耳の中にたまる耳垢は、見た目から「汚れ」や「不要なごみ」と思われがちです。しかし、耳垢は単に外から入ったほこりが集まったものではありません。
結論からいうと、耳垢は、外耳道の皮膚からはがれた古い角質と、皮脂腺や耳垢腺から出る分泌物などが混ざって自然にできるものです。さらに耳垢には、外耳道の皮膚を乾燥や摩擦から守り、水や異物の侵入を防ぎやすくする働きがあります。
そして健康な耳では、外耳道の皮膚がゆっくり外側へ移動する自浄作用によって、耳垢も少しずつ耳の入口へ運ばれます。つまり耳垢は「できること」も「外へ出ていくこと」も、どちらも正常な耳の仕組みの一部です。
耳垢は何からできているの?
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、耳垢を、外耳道にある皮脂腺や耳垢腺から出る分泌物に、外部のほこりや古くなった皮膚などが混ざったものと説明しています。
外耳道の皮膚は、体のほかの皮膚と同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなった表皮の細胞は角質となってはがれます。
そこへ皮脂腺の脂質や、耳垢腺というアポクリン腺の分泌物が加わります。さらに細かなほこりや毛などが混ざることで、私たちが耳垢と呼ぶ物質になります。
そのため耳垢は、「外から入った汚れだけ」ではなく、耳自身が作る分泌物と皮膚の代謝産物を含む生理的な物質です。
耳垢腺は外耳道のどこにあるの?
外耳道は、耳の入口側の軟骨部と、鼓膜に近い骨部に分かれます。
皮脂腺や耳垢腺、毛包は主に外耳道の外側寄りにある軟骨部に存在します。
一方、鼓膜に近い骨部の皮膚は非常に薄く、腺や毛包はほとんどありません。
つまり耳垢は、耳の奥深く全体から均等に分泌されているわけではありません。外側寄りで分泌物と皮膚成分が混ざり、外耳道の自浄作用とともに外へ移動していきます。
耳垢はなぜベタベタしていることがあるの?
耳垢には脂質を含む分泌物が混ざっているため、人によっては湿った、粘りのある状態になります。
一方、乾いて粉のように見える耳垢の人もいます。
耳垢の湿ったタイプと乾いたタイプには遺伝的な違いが大きく関係しています。日本人を含む東アジアでは乾性耳垢の人が比較的多く、欧米やアフリカ系集団では湿性耳垢が多いことが知られています。
どちらかが正常で、どちらかが異常というわけではありません。耳垢の質には生まれつきの個人差があります。
耳垢は「耳の保護膜」として働く
耳垢は、外耳道の皮膚を覆うことで乾燥を防ぎ、皮膚表面の潤滑を助けます。
2023年の外耳道と耳垢に関するレビューでは、耳垢が外耳道の健康維持に重要で、腺分泌物の化学的性質や外耳道の微生物環境とともに保護機能を担うと整理されています。
耳垢に含まれる脂質は水をはじきやすいため、外耳道へ入った水が皮膚へ長時間しみ込みにくくする疎水性のバリアとしても働きます。
また、皮膚と異物との摩擦を減らすことで、外耳道の薄い皮膚を傷つきにくくする役割もあります。
耳垢には細菌から守る働きもあるの?
耳垢は完全な殺菌剤ではありませんが、外耳道で細菌や真菌が増えにくい環境を作る一因になります。
NCBI Bookshelfの外耳解剖・生理の解説では、耳垢には脂質や酸性環境による抗菌的な働きがあり、外耳道の保護に重要と説明されています。
また、耳垢や外耳道には抗菌ペプチドなどの防御物質が含まれることも報告されています。
ただし、耳垢があれば外耳炎にならないという意味ではありません。外耳道の皮膚が傷ついたり、長時間湿った状態になったりすると、感染が起こることがあります。
耳垢があると、ほこりや異物も捕まえやすい
外耳道には外から細かなほこりや砂などが入ることがあります。
耳垢の粘りや外耳道の毛は、こうした異物を捕まえ、奥へ入り込みにくくする助けになります。
捕まえられた異物は、耳垢や古い角質と一緒に外側へ運ばれます。
そのため耳垢は、ただ耳の中に残る物質ではなく、外耳道の「異物をからめ取って外へ運ぶ仕組み」の一部と考えることができます。
耳垢はどうやって自然に外へ出るの?
