人工衛星は、観測装置、通信機、コンピューター、姿勢制御装置、ヒーターなど、多くの機器を電気で動かしています。地上の家電のように電線から電気を受け取ることはできないため、宇宙で自分の電力を作り、ため、必要な機器へ配らなければなりません。
人工衛星に太陽電池だけでなくバッテリーと電力制御器も必要なのは、太陽光が当たる時間だけ発電しても、地球の影に入る日陰中や一時的に消費電力が増えたときには電力が不足し、さらに発電量や機器の要求電力も一定ではないためです。太陽電池で発電し、余った電力をバッテリーへ蓄え、電力制御器が発電・充放電・電圧・配電を調整することで、人工衛星は軌道上で連続して動作できます。
人工衛星は電気が止まると仕事を続けられない
人工衛星の多くの機能は電力に依存しています。
観測装置は画像や測定データを取得するために電力を使い、通信機はデータを地上へ送るために電力を使います。搭載コンピューターは衛星全体を制御し、姿勢制御装置は衛星の向きを保ちます。
さらに宇宙空間では温度変化が大きいため、必要に応じてヒーターを動かして機器やバッテリーの温度を保つこともあります。
NASAはHubble宇宙望遠鏡について、科学観測装置、コンピューター、ヒーター、送信機などを動かすために電気が必要で、電源系が電力の生成・蓄積・制御・分配を担っていると説明しています。
つまり人工衛星にとって電源系は、一つの装置ではなく、ほぼすべての機器を支える基盤です。
太陽電池は宇宙で使いやすい発電方法
地球周回衛星の多くは、主な発電源として太陽電池を使います。
太陽電池は、太陽光のエネルギーを直接電気へ変換します。燃料を燃やし続けなくても、太陽光が当たっている間は発電できるため、長期間運用する人工衛星に向いています。
JAXAは、人工衛星は多くの電気を必要とするため、太陽電池を多数取り付けた太陽電池パドルを使って発電し、太陽光だけで電気を作れることが宇宙利用に適していると説明しています。
太陽電池は「宇宙で電気を生み出す入口」として重要ですが、それだけで衛星の電源問題がすべて解決するわけではありません。
地球の影に入ると太陽電池は発電できない
地球を回る人工衛星は、軌道によっては地球の影へ入ります。
この時間を日陰期間、または食の期間と呼びます。
太陽光が衛星へ届かなくなるため、太陽電池はその間、十分な電力を発生できません。
しかし衛星は日陰に入ったからといって、コンピューターや姿勢制御、通信、温度管理をすべて停止するわけにはいきません。
そこで日照中に余った電力をバッテリーへ蓄え、日陰中はそのバッテリーから電力を供給します。
JAXAもISSについて、日照中は太陽電池で各システムを動かし、余剰電力をバッテリーへ蓄え、夜間はバッテリーの電力を使うと説明しています。
バッテリーは「夜用の予備電源」だけではない
人工衛星のバッテリーは、日陰中の電力供給が代表的な役割です。
しかし役割はそれだけではありません。
衛星がロケット内にある打ち上げ前後や、太陽電池パドルをまだ展開していない時間にも、バッテリーが電力を供給する場合があります。
JAXAのサテライトナビゲーターは、人工衛星がロケットに搭載されている段階からバッテリーで電源を入れ、分離後に太陽電池パドルを展開して自立した発電へ移る流れを説明しています。
また観測装置や通信機を一時的に強く動かし、太陽電池だけでは瞬間的な電力が足りない場合に、バッテリーが補助する設計もあります。
太陽電池の発電量はいつも一定ではない
太陽電池は光が当たれば発電しますが、発電量は完全に一定ではありません。
太陽電池面が太陽へどの角度で向いているか、衛星の姿勢、軌道上の季節条件、太陽電池セルの温度や劣化などによって出力は変わります。
太陽電池パドルを回転させて、できるだけ太陽へ向ける衛星もあります。
一方、衛星側の消費電力も一定ではありません。観測中、通信中、軌道変更中、待機中では必要電力が異なります。
したがって「太陽電池の出力をそのまま全機器へつなぐ」だけでは、安定した運用はできません。
電力制御器が発電と消費の間を調整する
太陽電池、バッテリー、各搭載機器の間を調整する中心が電力制御器です。
JAXA研究開発部門は、電力制御器PCUが太陽電池の発電電力を制御し、バッテリーの充放電や各機器への電力供給をコントロールすると説明しています。
