植物を土から掘り出すと、根が浅い場所に広がるものもあれば、深いところまで伸びるものもあります。同じ植物でも、育つ場所や水分条件によって根の分布する深さが変わることがあります。
根系の深さが植物や環境によって決まるのは、個々の根が伸びる角度、長さ、分枝のしかた、根をつくって維持するコストが遺伝的に異なり、さらに土壌中の水、酸素、養分、硬さなどに応じて根の成長が変化するからです。
つまり、根の深さは一つの仕組みだけで決まる性質ではありません。主根や種子根がどの角度で伸びるか、側根がどの場所で発達するか、深い土まで伸び続けられるかといった根系構造の積み重ねによって生じます。
「根の深さ」とは一本の根の長さだけではない
根の深さというと、「最も長い根がどこまで届いたか」を思い浮かべやすいですが、植物学や作物学では根系全体の垂直分布も重要です。
たとえば一本だけ深く伸びても、根の大部分が表層に集中していれば、植物全体としては浅い根系とみなせる場合があります。逆に、多数の根が深い土層まで分布していれば、深根性の高い根系と評価できます。
日本の作物研究では、土壌の各深さにある根量を使って「根の深さ指数」を計算し、イネ、コムギ、ダイズなどの根系を定量的に比較してきました。同じ栽培条件でも作物種や品種によって根系の深さが異なり、同じ品種でも環境条件によって変化することが示されています。
根の伸長角度が深さを大きく左右する
根系の深さを決める重要な要素の一つが、根が土の中へ入る伸長角度です。
地面に対して急な角度で下向きに伸びる根が多ければ、同じ長さでも深い土層へ到達しやすくなります。反対に、水平方向へ近い角度で広がる根が多ければ、表層を広く探索する浅い根系になります。
コムギを用いた日本の研究では、幼植物の種子根の伸長角度をもとに選抜した系統群を圃場で比較したところ、下向きに伸びる角度の大きい群は、浅い角度の群より深い根系を形成しました。
このことから、根の深さは単に「根がよく伸びるか」だけでなく、「どの方向へ伸びるか」に強く左右されることがわかります。
重力屈性と根系の深さは同じではない
根には重力方向へ曲がる正の重力屈性があります。しかし、重力屈性があるからすべての植物が同じ深さまで根を伸ばすわけではありません。
主根、種子根、側根では重力への反応の強さが異なり、側根には重力方向に対して一定の角度を保つものもあります。さらに根の長さ、分枝数、寿命、土壌抵抗なども深さを左右します。
したがって、重力屈性は根を下方向へ配向する基本的な仕組みですが、根系全体の深さは、それに根の種類ごとの角度と成長量が加わった結果として決まります。
側根の分枝のしかたも深さに影響する
根系は一本の主根だけでできているわけではありません。主根や種子根から側根が出て、さらにその側根から細い根が枝分かれします。
深い方向へ伸びる軸根が多数の短い側根をつける場合と、表層近くで多数の長い側根を広げる場合では、同じ総根長でも根系の深さは大きく異なります。
海外の根系研究では、深い水や硝酸を獲得するには、急角度の軸根、比較的少ない軸根数、過剰でない側根分枝など、深層まで到達しやすい構造が有利になる場合があると整理されています。
一方、表層に多いリン酸などを探す場合には、浅い角度の根や多くの側根が有利になることがあります。根の深さには、どの資源をどの土層から獲得するかという役割分担も関係しています。
水分条件によって根系の深さは変わる
土壌の水は深さ方向に均一ではありません。降雨の直後には表層が湿っていても、乾燥が続くと表層から水が失われ、深い土層の方が水分を保っていることがあります。
日本の作物研究では、同じ品種でも土壌の乾燥条件によって根系が深くなる例が報告されています。また、イネを畑条件で調べた研究でも、土壌水分条件が深根性へ影響することが検討されています。
根は水分のある方向へ成長を調節でき、土壌全体が乾燥した場合には地上部の成長を抑えて根への資源配分を増やすこともあります。その結果、条件によっては深い土層へ探索範囲が広がります。
ただし、強い乾燥では根の伸長そのものが止まることがあります。「乾燥すれば必ず深根化する」という単純な関係ではありません。
深い根が乾燥に有利なのはなぜか
