なぜ果実にできる種の数や包まれ方は季節や生育条件によって変わるのか?

結論からいうと、果実にできる種の数や、その種を包む果実の発達のしかたが季節や生育条件によって変わるのは、受粉・受精の成否、種子から出る植物ホルモン、子房の成長、果実への糖や水分の供給が、温度、日照、湿度、水分、訪花昆虫の活動などの影響を受けるからです。

ただし、季節が変わるとリンゴが急に別の種類の果実構造になる、という意味ではありません。果実の基本構造は主に植物の種類や品種によって決まっています。季節や生育条件で変わりやすいのは、受精した種子が何個できるか、種子が正常に発達するか、果実がどこまで肥大するか、受精しなくても果実が育つか、といった部分です。

目次

果実が種を包む仕組みは受精から始まることが多い

被子植物では、花の子房の中に胚珠があります。花粉が柱頭につき、花粉管が伸びて胚珠まで到達し、受精が起こると、胚珠は種子へ発達し、子房やその周辺組織は果実へ発達します。

このため、種子形成と果実形成は別々の現象ではありません。多くの植物では、受精した胚珠や発達中の種子から出るオーキシン、ジベレリン、サイトカイニンなどの植物ホルモンが、周囲の果実組織の細胞分裂や細胞肥大を促します。

つまり、果実が種を包んで大きくなる一般的な流れでは、「受粉・受精が成功すること」と「種子が正常に発達すること」が果実発達の重要な合図になります。

同じ果実でも種子数が毎回同じではないのはなぜか

一つの花の子房には複数の胚珠がある場合がありますが、すべての胚珠が必ず受精して種子になるわけではありません。

柱頭に十分な花粉が付くか、花粉が発芽できるか、花粉管が正常に伸びるか、胚珠が受精可能な状態を保っているかによって、最終的にできる種子数は変わります。

リンゴやナシなどでは、受粉条件によって完全種子数が変わることがあります。農研機構のニホンナシの受粉資料でも、無受粉では完全種子が形成されず、果実重も人工受粉した果実より小さい例が示されています。

したがって、同じ品種でも花が咲いたときの条件によって、果実の中に入る種子数や果実肥大が変わることがあります。

高温は花粉や受精を妨げることがある

高温は、種子形成を左右する代表的な環境条件です。

花粉形成や花粉発芽、花粉管伸長は温度に敏感です。トマトでは高温条件になると花粉の稔性が低下し、受精しにくくなることが知られています。

園芸学研究のトマト試験では、日最高気温の平均が約39℃となる高温条件で、非単為結果性品種は受精できず、植物成長調節物質の処理がなければ正常な果実肥大が難しくなりました。一方、単為結果性品種では受精なしでも安定して果実が肥大しました。

この違いは、高温によって「果実が種を包む基本構造」が別物になるのではなく、受精できるかどうか、そして受精なしでも果実発達を開始できる性質を持つかどうかが重要だということを示しています。

低温でも受精や種子形成が不安定になる

低温も花粉の形成や発芽、花粉管伸長に影響します。

同じトマト研究では、最低気温が約6℃の低温条件でも、非単為結果性品種では受精が不完全となり、発育不良果が多く発生しました。一方、単為結果性品種では低温条件でも果実が安定して肥大しました。

冬季の施設栽培では、花粉形成や訪花昆虫の活動が低下しやすく、自然受粉だけでは結実しにくくなる場合があります。そのため、温度管理、人工受粉、マルハナバチ利用、植物成長調節物質の処理などが行われます。

季節によって果実の種子数や着果が違って見える理由の一つは、開花期に経験する温度が違うことにあります。

寒害で種子が傷むと果実の発達も変わる

受精したあとでも、種子が正常に育つとは限りません。

ビワは冬季に幼果が発達するため、強い低温に遭うと種子が寒害で枯死することがあります。日本の研究では、寒害によって種子が枯死した果実では果実肥大が変化し、ジベレリンやサイトカイニン作用を持つ生育調節物質を処理すると、種子がない状態でも果実肥大が促進されました。

この結果は、発達中の種子が果実の成長を支えるホルモンシグナルの供給源として重要であることを示しています。

冬の寒さが強い年と穏やかな年で、種子の生存率や果実の発達が違うことがあるのは、このような仕組みが関係します。

種子が多いほど果実が大きくなることがある

果実の中の種子数と果実の大きさには、関係が見られる植物があります。

ビワ「茂木」を調べた研究では、種子数や種子重が増えるにつれて果実重も増える傾向が確認され、果実重には種子重の影響が大きいと報告されています。

発達中の種子は植物ホルモンを介して周囲の果肉の細胞分裂や肥大を促すため、種子が多く正常に育つほど果実の成長が促される場合があります。

ただし、すべての果実で「種子が多ければ必ず大きい」という法則が成立するわけではありません。品種、葉数、着果量、水分、栄養状態なども果実肥大に影響します。

受粉する昆虫の活動も季節によって変わる

昆虫による受粉を必要とする植物では、訪花昆虫の活動も種子形成に影響します。

ハチ類などの活動は気温、雨、風などの影響を受けます。低温や強い雨、強風のときには飛翔や訪花が少なくなることがあり、十分な花粉が柱頭へ運ばれない場合があります。

また、果樹では自家不和合性を持つ種類や品種が多く、別の品種の花粉が必要になることがあります。受粉樹との開花時期がずれれば、花が多く咲いていても受精率が下がる可能性があります。

