なぜ同じ材料でも接触面の粗さ・圧力・すき間で熱の伝わり方が変わるのか?

同じ金属同士を接触させても、表面を鏡のように滑らかにした場合と、粗い研磨面のまま押し付けた場合では、熱の伝わり方が同じとは限りません。さらに、同じ表面でも締め付け圧力を変えたり、すき間に空気が入ったり、熱伝導シートやグリースを挟んだりすると、界面を通る熱流は変化します。

結論からいうと、接触面で熱の伝わり方が変わるのは、見かけ上の接触面積と、実際に固体同士が触れている真実接触面積が大きく違うからです。微小な凹凸の先端だけが接触すると、熱は限られた接触点へ集中して流れなければならず、そこで追加の温度差が生じます。この効果を熱接触抵抗と呼びます。

接触圧力を高くすると接触点が増えたり変形したりして真実接触面積が増えるため、熱接触抵抗は小さくなる傾向があります。逆に、表面が粗い、すき間が大きい、低熱伝導率の気体が間に残る、といった条件では熱が通りにくくなります。

目次

同じ材料なのに界面で温度差が生じるのはなぜか

一つの均一な材料の中を熱が流れる場合、温度勾配と熱伝導率によって熱流が決まります。

しかし二つの固体を接触させると、接触界面で温度が連続的につながらず、熱流があるのに温度差が生じることがあります。

この温度差ΔTと熱流束qを使って、単位面積あたりの熱接触抵抗Rcは、

Rc = ΔT/q

と表せます。

逆数の1/Rcは熱接触コンダクタンスで、値が大きいほど界面を熱が通りやすいことを意味します。

平らに見える表面でも本当は全面接触していない

金属板を目で見ると平らでも、顕微鏡レベルでは多数の微小な山と谷があります。

二つの面を重ねると、最初に触れるのはこうした微小突起の先端です。見かけ上は全面が接触していても、原子レベルで本当に接触している面積はその一部にすぎません。

J-STAGEの接触熱抵抗研究では、表面粗さや接触圧力の違いによって接触熱抵抗が変化することが実験的に示されています。

この「真実接触面積の小ささ」が、界面に熱抵抗が生じる基本的な理由です。

熱流が接触点へ集中すると何が起きるのか

固体内部では広い断面積を使って流れていた熱が、界面近くでは少数の接触点へ絞り込まれます。

この現象を熱流の収縮、あるいは熱縮流と呼びます。

接触点を通過した後、熱流は再び広い領域へ拡散します。

この収縮と拡散のため、界面付近では追加の温度勾配が必要になり、見かけ上の熱抵抗が増えます。

電子機器の熱設計に関するJ-STAGEの解説でも、熱接触抵抗は部材間の放熱経路で無視できない要素として扱われています。

表面が粗いほど熱接触抵抗が大きくなりやすいのはなぜか

表面粗さが大きいと、高い突起だけが相手面へ接触しやすくなります。

その結果、真実接触面積が小さくなり、熱が通る固体同士の経路が限定されます。

J-STAGEの実験では、粗い試料の方が滑らかな試料より接触熱抵抗が高く、滑らかな面では接触圧力を変えても抵抗変化が比較的小さい条件が報告されています。

ただし「粗さ」という一つの値だけですべてが決まるわけではありません。突起の高さ分布、うねり、形状、硬さ、弾性率なども接触状態へ影響します。

押し付け圧力を高くすると熱が通りやすくなるのはなぜか

接触面を強く押し付けると、微小突起が弾性変形または塑性変形します。

すると新しい接触点が生まれたり、既存の接触点が広がったりして、真実接触面積が増えます。

固体同士が直接つながる熱経路が増えるため、熱接触抵抗は一般に低下します。

J-STAGEでは、接触圧力を変化させた実験で、条件によって圧力増加に伴い接触熱抵抗が低下する傾向が確認されています。

圧力を上げれば無限に熱抵抗が下がるのか

いいえ。

ある程度まで接触面積が増えると、追加の圧力を加えても新しい接触面積の増加が小さくなる場合があります。

また電子部品や薄い材料では、高い締め付け圧力によって変形や破損が起こる可能性があります。

したがって実際の設計では、熱抵抗を下げる効果と、機械的な安全性を両立する必要があります。

すき間に空気があると熱が通りにくくなるのはなぜか

固体同士が接触していない谷の部分には、空気などの気体が残ります。

多くの金属に比べて空気の熱伝導率はかなり低いため、固体から気体、再び固体へ熱が渡る経路は、固体同士の直接接触より大きな熱抵抗を持ちます。

そのため同じ粗さでも、すき間の大きさや、そこに存在する気体の種類・圧力によって熱接触抵抗が変わることがあります。

真空中では接触熱抵抗はどうなるのか

真空度が高くなると、すき間中の気体分子による熱伝導は小さくなります。

すると界面を横切る熱は、主に固体同士が実際に接触している微小点を通る経路へ依存します。

J-STAGEの真空中の機械加工面に関する研究では、接触荷重、表面粗さ、材料硬さなどを考慮した熱接触抵抗の理論と実験が比較されています。

真空装置では気体経路が減るため、接触状態の良し悪しがさらに重要になる場合があります。

熱伝導グリースはなぜ効くのか

CPUとヒートシンクの間へ熱伝導グリースを塗るのは、金属より熱伝導率が高いから、というだけではありません。

重要なのは、表面の微小な谷を埋めて、熱伝導率の低い空気を押し出すことです。

グリースや柔らかい熱伝導材料は凹凸へ追従し、実効的な熱経路を増やします。

これにより、固体―気体―固体という高抵抗経路の一部を、より熱を通しやすい界面材経路へ置き換えられます。

