魚の体温は、私たち哺乳類のようにいつもほぼ一定なのでしょうか。多くの魚ではそうではありません。魚の多くは外温動物で、体温は周囲の水温の影響を強く受けます。
ただし、「魚の体温は水温と必ず同じ」と言い切るのも正確ではありません。魚は泳いで温度の異なる場所を選び、季節的な水温変化には代謝の仕組みを調整して対応します。さらに、マグロ類や一部のサメ類などには、筋肉が生み出した熱を体内に保ち、体の一部を周囲の水より高温に保つ魚もいます。
つまり魚の体温は、多くの魚では水温を基礎に決まりながら、行動、生理的な順化、熱を逃がしにくくする血管構造などによって調節されています。
多くの魚はなぜ水温の影響を強く受けるのか
動物の体温は、体内で生まれる熱と、体から外へ逃げる熱の収支で決まります。魚も筋肉を動かし、消化や代謝を行うため、体内では熱が発生しています。
しかし多くの魚では、その熱を体内に長く保つ仕組みが十分に発達していません。しかも魚は水に囲まれています。水は空気より熱を伝えやすいため、魚の体と周囲の水との間では熱が移動しやすくなります。
さらに、魚のえらでは呼吸のために血液が大量の水と近接します。酸素を取り込むには薄い組織を介して水と血液を接触させる必要がありますが、そのことは同時に熱を外へ逃がしやすくする条件にもなります。
このため、多くの魚では代謝で生まれた熱だけで体温を水温より大幅に高く保つことが難しく、体温は周囲の水温に近い値になります。このように体温が外部環境の温度へ大きく依存する性質を「外温性」と呼びます。
外温動物でも、体温をまったく調節しないわけではない
外温動物という言葉から、「魚は水温に流されるだけ」と思われるかもしれません。しかし、魚は行動によって自分が経験する水温を変えることができます。
湖では表層と深層で水温が異なることがあります。川でも、日なたと日陰、湧水が入る場所、本流と支流では温度が異なることがあります。魚はこうした温度差を利用し、自分に適した水温の場所へ移動できます。
この行動は「行動的体温調節」と呼ばれます。日本生態学会誌の総説でも、外温動物である魚類が適切な体温や代謝状態を得るため、温度環境を行動的に選ぶことが説明されています。
海外の淡水魚研究をまとめたレビューでも、魚が高温域から冷たい場所へ移動したり、逆により暖かい場所を選んだりする行動が多数報告されています。つまり、熱を自分で大量に作れなくても、「どの水温の場所にいるか」を選ぶことで体温を調節できるのです。
水温が変わると、魚の代謝速度も変わる
温度は、酵素反応や細胞膜の働きなど、多くの生化学反応の速度に影響します。そのため魚では、水温が変わると代謝速度、遊泳能力、摂餌、消化、成長なども変化します。
一般に、適温の範囲内では水温が上がると化学反応や代謝は速くなります。しかし、温度が高ければ高いほどよいわけではありません。高温になりすぎると、酸素供給や酵素機能などに負担がかかり、活動が低下したり生存が難しくなったりします。
反対に水温が低すぎると、代謝反応が遅くなり、遊泳や消化に時間がかかるようになります。
海外の魚類生理学レビューでは、温度が魚の代謝、摂餌、消化、エネルギー収支へ大きな影響を与えることが整理されています。魚にとって水温は、単なる周囲の温度ではなく、生活速度そのものを左右する環境条件なのです。
季節が変わっても生きられるのは「順化」があるから
春から夏、秋から冬へと水温が変化しても、多くの魚はすぐに機能を失うわけではありません。一定の範囲内であれば、時間をかけて体の働きを新しい水温へ合わせることができます。
この変化を「温度順化」と呼びます。たとえば、代謝に関わる酵素の量や働き、細胞膜を構成する脂質の性質、酸素を運ぶ仕組みなどが調節されます。
日本生態学会誌のサケ科魚類を扱った総説でも、魚類は短期的には行動で適温を選び、より長期的な季節変化には代謝速度などの生理機能を変化させて対応することが説明されています。
つまり、魚の体温そのものは水温に近づきやすくても、体の働きをその温度に合わせることで、季節ごとの環境で活動できるようにしています。
魚の「適温」は種類によって違う
魚が快適に活動できる水温は、種類によって大きく異なります。冷たい水を好むサケ科魚類と、暖かい水を好む熱帯魚では、代謝や酵素が働きやすい温度範囲が違います。
同じ魚種でも、卵、仔魚、成魚など成長段階によって好適温度が変わることがあります。餌を食べるのに適した温度と、成長や繁殖に適した温度が完全に同じとも限りません。
そのため「魚は何度が適温か」という問いに、魚類全体で共通する一つの数字を示すことはできません。魚種ごとに進化してきた温度適応の範囲があります。
一部の魚は、なぜ水温より高い体温を保てるのか
多くの魚は外温性ですが、すべての魚が同じではありません。マグロ類、一部のサメ類などには、代謝で生まれた熱を効率よく体内へ残し、特定の組織を周囲の水より高温に保つものがいます。
この性質は「部分的内温性」や「地域的内温性」と呼ばれます。
熱源になるのは、主に活発に働く筋肉です。高速で泳ぎ続ける魚では、筋肉の代謝によって多くの熱が生じます。しかし熱を作るだけでは、水中へすぐ逃げてしまいます。
そこで重要になるのが、動脈と静脈を細かく並べた「奇網(きもう、rete mirabile)」という血管構造です。
奇網は、熱を回収する対向流熱交換器
