結論からいうと、果実の形が季節や生育条件によって変化するのは、果実の基本形を決める遺伝的な仕組みに加えて、花芽形成期や開花直後の温度、受粉・種子形成、果実肥大期の高温、水分、光、着果量などが、細胞分裂と細胞肥大の進み方を変えるからです。
同じ品種でも、寒い時期に花芽ができた果実と暖かい時期にできた果実、十分に受粉した果実と種子が少ない果実、適温で育った果実と高温下で急速に成熟した果実では、縦径と横径の比、心室数、左右の対称性、大きさ、果頂部の形などが異なることがあります。
ただし、季節によって丸い品種が自由に細長い品種へ変わるわけではありません。遺伝子が作る「基本設計」があり、季節や生育条件は、その基本設計の範囲内で実際の形の出方を調整すると考えると分かりやすくなります。
果実の形は実が大きくなる前から決まり始める
果実の形は、受粉後に実が膨らみ始めてから初めて決まるのではありません。多くの果実では、花芽が形成され、子房が作られる段階ですでに基本的な形づくりが始まっています。
果実のもとになる子房では、心皮の数、内部の心室数、縦方向と横方向の組織配置などが形成されます。受精後には、まず細胞分裂によって細胞数が増え、その後は細胞一つ一つが大きくなる細胞肥大によって果実全体が成長します。
このとき、縦方向の細胞分裂や伸長が相対的に強ければ細長い形になりやすく、横方向の発達が強ければ幅広い形になりやすくなります。したがって、花芽形成期の環境と、受粉後の果実肥大期の環境の両方が最終形状に関係します。
果実の基本形はまず品種の遺伝的性質で決まる
環境の影響を考える前に、果実の基本形には強い遺伝的な違いがあることを押さえておく必要があります。
トマトでは、SUNやOVATEのように果実の縦方向への伸び方に関係する遺伝子や、FASやLCのように心室数や横方向の広がりに関わる遺伝的要因が知られています。そのため、丸形、長円形、洋なし形、偏平形などの基本的な形は品種ごとに異なります。
季節や栽培条件は、この遺伝的な基本形を完全に別物へ変えるのではなく、心室数や細胞数、肥大量、種子数などを通じて、形の強調のされ方や乱れ方を変えます。
花芽形成期の低温でトマトの心室数が増えることがある
季節による形の違いを示す代表的な例が、トマトの花芽形成期の温度です。
トマトの研究では、苗が低温条件に置かれると花や子房が大きくなり、子房内部の心室数が増えることが確認されています。特に花芽が分化する前後の早い段階で低温に遭遇すると影響が強く、低温が長く続くほど心室数が増える傾向がみられました。
心室数が増えると果実は横方向に広がりやすくなり、多心室の大果では偏平果や乱形果が発生しやすくなる場合があります。
このため、同じトマト品種でも、育苗期が寒い作型と暖かい作型では、花芽形成時に受ける温度が違い、その後にできる果実の形や心室数が変化することがあります。
低温の影響は「いつ受けたか」で変わる
同じ低温でも、果実の形への影響は発育段階によって異なります。
トマトでは、花芽が分化する直前から分化直後の時期に低温を受けた場合、心室数が特に増えやすいことが報告されています。一方、花の発育がかなり進んだ後では、同じ低温にさらされても心室数への影響は小さくなります。
つまり、果実が収穫される季節だけを見ても形の違いの原因は分かりません。数週間から数か月前、花芽が作られていた時期の環境が、後から果実の形として現れることがあるのです。
高温でも果実の形が変わることがある
高温は低温とは別の仕組みで果実形に影響します。
夏秋期のトマトを調べた国内研究では、高温となる時期に栽培された果実では、比較的涼しい時期に比べて果重、果径、種子数が小さくなる傾向が確認されています。高温条件では受粉・受精が不安定になりやすいうえ、果実肥大に使える期間や細胞分裂・肥大の進み方も変化します。
また、冬季のトマト栽培でも、最低気温を高めると収穫までの日数が短くなり、十分に肥大する前に成熟して小果となる例があります。
このように高温は、果実を単純に大きくするわけではありません。成熟速度、種子形成、細胞肥大のバランスを変えることで、最終的な大きさや外形を変えます。
ニホンナシでは開花直後の高温で変形果が増える
温度による果形変化はトマトだけではありません。
ニホンナシ「幸水」のハウス栽培では、露地栽培より果実が縦長になり、セイヨウナシ型や有てい果と呼ばれる変形果が発生することがあります。栃木県の試験では、開花始めから満開後30日までの日中が29~32℃の高温になると、変形果の発生率が高まりました。
