サツマイモやキャッサバ、ダイコン、ニンジンなどでは、根の一部が大きく太り、糖やデンプンを蓄える貯蔵器官になります。しかし、根が太くなるのは、単に中へ養分が流れ込んで膨らむからではありません。
貯蔵根が太くなるのは、形成層などの分裂組織が活発に細胞を増やし、柔組織が発達して貯蔵空間を広げ、その細胞へ葉から運ばれたショ糖を取り込み、デンプンなどへ変換して蓄積するからです。
つまり、貯蔵根の肥大には「組織を増やす仕組み」と「炭素を貯蔵物質へ変える仕組み」の両方が必要です。どちらか一方だけでは、太くて多量の養分を蓄える根にはなりません。
貯蔵根は普通の細根と何が違うのか
土壌中の細い根の多くは、水や無機養分を吸収しながら伸長することを主な役割とします。一方、貯蔵根になる根では、根の直径方向への成長、つまり肥大成長が強く進みます。
その中心になるのが形成層などの分裂組織です。形成層の細胞が繰り返し分裂し、その内外へ新しい細胞を供給すると、根の断面積が増えていきます。
海外の貯蔵根研究では、根菜類の肥大は主として維管束形成層による二次成長によって進み、形成層の活動が収量を左右する重要な発生過程と整理されています。
形成層とはどのような組織なのか
形成層は、植物体の内部で新しい細胞を生み出す分裂組織の一つです。
根が若い段階では、主に先端の分裂組織によって長さ方向へ成長します。貯蔵根では、その後、維管束の周辺にある形成層が活性化し、根の半径方向へ細胞を増やします。
新しく生じた細胞の一部は木部や師部へ分化し、別の一部は柔組織として発達します。貯蔵根では、とくに大量の柔組織がつくられることが、貯蔵容量の拡大に重要です。
柔組織が増えるとなぜ根が太くなるのか
柔組織は、比較的大きな細胞からなり、代謝や貯蔵に適した組織です。
形成層の活動によって柔組織細胞が増え、さらにそれぞれの細胞が水を取り込んで肥大すると、根の直径が大きくなります。
貯蔵根では、この柔組織細胞の中に糖やデンプンなどが蓄積します。したがって、根が太くなる過程は「細胞数が増えること」と「細胞一個あたりが大きくなること」の両方から成り立っています。
キャッサバの研究では、貯蔵根候補では外見上の大きな肥大が始まる前から、細胞分裂や柔組織増殖に関わる機能が高まることが示されています。
貯蔵根になる根は最初から違うことがある
以前は、キャッサバでは普通の細根の一部が途中から貯蔵根へ変わると考えられることがありました。
しかし、近年の研究では、将来貯蔵根になる根と細根になる根は、地上の挿し穂から出現した初期段階から、形態や解剖構造、遺伝子発現に違いが見られることが示されています。
キャッサバでは、将来の貯蔵根で細胞分裂や柔組織形成に関わる遺伝子が早期から活性化し、糖やデンプンも目立った肥大より前に蓄積し始めます。
このことから、貯蔵根形成は「細い根が突然太り始める」だけの現象ではなく、初期から異なる発生プログラムが進む場合があると考えられます。
葉でつくられた糖はどうやって貯蔵根へ届くのか
貯蔵根に蓄えられるデンプンの炭素は、主に葉の光合成に由来します。
葉でつくられた糖はショ糖として師部へ積み込まれ、根へ運ばれます。光合成産物を送り出す葉はsource、受け取る貯蔵根はsinkとして働きます。
貯蔵根では、師部から運ばれてきたショ糖を細胞へ取り込み、分解・変換して使う能力が高まります。この能力が大きいほど、地上部から多くの炭素を引き寄せやすくなります。
根が強いsinkになるとはどういうことか
植物体内では、若い葉、根、花、果実、種子など複数の器官が光合成産物を必要としています。
その中で、貯蔵根が強いsinkになると、葉でつくられた炭素の多くが根へ配分されます。