健康な外耳道には上皮移動と呼ばれる仕組みがあります。
鼓膜から外耳道にかけての皮膚は、少しずつ耳の入口方向へ移動していきます。
日本の耳鼻咽喉科研究でも、鼓膜から骨部外耳道の皮膚では秩序ある角化と皮膚のmigrationが起こり、正常では角化物がたまり続けないと説明されています。
この皮膚の移動により、古い角質や耳垢はベルトコンベアのように外側へ運ばれます。
さらに、会話や食事で顎を動かすことも外耳道周囲の動きにつながり、耳垢の排出を助けると考えられています。
だから毎日奥まで耳掃除しなくてもよい
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、人には耳垢を自然に排泄する自浄作用があるため、多少の耳垢であれば家庭で無理に取る必要はないと説明しています。
耳の入口付近へ自然に出てきた耳垢を軽く拭う程度で十分な人は少なくありません。
ところが、綿棒や耳かきを奥まで入れると、取るつもりだった耳垢を逆に鼓膜側へ押し込んでしまうことがあります。
さらに外耳道の皮膚をこすって傷つけると、炎症や外耳炎の原因になることもあります。
耳垢が気になるからといって、奥まで頻繁に掃除するほど健康な耳になるわけではありません。
耳垢がたまりすぎる「耳垢栓塞」とは?
耳垢が大量にたまり、外耳道をふさいだ状態を耳垢栓塞といいます。
耳垢栓塞になると、耳が詰まった感じ、聞こえにくさ、耳鳴り、かゆみ、痛みなどが起こることがあります。
2024年のレビューでも、耳垢は正常に外耳道を保護する一方、過剰にたまると耳閉感、かゆみ、耳痛、耳漏、難聴、耳鳴りなどを引き起こすと整理されています。
また、鼓膜が耳垢で隠れると、中耳炎など別の病気がないか診察できなくなることがあります。
なぜ耳垢が自然に出ず、たまる人がいるの?
耳垢の自浄作用は誰でも同じ強さではありません。
外耳道が狭い、曲がりが強い、毛が多い、耳垢が硬いといった条件では、外へ移動しにくくなることがあります。
加齢で耳垢が乾燥しやすくなったり、皮膚の移動がうまくいかなかったりすることもあります。
補聴器、イヤホン、耳栓などを長時間使うと、耳垢の自然排出を妨げたり、奥へ押し込んだりする場合があります。
そして綿棒を日常的に深く入れる習慣も、耳垢栓塞の大きな要因の一つです。
高齢者では耳垢栓塞が多いことがある
高齢になると、耳垢の性質や外耳道皮膚の状態が変化し、自力での耳掃除も難しくなる場合があります。
国立長寿医療研究センターなどによる研究では、認知症病棟で耳鏡観察できた98人のうち32人で、鼓膜がまったく見えないほどの耳垢が確認されました。
高齢者では、耳垢による伝音性の聞こえにくさが、もともとの加齢性難聴へ重なることもあります。
急に会話が通じにくくなった場合に、すべてを「年齢による難聴」と考えず、耳垢が詰まっていないか確認することも大切です。
耳垢を取ると聞こえがよくなることがあるのはなぜ?
耳垢が外耳道をふさぐと、空気中の音が鼓膜まで届きにくくなります。
この状態は、外耳で音の伝達が妨げられる伝音性難聴の一種です。
そのため、耳垢栓塞が原因なら、適切に除去することで聞こえが改善することがあります。
ただし、耳垢を取っても聞こえにくさが残る場合には、中耳や内耳、聴神経など別の原因を考える必要があります。
「聞こえにくい=耳垢」と決めつけることはできません。
耳垢が多いほど耳をよく守れるの?
いいえ。耳垢は必要な生理的物質ですが、多ければ多いほどよいわけではありません。
適量の耳垢は外耳道の潤滑や保護に役立ちます。
しかし大量にたまって外耳道をふさぐと、難聴や耳閉感などの原因になります。
逆に、頻繁な耳掃除で耳垢を取りすぎると、皮膚表面の保護や潤滑が失われ、微小な傷や炎症が起こりやすくなることがあります。
大切なのは「耳垢をゼロにすること」ではなく、自然な自浄作用が働く状態を保つことです。
耳垢の色が濃いと病気なの?
耳垢の色や硬さには大きな個人差があります。
黄色、茶色、濃い褐色などさまざまで、時間がたつと乾燥・酸化して色が濃くなることもあります。
そのため、濃い色だけで病気と判断することはできません。
一方、血が混じる、膿のような耳漏がある、強い悪臭がある、痛みが続く場合には、単なる耳垢ではなく外耳炎や中耳炎などが関係している可能性があります。
耳垢と耳だれは同じものではない
耳垢は外耳道の皮膚や腺から自然に作られる物質です。
一方、耳だれは炎症や感染、鼓膜穿孔などによって液体が耳から出てくる症状です。
水っぽい液体、膿、血液などが出る場合は、正常な耳垢とは別に考える必要があります。
特に耳痛、発熱、難聴、強いかゆみを伴う耳漏では、自己流で掃除せず耳鼻咽喉科で診てもらうことが重要です。
子どもの耳垢は無理に取らなくてよい?