特に影響が大きかったのは、開花始めから満開後10日ほどの早い時期です。昼温を21~24℃程度に管理すると、変形果の発生を減らせることも示されています。
この例からも、果実の形は成熟期だけでなく、受粉直後のごく若い果実が経験した温度によって決まる部分が大きいことが分かります。
受粉が不十分だと左右非対称になることがある
果実の形には、受粉と種子形成も関係します。
受精して発達する種子は、オーキシンやジベレリンなどの植物ホルモンを介して周囲の果実組織の成長を促します。そのため、果実内部で種子が均等に形成されれば、周囲の組織も比較的均等に成長しやすくなります。
一方、受粉が不十分で種子数が少なかったり、種子の分布が一方に偏ったりすると、果実の成長も偏る場合があります。リンゴ「ふじ」を用いた研究では、不十分な部分受粉によって種子数が減り、種子分布の偏りとともに片寄った果実の発生が増えることが示されています。
したがって、開花期の低温、雨、強風などで訪花昆虫の活動が低下すれば、受粉状態を通じて果実形に影響する可能性があります。
イチゴでは受精不良が奇形果につながることがある
イチゴで赤く肥大する部分は花托で、その表面に並ぶ一粒一粒が植物学上の果実です。それぞれの痩果が正常に発達すると、その周囲の花托も成長しやすくなります。
受粉・受精が一部でうまくいかないと、その部分の肥大が弱くなり、果実全体が不均一な形になることがあります。
近年の国内レビューでも、イチゴの正常で形の整った果実を得るには受粉が重要であり、施設栽培では花粉や雌ずいの稔性低下などが奇形果発生に関わることが整理されています。
このため、季節による気温や湿度の違い、訪花昆虫の活動量の違いが、間接的に果形を変えることがあります。
水分不足は果実の大きさと形の完成度を変える
果実が大きくなる後半では、細胞分裂よりも細胞肥大の比重が大きくなります。細胞が肥大するためには、水が細胞内へ入り、十分な膨圧を保つ必要があります。
水分が不足すると果実への水の流入が減り、細胞肥大が抑えられます。その結果、果実が小さくなったり、品種本来の縦径・横径まで十分に成長しなかったりすることがあります。
海外のレビューでも、トマトでは水分不足の程度や果実の発育段階によって、果実への水の蓄積、果実サイズ、硬さ、品質が変わることが整理されています。
ただし、水分不足によって必ず特定の形になるわけではありません。影響は品種、ストレスの強さ、発育時期によって異なり、強い乾燥では果実肥大だけでなく光合成そのものも低下します。
急な吸水や水分変動は裂果など別の形状異常につながる
水分条件は少なすぎる場合だけでなく、急激に変化する場合にも果実外観へ影響します。
乾燥後に大量の雨やかん水で果実が急速に吸水すると、果肉の膨張に果皮が追いつかず、裂果が起こることがあります。これは基本的な果形そのものの変化とは少し異なりますが、見た目の形状を大きく損なう重要な生理障害です。
トマト、サクランボ、ブドウなどでは、成熟期の水分変動が裂果の発生に関係します。したがって、果実形を安定させるには、水を多く与えるか少なくするかだけでなく、急激な変化を避けることも重要です。
日照不足は果実肥大を通じて形に影響する
果実が成長するための炭水化物は、主に葉の光合成によって作られます。曇天が続いたり、樹冠内部が暗かったりすると、果実へ送られる糖が不足し、肥大が抑えられる場合があります。
果実の縦方向と横方向の成長速度が同じように影響を受けるとは限らないため、強い資源不足では本来の縦横比に達しにくくなることがあります。
ただし、日照だけで形が決まるわけではありません。日照不足の時期には低温や多湿が重なることもあり、実際の圃場では複数の条件が同時に作用します。
果実が多すぎると一つ一つの肥大が不足する
一本の植物が作れる糖や吸収できる水・無機養分には限りがあります。果実数が多すぎると、それらを多くの果実で分けることになります。
その結果、一果あたりの肥大が小さくなり、品種本来の果径や形に達しにくくなることがあります。トマトや果樹で摘果を行うのは、果実サイズや品質を整えるためだけでなく、残した果実へ十分な資源を配分するためです。
一方、果実を減らせば必ず形が良くなるわけではありません。花芽形成期の温度や受粉不良によってすでに形が決まっている場合、摘果で基本的な形状異常を修正することはできません。
肥料条件も花芽形成と果実形に影響することがある
