膝を軽くたたいたときと強めにたたいたとき、足裏へ弱い刺激を受けたときと強い刺激を受けたときでは、反射の出方が同じとは限りません。一般に、刺激が反射を起こす閾値を超えて強くなると、より多くの感覚受容器や感覚神経線維が活動し、脊髄や脳幹の反射回路へ入る信号が増えるため、より多くの運動ニューロンや筋が動員され、反射が大きくなりやすくなります。ただし、「刺激が2倍なら反射も必ず2倍」という単純な比例関係ではありません。反射には閾値、動員、飽和、抑制があり、姿勢や注意、運動状態、刺激部位によっても変わります。さらにH反射のように、刺激を強くしすぎると反射成分がかえって小さくなる特殊な現象もあります。
まず「閾値」を超えないと反射は見えにくい
神経や感覚受容器は、どんなに小さな刺激にも同じように反応するわけではありません。ある程度以上の刺激になって初めて活動電位が生じたり、反射回路全体として観察できる筋活動が現れたりします。
この境目を反射閾値と考えることができます。刺激が閾値より弱いと、感覚入力が少なすぎて運動ニューロンを十分に興奮させられず、目に見える反射が起こらないことがあります。
刺激を少しずつ強くすると、閾値を超えたところから反射が現れ、その後は大きくなっていくことがあります。
刺激が強くなると活動する感覚神経が増える
一本の神経束の中には、興奮しやすさの異なる多数の神経線維があります。弱い刺激では興奮しやすい線維だけが活動し、刺激を強くすると、より高い閾値を持つ線維も順番に活動するようになります。
このように、刺激強度の上昇によって活動する神経線維の数が増えることを「動員」と考えると理解しやすくなります。
反射回路へ入る感覚入力が増えると、脊髄や脳幹でより多くのニューロンが興奮しやすくなり、結果として筋電図で測る反射振幅や実際の動きが大きくなることがあります。
運動ニューロンにも興奮しやすさの違いがある
反射の出口となる運動ニューロンも、すべてが同じ閾値を持つわけではありません。
弱い感覚入力では、まず興奮しやすい運動ニューロンが活動します。入力が増えるにつれて、より高い閾値を持つ運動ニューロンも加わり、活動する運動単位の数が増えます。
その結果、筋全体として発生する力や筋電図上の反応が大きくなります。刺激強度による反射差の一部は、この段階的な動員によって説明できます。
反射の大きさは「刺激→入力→神経回路→筋」の積み重ねで決まる
反射は、刺激の強さだけで直接決まるわけではありません。
刺激が感覚受容器をどの程度興奮させるか、何本の求心性線維が活動するか、脊髄内で興奮性・抑制性入力がどう組み合わされるか、運動ニューロンがどの程度動員されるか、筋がどの状態にあるかという複数の段階を経て、最終的な反射が決まります。
このため、同じ刺激強度でも人や姿勢、筋の緊張状態によって反射の大きさが違うことがあります。
膝蓋腱反射でも打撃が弱すぎると反応しにくい
膝蓋腱反射では、腱への打撃によって大腿四頭筋が急に伸ばされ、筋紡錘からのIa求心性入力が脊髄へ入ります。
打撃が非常に弱ければ筋紡錘への急速な伸張が小さく、運動ニューロンへの興奮性入力も十分にならないため、目に見える膝伸展が起こりにくいことがあります。
適切な範囲で刺激が強くなると筋紡錘からの入力が増え、反射が明瞭になりやすくなります。ただし、診察では反射の強さを比べるため、左右でできるだけ同じ条件・同じ程度の刺激を与えることが重要です。
逃避反射では強い刺激ほど反応が広がることがある
熱い物や鋭い物から手足を遠ざける逃避反射では、刺激強度による違いがよりわかりやすく現れることがあります。
