なぜ成長の個人差には「人と人の差」と「同じ人の中の変化」があるのか?

子どもの成長には、二つの種類の「違い」があります。一つは、同じ年齢の子ども同士を比べたときに見える「人と人の差」です。もう一つは、同じ子どもを時間を追って見たときに現れる「同じ人の中の変化」です。

たとえば、同じ10歳でも身長が高い人と低い人がいるのは人と人の差です。一方、ある子どもが病気や栄養不足で一時的に伸びにくくなり、回復後に成長速度が上がるのは同じ人の中の変化です。思春期に入って急に身長が伸び始めることも、時間の中で起こる変化です。

この二つを分けて考えると、「平均より小さい=成長がおかしい」「今よく伸びている=将来もずっと高身長」といった誤解を避けやすくなります。成長を見るときには、周囲との比較だけでなく、その子自身が過去からどう変化してきたかを見ることが重要です。

目次

「人と人の差」は同じ時点で比べた違い

同じ年齢の子どもを横に並べると、身長、体重、筋肉量、思春期の進み具合などに幅があります。これは、遺伝的な体質、成長ホルモンやIGF-1への反応、栄養、出生時の状態、思春期が始まる時期などが一人ひとり違うためです。

成長曲線では、このような集団内のばらつきを平均値や標準偏差、パーセンタイルなどで表します。日本小児内分泌学会が示す成長曲線も、同じ年齢の子ども全員が一つの値になるのではなく、一定の幅を持つことを前提に作られています。

つまり、平均から少し離れていること自体は、ただちに異常を意味しません。もともと小柄な家族性の体格や、思春期が遅めの体質など、正常な個人差として説明できる場合もあります。

「同じ人の中の変化」は時間を追わないと見えない

同じ人でも、成長速度はずっと一定ではありません。乳幼児期には速く伸び、学童期には比較的安定し、思春期には再び急速に伸びます。

さらに、病気、栄養状態、ホルモンの変化などによって、一時的に成長速度が落ちたり、回復後に速くなったりすることがあります。

こうした変化は、一回の身長測定では分かりません。数か月から数年にわたって身長を記録し、その子自身の成長曲線を見ることで初めて分かります。

このため、小児の成長評価では「今何cmか」だけでなく、「以前からどのくらいの速さで伸びているか」が重要になります。

横断的な比較と縦断的な観察では見えるものが違う

ある年齢の多数の子どもを一度に測って比べる方法を横断的な観察と考えることができます。これは「同じ年齢の集団の中でどこにいるか」を見るのに役立ちます。

一方、一人の子どもを長期間追い、その人の成長速度や変化の時期を見るのが縦断的な観察です。こちらは「その人がどのような成長経路をたどっているか」を見るのに向いています。

日本人小児の縦断的な身長研究では、思春期の最大成長速度に達する平均年齢は男子と女子で異なるだけでなく、同じ性別の中でも約1年程度の標準偏差を持つ幅が示されています。

つまり、集団平均だけを見ていると、個人の思春期タイミングの違いによって成長曲線がどう変わるかを十分に捉えられないことがあります。

思春期は「人と人の差」と「同じ人の変化」が重なる時期

思春期は、成長の個人差が特に大きく見えやすい時期です。

同じ13歳でも、一人はすでに成長スパートのピークに近く、別の人はまだ思春期前ということがあります。これは人と人の成熟時期の差です。

同時に、一人の子どもの中でも、思春期に入る前と入った後では年間の身長増加量が大きく変わります。これは同じ人の中の変化です。

2018年に日本人小児の思春期タイミングに合わせた縦断成長曲線が提案された背景にも、思春期の成長スパートの時期が人によって違うため、一般的な横断成長曲線だけでは個人の成長経路を評価しにくいという問題があります。

同じ身長でも「順調な人」と「伸びが低下している人」がいる

ある時点で同じ身長の二人がいても、その意味は同じとは限りません。

一人はもともと小柄で、ずっと同じ範囲の成長曲線に沿って順調に伸びているかもしれません。もう一人は以前は平均付近だったのに、最近になって成長速度が低下し、同じ身長まで下がってきたのかもしれません。

この二人は現在の身長だけを見れば同じですが、時間的な変化は全く違います。

成長評価で過去の記録が重要なのは、このように「今の位置」だけでは、正常な個人差なのか、最近起きた状態変化なのかを区別できないためです。

病気や栄養不足では「同じ人の中の変化」が起こることがある

慢性疾患、炎症、消化吸収の問題、強い栄養不足などがあると、それまで順調だった成長速度が低下する場合があります。

このとき起きているのは、別の子どもとの体質差ではなく、その人の成長条件が途中で変わったことによる変化です。

たとえば栄養不足では、成長に必要な材料とエネルギーが不足するだけでなく、成長ホルモンとIGF-1の関係も変化します。慢性炎症では、食欲や栄養吸収に加えて、成長板やホルモン系へ影響することがあります。

そのため、以前の成長曲線から下向きへ外れてきた場合には、「もともと小柄だから」とだけ考えず、最近の健康状態の変化を確認する必要があります。

原因が改善すると「キャッチアップ成長」が起こることがある

病気や低栄養などで一時的に成長が抑えられた後、原因が改善すると、年齢として通常より速い速度で伸びることがあります。これをキャッチアップ成長と呼びます。

2024年の成長不良とキャッチアップ成長のレビューでも、成長不良は一つの原因だけで説明できないことが多く、原因が改善した後の成長回復を評価するには、成長速度を時間的に追うことが重要だと整理されています。

