に効率よく星へ変えている場合を区別する必要があります。

分子ガスが多い銀河ほど星形成率は高くなりやすい

星形成は、低温で密度の高い分子雲の中で起こります。そのため、分子ガスの総量は銀河全体の星形成率を決める重要な要素です。

国立天文台がアルマ望遠鏡で観測したスターバースト銀河NGC 253の中心部では、天の川銀河中心よりも高密度分子ガスが非常に多く存在し、激しい星形成が起きています。高密度の分子ガスが大量にあることが、活発な星形成を支える重要な条件です。

ただし、ガス量だけを見ればすべて説明できるわけではありません。同じ分子ガスでも、そのガスが安定して広がっているのか、高密度の塊へ集まっているのかで、星の生まれやすさが変わります。

ガスがあるのに星が生まれにくい場所があるのはなぜか

星の材料が存在しても、ガスの運動が激しすぎると重力収縮が妨げられることがあります。国立天文台野辺山の研究では、17個の棒渦巻銀河を調べた結果、棒の部分では渦巻腕に比べて星形成効率が系統的に低いことが示されました。

その研究では、分子ガスの速度幅が大きい領域ほど星形成効率が低い傾向が見つかっています。棒構造に沿ってガスが高速で流れたり、強い乱流やせん断を受けたりすると、分子雲が重力でまとまる前にかき乱される可能性があります。

つまり「分子ガスがあるか」だけではなく、「分子ガスがどのような運動状態にあるか」が星形成効率を左右します。

銀河の形によって星形成のしやすさは違うのか

渦巻銀河では、冷たいガスが円盤に多く残り、渦巻腕や中心部などにガスが集中するため、現在も星形成が続いているものが多くあります。若い大質量星が多いため、腕が青く見えることもあります。

一方、多くの楕円銀河では冷たい分子ガスが少なく、古い恒星が大部分を占め、新しい星形成は弱くなっています。これは「楕円形だから星を作れない」のではなく、過去の合体やガス消費、加熱・放出などの履歴によって、星形成に使える冷たいガスが少なくなっていることと関係します。

また棒渦巻銀河のように、同じ一つの銀河の中でも中心、棒、渦巻腕で星形成効率が異なる場合があります。銀河の形はガスの流れや密度を変え、その結果として星形成の分布にも影響します。

銀河同士の衝突・合体で星形成率が急上昇するのはなぜか

銀河同士が接近すると、互いの重力によってガスの軌道が乱されます。ガスが中心部へ流れ込んだり、ガス雲同士が衝突・圧縮されたりすると、高密度分子ガスが急増することがあります。

この状態では短期間に大量の星が作られ、スターバーストになる場合があります。ESAが紹介するスターバースト銀河でも、十分なガス供給に加え、銀河の接近や衝突などによってガスが狭い領域へ集中することが、激しい星形成を起こす重要な条件とされています。

ただし、すべての銀河衝突で同じ規模のスターバーストが起きるわけではありません。もともとのガス量、質量比、衝突角度、速度によって、ガス圧縮の強さは変わります。

星形成が活発になるほど、なぜ自分でブレーキもかけるのか

新しく生まれた大質量星は、強い紫外線や恒星風を放ちます。そして短い寿命の最後には超新星爆発を起こします。これらは周囲のガスを加熱・攪拌し、分子雲を壊します。

ESAの近傍銀河の星形成研究でも、若い星からの恒星風、紫外線、超新星爆発による恒星フィードバックによって、星形成に使われる前のガスの多くが散らされることが説明されています。

このフィードバックによって、ガスが大量に存在していても、すべてが一気に星になることはありません。星形成率が高くなるとフィードバックも強くなり、次の星形成を抑える方向へ働くため、銀河はある程度自己調節されます。

中心ブラックホールの活動も星形成率を変えるのか

銀河中心の超巨大ブラックホールが大量のガスを取り込むと、活動銀河核として強い放射、風、ジェットを出すことがあります。これらは銀河のガスへ大きなエネルギーを与えます。

国立天文台のアルマ望遠鏡による初期宇宙のクエーサー観測では、中心から大量の分子ガスが外へ噴き出す様子が捉えられています。星形成の材料そのものが銀河から失われれば、その後の星形成が弱まる可能性があります。

このようなAGNフィードバックは、大質量銀河で星形成が停止する仕組みの候補の一つです。ただし、AGNがどの銀河でも同じ強さで星形成を止めるわけではなく、ガス量や活動期間、ジェットの方向などによって効果は異なります。

