なぜ液体では縦波、固体では縦波と横波が伝わるのか?

音は空気だけでなく、水や金属の中も伝わります。しかし、媒質が変わると「伝わり方」まで同じとは限りません。

水や空気のような流体では、音は基本的に圧縮と膨張が進行方向へ伝わる縦波として進みます。一方、固体では縦波だけでなく、粒子が進行方向と直角に動く横波も伝わることができます。

この違いは、液体と固体が持つ弾性の種類の違いから生まれます。液体は体積を縮められると元へ戻ろうとしますが、ゆっくりした横ずれを保つ「せん断」に対しては形を維持できません。固体は圧縮だけでなく、横ずれに対しても元へ戻ろうとする力を持ちます。

つまり、空気以外で音が伝わる原理を法則として理解する鍵は、体積弾性率・せん断弾性率・密度です。

目次

結論:媒質がどの変形に対して復元力を持つかで、伝わる波の種類が決まる

機械波が伝わるには、媒質が変形したときに元へ戻そうとする復元力が必要です。

変形には大きく二つあります。

  • 圧縮・膨張:体積を小さくしたり大きくしたりする変形
  • せん断:体積をあまり変えず、横方向へずらす変形

液体や気体は圧縮には抵抗するため、圧力変化を縦波として伝えられます。しかし静的なせん断変形を保つ剛性がほぼないため、通常の横波は伝わりません。

固体は圧縮にもせん断にも復元力を持つため、縦波と横波の両方を伝えられます。

OpenStaxは、流体ではせん断強度がほとんどないため音波は縦波となり、固体では縦波と横波の両方が成立すると説明しています。

縦波と横波は「粒子がどちら向きに動くか」で区別する

波には、波そのものが進む方向と、媒質の粒子が振動する方向があります。

縦波では、粒子の振動方向が波の進行方向と平行です。

たとえば右へ進む縦波では、媒質の粒子も左右方向へ前後に振動します。空気や水の音波が代表例です。

横波では、粒子の振動方向が波の進行方向と垂直です。右へ進む波で、粒子が上下に振動するような形です。

弦を上下にはじいたときの波は横波です。固体内部でも、横ずれに対する復元力があれば同様のせん断波が伝わります。

液体でも圧縮に対する復元力はある

液体は「形を自由に変える」ため、弾性がないように見えるかもしれません。

しかし液体にも、体積を縮められたときに強く押し返す性質があります。

この圧縮されにくさを表すのが体積弾性率Kです。

体積弾性率は、圧力変化Δpと相対的な体積変化ΔV/Vを使って、

K = -Δp / (ΔV/V)

と表されます。

Kが大きいほど、少し圧縮しただけで大きな圧力変化が生じます。

水が空気より圧縮されにくいのは、体積弾性率が大きいからです。そのため圧力変化を効率よく隣へ伝え、水中でも縦波として音が進みます。

液体中の縦波速度は体積弾性率と密度で決まる

流体中の縦波速度vは、理想化した条件では

v = √(K/ρ)

と表されます。

Kは体積弾性率、ρは密度です。

この式は、波の速さが「復元力を表す弾性」と「動きにくさを表す慣性」の比の平方根で決まることを示しています。

東北大学の解説でも、音速は材料の弾性力と密度の組み合わせで決まり、空気・水・固体で大きく異なると説明されています。

液体中で縦波が成立するのは、圧縮に対するKがゼロではないからです。

では、なぜ液体では横波が伝わりにくいのか

横波が伝わるためには、媒質を横へずらしたときに元へ戻そうとする力が必要です。

この性質を表すのがせん断弾性率Gです。

固体を横方向へ少し変形させると、内部にせん断応力が生じ、元の形へ戻ろうとします。

一方、液体を横へずらしてそのまま待つと、液体は流れて新しい形へなじみます。静的な意味で形を元へ戻そうとするせん断剛性をほぼ持ちません。

したがって通常の流体では、

G ≈ 0

と考えられます。

横波速度は概念的に

vS = √(G/ρ)