太陽光が十分にあるときは、必要な電力を機器へ送りながらバッテリーを充電します。
日陰や発電不足のときは、バッテリーから機器側へ電力を流します。
発電量、バッテリー残量、消費電力を見ながら電力の流れを管理することで、衛星全体の電源を安定させます。
電圧を整えることも電源系の重要な仕事
搭載機器は、どんな電圧でも動くわけではありません。
コンピューター、センサー、通信機、ヒーターなどは、それぞれ決められた電圧範囲で正常に動作します。
一方、太陽電池やバッテリーの電圧は状態によって変化することがあります。
そのため電源系では、必要に応じて電圧を変換・安定化し、各機器へ適切な電力を供給します。
NASAの小型宇宙機向け電源技術資料でも、宇宙機の電源系は発電、蓄電だけでなく、Power Management and Distribution、つまり電力管理・分配を含む基本サブシステムとされています。
電力は全部の機器へ同じように配るわけではない
人工衛星では、すべての機器が同じ重要度ではありません。
一時的に電力が不足した場合でも、搭載コンピューター、通信、姿勢制御、温度管理など、衛星の生存に不可欠な機能は優先して維持する必要があります。
一方、科学観測や一部の実験装置は、一時停止しても衛星そのものを失わずに済む場合があります。
そこで電源系では、機器ごとの電力ラインを管理し、必要に応じて一部負荷を切り離す設計が行われます。
これは限られた発電量の中で、「何を最優先で生かすか」を決める仕組みでもあります。
バッテリーを過充電・過放電から守る必要がある
二次電池は、ただ充電と放電を繰り返せばよいわけではありません。
過度な充電や深い放電、適切でない温度条件は、性能低下や安全上の問題につながる可能性があります。
そのため電源系では、バッテリーの電圧、電流、温度、充電状態などを監視しながら充放電を管理します。
JAXAのSLIMでは、太陽電池パネル、リチウムイオンバッテリー、統合化電力制御器を組み合わせ、限られた質量の中で探査機へ必要な電力を供給する電源系を構成しました。
人工衛星のバッテリーは、単なる市販の充電池ではなく、宇宙環境とミッション条件を前提に管理されます。
電源系は衛星の質量にも大きく影響する
太陽電池パネルを大きくすれば発電量を増やせます。
バッテリーを大きくすれば、日陰中に使えるエネルギーを増やせます。
しかし宇宙機では、質量と大きさに厳しい制限があります。
太陽電池を増やしすぎれば衛星が大型化し、打ち上げ時の収納や構造設計が難しくなります。バッテリーを増やせば質量が増え、ロケットへ要求される打ち上げ能力も大きくなります。
NASAの小型宇宙機向け資料でも、電源系は宇宙機の質量・体積のかなりの割合を占める主要サブシステムとされています。
そのため電源設計では、必要電力を確保しながら、できるだけ小さく軽くすることが重要です。
「最大消費電力」だけでなく一周全体で考える
衛星の電源設計では、一瞬の最大電力だけを見ても十分ではありません。
日照中にどれくらい発電できるか、日陰が何分続くか、その間にどれだけ電力を消費するか、バッテリーへどれくらい充電を戻せるかを軌道一周単位で考えます。
日照中に発電した電力が、その時間の消費電力をまかなうだけで精いっぱいなら、日陰用のバッテリーを十分に充電できません。
そのため太陽電池は、日照中の機器を動かす分に加え、次の日陰へ備えてバッテリーを充電する余裕を持って設計されます。
軌道によって必要な電源設計は変わる
人工衛星の電源系は、軌道とも関係しています。
低軌道衛星では、地球の周囲を短時間で回るため、日照と日陰を一日に何度も繰り返す場合があります。
静止衛星では軌道周期や食の条件が異なります。
探査機では、太陽から遠ざかるほど太陽光が弱くなり、同じ面積の太陽電池から得られる電力が減ります。
NASAは、宇宙機の電力源を選ぶ際に、どこへ行くか、何をするか、どれくらいの期間働くかを考える必要があると説明しています。
つまり電源系は、衛星本体だけを見て決めるのではなく、ミッションと軌道環境から逆算して設計されます。
すべての宇宙機が太陽電池だけを使うわけではない