界面材を厚くしすぎると逆効果になることがある

界面材自体にも熱伝導抵抗があります。

厚さt、熱伝導率kの界面材なら、その材料内部の熱抵抗は概ね、

R = t/k

に比例します。

そのため、すき間を埋めるために必要以上に厚くすると、今度は界面材そのものが熱抵抗になります。

J-STAGEのシリコーンゴムシート研究でも、接触熱コンダクタンスはシートの厚さと熱伝導率だけでなく、界面熱抵抗にも影響されることが示されています。

柔らかい界面材が有利なことがあるのはなぜか

柔らかい材料は、低い圧力でも表面の凹凸へ変形して入り込みやすくなります。

これにより真実接触面積を増やし、すき間を減らせます。

一方で、柔らかい材料は熱伝導率が金属ほど高くない場合があります。

したがって界面材では、柔軟性、厚さ、熱伝導率、必要圧力を合わせて最適化する必要があります。

接触面の硬さも影響する

同じ粗さでも、柔らかい金属と硬い金属では、押し付けたときの突起変形のしやすさが違います。

柔らかい材料では微小突起が塑性変形しやすく、真実接触面積が増える場合があります。

硬い材料では同じ圧力でも突起が変形しにくく、接触点の増加が小さいことがあります。

そのため熱接触抵抗は、表面粗さだけでなく材料の硬さや弾性率にも依存します。

表面のうねりや平面度も重要

粗さは微小スケールの凹凸ですが、それより大きなスケールのうねりや反りも接触状態へ影響します。

部品がわずかに反っていれば、中央だけ、あるいは端部だけが強く接触し、接触圧力が均一になりません。

すると熱流も局所的に集中し、場所によって界面温度差が変わります。

熱接触抵抗を正確に予測するには、平均粗さだけでなく接触圧力分布や平面度も考える必要があります。

接触圧力が場所によって違うと何が起きるのか

ねじ締結やクランプでは、接触面全体へ均一な圧力がかかるとは限りません。

ねじの近くは高圧、離れた場所は低圧になることがあります。

J-STAGEの電子実装に関する研究では、感圧シートで接触圧力分布を測定し、その分布を考慮して接触熱抵抗を評価する方法が検討されています。

このことからも、平均締め付け荷重だけでは熱接触状態を十分に表せないことが分かります。

温度によって接触熱抵抗が変わることもある

温度が変わると、材料の熱伝導率、硬さ、弾性率、熱膨張量などが変化します。

異なる材料同士を接触させている場合、熱膨張係数の違いによって締め付け力や接触圧力が変化することもあります。

また界面材が軟化したり、相変化したりすれば、表面への追従性が変わります。

海外の熱接触抵抗レビューでも、材料、接触圧力、表面粗さ、温度などが主要な影響因子として整理されています。

熱接触抵抗はどう測るのか

代表的な方法は定常法です。

二つの試料へ一定の熱流を通し、それぞれの内部温度分布を測定します。

各試料の温度勾配を接触面まで外挿し、界面両側の温度差ΔTを求めます。

既知の熱流束qを使えば、Rc=ΔT/qから接触熱抵抗を求められます。

J-STAGEでは定常法に加え、光音響法などによる接触熱抵抗測定も検討されています。

同じ材料でも測定値がばらつくのはなぜか

接触熱抵抗は、材料名だけではなく表面状態と組立条件に敏感です。

研磨方法、表面粗さ、清浄度、酸化膜、締め付けトルク、圧力分布、界面材厚さなどが少し違うだけでも、真実接触面積が変わります。

そのため接触熱抵抗は、バルクの熱伝導率のように「材料名だけで一つの値」として扱うことが難しい物性です。

利用例1:CPUとヒートシンク

CPUからヒートシンクへ熱を逃がす経路では、両者の接触面に熱接触抵抗があります。

ヒートシンク自体の熱伝導率が高くても、界面抵抗が大きければCPU温度は高くなります。

そこで適切な締め付け圧力を与え、熱伝導グリースやパッドを用いてすき間を埋めます。

利用例2:パワー半導体

パワー半導体では発熱密度が高く、チップから基板、放熱板、冷却器まで複数の界面を熱が通ります。

各界面に小さな熱抵抗があっても、それらが直列に積み重なると全体の温度上昇へ大きく影響します。

そのため接触圧力分布や界面材の性能を定量化することが重要です。

利用例3:真空・低温機器

真空装置や低温機器では、すき間気体による熱輸送が小さくなるため、固体接触点を通る熱伝導が支配的になることがあります。

このため接触荷重、表面仕上げ、材料硬さの影響を正確に評価する必要があります。

逆に、熱を遮断したい支持構造では、接触面積を小さくして接触熱抵抗を利用する設計も考えられます。

まとめ

同じ材料でも接触面の粗さ・圧力・すき間で熱の伝わり方が変わるのは、見かけの接触面積と真実接触面積が大きく異なるからです。

熱は実際に触れている微小接触点へ集中して流れ、その収縮・拡散によって界面に追加の温度差、つまり熱接触抵抗が生じます。

表面が滑らかになる、押し付け圧力が増える、柔らかい界面材ですき間を埋める、といった条件では真実接触面積が増え、熱抵抗が小さくなる傾向があります。一方、粗さ、うねり、低い接触圧力、空気すき間などは熱抵抗を増やします。

つまり接触部の熱伝導は、材料の熱伝導率だけでは決まりません。表面形状、機械的圧力、すき間の媒体、界面材、温度などを含む「接触状態」そのものが、熱の通り道を決めているのです。

参考資料

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