なぜ水や空気の中では物体を押し上げる浮力が生じるのか?

水に体を沈めると軽く感じ、船は重い荷物を積んでも水面に浮かびます。潜水艦は浮いたり沈んだりでき、熱気球は空気中を上昇します。これらに共通して働いているのが「浮力」です。

浮力が生じる直接の理由は、流体の圧力が場所によって異なり、物体の下側が受ける上向きの力が、上側が受ける下向きの力より大きくなるからです。重力のある静止した流体では、深い場所ほど上にある流体の重さを支える必要があるため圧力が高くなります。その圧力差を物体表面全体で合計すると、正味の上向きの力が残ります。これが浮力です。

そして、この浮力の大きさは「物体が押しのけた流体の重さ」に等しくなります。これがアルキメデスの原理です。

目次

まず「流体」とは何か

浮力は水だけで起こる現象ではありません。液体と気体をまとめて「流体」と呼びます。水、油、海水だけでなく、私たちの周囲にある空気も流体です。

そのため、水中の物体だけでなく、空気中の人や車、風船にも浮力は働いています。ただし、空気の密度は水よりずっと小さいため、日常の固体に働く空気の浮力は小さく、多くの場合は意識されません。

一方、熱気球やヘリウム風船のように体積が大きく、全体の平均密度が周囲の空気より小さい物体では、空気から受ける浮力が重要になります。

なぜ水は深いほど圧力が高くなるのか

静止している水の中では、深い場所ほど圧力が高くなります。これは、その地点より上にある水の重さを下側の水が支えているからです。

密度がほぼ一定の流体では、水面から深さhの位置の圧力増加は、単純化すると次の式で表せます。

Δp = ρgh

ここでρは流体の密度、gは重力加速度、hは深さです。

つまり、同じ水の中なら深くなるほど圧力は大きくなります。海に潜るほど水圧が高くなるのもこのためです。

OpenStaxの物理教材でも、浮力の出発点として「流体の圧力は深さとともに増える」ことが説明されています。物体の下面は上面より深い位置にあるため、下面にはより大きな圧力がかかります。

圧力はあらゆる方向から物体を押している

水圧は上から下へだけ働くわけではありません。静止した流体の圧力は、接している面に対して垂直な向きに作用します。

水中に直方体を沈めると、上面は下向きに押され、下面は上向きに押されます。左右の側面も水から押されます。

左右の同じ深さの圧力はほぼ同じなので、水平方向の力は互いに打ち消し合います。一方、下面は上面より深いため圧力が高く、下面から受ける上向きの力の方が大きくなります。

その差が、物体全体に働く上向きの力、つまり浮力です。

浮力は物体が浮いているときだけ働くのか

浮力は「浮いている物体だけ」に働く力ではありません。水中にある物体には、沈んでいても浮力が働いています。

OpenStaxは、浮力は物体が浮く場合、沈む場合、水中に静止する場合のすべてで存在すると説明しています。

たとえば鉄の塊を水に入れると沈みますが、これは浮力がゼロだからではありません。鉄の塊には上向きの浮力が働いていますが、その大きさより下向きの重力の方が大きいため、合力が下向きになって沈みます。

反対に浮力が重力より大きければ物体は上昇し、両者が等しければその場所にとどまることができます。

アルキメデスの原理は何を意味するのか

アルキメデスの原理は、物体が流体から受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた流体の重さに等しいという法則です。

流体の密度をρ、物体が押しのけた流体の体積をV、重力加速度をgとすると、浮力FBは次のように表せます。

FB = ρVg

国土交通省近畿地方整備局の神戸港の解説でも、水中の物体には押しのけた水の重さに等しい浮力が働くと説明されています。

この式から、浮力は物体自身の材質ではなく、基本的には「どの密度の流体を、どれだけの体積押しのけたか」で決まることが分かります。

なぜ「押しのけた流体の重さ」と等しくなるのか

物体が入っている場所から、その物体だけを取り除いたと考えてみます。空いた場所には、本来なら周囲と同じ流体が入ります。

その流体のかたまりが静止しているなら、周囲の流体から受ける圧力の合力は、その流体自身の重さをちょうど支えていなければなりません。

そこで、その流体のかたまりを同じ形・同じ大きさの別の物体に置き換えても、周囲の流体が表面に及ぼす圧力分布は基本的に同じです。したがって、物体が周囲の流体から受ける上向きの合力も、そこにあった流体の重さと等しくなります。

NASAの浮力教材でも、物体を同じ体積の流体に置き換えて考えることで、アルキメデスの原理を説明しています。

なぜ鉄の船は沈まずに浮くのか

鉄の密度は水より大きいため、鉄の塊をそのまま水へ入れると沈みます。それなのに、大量の鉄でできた船はなぜ浮くのでしょうか。

重要なのは、船全体の「平均密度」です。

船体は中が空洞になっており、大きな体積の空気を含んでいます。そのため、船全体の質量を船体が占める外形体積で割った平均密度は、鉄そのものの密度よりはるかに小さくなります。