ヒトの足底への電気刺激を使った研究では、刺激強度を痛覚閾値未満から閾値の約2倍まで段階的に上げると、複数の筋で反射の大きさが増え、反射が誘発される皮膚領域も一部で広がることが示されています。
危険な刺激が強くなるほど、より多くの脊髄回路や筋を動員して、刺激された部位を確実に遠ざける方向へ防御反応を拡大できると考えられます。
刺激が強くなると「反射する筋の数」も変わることがある
多シナプス性の反射では、感覚入力が複数の介在ニューロンへ分配されます。
弱い刺激では限られた回路だけが十分に活動し、必要最小限の筋が反応することがあります。刺激が強くなると、より広い介在ニューロン回路が閾値を超え、別の筋群まで活動することがあります。
そのため、刺激強度の差は単に「同じ筋が強く動く」だけでなく、「参加する筋や関節運動の範囲が変わる」という形で現れる場合もあります。
反射の大きさは刺激の危険度を反映することがある
逃避反射では、弱い触刺激と組織を傷つける可能性がある強い刺激では、必要な防御行動が同じではありません。
危険度が高い刺激では、より強い屈曲や複数関節を使う逃避運動が必要になることがあります。
刺激強度に応じて反射の規模を変えられることは、必要以上に大きな動きを毎回起こさず、危険が大きいときには防御を強めるという意味で合理的です。
ただし「強い刺激ほど必ず強い反射」ではない
ここが重要です。刺激強度と反射の大きさには関係がありますが、単純な右肩上がりの直線ではありません。
ある程度まで刺激を強くすると反射は増大しやすくなりますが、動員できる神経線維や運動ニューロンには限りがあります。多くがすでに活動している状態では、さらに刺激を強くしても反射はあまり増えず、飽和に近づきます。
また、抑制性回路が強く働いたり、別の神経線維が動員されたりすることで、反射の増え方が鈍る場合もあります。
反射回路には興奮だけでなく抑制もある
脊髄には、運動ニューロンを興奮させる回路だけでなく、活動を抑える介在ニューロンやシナプス前抑制の仕組みもあります。
日本の反射研究では、筋紡錘由来の伸張反射や皮膚反射が、刺激強度や運動課題、歩行周期などによって柔軟に変化することが示されています。
つまり、刺激が増えたときの最終出力は「興奮性入力がどれだけ増えたか」だけでなく、「同時にどの抑制回路が働いたか」によっても決まります。
H反射は刺激強度との関係が特にわかりやすい
H反射は、末梢神経を電気刺激してIa求心性線維を活動させ、脊髄の単シナプス性反射回路を介して筋から反応を記録する方法です。
弱い刺激から徐々に強くすると、最初はH反射が現れ、その振幅が増えていきます。これは刺激強度の上昇に伴って、より多くのIa求心性線維や運動ニューロンが動員されるためです。
この刺激強度と反射振幅の関係を並べたものを、H反射の動員曲線として評価します。
H反射では刺激をさらに強くすると小さくなることもある
ところがH反射では、刺激を強くし続けると、最大に達した後に反射振幅が小さくなることがあります。
強い電気刺激では感覚線維だけでなく運動神経軸索も直接刺激され、筋へ向かう順行性の興奮信号と、脊髄方向へ向かう逆行性の信号が生じます。この逆行性信号が反射経路を通って下ってくる運動ニューロンの信号と衝突すると、H反射として筋へ届く活動が減ります。
そのためH反射は、「電気刺激が強いほど無限に大きくなる」反応ではありません。刺激強度によって増大相と減少相が現れる代表例です。
反射を比べる研究で刺激強度を厳密にそろえるのはなぜ?
