植物の葉は、同じように見えても厚さが大きく異なります。日向で育った葉は厚く、日陰で育った葉は薄いことが多く、乾燥地の植物には厚く丈夫な葉を持つものもあります。
葉の厚さが植物の成長や繁殖に重要なのは、葉の厚さが光合成組織の量、二酸化炭素の拡散、水分保持、葉をつくるための資源コスト、葉の寿命などに関係し、その結果として植物がどれだけ炭素を獲得して成長や繁殖へ回せるかに影響するからです。
ただし、「葉は厚いほどよい」という意味ではありません。厚い葉には強光や乾燥に耐えやすい利点がある一方、つくるための材料が多く必要で、二酸化炭素が葉緑体まで届く距離が長くなることもあります。反対に薄い葉は少ない材料で広い面積をつくりやすい一方、寿命が短く、乾燥や強光に弱いことがあります。
葉の厚さは何で決まるのか
葉の断面には、表皮、柵状組織、海綿状組織、葉脈などがあります。葉が厚くなるときには、柵状組織の細胞が葉の表裏方向へ長く伸びたり、葉肉細胞の層数が増えたりすることがあります。
日本植物生理学会のシロイヌナズナ研究では、糖濃度が高い条件で葉肉の細胞層数が増え、葉が厚くなることが報告されています。また、陽葉と陰葉の研究では、強い光の環境で形成される葉ほど厚くなる例がよく知られています。
つまり葉厚は、単なる物理的な厚みではなく、葉の発達時に光や糖、温度、水分などの情報を受けて形成される機能的な形質です。
厚い葉は強い光を利用しやすいことがある
強い光の下では、葉の表面だけでなく内部まで光が届きます。厚い葉では、単位面積あたりに多くの葉肉組織や葉緑体を配置できるため、十分な光がある条件では面積あたりの光合成能力を高められる場合があります。
陽葉が陰葉より厚いことが多いのも、このような光環境への順化と関係します。強光下では、葉を厚くして光合成組織へ多くの窒素や葉緑体を配置することが、高い光を利用する一つの方法になります。
一方、日陰では光が少ないため、厚い葉をつくるより、同じ材料で薄く広い葉をつくって受光面積を増やす方が有利になる場合があります。
厚ければ光合成が必ず速くなるわけではない
葉が厚くなると光合成組織を多く配置できる一方、二酸化炭素は気孔から葉の内部へ入り、葉肉細胞を通って葉緑体まで到達しなければなりません。
厚い葉では、この二酸化炭素の拡散経路が長くなったり、細胞壁が厚くなったりして、葉肉コンダクタンスが低下することがあります。Banksia属を調べた研究では、葉の乾物投資量が大きい葉ほど細胞壁が厚くなり、質量あたりの光合成速度が低下する傾向が見られました。
つまり、葉厚には「光合成組織を増やせる利点」と「二酸化炭素が内部へ届きにくくなる可能性」という両面があります。
薄い葉は少ない材料で広い面積をつくりやすい
薄い葉の大きな利点は、少ない乾物で広い葉面積を確保しやすいことです。植物が限られた炭素や窒素を使って素早く葉を広げたいときには、薄い葉は効率的な戦略になります。
葉の乾燥重量を面積で割った値をLMA(Leaf Mass per Area)といいます。LMAは葉厚と組織密度の両方に影響されますが、一般に薄く軽い葉はLMAが低く、少ない投資で大きな受光面積をつくりやすい傾向があります。
このような葉を持つ植物は、資源が十分にある環境で素早く成長する戦略をとることが多いと考えられています。
厚い葉は長く使えることが多い
厚く丈夫な葉は、つくるための炭素コストが大きい一方、長期間使えることがあります。世界的な葉の機能形質研究では、LMAが高い葉ほど寿命が長いという関係が広く知られています。
葉を一枚つくるには炭素、窒素、リンなど多くの資源が必要です。高いコストをかけた葉を長期間使えれば、その投資を長い時間をかけて回収できます。
逆に薄い葉は早くつくれる一方、損傷や老化によって早く交換される場合があります。この「すばやく作って早く使う」戦略と「高コストで丈夫な葉を長く使う」戦略の違いは、leaf economics spectrumと呼ばれる考え方の中心です。
葉厚は乾燥への耐性にも関係する
乾燥した環境では、水を失いすぎないことが重要です。厚い葉は、葉肉や貯水組織に水を蓄えたり、葉の表面積に対する体積の割合を大きくしたりできるため、水分保持に有利になる場合があります。
また、乾燥地の植物では、厚いクチクラ、丈夫な細胞壁、高い組織密度などが厚い葉と組み合わさることがあります。これらは水分損失や物理的損傷への耐性を高めます。
ただし、葉厚だけで乾燥耐性が決まるわけではありません。気孔の閉じ方、根の深さ、葉面積、葉の向き、葉毛、クチクラなど多くの特徴が一緒に働きます。
厚い葉は暑さにも有利なのか
厚い葉は強い光に適応していることが多い一方、厚ければ必ず高温に強いわけではありません。葉温は葉の大きさ、風、蒸散、日射、葉の向きなどによって大きく変わります。
厚い葉でも気孔が閉じ、蒸散冷却が弱くなれば高温になることがあります。一方で、強い光に順化した厚い陽葉では、余分な光エネルギーを熱として逃がす仕組みや光防御機構が発達していることがあります。
したがって、葉厚の効果は温度だけでなく、光や水分条件との組み合わせで考える必要があります。
葉の厚さは成長速度とどのように関係するのか
植物の成長には、光合成で得る炭素と、葉をつくるために使う炭素の両方が関係します。
