なぜ根は養分を蓄えるのか?

植物の根というと、水や無機養分を吸収する器官というイメージが強いかもしれません。しかし植物の中には、根を太らせて糖やデンプンなどを大量に蓄えるものがあります。サツマイモの塊根や、ダイコン・ニンジンの肥大した主根などが代表例です。

根が養分を蓄えるのは、葉で光合成してつくった糖を、成長中の根へ運び込み、その場ですぐ使わずにデンプンや糖などの貯蔵物質として蓄えることで、将来の成長、再生、越冬、開花・結実などに使える資源を確保できるからです。

ただし、すべての根が大量の養分を蓄えるわけではありません。植物種や発達段階によって、根が「吸収器官」として働く割合と「貯蔵器官」として働く割合は異なります。また、ジャガイモの塊茎はよく似た貯蔵器官ですが、根ではなく地下茎が肥大したものです。

目次

根に蓄えられる養分はどこでつくられるのか

根にたまるデンプンや糖の炭素の多くは、もともと葉でつくられます。葉では光合成によって二酸化炭素から有機物が合成され、その一部がショ糖として師部へ積み込まれます。

ショ糖は師部を通って、根、若い葉、花、果実、種子など、光合成産物を必要とする器官へ運ばれます。

成熟した葉のように糖をつくって送り出す器官はsource(ソース)、糖を受け取って成長したり蓄えたりする器官はsink(シンク)と呼ばれます。貯蔵根は非常に強いsinkとして働き、大量の光合成産物を引き寄せます。

なぜ糖のままではなくデンプンとして蓄えることがあるのか

ショ糖やブドウ糖は水に溶けやすく、代謝にすぐ使える一方、大量に細胞内へ蓄積すると浸透圧へ強く影響します。

そこでサツマイモやキャッサバなどでは、運ばれてきた糖の多くをデンプンへ変換し、アミロプラストと呼ばれる細胞小器官の中に粒状に蓄えます。

デンプンは水に溶けにくく、同じ量の炭素を比較的コンパクトに貯蔵できます。そのため、大量の炭水化物を長期間保持する貯蔵形態として適しています。

日本のサツマイモ塊根研究でも、塊根細胞内でデンプン粒が形成され、デンプン合成に関わる酵素が貯蔵組織で働いていることが示されています。

貯蔵根はどうやって太くなるのか

根が養分を蓄えるには、単に糖が流れ込むだけでなく、その糖を受け止めるための組織を増やす必要があります。

サツマイモやキャッサバの貯蔵根では、柔組織細胞が増殖・肥大し、大量のデンプンや糖を保持できる組織が形成されます。維管束や形成層の活動も変化し、通常の細い吸収根とは異なる成長パターンになります。

サツマイモでは、特定の根が塊根になる段階で局所的な肥大が始まり、その後に貯蔵組織が発達します。キャッサバでも、貯蔵根になる根では肥大が目立つ前から、糖・デンプン蓄積や遺伝子発現に通常の細根とは異なる特徴が現れることが報告されています。

なぜ一部の根だけが貯蔵根になるのか

同じ株のすべての根が均等に太るとは限りません。サツマイモでは、ある根は細い吸収根として伸び続け、別の根は塊根として大きく肥大します。

どの根が貯蔵根になるかには、根が形成された時期や太さ、維管束組織の発達、植物ホルモン、温度、水分、窒素状態、地上部から供給される糖の量などが関係します。

日本のサツマイモ研究では、塊根形成の開始時期に初期根径が関係し、形成後の肥大には葉数、つまり地上部の光合成源の大きさも影響することが示されています。

つまり貯蔵根の形成には、「糖をつくる葉」と「糖を受け取れる根」の両方が必要です。

根が強いsinkになるとはどういうことか

植物体内では、若い葉、成長点、根、花、果実、種子など複数のsinkが、葉から送られてくる光合成産物を利用しています。

その中で貯蔵根が大量の糖を取り込める状態になると、植物体内の炭素配分が根へ強く向かいます。この能力をsink strengthと呼びます。

sink strengthは、貯蔵器官の大きさだけでなく、ショ糖を取り込む輸送体、ショ糖を分解する酵素、デンプン合成能力、細胞増殖・肥大能力などによって決まります。

海外の貯蔵根研究では、貯蔵根が強いsinkとして葉由来のショ糖を取り込み、それをデンプンなどへ変換することが、根の肥大と収量形成の中心的な過程として整理されています。