sink strengthは、単に根が大きいかどうかだけで決まりません。ショ糖を取り込む輸送体、ショ糖を分解する酵素、デンプン合成酵素、細胞分裂速度、柔組織の発達などが組み合わさって決まります。
つまり「貯蔵根だから糖が集まる」のではなく、糖を受け取り、すぐに利用・貯蔵できる代謝能力を持つことで、さらに炭素を引き込める状態がつくられます。
なぜショ糖をそのまま大量にためないのか
ショ糖は水に溶けやすく、細胞内に大量に蓄積すると浸透圧へ大きな影響を与えます。
そこでサツマイモやキャッサバなどでは、ショ糖由来の炭素をデンプンへ変換して蓄えます。
デンプンは水に溶けにくく、同じ量の炭素を比較的コンパクトに保持できます。大量の光合成産物を長期間保存するには都合のよい形です。
デンプンはアミロプラストという細胞小器官の内部に粒として形成されます。
デンプンはどのように合成されるのか
葉から届いたショ糖は細胞内で分解され、さまざまな代謝反応を経て、デンプン合成に使われる糖ヌクレオチドへ変換されます。
その後、デンプン合成酵素やブランチングエンザイムなどが働き、グルコースが多数つながったアミロースやアミロペクチンがつくられます。
日本のサツマイモ塊根研究では、アミロペクチンの分岐形成に必要なブランチングエンザイムの局在が調べられ、塊根細胞内でデンプン粒の形成と酵素活性が結びついていることが示されています。
したがって、貯蔵根の肥大は単に糖が集まる現象ではなく、集まった糖をデンプンへ変換する代謝系が活発になることで成立します。
細胞分裂とデンプン蓄積はどちらが先なのか
貯蔵根の形成では、細胞を増やして貯蔵空間をつくることと、デンプンなどを蓄積することが連動します。
キャッサバの研究では、まず柔組織が形成され、その後、目に見える肥大より前から糖やデンプンの蓄積速度が高まることが示されています。
つまり、先に「貯める場所」となる組織をつくり、その組織が発達する中で貯蔵代謝が強化されると考えられます。
ただし、植物種によって発生過程は同一ではありません。サツマイモ、キャッサバ、ニンジン、ダイコンでは、肥大を始める根の起源や形成層の配置に違いがあります。
植物ホルモンは貯蔵根形成にどう関わるのか
形成層の細胞分裂や柔組織の発達は、植物ホルモンによっても調節されます。
オーキシン、サイトカイニン、アブシシン酸、ジベレリンなどは、根の細胞分裂や肥大、炭素配分に関係します。
とくにオーキシンとサイトカイニンは形成層活動や細胞分裂に深く関わります。一方、ジベレリンは植物種や発達段階によっては貯蔵根肥大を抑える方向に働くことがあります。
貯蔵根形成は一つのホルモンでオン・オフされるのではなく、複数のホルモンと糖シグナル、発達遺伝子が組み合わさって制御されます。
根が太るには葉の量も重要
貯蔵根が細胞を増やし、デンプンを蓄えるには、葉から十分な炭素が供給されなければなりません。
日本のサツマイモ研究では、塊根形成開始には初期の根径が関係し、その後の肥大には葉数も影響することが示されています。
葉が少なければ、光合成でつくられる糖の総量も小さくなり、貯蔵根へ送れる炭素が減ります。
逆に、葉が多くても、茎葉の成長が強すぎて炭素が地上部へ使われ続ければ、貯蔵根への配分が増えないことがあります。重要なのはsourceである葉とsinkである貯蔵根のバランスです。
水が不足すると肥大しにくいのはなぜか
根が太くなるには、デンプンを蓄えるだけでなく、細胞そのものが大きくなる必要があります。
細胞の肥大には水が必要です。水が入り膨圧が生じることで、細胞壁が押し広げられます。
そのため、光合成産物が十分にあっても、強い乾燥で根へ水が供給されなければ、柔組織細胞の肥大は進みにくくなります。
貯蔵根の成長は、炭素供給だけでなく水分状態にも左右されます。
温度や窒素条件も肥大に影響する