表層土は日射や蒸発の影響を受けやすく、乾燥しやすい場所です。一方、十分な降雨が浸透した土壌では、深層に水が長く残ることがあります。
深い根を持つ植物は、表層が乾いても深層に残った水へアクセスできる可能性があります。そのため深根性は、多くの作物で干ばつ耐性と関係する重要な形質として研究されています。
海外のレビューでも、深い根系は深層水と、土壌中を移動しやすく深層へ溶脱した硝酸の獲得に役立つ場合があるとされています。
ただし、深いところに水が存在しなければ、深根化の利益は小さくなります。根を深く伸ばすこと自体にも炭素や窒素が必要だからです。
地下水位が高い場所では根が浅くなることがある
深い根がいつでも有利とは限りません。地下水位が高く、土壌が長期間水で満たされる場所では、深層の酸素が不足します。
根も呼吸によって酸素を必要とするため、酸素が少ない土壌では細胞のエネルギー生産が制限され、根の伸長や養分吸収が低下します。
全球規模の根深度研究では、水はけのよい高地では降水が浸透する深さに応じて根が深くなる傾向がある一方、地下水位の高い低地では酸素不足を避けるように浅い根系が形成されやすいことが示されています。
したがって、根の深さは「水がある場所を目指せばよい」のではなく、水と酸素の両方を利用できる土層によって制約されます。
土が硬いと深くまで伸びにくくなる
根の先端は土粒子のすき間を押し広げながら成長します。土壌が強く締め固められていると、根が前へ進むために大きな力が必要になります。
硬い土では根が太くなったり、伸長速度が低下したり、抵抗の小さい横方向へ成長方向を変えたりすることがあります。耕盤のような硬い層があると、根がそこで止まり、表層に集中する場合があります。
また、深層には酸性、アルミニウム毒性、塩類集積など化学的な障害があることもあります。これらも深根化を制限します。
海外の根系育種研究でも、機械的抵抗、低酸素、アルミニウム毒性は深層土壌の探索を妨げる主要因として挙げられています。
根を深く伸ばすにもエネルギーが必要
新しい根をつくり、細胞を分裂・伸長させ、長い根を呼吸によって維持するには、葉で光合成された炭素が必要です。
根を深く伸ばすために大量の根組織をつくれば、地上部や繁殖器官へ回せる炭素が減る可能性があります。そのため植物は、すべての土壌を根で埋め尽くすのではなく、必要な場所へ効率よく根を配置する必要があります。
深根性の作物では、根の皮層に大きな細胞や通気組織を形成するなど、根組織の代謝コストを下げる形質が深層探索に役立つことがあります。
深い根系は、「根をたくさんつくる」だけでなく、限られた炭素でどれだけ深い場所まで探索できるかという経済性にも左右されます。
窒素やリンの分布でも最適な深さは変わる
土壌中の養分は深さによって分布が異なります。リン酸は土壌粒子へ吸着しやすく、施肥や有機物の影響を受ける表層に多いことがあります。
一方、硝酸は水に溶けて移動しやすいため、降雨や灌水によって深い土層へ移ることがあります。
そのため、表層のリンを効率よく獲得するには浅く広がる根系が有利な場合があり、深層の水や硝酸を利用するには深い根系が有利になる場合があります。
海外のレビューでも、根系構造は土壌中の養分分布に応じて可塑的に変わり、植物の養分利用効率と収量に関係するとされています。
根の深さには遺伝的な品種差がある
同じ土壌、同じ水分条件で育てても、植物種や品種によって根系の深さが異なります。これは根の伸長角度、根長、分枝、根組織の性質などに遺伝的な違いがあるためです。
日本のイネ研究では品種ごとに根量や根の伸長角度が異なり、それらの組み合わせによって浅根性・深根性の特徴が生まれることが示されています。
また、コムギでも種子根の角度を指標にして深い根系を持つ系統を選抜できることが確認されています。
このような遺伝的変異があるため、育種によって干ばつ環境向けの深根性品種や、表層養分を効率よく利用する根系を選ぶことが可能になります。
根の深さは成長の途中でも変わる
若い植物と成熟した植物では根系の深さが違います。発芽直後は根系が小さくても、主根や種子根が伸び続け、側根が形成されることで次第に深い土層へ広がります。