なぜ貯蔵すると植物に有利なのか

光合成できる時間と、植物が炭素を必要とする時間は必ずしも一致しません。

昼間や生育に適した季節には、植物は多くの炭素を獲得できます。しかし夜間、冬、乾季、地上部が傷ついた直後などには、光合成だけでは必要な炭素を十分に得られないことがあります。

そこで余剰の光合成産物を地下の根へ蓄えておけば、必要になったときに分解して利用できます。地下は地上部より温度変化や食害、火災などの影響を受けにくい場合があり、再成長のための資源置き場として有利です。

多年草では越冬や翌年の再成長に使われる

多年生植物の中には、秋までに地下部へ糖やデンプンを蓄え、冬に地上部が枯れても地下器官を生かしておくものがあります。

春になると、貯蔵した炭水化物を分解して新しい芽や葉を伸ばします。新葉が十分に展開して光合成できるようになるまでは、地下貯蔵資源が成長を支えます。

このような植物では、根は単なる吸収器官ではなく、季節をまたいで資源を保存する器官でもあります。

乾燥や地上部の損傷からの回復にも役立つ

干ばつで葉が落ちたり、草食動物に地上部を食べられたり、刈り取りや火災で茎葉が失われたりすると、植物は一時的に光合成能力を大きく失います。

そのとき根に炭水化物が蓄えられていれば、新芽や新葉をつくるエネルギーと炭素源として利用できます。

キャッサバなどの貯蔵根作物でも、貯蔵デンプンは人間が収穫する対象であるだけでなく、条件によっては地上部損傷後の再生を支える炭素貯蔵庫として働きます。

繁殖にも貯蔵資源が使われることがある

花や果実、種子をつくるには多くの炭素とエネルギーが必要です。その時期の光合成だけで必要量をまかなえない場合、根や茎などに蓄えた炭水化物が再動員されることがあります。

特に多年生植物では、春の開花や新梢成長が新しい葉の本格的な光合成開始より先に進むことがあります。その場合、前年までに地下部へ蓄えた資源が重要になります。

ただし、すべての植物で根の貯蔵物質が直接繁殖へ使われる割合が大きいわけではありません。資源配分は植物種、季節、年齢、環境によって変わります。

貯蔵根には炭水化物以外も蓄えられる

根に蓄えられる物質は糖やデンプンだけではありません。

植物によっては、貯蔵タンパク質、アミノ酸、有機酸、無機養分なども地下部へ蓄積します。窒素はタンパク質やアミノ酸の形で保存され、翌季の新葉形成などに再利用されることがあります。

一方、一般にサツマイモやキャッサバの塊根で重量的に大きな割合を占める貯蔵物質は炭水化物です。したがって「根が養分を蓄える」といっても、植物種によって蓄える物質の種類と割合は異なります。

ニンジンやダイコンが太るのも同じ仕組みなのか

ニンジンやダイコンでは、主根と胚軸の一部が肥大して貯蔵器官になります。サツマイモの塊根とは発生学的な起源や肥大のしかたが同じではありません。

しかし共通しているのは、葉でつくられた光合成産物が地下の肥大器官へ運ばれ、糖などとして蓄積されることです。

ニンジンでは糖が多く、ダイコンでは水分が多いなど、貯蔵成分の構成は植物によって異なります。「根が太る」という外見が同じでも、内部の組織構造や代謝は同一ではありません。

サツマイモとジャガイモは何が違うのか

サツマイモとジャガイモはどちらもデンプンを多く蓄えますが、貯蔵器官の起源が異なります。

植物 肥大する器官 主な貯蔵物質
サツマイモ 根(塊根) 主にデンプン・糖
キャッサバ 根(貯蔵根) 主にデンプン
ニンジン 主根など 糖など
ジャガイモ 地下茎(塊茎) 主にデンプン