キャッチアップが起きると、一時的には同年齢の子どもより速く伸びます。しかし、これは「生まれつき成長速度が速い人」なのではなく、以前の抑制から回復する過程です。

同じ「よく伸びている」という現象でも、その背景が思春期の成長スパートなのか、病気後のキャッチアップなのかで意味は異なります。

成長速度が速いこと自体も、いつ起きるかで意味が変わる

身長が速く伸びていることは、必ずしもいつでも同じ意味ではありません。

思春期の時期に成長速度が上がるのは正常な生理現象です。一方、年齢に対して非常に早い時期に急成長し、同時に思春期徴候が進む場合には、思春期早発の評価が必要になることがあります。

また、成長速度が一時的に上がっていても、その後に成長板の成熟が早く進めば、最終的な成長期間が短くなる場合があります。

このため、「速く伸びている=必ず良い」という単純な評価はできません。年齢、成熟段階、過去の成長速度を合わせて見る必要があります。

体重の個人差と身長の個人差は同じ仕組みではない

成長の個人差というと身長だけを考えがちですが、体重や体組成にも人と人の差、同じ人の中の変化があります。

体重は脂肪、筋肉、水分などの影響を受けるため、身長より短期間でも大きく変化しやすい指標です。病気や食事量の変化によって体重が先に変わり、その後に身長の成長速度へ影響が現れる場合もあります。

反対に、思春期では身長、筋肉量、脂肪の分布が同時に変化しますが、その変化の割合には個人差があります。

そのため、成長を評価するときには身長だけでなく、体重やBMIの推移も一緒に見ることで、状態変化の手がかりが増えます。

測定のばらつきも「変化」に見えることがある

成長曲線を見るときには、実際の生物学的変化だけでなく、測定誤差にも注意が必要です。

身長は測る姿勢、測定器、時間帯などでわずかに変わります。短い間隔で数mmの差が出たからといって、それをそのまま成長速度の変化と考えることはできません。

成長速度を判断するときには、適切な方法で測定された複数回の記録を、十分な期間をあけて比較することが重要です。

WHOの成長基準も、一回の測定値だけでなく成長速度を評価するための基準を用意しており、成長が動的な過程であることを前提としています。

平均から離れていても、その人の曲線に沿っていれば意味が違う

成長曲線では、平均からどの程度離れているかが分かります。しかし、それだけで正常か異常かを決めることはできません。

平均より低い位置でも、長期間ほぼ同じ範囲に沿って成長している人もいます。その場合、「人と人の差」として安定している可能性があります。

一方、平均範囲内にいても、以前より成長速度が落ち、複数の基準線を下向きに横切っている場合には「同じ人の中の変化」として注意が必要なことがあります。

このため、成長曲線では位置と傾きの両方を見ることが重要です。

同じ年齢の比較だけでは思春期の差を過大に見てしまうことがある

学校では同じ学年の子ども同士を比べる機会が多いため、身長差が大きく感じられることがあります。

しかし、思春期の開始時期には個人差があり、同じ暦年齢でも生物学的な成熟段階は同じではありません。

日本人小児の縦断データでは、思春期の最大成長速度に達する平均年齢は男子約13歳、女子約11歳ですが、その時期には個人差があります。したがって、同じ12歳でも一人はすでに成長スパート中で、別の人はまだその前ということが普通にあります。

このような時期には、人と人の身長差が一時的に大きく見えやすくなります。

「個人差」と「状態変化」を区別すると何が分かる?

この二つを区別すると、成長の見方がより具体的になります。

人と人の差として安定している場合には、その子の体質や家族的な成長パターンの可能性を考えやすくなります。一方、同じ人の中で成長速度が明らかに変わった場合には、思春期、病気、栄養、ホルモンなど最近の状態変化を考える必要があります。

また、急に伸び始めた場合にも、正常な思春期なのか、早すぎる成熟なのか、病気からの回復によるキャッチアップなのかを区別する手がかりになります。

つまり、個人差を「違っていて当然」で終わらせず、どの種類の違いなのかを見ることで、正常な幅と確認が必要な変化を分けやすくなります。

どのような変化なら医療機関で確認したほうがよい?

成長には広い個人差がありますが、以前までの成長曲線から明らかに下向きへ外れてきた場合や、身長の伸びが急に低下した場合には確認が必要なことがあります。

反対に、年齢に比べて非常に早い時期に急激な身長増加と思春期変化が起きる場合も、成熟の進み方を確認する意味があります。

体重減少、慢性的な腹痛や下痢、強い疲労、長く続く病気などを伴う場合にも、単なる個人差とは別に評価することがあります。

日本小児内分泌学会も、身長の一回の値だけでなく、成長曲線を作って経過を見ることを勧めています。

成長の個人差を整理すると

成長の個人差には、同じ時点で比べる「人と人の差」と、同じ人を時間的に追ったときに現れる「同じ人の中の変化」があります。

人と人の差には遺伝、思春期の時期、ホルモンへの反応、体格などが関係します。同じ人の中の変化には、年齢に伴う正常な成長速度の変化、思春期、病気、栄養状態、回復後のキャッチアップなどが関係します。

この二つは見た目だけでは区別できないことがあります。だからこそ、成長を見るときには「周囲と比べてどこにいるか」と「過去の自分と比べてどう変わったか」を両方確認することが大切です。成長曲線は、その二つの違いを一緒に見るための道具なのです。

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参考資料

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