銀河団の中と外でも星形成は違うのか

銀河がどのような環境にいるかも重要です。銀河団の内部には非常に高温で薄いガスが広がっており、その中を銀河が高速で進むと「ラム圧」を受けます。

ラム圧によって銀河の冷たいガスが外へはぎ取られると、星形成の材料が減り、将来的に星形成率が低下します。NASAのハッブル宇宙望遠鏡による銀河団銀河の観測でも、ラム圧ストリッピングによって星形成用ガスが失われ、星形成が弱まる例が説明されています。

一方、ラム圧がガスを一時的に圧縮して局所的な星形成を強める場合もあります。環境効果も単純な「抑制だけ」ではなく、時間や場所によって作用が変わります。

なぜ大きな銀河でも星形成をほとんどしないものがあるのか

銀河が大きければ星形成率も必ず高いわけではありません。大質量銀河の中には、恒星を大量に持ちながら新しい星をほとんど作らないものがあります。

その理由は、星形成に使える冷たいガスが少ない、あるいはガスが存在しても高温のままで冷えにくいことです。過去の星形成でガスを消費したり、恒星やAGNからのフィードバックでガスを加熱・放出したり、銀河団環境でガス供給を失ったりすると、星形成は徐々に弱まります。

NASAのアンドロメダ銀河の星形成史研究でも、過去の相互作用に伴う大きな星形成活動の後、星形成率が長期的に低下してきたことが示されています。銀河の現在の星形成率は、その瞬間のガス量だけでなく、過去の進化履歴を反映しています。

小さな銀河なら星形成効率も低いのか

銀河の質量が小さいほど必ず星形成効率が低い、という単純な規則はありません。矮小銀河にも活発な星形成をしているものがあります。

ただし、小さな銀河は重力が弱いため、超新星爆発でガスを失いやすく、銀河団や大きな銀河の近くでは環境の影響も受けやすくなります。また、ガスの化学組成やちりの量が少ない場合、ガスが冷えて分子を作る過程も大きな銀河とは異なることがあります。

そのため矮小銀河では、短期間だけ活発に星を作ったあと静かになるなど、星形成率が時間的に大きく変動する場合があります。

「星形成効率が高い」とは、よいことなのか

天文学でいう星形成効率は、価値判断ではありません。単に、ある量のガスからどれくらい速く星を作っているかを表します。

非常に効率が高いスターバーストでは、大量の星を短期間に作れますが、その分ガスを速く消費し、強い恒星フィードバックも起こります。そのため長期間同じ勢いを保てるとは限りません。

逆に星形成効率が低い銀河では、ガスを長く保持しながらゆっくり星形成を続けることがあります。高い効率と低い効率は、銀河進化の異なる状態を表しているのです。

星形成率はどうやって測るのか

新しく生まれた星は、特に大質量星が紫外線を強く放つため、紫外線観測は最近の星形成を調べる手掛かりになります。また、大質量星が周囲の水素を電離して生じるHα線などの輝線も使われます。

しかし、星形成領域はちりに隠されることがあります。ちりは若い星の光を吸収して赤外線で再放射するため、赤外線観測も重要です。電波観測ではCO輝線などを使って分子ガス量を調べます。

こうして「どれだけ星が生まれているか」と「材料の分子ガスがどれだけあるか」を別々に測り、両者を比較することで星形成効率を推定します。

銀河ごとの違いを比べると何が分かるのか

星形成率と星形成効率の違いを多数の銀河で比べると、銀河がなぜ青く活発な状態から、赤く静かな状態へ変化するのかを調べられます。

また、銀河衝突がどれほど星形成を増やすのか、棒構造がどの場所で星形成を抑えるのか、銀河団環境がどれほどガスを奪うのか、AGNフィードバックがどれほど星形成を停止させるのかを検証できます。

銀河の進化は、「ガスがあれば星になる」という一つの法則だけでは説明できません。ガス供給、重力収縮、乱流、星とブラックホールからのフィードバック、環境が競い合った結果として、現在の星形成率が決まります。

まとめ

銀河によって星形成率や星形成効率が大きく違うのは、星の材料となるガスの量と、そのガスが星へ変わりやすい条件が銀河ごとに異なるからです。

分子ガスが豊富で、高密度領域が作られやすい銀河では星形成が活発になります。銀河同士の衝突やガスの中心集中はスターバーストを起こすことがあります。一方、棒構造による激しいガス運動、恒星フィードバック、AGNからのアウトフロー、銀河団でのラム圧ストリッピングなどは、星形成を抑える方向へ働く場合があります。

さらに、同じ銀河の中でも中心、棒、渦巻腕では星形成効率が違うことがあります。つまり星形成の違いは、単に「ガスが多いか少ないか」だけではなく、ガスの状態と銀河の進化履歴の違いを反映しています。

星形成率を比較することは、銀河が現在どれだけ活発かを知るだけでなく、その銀河が過去にどのようなガス供給・衝突・フィードバックを経験し、これからどのように進化していくかを読み解く重要な手掛かりなのです。

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