ジャガイモの塊茎には芽となる「目」があり、茎の性質を持ちます。地下にありデンプンを蓄えるからといって、すべてが根とは限りません。

根に糖が運ばれると、なぜさらに糖を引き込めるのか

sink組織では、運ばれてきたショ糖が細胞内へ取り込まれ、分解されたりデンプンへ変換されたりします。

ショ糖を別の物質へ変えることで、細胞内の遊離ショ糖濃度を低く保ち、さらにショ糖を取り込み続けやすい状態をつくることができます。

インベルターゼやショ糖合成酵素、デンプン合成酵素などの働きは、貯蔵器官のsink strengthを高めるうえで重要です。

このため、貯蔵根の肥大は単なる受動的な糖のたまりではなく、糖の輸送・分解・再合成と細胞成長が連動した能動的な発達過程です。

葉が少ないと貯蔵根は太りにくくなる

貯蔵根へ送られる炭素の大部分は葉の光合成に由来します。そのため、葉面積が小さい、光が不足している、病害で葉が失われたなどの条件では、根へ送れる糖が減ります。

サツマイモの塊根形成実験でも、塊根形成後の肥大には葉数が影響することが示されています。

一方、葉が多ければ必ず塊根が大きくなるわけではありません。窒素が過剰で茎葉ばかりが成長すると、炭素が地上部へ多く使われ、塊根への配分が減ることがあります。

重要なのは、sourceである葉の生産能力と、sinkである貯蔵根の受け入れ能力のバランスです。

水分も貯蔵根の肥大に必要

貯蔵根が大きくなるには、デンプンや糖だけでなく水も必要です。細胞が肥大するには水が入り、膨圧を保つ必要があります。

サツマイモの研究では、塊根の成長速度が植物体の水分状態に応じて変化し、葉の水ポテンシャルや蒸散条件と連動することが示されています。

そのため、糖が十分に供給されても、強い乾燥で根へ水が供給されなければ貯蔵根は十分に肥大できません。

貯蔵器官の成長は、炭素配分と水分供給が同時にそろって成立します。

温度によってデンプンや糖の蓄積量も変わる

根の代謝速度や酵素活性は温度の影響を受けます。そのため地温が変わると、根の成長やデンプン・糖の蓄積量が変化することがあります。

サツマイモでは、生育後期の地温処理によって塊根のデンプンや全糖含量が変わることが報告されています。

つまり、根が貯蔵器官になる遺伝的能力を持っていても、実際にどれだけ太り、何をどれだけ蓄えるかは環境条件にも左右されます。

養分を蓄えすぎれば植物は得をするのか

貯蔵は将来への備えになりますが、現在使える資源を地下へ回すことでもあります。

糖を根へ大量に送れば、その分だけ新しい葉や茎、花などへ送る量は減ります。また、貯蔵組織をつくって維持するにも炭素や窒素が必要です。

したがって、植物にとって最適なのは「できるだけ多く貯めること」ではありません。現在の成長、繁殖、将来の再成長の間で資源を適切に分配することが重要です。

このsource–sinkの配分は、植物ホルモン、糖シグナル、養分状態、水分、光、発達段階などによって調節されます。

根が養分を蓄える流れを整理すると

段階 植物で起こること 意味
1. 光合成 葉で糖をつくる 貯蔵する炭素を得る
2. 師部輸送 ショ糖を根へ運ぶ sourceからsinkへ炭素を配分する
3. sink化 根が糖を強く取り込む 貯蔵根へ炭素を集中させる
4. 貯蔵物質合成 糖をデンプンなどへ変換する 大量の炭素を保持する
5. 組織肥大 柔組織細胞が増殖・肥大する 貯蔵容量を増やす
6. 再動員 必要時にデンプンや糖を分解する 再成長・維持・繁殖へ利用する

「根が土から養分を吸ってそのまま蓄える」わけではない

根が養分を蓄えると聞くと、土壌から吸ったものをそのまま根へためているように思えるかもしれません。

しかし、サツマイモやキャッサバのデンプンの炭素は、主に葉が空気中の二酸化炭素を光合成で固定してつくったものです。その糖が師部を通って根へ運ばれ、デンプンへ変換されます。

もちろん、窒素、リン、カリウムなどの無機養分は根から吸収され、一部が地下部に保持されることもあります。しかし、貯蔵根の大きな肥大をつくる主要な材料は、葉から供給される光合成産物です。

したがって、根の「吸収」と「貯蔵」は関連していますが、同じ現象ではありません。

まとめ

根が養分を蓄えるのは、葉でつくられた光合成産物を根へ運び、糖やデンプンなどの形で保存しておくことで、将来の成長、再生、越冬、繁殖などに使える資源を確保できるからです。

貯蔵根では、葉から師部を通って運ばれたショ糖を強く取り込み、デンプンなどへ変換します。同時に柔組織が増えて根が肥大し、大きな貯蔵容量を持つようになります。

一方、貯蔵には炭素コストがあるため、植物は無制限に根へ養分をためるわけではありません。葉での生産量、根のsink strength、水分、温度、養分状態、発達段階などに応じて、現在の成長と将来への貯蔵のバランスを調節しています。根の貯蔵は、植物が時間を超えて資源を使い回すための重要な戦略なのです。

参考文献・出典

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