薄い葉を少ない材料で広く展開できれば、短期間で大きな受光面積を確保でき、資源が豊富な環境では速い成長につながることがあります。一方、厚い葉は一枚あたりの建設コストが高くなるため、新しい葉を増やす速度は遅くなる場合があります。
その代わり、厚く丈夫な葉は長く使えるため、貧栄養環境や乾燥環境では資源を節約する戦略として有利になることがあります。
このため、葉厚と成長の関係は「厚いほど速い」「薄いほど速い」という単純なものではなく、植物がどのような環境で、どの時間尺度で資源を回収するかによって変わります。
葉の厚さは繁殖にどう関係するのか
葉の厚さが花芽形成や受精を直接起こすわけではありません。葉厚が繁殖に関係するのは、主に植物全体の炭素収支と資源利用を通じた間接的な関係です。
花、果実、種子をつくるには大量の炭素とエネルギーが必要です。葉がその環境に適した厚さを持ち、長期間効率よく光合成できれば、繁殖器官へ配分できる光合成産物を確保しやすくなります。
逆に、その環境に不適切な葉厚では、葉をつくるコストが大きすぎたり、乾燥や強光で早く損傷したりして、植物全体の炭素収支が悪化することがあります。その結果、花数、果実成長、種子形成へ回せる資源が減る可能性があります。
つまり、葉厚は繁殖を直接決める形質ではなく、成長期を通じてどれだけ効率よく炭素と水を管理できるかを通して繁殖を支える形質です。
厚い葉と薄い葉はどちらが「省エネ」なのか
葉をつくるときのコストだけを考えれば、薄い葉は少ない材料で広い面積をつくれるため有利です。しかし、葉を何度も作り直す必要があるなら、その交換コストも考える必要があります。
厚い葉は初期投資が大きい一方、長寿命であれば長い期間にわたって光合成を行い、投資を回収できます。薄い葉は短期間で大きな利益を得やすい一方、寿命が短ければ交換頻度が高くなります。
植物は、生育期間の長さ、光、温度、水、土壌養分などに応じて、この投資と回収のバランスを変えています。
LMAと葉厚は同じ意味ではない
葉の機能を議論するときには、葉厚とLMAを区別することが重要です。LMAは葉の乾物重量を面積で割った値で、おおまかには「葉厚 × 組織密度」で決まります。
そのため、厚い葉でも細胞間隙が多く組織密度が低ければ、LMAがそれほど高くならないことがあります。逆に、それほど厚くなくても細胞壁が厚く高密度な葉ではLMAが高くなることがあります。
葉寿命や質量あたりの光合成速度との関係を考えるときは、厚さだけでなく組織密度や窒素量も合わせて見る必要があります。
成長・繁殖との関係を整理すると
| 葉厚に関わる性質 | 利点になりうる点 | コスト・制約 |
|---|---|---|
| 厚い葉 | 面積あたりの光合成組織を多く持てる場合がある | 建設コストが大きい |
| 厚い葉 | 長寿命・乾燥耐性に有利な場合がある | CO2拡散抵抗が増えることがある |
| 薄い葉 | 少ない材料で広い面積をつくりやすい | 寿命が短い場合がある |
| 薄い葉 | 資源豊富な環境で素早い成長に向く場合がある | 強光・乾燥への耐性が低いことがある |
| 適切な葉厚 | 炭素獲得と葉の維持コストを環境に合わせる | 最適値は種や環境によって異なる |
葉厚を比較するときの注意点
葉の厚さだけを測って、植物の成長力を直接判断することはできません。比較するときは、葉齢、日向・日陰、水分状態、植物種、葉の位置などをそろえる必要があります。
- 同じ種類、できれば同じ個体で比較する
- 同程度まで成熟した葉を選ぶ
- 日向と日陰を区別する
- 測定時の水分状態をそろえる
- 葉厚だけでなくLMA、葉寿命、光合成速度も見る
- 一枚ではなく複数枚を測る
とくに葉は脱水すると一時的に薄くなるため、測定時刻や給水状態が違うだけでも値が変わることがあります。
まとめ
葉の厚さが植物の成長や繁殖に重要なのは、葉厚が光合成組織の量、二酸化炭素の拡散、水分保持、葉寿命、葉をつくるためのコストなどに関係し、植物全体の炭素収支を左右するからです。
薄い葉は少ない材料で広い面積をつくりやすく、資源が豊富な環境では速い成長に向く場合があります。一方、厚い葉は建設コストが大きいものの、強光・乾燥に耐え、長期間使えることで資源を効率よく回収できる場合があります。
そして、葉が環境に合った厚さを持つことは、光合成で得た炭素を新しい葉・茎・根へ回すだけでなく、花・果実・種子へ配分する余力にもつながります。重要なのは「厚いか薄いか」そのものではなく、その環境で葉の投資と回収のバランスが取れていることです。
参考文献・出典
- 日本植物生理学会「糖が葉の厚さに与える影響」
- Construction and Maintenance of the Optimal Photosynthetic Systems of the Leaf, Herbaceous Plant and Tree
- Photosynthesis at an extreme end of the leaf trait spectrum: how does it relate to high leaf dry mass per area and associated structural parameters?
- Leaf economics fundamentals explained by optimality principles

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