なので、Gがほぼ0なら、通常のせん断横波は伝播できません。

固体ではせん断弾性率が0ではない

固体は、横へずらしても形を維持しようとします。

これは原子や分子の結合が、圧縮だけでなく横ずれに対しても復元力を生むからです。

そのため固体ではせん断弾性率Gが有限の値を持ちます。

横方向へ変形すると、内部の復元力が隣の部分を横へ動かし、その変形が次々に伝わります。

これが固体中を進む横波、つまりせん断波です。

Feynman Lecturesも、液体では保持できないせん断変形に対して固体は元へ戻ろうとするため、固体には液体では成立しないせん断波が存在すると説明しています。

固体中の横波速度はvS=√(G/ρ)で表せる

一様で等方的な固体を単純化して考えると、せん断波の速度vSは

vS = √(G/ρ)

と表せます。

Gが大きいほど横ずれに強く抵抗するため、横波は速く伝わります。

一方、密度ρが大きいほど同じ力では加速しにくいため、速度を小さくする方向に働きます。

北海道大学の固体・液体を扱った超音波研究でも、液体中では横波音響波が伝播しない一方、固体では縦波と横波を区別して扱う必要があることが示されています。

固体中の縦波は、体積変化とせん断変形の両方が関係する

固体の縦波は、単純な液体の縦波より少し複雑です。

三次元の固体を縦方向へ圧縮すると、進行方向だけでなく横方向の変形も関係するため、復元力には体積弾性率Kとせん断弾性率Gの両方が寄与します。

等方的な弾性体では、縦波速度vPは

vP = √{(K + 4G/3)/ρ}

と表せます。

一方、横波速度は

vS = √(G/ρ)

です。

KもGも正の通常の固体では、K+4G/3はGより大きいため、縦波の方が横波より速くなるのが一般的です。

なぜ地震のP波はS波より先に届くのか

地震では、地下の固体中を縦波と横波が伝わります。

縦波はP波、横波はS波と呼ばれます。

P波の速度には体積弾性率Kとせん断弾性率Gの両方が関係し、S波には主にGが関係します。

そのため通常の岩石ではP波の方が速く、地震計には先にP波、遅れてS波が到着します。

OpenStaxも、地震波では縦波と横波が異なる速度で進み、一般にP波がS波より速いと説明しています。

S波が液体の外核を通らないことは、地球内部を調べる手掛かりになった

地球内部では、地震のS波が液体層を通過できないことが重要な情報になります。

横波にはせん断弾性率が必要ですが、液体では静的なせん断剛性がほぼありません。

そのためS波は液体の外核をそのまま伝播できません。

一方、圧縮波であるP波は液体中でも伝わります。

この違いを地震観測で調べることで、地球内部に液体の層が存在することを推定できます。

「液体では横波が伝わらない」という物理法則が、直接見ることのできない地球内部構造の観測に使われているのです。

水面の波が上下に動くからといって、水中の音が横波というわけではない

海や池の表面を見ると、水面が上下に揺れながら波が進みます。

このため「水にも横波があるのでは」と思うかもしれません。

水面波は、液体内部を進む単純なせん断横波とは別の現象です。

水面には重力や表面張力が働き、粒子は上下だけでなく前後にも動きます。表面波は縦・横の成分が組み合わさった運動です。

一方、水中を伝わる通常の音波は主に圧縮と膨張による縦波です。

OpenStaxも、水面波は縦・横成分の組み合わせである一方、水や空気中の音波は縦波であると区別しています。

粘性があるなら液体でも横方向の力は伝わるのでは?

液体には粘性があるため、横方向の運動が隣へまったく影響しないわけではありません。

たとえば液体をかき混ぜれば、粘性によって周囲の液体も引きずられます。

しかしこれは通常の弾性横波とは性質が違います。

弾性波では、変形に対して復元力が働き、慣性と組み合わさって波として伝播します。通常のニュートン流体では静的なせん断弾性率が0に近く、せん断変形は粘性によって拡散的に減衰します。

