植物の葉からは、目には見えませんが水蒸気が絶えず大気中へ放出されています。この現象が蒸散です。蒸散の量はいつも一定ではなく、晴れた日と曇った日、乾燥した日と湿った日、春と夏、十分に水を与えた植物と乾燥した植物で大きく変わります。
葉の蒸散が季節や生育条件によって変化するのは、葉と空気の間にある水蒸気の差、気孔の開き具合、葉温、風、土壌水分、葉面積などが環境に応じて変わるためです。ただし、「暑いほど蒸散が増える」「乾燥するほど必ず水を多く失う」と単純には言えません。水不足が強くなると植物は気孔を閉じ、かえって蒸散を抑えるからです。
蒸散とは何か
根から吸収された水は、茎の木部を通って葉まで運ばれます。葉の内部では細胞表面から水が蒸発し、その水蒸気の多くが気孔を通って外気へ拡散します。この一連の水の移動が蒸散です。
蒸散は植物にとって単なる水の損失ではありません。蒸散によって葉から水が失われると、葉から茎、根へとつながる水の流れが生じ、根から吸収した水や無機養分を地上部へ運ぶ助けになります。また、水が蒸発すると熱が奪われるため、葉温を下げる方向にも働きます。
一方で、蒸散が大きすぎると植物体内の水分を保てなくなります。そのため植物は、光合成に必要な二酸化炭素を取り込みながら、水を失いすぎないように気孔を調節しています。
蒸散量を決める二つの大きな要因
葉の蒸散を考えるときは、大きく二つの要因に分けると理解しやすくなります。
- 葉の内側と外側で、水蒸気がどれだけ移動しやすいか
- 水蒸気の通り道である気孔がどれだけ開いているか
葉の内部の空気は通常、水蒸気を多く含んでいます。外気が乾燥していれば、葉の内外の水蒸気圧差が大きくなり、水蒸気は外へ移動しやすくなります。反対に空気が湿っていると、その差が小さくなり、蒸散は起こりにくくなります。
しかし、水蒸気圧差が大きくても気孔が閉じれば、水が出ていく通路は狭くなります。つまり、蒸散は「外へ水を引き出す力」と「気孔の開き具合」の両方で決まります。
湿度が低いと蒸散が増えやすいのはなぜか
空気が乾燥していると、葉の内部と外気の水蒸気圧の差が大きくなります。この差は一般に飽差やVPD(vapor pressure deficit)として表されます。
葉の内部は水分が多いため、外気が乾いてVPDが大きくなるほど、水蒸気は葉から外へ拡散しやすくなります。そのため、ほかの条件が同じなら、湿度が低いほど蒸散は増えやすくなります。
ただし、空気が極端に乾燥すると植物は水を失いすぎる危険を感じ、気孔を閉じる方向へ反応します。気孔が閉じれば蒸散は抑えられます。したがって、乾燥が強まるにつれて蒸散がどこまでも増え続けるわけではありません。
植物生理学の研究でも、高いVPDでは水分損失を防ぐために気孔コンダクタンスが低下することが示されています。蒸散は、大気の乾燥によって増やされる効果と、気孔閉鎖によって抑えられる効果のせめぎ合いで決まります。
気温が高いと蒸散はどう変わるのか
一般に温度が高くなると、空気が保持できる水蒸気量が増えます。相対湿度が同じでも、葉温や気温が上がれば葉と空気の間の水蒸気圧差が大きくなることがあり、蒸散を促す方向に働きます。
しかし、高温なら必ず蒸散が増えるわけではありません。日本の5樹種を用いた研究では、温度上昇に伴って蒸散速度が増えた樹種がある一方、30℃付近までは増えても35℃で低下した樹種や、高温で著しく低下した樹種もありました。
これは、高温になると気孔が閉じたり、光合成や葉の水分状態が悪化したりするためです。つまり、温度そのものが蒸発を促す効果と、植物が高温ストレスを避けるために水を節約する反応が同時に働きます。
光が強いと蒸散が増えることが多い
多くの植物では、光が当たると光合成を行うために気孔が開きます。気孔が開けば二酸化炭素を取り込めますが、同時に水蒸気も外へ逃げやすくなります。そのため、朝に明るくなると蒸散が増え、夕方に暗くなると減るという日変化がよく見られます。
また、強い日射は葉温を上げ、葉と空気の水蒸気圧差を大きくすることがあります。この作用も蒸散を増やす方向に働きます。
一方、真昼に非常に高温・乾燥になると、気孔を部分的に閉じて蒸散を抑える植物があります。そのため、蒸散は日の出から正午まで単純に増え続けるとは限らず、昼頃にいったん低下する場合もあります。
土壌が乾くと蒸散はどう変わるのか
根が十分な水を吸収できる状態では、葉から失われた水を根から補いやすくなります。しかし土壌が乾燥すると、水を吸収するのが難しくなり、葉の水分状態が悪化します。
植物はこの状態に対して、気孔を閉じて水分損失を減らします。乾燥時にはアブシジン酸(ABA)などのシグナルが気孔閉鎖に関わり、蒸散を抑える方向に働きます。
したがって、乾燥した環境では空気側の条件だけを見れば蒸散しやすくても、実際には気孔が閉じるため蒸散速度が低下することがあります。米国地質調査所も、土壌水分が不足すると植物は老化や葉の脱落を進め、蒸散量が少なくなる場合があると説明しています。
風が強いと蒸散は増えるのか
葉の表面には、蒸散によって生じた湿った空気の薄い層ができます。風が弱いとこの層が葉の表面に残り、水蒸気が外へ移動する抵抗になります。
風が吹くと、この湿った空気が運び去られ、より乾いた空気と入れ替わります。そのため一般には、適度な風で蒸散が増えることがあります。