形成層の細胞分裂やデンプン合成酵素の働きは温度の影響を受けます。そのため、地温が低すぎたり高すぎたりすると、貯蔵根形成やデンプン蓄積が抑えられることがあります。
また、窒素が多すぎると茎葉の成長が強まり、炭素が地上部へ多く配分される場合があります。その結果、貯蔵根の肥大が遅れることがあります。
つまり貯蔵根は、遺伝的に形成できる植物でも、環境条件によって太り方が大きく変わります。
サツマイモとジャガイモは同じ仕組みなのか
サツマイモもジャガイモもデンプンを多く蓄えますが、器官の由来は異なります。
サツマイモの塊根は根が肥大したものです。一方、ジャガイモの塊茎は地下茎が肥大したものです。
どちらも強いsinkとなり、葉からショ糖を受け取り、デンプンを合成して蓄える点は共通します。しかし、器官形成の発生プログラムや組織起源は同じではありません。
地下にあり、太くてデンプンを蓄えるという外見だけで、すべてを同じ「根の肥大」と考えることはできません。
貯蔵根が太くなる流れを整理すると
| 段階 | 主な変化 | 意味 |
|---|---|---|
| 1. 貯蔵根への運命づけ | 特定の根で発生・遺伝子発現が変化 | 細根とは異なる成長プログラムを始める |
| 2. 形成層活性化 | 分裂組織が細胞を増やす | 根の直径方向への成長を始める |
| 3. 柔組織形成 | 貯蔵向きの細胞が増える | 糖・デンプンをためる空間を増やす |
| 4. ショ糖流入 | 葉から師部を通じて炭素が運ばれる | 貯蔵物質の材料を供給する |
| 5. デンプン合成 | アミロプラスト内でデンプン粒を形成 | 炭素を高密度で保存する |
| 6. 細胞肥大 | 水分と炭素を取り込み細胞が大きくなる | 根全体がさらに太くなる |
「養分がたまるから太る」だけでは説明できない
貯蔵根を見ると、デンプンや糖が大量にたまった結果として根が膨らんだように見えます。
しかし実際には、まず形成層活動や柔組織形成によって貯蔵できる組織がつくられ、その組織が強いsinkとなってショ糖を取り込み、デンプン合成を進めます。
つまり、貯蔵物質が増えることと根の組織が増えることは、互いに影響しながら同時進行します。
貯蔵根の肥大は、発生、細胞分裂、糖輸送、デンプン代謝、水分供給が統合された成長現象なのです。
まとめ
貯蔵根が形成層の細胞分裂とデンプン合成によって太くなるのは、形成層などの分裂組織が柔組織を増やして貯蔵空間をつくり、その細胞へ葉からショ糖を送り込み、デンプンへ変換して蓄積することで、根の体積と炭素貯蔵量を同時に増やせるからです。
形成層の活性化によって細胞数が増え、柔組織が発達します。そこへ師部からショ糖が供給され、アミロプラスト内でデンプン粒が形成されます。さらに細胞への水分供給によって細胞自体も肥大し、根全体が太くなります。
この過程は、単なる「養分のたまり」ではありません。貯蔵根は、発生プログラム、形成層活動、source–sink関係、糖代謝、デンプン合成を連動させてつくられる高度な貯蔵器官なのです。
参考文献・出典
- 川崎通夫ほか「サツマイモ塊根におけるデンプンの合成と蓄積に関する形態学的・免疫細胞化学的研究」
- 江口壽彦・吉田敏「確実な塊根形成のためのサツマイ栽培法」
- Gene Regulatory Network Guided Investigations and Engineering of Storage Root Development in Root Crops
- Set up from the beginning: The origin and early development of cassava storage roots

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