そのため日常的な液体では、固体中のS波のような長距離を伝わる通常のせん断波は成立しません。

高周波や特殊な液体では事情が複雑になる

「液体では横波は絶対に存在しない」と無条件に言い切ると、厳密には単純化しすぎる場合があります。

非常に高い周波数、粘弾性的な液体、複雑流体などでは、観測する時間スケールによって固体に近い弾性的応答を示すことがあります。

その場合、横方向の集団運動を議論することもあります。

ただし、通常の音響・可聴音・水や空気を扱う範囲では、「流体の音は主に縦波、固体では縦波と横波が可能」という整理が基本です。

音が境界を越えると、縦波と横波が変換されることがある

固体と固体の境界へ波が斜めに入射すると、入射した縦波の一部が反射・屈折するときに横波へ変換されることがあります。

逆に、横波の一部が縦波へ変換されることもあります。

これは境界面で力と変位の条件を満たすためです。

このモード変換は、超音波非破壊検査や地震波解析で重要です。

一方、固体から液体へ入る場合、液体側では通常のせん断波を支えられないため、伝播できる主な成分は縦波になります。

超音波検査では波の種類を使い分ける

固体内部を調べる超音波非破壊検査では、縦波と横波の性質の違いを利用します。

縦波は比較的速く伝わり、材料内部の厚さ測定などに使いやすい波です。

横波は速度が異なり、斜め方向のき裂など特定の欠陥を検出するのに有利な場合があります。

波の種類によって速度や偏り方が違うため、同じ材料でも検査目的に応じて使い分けられます。

東北大学では、超音波速度から材料の弾性定数を評価できることが紹介されており、波の伝播が材料の力学的性質を反映することが分かります。

空気・水・固体の違いを法則で整理する

媒質 体積弾性 せん断弾性 主な内部波
気体 ある ほぼない 縦波
通常の液体 ある 静的にはほぼない 縦波
固体 ある ある 縦波・横波

重要なのは、「粒子が近いか遠いか」ではなく、どの変形に対して復元力を持つかです。

圧縮への復元力があれば縦波を、せん断への復元力があれば横波を支えられます。

波の種類と速度は同じ法則でつながっている

縦波と横波は別の現象に見えますが、基本構造は同じです。

どちらも、

波の速さ ≈ √(対応する弾性 / 密度)

という形で理解できます。

流体の縦波なら体積弾性率K、固体の横波ならせん断弾性率G、固体の縦波ならKとGの組み合わせが復元力を表します。

媒質の変形の仕方によって「どの弾性率を使うか」が変わるだけで、復元力と慣性のバランスで波速が決まる原理は共通しています。

よくある疑問

液体では横波は絶対に伝わらないの?

通常の可聴音や水のようなニュートン流体では、静的なせん断弾性率がほぼ0なので、固体中のS波のような横波は伝わりません。ただし高周波や粘弾性的な特殊流体では、より複雑な応答を示す場合があります。

固体中の音はすべて横波なの?

いいえ。固体では縦波も横波も伝わります。さらに表面ではレイリー波など、縦・横成分を含む複雑な波も存在します。

水面が上下する波は横波ではないの?

水面波には上下運動がありますが、液体内部の単純なせん断横波とは異なります。粒子は前後にも動き、重力や表面張力が復元力になる表面波です。

P波とS波ではなぜP波の方が速いの?

通常の等方固体では、P波の復元力に体積弾性率Kとせん断弾性率Gの両方が寄与するのに対し、S波では主にGが寄与します。そのため一般にP波の速度の方が大きくなります。

音が固体から液体へ入ると横波はどうなる?

液体は通常のせん断波を支えられないため、横波成分はそのまま液体中をS波として伝播できません。境界で反射したり、条件によって縦波へ変換された成分が液体側へ伝わったりします。

まとめ

液体では縦波、固体では縦波と横波が伝わるのは、媒質がどの変形に対して復元力を持つかが違うからです。

液体や気体は体積を圧縮されると元へ戻ろうとするため、体積弾性率Kを持ちます。この復元力によって、圧縮と膨張が進行方向へ伝わる縦波が成立します。

一方、通常の流体は静的なせん断弾性率Gをほぼ持たないため、固体中のS波のような横波を支えられません。

固体は圧縮にもせん断にも復元力を持つため、縦波と横波の両方が成立します。等方固体では横波速度はvS=√(G/ρ)、縦波速度はvP=√{(K+4G/3)/ρ}で表せます。

つまり、空気・水・固体で音の伝わり方が違う理由は、「物質の粒子の並び方」だけではありません。体積変形とせん断変形に対して、どのような復元力を持つかという弾性の法則が、伝わる波の種類を決めているのです。

参考資料

関連記事

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次