筋肉から戻ってくる静脈血は、筋肉で発生した熱を受け取って温かくなっています。一方、えらで酸素を受け取った動脈血は周囲の水によって冷やされています。
奇網では、この温かい静脈血と冷たい動脈血が細い血管の中を反対方向へ流れながら隣り合います。すると静脈血が持っている熱が、体外へ戻る前に動脈血へ移ります。
その結果、筋肉へ向かう血液はあらかじめ温められ、筋肉で生まれた熱が体内で再利用されます。この仕組みが「対向流熱交換」です。
クロマグロの幼魚を調べた日本水産学会誌の研究では、成長に伴って奇網が発達し、筋肉温度を周囲の水より高く保つ能力が高まることが調べられています。
奇網は熱そのものを生み出す器官ではありません。筋肉が生み出した代謝熱を、血液の流れを利用して逃がしにくくする「熱回収装置」と考えると分かりやすくなります。
体の全部が同じ温度になるとは限らない
部分的内温性をもつ魚では、体の場所によって温度が違うことがあります。深部の赤い筋肉は高温でも、体表やえらに近い部分は周囲の水温に近いことがあります。
魚種によっては、筋肉だけでなく、内臓、脳、眼など特定の器官を温かく保つ仕組みも発達しています。
そのため「この魚の体温は何度」と一つの数字で表すと、実際の熱の分布を見落とす場合があります。特に地域的内温性をもつ魚では、どの部位の温度を測ったのかが重要です。
体を温かく保つと、どんな利点があるのか
筋肉を周囲の水より高温に保てれば、低い水温の中でも筋肉の収縮や代謝を高い状態に維持しやすくなります。その結果、高速遊泳や長距離移動、捕食などに有利になる可能性があります。
また、冷たい深場へ潜ったときでも深部筋の温度低下を抑えられれば、幅広い水温環境を利用しやすくなります。
ただし、体温を高く保つことには代謝エネルギーが必要です。熱保持の仕組みも血管配置などの特殊化を必要とします。そのため、すべての魚がこの方法を進化させたわけではありません。
多くの魚では、水温に体温を合わせながら行動と生理を調整する方が、その生活様式に適した戦略になっています。
大きな魚では、水温が変わっても体温がすぐには変わらないことがある
外温性の魚でも、体が大きければ周囲の水温変化に対して体の内部温度が少し遅れて変化することがあります。これは体が大きいほど熱容量が大きく、中心部まで温度変化が伝わるのに時間がかかるためです。
ただし、このような「温度変化の遅れ」と、代謝熱を能動的に保持する地域的内温性は同じではありません。
大きいだけで高い体温を長期間維持できるわけではなく、周囲との熱交換が続けば最終的には水温の影響を受けます。マグロ類などの高い体温維持能力では、体サイズに加えて奇網などの特殊な熱交換構造が重要です。
魚の体温を調べると、生態も分かる
魚の体温や経験した水温を測ると、その魚がどの深さや水域を利用しているか、いつ餌を食べたか、どのような温度環境で活動しているかを推定できることがあります。
近年は体内温度を記録するデータロガーやバイオロギング機器が使われ、マグロなどの大型魚が潜水したときに体温をどう変化させるかも調べられています。
体温は単なる生理データではなく、魚が環境をどのように利用しているかを知る手掛かりにもなります。
なぜ多くの魚の体温は水温に左右され、一部の魚は高く保てるのか
答えは、多くの魚では代謝で生まれた熱を水中で十分に保持できないため、体温が周囲の水温へ近づく一方、一部の魚では特殊な血管構造によって代謝熱を回収できるからです。
一般的な魚では、水温に応じて体温が変わります。しかし魚は、温度の異なる場所へ移動する行動的体温調節や、季節に応じて代謝機能を変える温度順化によって、その環境に対応します。
一方、マグロ類などでは、筋肉で生まれた熱を奇網の対向流熱交換で回収し、深部筋などを水温より高温に保つことができます。
つまり魚の体温の仕組みは、「魚は変温動物だから水温と同じ」という一言では説明できません。多くの魚は環境温度を利用しながら体の働きを調整し、一部の魚はさらに熱を保持する構造を進化させることで、それぞれの生活環境に適応しているのです。
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参考文献・出典
- 阿部孝明「異なる水温環境への魚類の代謝応答―サケ科魚類の温度適応を中心として―」日本生態学会誌(2022)
- Funakoshi S., Wada K., Suzuki T. “Development of the Rete Mirabile with Growth and Muscle Temperature in the Young Bluefin Tuna” Nippon Suisan Gakkaishi(1985)
- Volkoff H., Rønnestad I. “Effects of temperature on feeding and digestive processes in fish”(2020)
- Amat-Trigo F. et al. “Behavioural thermoregulation in cold-water freshwater fish: Innate resilience to climate warming?”(2023)

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