反射振幅が刺激強度に依存するなら、条件Aでは弱い刺激、条件Bでは強い刺激を使って比較すると、神経回路の変化ではなく刺激強度の差を測ってしまいます。
そのためH反射研究では、最大M波に対する一定割合のH反射が出る刺激強度を設定したり、動員曲線全体を測定したりして条件をそろえます。
刺激強度を一定にすることは、「反射回路そのものの興奮性が変わったのか」を正しく調べるために必要です。
刺激部位によっても同じ強度の意味は変わる
皮膚や筋には、場所によって感覚受容器の密度や反射回路との結びつきが違います。
逃避反射では、刺激された皮膚部位ごとに「どの筋を動かせばその場所を危険から遠ざけやすいか」が異なります。そのため、同じ刺激強度でも刺激部位が変われば反射する筋や大きさが変わることがあります。
刺激強度だけでなく、刺激の場所も反射出力を決める重要な条件です。
刺激の持続時間や回数も反射を変える
反射は一回の刺激の強さだけで決まりません。刺激がどのくらい続くか、何回繰り返されるかも神経回路の状態を変えます。
侵害受容性の反射では、繰り返し刺激によって脊髄内の反応が次第に増強する「wind-up」と呼ばれる現象が研究されています。
そのため「刺激の強さによる差」を考えるときも、刺激時間や刺激頻度をそろえなければ正しく比較できません。
姿勢や運動中かどうかでも刺激―反射関係は変わる
同じ刺激でも、座っているときと歩いているときでは反射の意味が違います。
歩行中には、足が地面に着いて体重を支えている時期と、足を前へ振り出している時期があります。神経系は歩行位相に応じて皮膚反射やH反射の大きさを調節します。
つまり刺激強度が同じでも、脊髄回路の「現在の興奮しやすさ」が違えば、反射の大きさも変わります。
注意や予測など上位中枢も反射の利得を変える
反射は自動的に起こりますが、脳から完全に独立しているわけではありません。
大脳や脳幹から脊髄へ下る信号は、反射回路を促通したり抑制したりします。刺激を予測しているか、運動を準備しているか、筋をあらかじめ収縮させているかなどによって、同じ刺激への反射が変わることがあります。
この「入力に対してどれくらい出力するか」という調節は、反射の利得調節と考えることができます。
反射が強いから神経が健康、弱いから異常とは限らない
刺激強度によって反射が変わることを考えると、一回の反射の大きさだけを見て健康状態を判断することが難しい理由もわかります。
深部腱反射には、刺激の当たり方、筋のリラックス状態、姿勢、左右差、年齢、上位中枢からの調節など多くの要因が影響します。
医療者は適切な刺激条件で左右や他の反射を比較し、筋力・感覚などの所見と合わせて評価します。
刺激が弱いのに反射が大きい場合もある
反射回路そのものの興奮性が高い状態では、比較的弱い刺激でも大きな反応が出ることがあります。
逆に反射弓のどこかに障害があれば、十分な刺激でも反射が小さい場合があります。
そのため、反射の評価では「どれくらい強い刺激を入れたときに、どれくらいの反応が出たか」という刺激―反応関係を見ることが重要です。
刺激強度による差は神経系が段階的に反応する仕組みを示している
感覚神経や運動ニューロンにはそれぞれ閾値があり、刺激が強くなるにつれて活動する細胞の数が増えていきます。
さらに、興奮性回路と抑制性回路、筋や姿勢の状態、上位中枢からの調節が重なって、最終的な反射出力が決まります。
つまり刺激強度による反射差は、神経系が単純なオン・オフのスイッチではなく、入力の大きさや状況に応じて出力を段階的に調節していることを示しています。
まとめ
反射の強さが刺激の強さによって変わるのは、刺激が強くなるにつれて、より多くの感覚受容器や求心性神経線維が活動し、脊髄や脳幹の反射回路へ入る信号が増え、より多くの運動ニューロンや筋が動員されるためです。
逃避反射では、刺激強度の増加によって反射振幅が大きくなったり、反射に参加する筋や受容野が広がったりすることがあります。一方で反射回路には抑制や飽和があるため、刺激と反射は単純な比例関係ではありません。H反射では、刺激を強くしすぎると運動神経の直接刺激による逆行性活動との衝突などによって、反射成分がかえって小さくなることもあります。
つまり、刺激強度による反射の差は「強い刺激ほど大きく動く」という単純な仕組みではなく、神経線維の閾値、ニューロンの動員、興奮と抑制、現在の運動状態を組み合わせて、状況に合った出力を作る神経系の調節機構によって生まれるのです。
関連記事
参考資料
- バイオメカニズム学会誌「運動評価と筋及び皮膚感覚受容器を介した反射について」
- NCBI Bookshelf「Neuroscience – Summary」
- PubMed「Reflex receptive fields for human withdrawal reflexes elicited by non-painful and painful electrical stimulation of the foot sole」
- PubMed「The relationship between the soleus H-reflex amplitude and vibratory inhibition in controls and spastic subjects. II. Computer model」

コメント