ただし、強風が続くと葉の水分不足が進み、気孔閉鎖を引き起こすことがあります。また、風で葉温が下がれば水蒸気圧差が小さくなる場合もあります。風の影響も、風速だけではなく温度・湿度・植物の水分状態との組み合わせで決まります。
季節によって蒸散量が変わる理由
季節が変わると、日射、日長、温度、湿度、降水量、土壌水分、風などが同時に変化します。また植物側でも、葉の枚数、葉面積、気孔の働き、根の活動、葉齢などが変化します。
| 季節・条件 | 蒸散を増やす要因 | 蒸散を抑える要因 |
|---|---|---|
| 春 | 新葉の展開、日射の増加、気温上昇 | 葉面積がまだ小さい時期がある |
| 夏 | 強い日射、高い葉温、大きな葉面積 | 強い乾燥や高温による気孔閉鎖 |
| 秋 | 晴天時には蒸散が続く | 日長短縮、低温、葉の老化、落葉 |
| 冬 | 常緑植物では条件次第で蒸散する | 低温、弱い日射、凍結、落葉による葉面積減少 |
このため、「夏は必ず最大、冬は必ずゼロ」とは限りません。常緑植物では冬でも蒸散しますし、真夏の強い乾燥期には気孔閉鎖によって蒸散が春より低くなる場合もあります。
同じ季節でも植物の種類によって違う
植物は種類によって葉の大きさ、厚さ、気孔密度、気孔の開閉特性、根の深さ、水を運ぶ木部の構造が違います。そのため、同じ気温・湿度でも蒸散速度は同じにはなりません。
乾燥地の植物には、葉面積を小さくしたり、厚いクチクラを持ったり、気孔を強く閉じたりして水分損失を抑えるものがあります。一方、水が豊富な環境に適応した植物では、大きな葉を持ち、条件がよければ活発に蒸散するものもあります。
米国地質調査所も、植物の種類によって蒸散速度は大きく異なり、乾燥地に生育するサボテンや多肉植物は水を節約するため蒸散を少なく抑えると説明しています。
葉の枚数や葉面積も季節変化に関係する
一枚の葉の蒸散速度が同じでも、植物全体の蒸散量は葉面積によって変わります。春に葉が展開して総葉面積が増えれば、植物全体として水を失う面積も増えます。
反対に秋に落葉が進めば、葉から蒸散できる面積が減るため、個々の葉の気孔が開いていても植物全体の蒸散量は低下します。
このため、蒸散を比較するときには「一枚の葉の単位面積当たりの蒸散速度」と「一本の植物全体から失われる水の量」を区別する必要があります。
蒸散には葉を冷やす働きもある
水が液体から水蒸気へ変わるときには熱が必要です。そのため蒸散が起こると、葉から熱が奪われ、葉温を下げる効果があります。
十分な水がある植物では、強い日射の下でも蒸散によって葉温上昇を抑えられる場合があります。一方、乾燥して気孔が閉じると蒸散冷却が弱まり、葉温が上がりやすくなります。
ただし、植物は葉を冷やすためだけに蒸散しているわけではありません。蒸散は気孔を開いて二酸化炭素を取り込むことに伴って生じる水損失でもあり、その結果として葉温調節や水・無機養分輸送にも関わっています。
蒸散と蒸発散は同じなのか
蒸散は、植物から大気へ水蒸気が放出される過程です。一方、土壌や水面から直接起こる蒸発と、植物からの蒸散を合わせたものを蒸発散といいます。
農業や水文学では、畑や森林から大気へ失われる水を考えるとき、蒸散だけでなく土壌蒸発も含む蒸発散量が重要になります。雨の直後には土壌表面からの蒸発が大きく、植物がよく茂った時期には蒸散の割合が大きくなるなど、季節や土地被覆によって内訳が変わります。
蒸散を比べるときは何をそろえるべきか
蒸散は多くの条件の影響を受けるため、二つの植物を比べるときには条件をできるだけそろえる必要があります。
- 同じ植物種、できれば同程度の葉齢で比べる
- 光の強さと測定時刻をそろえる
- 気温と湿度を確認する
- 土壌水分をそろえる
- 風の強さを確認する
- 一枚当たりではなく葉面積当たりで比べる
研究では、葉を測定装置のチャンバーに入れ、温度、湿度、二酸化炭素濃度、光を制御しながら、葉から出る水蒸気量と気孔コンダクタンスを測定します。こうすることで、どの環境要因が蒸散を変えたのかを分けて調べられます。
まとめ
葉の蒸散が季節や生育条件によって変化するのは、葉と空気の水蒸気圧差、気孔の開度、葉温、光、風、土壌水分、葉面積などが変化するためです。
乾いた空気、高い温度、強い光、風は蒸散を増やす方向に働くことがあります。しかし、水不足や強い高温・乾燥になると、植物は気孔を閉じて水分損失を抑えるため、蒸散は逆に低下することがあります。
したがって、蒸散は「暑ければ増える」「乾燥すれば増える」という一つの法則では説明できません。大気が水を引き出す力と、植物が気孔を通じて水の出口を調節する働きのバランスによって、季節や生育条件ごとの蒸散量が決まります。
参考文献・出典
- 日本緑化工学会誌「温度・湿度条件が5樹種の純光合成・蒸散速度・気孔コンダクタンスにおよぼす影響」
- 園芸学会雑誌「トマト穂木の蒸散に及ぼす相対湿度・光強度および葉温の影響」
- Stomatal Response to Humidity: Blurring the Boundary between Active and Passive Movement
- U.S. Geological Survey: Evapotranspiration and the Water Cycle

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