地球周回衛星の多くは太陽電池を使いますが、宇宙機全体で見ると電力源は一種類ではありません。
太陽から非常に遠い場所では、太陽光が弱くなります。
そのため深宇宙探査では、放射性同位体の崩壊熱を電気へ変換するRTGなどが使われることがあります。
NASAは、宇宙機の代表的な電力源として太陽光、バッテリー、放射性同位体を挙げ、ミッション条件に応じて選択すると説明しています。
W01408の主題は地球周回衛星を中心とした太陽電池・バッテリー・制御器の関係ですが、「宇宙機の電源は目的に合わせて設計される」という考え方は共通しています。
電源系の異常は衛星全体へ波及する
観測装置が一台故障しても、他の機能を残せる場合があります。
しかし電源系が広く停止すると、多くの機器を同時に動かせなくなる可能性があります。
JAXAのSLIM電源系解説でも、電源系の不具合は探査機の喪失へ直結し得るため、高い信頼性が求められると説明されています。
そのため電源系では、故障時にも重要機器へ電力を供給できるよう冗長化や保護機能を組み込むことがあります。
電源系は目立ちにくい一方、衛星全体を生かすための重要度が非常に高いサブシステムです。
姿勢制御とも電源は深くつながっている
太陽電池で効率よく発電するには、太陽電池面へ十分な太陽光を当てる必要があります。
そのため衛星本体の姿勢や太陽電池パドルの向きが、発電量へ影響します。
一方、姿勢を変えるリアクションホイールやセンサー、コンピューター自身も電気を消費します。
つまり姿勢制御は発電条件を整える役割を持ちながら、自分自身も電力を必要とします。
W01407で扱った姿勢制御と、W01408で扱う電源系は、独立した装置ではなく互いに支え合っています。
通信とも電源は深くつながっている
衛星通信では、送信機を動かすために電力が必要です。
大量の観測データを高速で地上へ送る場合、通信機の消費電力が大きくなることがあります。
そのため、発電量やバッテリー残量が少ない時間帯には通信運用を調整し、電力に余裕がある時間に高負荷の通信を行うことも考えられます。
電源運用と通信スケジュールを別々に考えるのではなく、衛星全体のエネルギー収支の中で調整する必要があります。
人工衛星の電源系を見るときは4つに分ける
人工衛星の電源を理解するときは、四つの機能に分けると整理しやすくなります。
第一は発電です。地球周回衛星では主に太陽電池が担当します。
第二は蓄電です。バッテリーが日照中の余剰電力を蓄え、日陰や一時的な不足時に供給します。
第三は電力制御です。発電量と消費量を調整し、バッテリーの充放電や電圧を管理します。
第四は分配です。各機器へ必要な電力を送り、異常時には重要機器を優先します。
この四つがそろって初めて、衛星は軌道上で安定して働き続けられます。
W01409の「寿命」とは何が違うのか
次のW01409は、人工衛星の寿命がなぜ有限になり、燃料、バッテリー、太陽電池、放射線、機器故障などが運用終了とどう関係するかを扱う別の検索意図です。
この記事W01408の中心は、人工衛星を動かすために、なぜ太陽電池・バッテリー・電力制御器を組み合わせた電源系が必要なのかという原因・関係です。
バッテリーや太陽電池の劣化そのものを主題にはせず、日照と日陰、発電と蓄電、電力管理の役割分担を中心に説明しています。
まとめ
人工衛星に太陽電池だけでなくバッテリーと電力制御器も必要なのは、太陽光が当たらない日陰時間があり、発電量と消費電力が常に一致するわけではないからです。
太陽電池は日照中に発電し、その電力で搭載機器を動かしながら余剰分をバッテリーへ蓄えます。日陰中や一時的な電力不足時には、バッテリーが電力を供給します。
さらに電力制御器が、太陽電池の発電、バッテリーの充放電、電圧の安定化、各機器への配電を管理します。
観測装置、通信機、姿勢制御、コンピューター、ヒーターなどはすべてこの電源系に支えられています。
つまり人工衛星の電源は「太陽電池で発電する」だけでは完成しません。発電・蓄電・制御・分配を一つのシステムとして設計することで、宇宙の昼夜や変動する負荷の中でも、衛星は必要な仕事を連続して続けられるのです。

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