このため、開花期の天候や受粉相手の開花タイミングが、最終的な種子数や果実の発達を左右します。

日照不足は種子と果実への資源供給を減らすことがある

受精したあと、種子と果実を育てるためには大量の炭水化物が必要です。その多くは葉の光合成によって作られます。

曇天が長く続いたり、樹冠内部が暗かったりすると、葉が作れる糖が減り、発達中の果実や種子への供給が不足する場合があります。

植物はすべての花や幼果を成熟まで維持できるとは限りません。資源不足になると、一部の花や幼果が落ち、残った果実へ資源を集中させることがあります。

そのため、同じ数の花が咲いても、日照条件が違えば最終的に残る果実数や種子の発達状態が変わることがあります。

水分不足も受粉後の果実発達に影響する

水は、細胞肥大、光合成、糖や無機養分の輸送に必要です。

強い乾燥が続くと植物は気孔を閉じ、光合成が低下します。すると果実や種子に送れる糖が減り、幼果の成長が抑えられる場合があります。

一方、過湿で根が酸素不足になると、根の吸水や養分吸収が低下することがあります。

つまり、種子を包む果実が正常に発達するためには、受精だけでなく、その後の水と炭水化物の供給も重要です。

果実が多すぎると一つ一つの発達が変わる

一本の植物が同時に多くの果実を育てると、果実同士で糖や水分、無機養分を奪い合う状態になります。

果樹で摘果が行われるのは、果実の大きさをそろえるだけでなく、樹が育てられる果実数に調整するためです。

着果量が多すぎると、一果あたりの成長が小さくなり、種子と果肉の発達にも影響する場合があります。反対に、適切に果実数を減らすと、残った果実へ多くの資源を配分できます。

このように、生育条件には温度や天候だけでなく、樹の葉量や着果量も含まれます。

受精しなくても果実が育つ「単為結果」がある

「果実は受精した種子を包むもの」という説明には例外があります。受精しなくても子房が成長して果実になる単為結果です。

単為結果では、種子が形成されなくても果実が発達します。農研機構が研究したナスの単為結果性では、子房内でオーキシンが高く維持されることで、受精によるホルモンシグナルがなくても果実肥大が始まる仕組みが示されています。

トマト、ナス、キュウリなどでは、遺伝的に単為結果しやすい品種があります。また、オーキシンやジベレリンなどの植物成長調節物質を利用して、受精なしで果実肥大を促すこともあります。

この性質は、冬の低温や夏の高温で受粉・受精が不安定になる条件でも果実生産を安定させるうえで役立ちます。

種なし果実にも複数の仕組みがある

種が見えない果実がすべて同じ仕組みでできているわけではありません。

単為結果では、そもそも受精せずに果実が発達します。一方、受精は起きるものの、発達途中で種子が停止・退化して種なしに近い状態になる場合もあります。

さらに、人為的なホルモン処理によって種なし果実を作る栽培方法もあります。ブドウなどでは植物成長調節物質を利用した無核化が行われます。

したがって、「種がない」という見た目だけから、受粉が起きなかったと判断することはできません。

季節によって種なし果が増えることがあるのはなぜか

単為結果する能力を持つ品種では、受精しにくい季節に種なし果が増えることがあります。

通常の温度では受粉・受精して種子を含む果実ができても、低温や高温で花粉機能が落ちると、受精せずに単為結果した果実の割合が高まる場合があります。

このため、同じ品種でも季節によって有種子果と無種子果の割合が変わることがあります。

ここでも、季節そのものが直接「種をなくす」のではありません。季節に伴う温度や受粉環境の変化が、受精できるかどうかを変えているのです。

果実の基本的な「包み方」は環境で自由に変わらない

このテーマで最も重要なのは、種類による構造の違いと、季節・生育条件による発達の違いを分けることです。

モモのように硬い核を作る、トマトのように果肉の内部へ多くの種子を含む、マメのように乾燥した果皮が種子を包む、といった基本的な果実型は遺伝的な発生プログラムによって決まっています。

通常の季節変化だけで、その植物の果実型が別の型へ変わることはありません。

一方、季節や生育条件は、受精する胚珠の数、種子の生存、果実の肥大、果肉の厚さ、単為結果の起こり方などを変えます。これが、同じ品種でも「種の入り方や包まれ方」が違って見える主な理由です。

気候変動で種子形成はどう変わる可能性があるのか

高温や極端な低温は花粉形成や受精に影響するため、気候変動によって開花期の温度条件が変われば、果実の着果や種子数が変化する可能性があります。

特に花粉は高温ストレスに敏感で、開花前の一定期間に高温を受けると花粉の形成や発芽能力が低下する植物があります。

一方、単為結果性を持つ品種では、受粉・受精が不安定な条件でも果実を形成しやすいため、環境ストレスへの適応形質として注目されています。

今後は、受粉環境を整えるだけでなく、高温・低温でも安定して着果する品種の利用や育種も重要になります。

まとめ

果実にできる種の数や包まれ方が季節や生育条件によって変わるのは、受粉・受精、種子発達、果実肥大が周囲の環境に影響されるからです。

高温や低温は花粉の形成や受精を妨げ、種子数や正常な着果を減らすことがあります。寒害で発達中の種子が傷めば、果実肥大にも影響します。日照、水分、着果量も、種子と果実に供給される糖や水分を通じて発達を変えます。

一方、単為結果性を持つ植物では、受精しなくても植物ホルモンの働きによって果実が発達するため、受精しにくい季節でも種なし果を形成できます。

ただし、環境によって果実の基本構造そのものが自由に変わるわけではありません。季節や生育条件が変えるのは、主に「種子がいくつできるか」「種子が正常に育つか」「その種子を包む果実がどこまで発達するか」という部分なのです。

参考資料

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