一方、根の一部は老化して機能を失い、新しい根が別の位置に形成されます。そのため根系は完成した固定構造ではなく、生育期間を通じてつくり替えられる動的な構造です。
多年生植物では年をまたいで深い根系を形成できるため、一年生作物よりはるかに深い土層へ到達する例もあります。
非常に深い根を持つ植物もある
自然界では、数メートルを超えて深く伸びる根を持つ植物があります。乾燥地域の樹木では、地下水や深層の水分へ到達するために非常に深い根を形成する例があります。
全球的な観測をまとめた研究では、根の深さは植物の生活型だけでなく、降水がどこまで浸透するか、地下水面がどの深さにあるか、排水状態などの水文学的条件と強く関係していました。
このことから、根の深さは植物の遺伝的な能力だけでなく、その場所で利用可能な水が垂直方向にどう分布しているかによって大きく左右されます。
深い根と浅い根はどちらが優れているのか
どちらか一方が常に優れているわけではありません。
乾燥しやすく、深層に水が残る環境では深い根系が有利になることがあります。反対に、降水が頻繁で表層に水やリンが多い環境では、浅く広い根系が効率的な場合があります。
また、地下水位が高い土壌では深い根は低酸素ストレスを受けます。土壌が極端に硬い場合には、深根化のためのコストも大きくなります。
したがって「深いほどよい」というより、利用したい資源がある土層へ、必要なコストで根を配置できることが重要です。
根系の深さを決める要因を整理すると
| 要因 | 根系への影響 | 深さとの関係 |
|---|---|---|
| 根の伸長角度 | 軸根が伸びる方向を決める | 急角度ほど深層へ到達しやすい |
| 根長・分枝 | 探索範囲と根量を決める | 深い軸根と側根配置の組み合わせで変化 |
| 土壌水分 | 根の成長・配置を変える | 深層に水があれば深根化が有利な場合がある |
| 地下水位・酸素 | 低酸素で根伸長を制限 | 過湿土壌では浅根化しやすい |
| 土壌の硬さ | 根の伸長を物理的に制限 | 硬盤が深根化を妨げる |
| 養分分布 | 根の局所成長を変える | 深層の硝酸、表層のリンなどで最適深度が変わる |
| 遺伝的性質 | 角度・長さ・根組織などを規定 | 種・品種ごとの深根性差を生む |
「根が深い」の原因を一つに決めることはできない
根系の深さは、重力屈性、水分屈性、根の伸長角度、側根形成、土壌環境、資源配分など多数の要因が積み重なって生じます。
たとえば同じ深い根系でも、急角度の根が多いため深くなった植物と、一本一本の根が長く伸びるため深くなった植物では仕組みが異なります。
日本のイネ研究でも、根の深さを規定する形質は品種によって同じではなく、ある品種では伸長角度、別の品種では平均根長が大きく寄与することが示されています。
そのため、根系を理解するときには「最大根長」だけでなく、根量、角度、分枝、土層ごとの分布を合わせて見る必要があります。
まとめ
根系の深さが植物や環境によって決まるのは、根の伸長角度、長さ、分枝、維持コストなどの遺伝的な性質に、土壌中の水、酸素、養分、硬さといった環境条件が加わり、根がどの土層へどれだけ分布するかが変わるからです。
深い根系は、乾燥時に深層水へ到達したり、深く移動した硝酸を利用したりするうえで有利になる場合があります。一方、表層のリンを利用する場合や、地下水位が高く深層が酸素不足になる土壌では、浅い根系が有利なことがあります。
根の深さは「深いほどよい」という単純な性質ではありません。植物は遺伝的な根系形成能力を基盤に、土壌の資源分布と制約に応じて根の成長を調節し、その場所で効率よく水や養分を獲得できる根系を形成しているのです。
参考文献・出典
- 小柳敦史ほか「種子根伸長角度を指標にした根系の深さが異なるコムギ実験系統群の作出」日本作物学会紀事
- 加藤洋一郎ほか「畑圃場において土壌水分条件がイネ品種の深根性に及ぼす影響」
- Hydrologic regulation of plant rooting depth
- Harnessing root architecture to address global challenges

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