窒素などの栄養状態は、枝葉の成長だけでなく花芽の発達にも関係します。
トマトでは、低温による花の発達や心室数増加の程度が苗の栄養状態によって変わることが古くから研究されています。またイチゴでは、高窒素と高温が重なる条件で花芽の帯化や花器の異常が起こり、奇形果が増える品種があることが報告されています。
肥料を多く与えれば果実形が整うということではありません。栄養過多で枝葉ばかりが茂れば日照条件が悪化することもあり、花芽形成への影響も含めて適切な栄養管理が必要です。
季節による果形の違いは一つの原因では説明できない
夏に果実が小さかった、冬作で乱形果が多かった、といった違いがあっても、原因を季節だけに求めることはできません。
冬は低温によって花芽の心室数が増えた可能性があります。夏は高温によって花粉稔性や種子形成が低下した可能性があります。梅雨期なら日照不足や多湿、乾燥期なら水分不足が果実肥大に影響した可能性があります。
さらに、これらの条件は発育段階によって影響の大きさが違います。花芽形成期の温度、開花期の受粉環境、着果直後の細胞分裂期、肥大期の水分条件を分けて考えることが重要です。
同じ環境でも品種によって変化の大きさが違う
環境による果形変化の程度にも品種差があります。
トマトでは、もともと心室数が多い大果系品種のほうが、低温条件で乱形果を生じやすい例があります。一方、少心室の小果系品種では、同じ低温を受けても乱形の程度が小さいことがあります。
これは、環境が形をゼロから作るのではなく、品種が持つ遺伝的な感受性に環境が作用することを示しています。
そのため栽培では、「この温度ならすべての品種で同じ形になる」と考えるのではなく、品種特性と作型を組み合わせて管理する必要があります。
気候変動で果実形のばらつきが増える可能性もある
気候変動によって高温日や極端な降雨、干ばつが増えると、果実形に関わる発育条件も変化します。
高温は花粉形成や受精、果実肥大に影響し、強い水分ストレスは細胞肥大を抑えます。反対に、時期によっては低温が花芽の構造や心室数を変えることもあります。
そのため今後は、高温耐性のある品種、温度管理、かん水、受粉補助、着果量調整などを組み合わせて、果形の安定性を高めることが重要になります。
「種類による形の違い」と「季節による形の変化」は別の視点
果実の形を理解するときは、二つの違いを分ける必要があります。
丸いトマトと細長いトマト、リンゴとナシのような基本形の違いは、主に種類や品種の遺伝的な発生プログラムによって決まります。
一方、今回のテーマは、同じ種類・同じ品種でも、花芽形成時の温度、受粉状態、果実肥大期の高温、水分、日照、着果量などによって、縦横比、心室数、大きさ、左右対称性、乱形果の発生率が変わることです。
遺伝子が果実形の基本設計と変化できる範囲を決め、季節や生育条件がその範囲内で実際の形を調整していると考えると理解しやすくなります。
まとめ
果実の形が季節や生育条件によって変化するのは、果実の基本形を決める遺伝的な仕組みに、温度、受粉、種子形成、水分、日照、着果量などが作用し、細胞分裂と細胞肥大の進み方を変えるからです。
トマトでは花芽形成期の低温で心室数が増え、偏平果や乱形果が生じやすくなることがあります。高温期には果重、果径、種子数が減る場合があり、ニホンナシでは開花直後の高温によって縦長の変形果が増える例があります。
また、受粉不足や種子分布の偏りは左右非対称な果実につながることがあり、水分不足や日照不足、過剰な着果は果実が十分に肥大するのを妨げます。
つまり、果実の形は品種名だけで完全に決まる固定的な性質ではありません。その果実が花芽の時期から成熟までに、どの季節にどんな環境を経験したかが、最終的な形として表れるのです。
参考資料
- 農研機構「ニホンナシ『幸水』のハウス栽培における変形果発生を軽減する温度管理」
- 園芸学会雑誌「トマトの生育ならびに開花・結実に関する研究(第11報)花の発育ならびに形態に及ぼす温度の影響」
- 園芸学研究「夏秋期における栽培時期および果房による遭遇温度の違いがトマト果実肥大に及ぼす影響」
- Plants “Genetic and Molecular Mechanisms Conferring Heat Stress Tolerance in Tomato Plants”

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