船が水へ沈み込むと、それだけ多くの水を押しのけ、浮力が大きくなります。やがて押しのけた水の重さと船全体の重さが等しくなる深さで、船は浮きます。

同じ鉄でも、密な塊なら押しのける水の体積が小さく浮力が足りません。一方、船の形にして大きな体積の水を押しのければ、十分な浮力を得られます。

船に荷物を積むと深く沈むのはなぜか

船に荷物を積むと全体の重さが増えます。浮いたままつり合うには、それに対応して浮力も大きくならなければなりません。

浮力を大きくするには、より多くの水を押しのける必要があります。そのため船は少し深く沈み、排水体積が増えます。

押しのけた水の重さが、荷物を含む船全体の重さと等しくなったところで再びつり合います。

国土交通省の神戸港の解説でも、重い物を運ぶ船は浮力を大きくするため、水面下の体積を大きくする必要があると説明されています。

潜水艦はどうやって浮いたり沈んだりするのか

潜水艦は、船体の大きさを大きく変えずに平均密度を調整します。その代表的な仕組みがバラストタンクです。

タンクへ海水を入れると潜水艦全体の質量が増え、平均密度が大きくなります。浮力より重力が大きくなれば、潜水艦は沈む方向へ動きます。

逆にタンク内の海水を排出して空気を入れれば質量が減り、平均密度が小さくなります。浮力が重力より大きくなれば上昇できます。

また、浮力と重力をほぼ等しく調整すれば、水中で大きく上下せずに航行しやすくなります。

熱気球は空気の浮力で上がる

浮力は空気中でも働きます。熱気球は、周囲の空気を押しのけることで上向きの浮力を受けています。

気球内部の空気を温めると、同じ圧力条件では密度が低くなります。気球全体が押しのける外気の重さより、気球本体・かご・内部の暖かい空気を合わせた重さが小さくなれば、上向きの合力が生じて上昇します。

NASAも、熱気球や軽航空機は周囲の空気との密度差による浮力を利用すると説明しています。

ヘリウム風船も同じ考え方です。ヘリウムは空気より密度が小さいため、十分な体積があれば、押しのけた空気の重さによる浮力が風船全体の重さを上回ります。

「密度が小さいと浮く」はどういう意味か

物体が水に浮くか沈むかは、物体全体の平均密度と流体の密度を比較すると理解しやすくなります。

  • 物体の平均密度が流体より小さい:全部沈む前に浮力が重力とつり合い、浮く
  • 物体の平均密度が流体より大きい:完全に沈んでも浮力が重力に足りず、沈む
  • 平均密度が流体とほぼ等しい:浮力と重力がつり合い、水中にとどまりやすい

ただし、「密度が小さいから自動的に上向きの力が発生する」というより、実際には圧力差が浮力を生み、その浮力と重力の比較を密度で簡潔に判断できる、と考える方が正確です。

海水の方が真水より浮きやすいのはなぜか

海水には塩分が含まれるため、一般に真水より密度が大きくなります。

浮力はFB = ρVgなので、同じ体積を押しのけるなら、密度ρが大きい流体ほど浮力も大きくなります。

そのため、人や船は真水より海水の方が浮きやすくなります。非常に塩分濃度の高い水では、さらに大きな浮力を感じやすくなります。

一方、海水の密度は温度や塩分、圧力によって変化するため、精密な海洋観測や潜水機の運用では、その違いも考慮します。

空気にも浮力があるなら、体重計の値にも影響するのか

影響します。ただし日常では非常に小さいため、普通の体重測定ではほとんど意識されません。

空気中の物体は、その体積に相当する空気を押しのけています。そのため、押しのけた空気の重さに等しい上向きの浮力を受けます。

高精度な質量測定では、この空気浮力を無視できない場合があります。J-STAGEに掲載された物理教育の研究でも、電子天秤を使って気体に働く浮力を測定する実験が紹介されています。

つまり、浮力は「水の中だけの特殊な力」ではなく、重力下の流体中にある物体に一般的に現れる力です。

重力がなければ浮力もなくなるのか

通常の静水圧による浮力は、重力が作る圧力勾配と深く結びついています。

地上では、流体自身に重さがあるため、下へ行くほど圧力が高くなります。この圧力差が浮力を生みます。

一方、理想化された無重力環境では、流体の重さによる上下方向の圧力勾配がほとんどなくなるため、地上と同じ意味での浮力は現れにくくなります。そのため、温度差があっても「暖かい流体が浮き、冷たい流体が沈む」という自然対流も弱くなります。

ただし、回転や加速度がある系では、重力に似た有効な力場が生じ、圧力差と浮力に相当する現象が現れることがあります。

浮力は「水が上へ押す特別な力」ではない

浮力を、流体が一方向だけに押す特別な力だと考えると理解しにくくなります。

実際には、流体は物体表面のあらゆる方向から圧力を加えています。その圧力を物体全体で合計した結果、重力場では上下の圧力差によって上向きの合力が残ります。

したがって、浮力の本質は「流体の圧力分布による合力」です。アルキメデスの原理は、その合力の大きさを「押しのけた流体の重さ」という非常に簡潔な形で表しています。

まとめ

浮力が生じるのは、重力のある流体では深い場所ほど圧力が高くなり、物体の下面が受ける上向きの力が、上面が受ける下向きの力より大きくなるからです。

その圧力差を物体表面全体で合計すると上向きの力が残り、その大きさは物体が押しのけた流体の重さに等しくなります。これがアルキメデスの原理です。

物体が浮くか沈むかは、浮力と重力の大小で決まります。鉄の船は大きな体積の水を押しのけることで浮き、潜水艦は平均密度を調整し、熱気球は周囲の空気より全体の平均密度を小さくすることで上昇します。

浮力は水だけに働く不思議な力ではありません。液体や気体の圧力が場所によって異なることで生まれる、流体中の物体に共通する力なのです。

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