子どもも基本的には外耳道の自浄作用を持っています。
そのため、見えている耳垢を毎回奥まで取る必要はありません。
むしろ子どもの外耳道は狭く、急に動くこともあるため、耳かきや綿棒を深く入れると外耳道や鼓膜を傷つける危険があります。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、家庭で無理な耳掃除を行わず、気になる場合には耳鼻咽喉科での確認を勧めています。
補聴器を使う人は耳垢に注意が必要
補聴器やイヤモールドは外耳道の入口を長時間ふさぐため、耳垢の排出を妨げることがあります。
また、たまった耳垢が補聴器の音口をふさぐと、補聴器の音が弱くなったり、ハウリングが起こったりすることもあります。
補聴器使用者では、定期的に外耳道を観察し、耳垢が多い場合には安全に除去してもらうことが役立ちます。
ただし、自分で器具を深く入れて取ろうとすると、さらに奥へ押し込む可能性があります。
綿棒で耳垢を取るときに起こりやすいこと
綿棒は耳垢をからめ取れるように見えますが、外耳道の太さや耳垢の状態によっては、綿棒の先で耳垢を奥へ押してしまいます。
何度も繰り返すと、耳垢が鼓膜側で圧縮され、硬い栓のようになることがあります。
さらに皮膚をこすることで微小な傷ができ、外耳炎のきっかけになることもあります。
耳掃除をした直後から耳が詰まった、聞こえにくくなったという場合には、耳垢を奥へ押し込んでいないか確認が必要です。
耳垢栓塞はどうやって治療するの?
耳鼻咽喉科では、耳垢の状態や鼓膜の状態を確認したうえで、鉗子や吸引などを使って耳垢を除去します。
硬く固まっている場合には、耳垢を柔らかくする薬を使うことがあります。
鼓膜に穴がある可能性や、耳の手術歴などがある場合には、洗浄が適さないことがあります。
そのため、自宅で大量の水や薬液を入れる前に、鼓膜や外耳道の状態を確認することが重要です。
耳垢は「汚いからできる」わけではない
耳垢があると、「耳を清潔にしていないからだ」と感じる人もいます。
しかし耳垢は、清潔か不潔かに関係なく、皮膚の代謝と外耳道の腺分泌によって自然に作られます。
毎日入浴していても耳垢はできますし、耳を頻繁に掃除しても体は皮膚の代謝を続けます。
つまり耳垢ができること自体は、不衛生の証拠ではありません。
むしろ正常な耳の皮膚が入れ替わり、外耳道を保護する分泌物が出ている結果です。
どんなときに耳鼻咽喉科で確認した方がいい?
耳垢が少し見えるだけで、痛みや聞こえの変化がなければ、急いで取る必要はない場合が多くあります。
一方、耳が詰まって聞こえにくい、耳鳴りがする、痛みや強いかゆみがある、耳だれや血が出る、耳掃除後に急に聞こえにくくなった、補聴器が使いにくいといった場合には、耳垢栓塞や外耳炎などを確認することが大切です。
また、小さな子ども、高齢者、耳の手術歴がある人では、自宅で無理に除去せず専門家に相談する方が安全です。
まとめ:耳垢は、外耳道を守りながら自然に外へ運ばれる正常な産物
耳に耳垢ができるのは、外耳道の皮膚が新陳代謝し、古い角質がはがれ、そこへ皮脂腺や耳垢腺の分泌物、ほこりなどが混ざるためです。
耳垢には、外耳道の皮膚を潤し、水や異物から守り、細菌が増えにくい環境を保つのを助ける働きがあります。
そして健康な耳では、鼓膜から外耳道へ向かう皮膚の移動と顎の動きによって、耳垢は少しずつ入口側へ運ばれます。
つまり耳垢は、「耳にたまる不要なごみ」ではなく、外耳道の皮膚と腺が作り、自浄作用によって外へ排出される、耳を守る仕組みの一部なのです。
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参考資料
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳垢」
- J-STAGE「Sinus meatusに限局して角化物が堆積する1例」
- PubMed, “Follow the Wax: The Natural Protection of the Ear Canal and Its Biome”
- NCBI Bookshelf, “Anatomy, Head and Neck: External Ear”

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