手からボールを離すと地面へ落ちます。一方、月は地球へ落下してしまわず、地球のまわりを回り続けています。地上の「落下」と宇宙の「公転」は、まったく別の現象に見えるかもしれません。
しかしニュートン力学では、両者は同じ法則で説明できます。質量をもつ物体同士には万有引力が働き、その力が物体を加速させるからです。
地上の物体は、地球の重力によって地球中心方向へ加速します。月や人工衛星も同じように地球へ向かって加速しています。ただし、横方向に十分な速度を持っているため、地球へ落ちながら地表を外し続け、軌道を回ります。
この「落下」と「公転を同じ重力で説明する」という統一こそ、ニュートンの万有引力の大きな意味です。
万有引力の法則とは何か
ニュートンの万有引力の法則では、質量をもつ2つの物体は互いに引き合います。
2物体の質量をm1、m2、中心間距離をrとすると、引力の大きさFは
F = Gm1m2 / r2
で表されます。
Gは万有引力定数です。
この式から、万有引力には主に二つの特徴があることが分かります。
- 質量が大きいほど強い:どちらかの質量を2倍にすれば、他の条件が同じなら引力も2倍になります。
- 距離が大きいほど急速に弱くなる:距離を2倍にすると、引力は4分の1になります。
JAXAも、人工衛星では地球から離れるほど地球から受ける重力が弱くなると説明しています。OpenStaxでも、万有引力は2物体の質量に比例し、距離の2乗に反比例すると整理されています。
なぜ「万有」引力と呼ばれるのか
重要なのは、この法則が地球の近くにある物体だけに適用されるのではないことです。
地球とリンゴ、地球と月、太陽と地球、惑星同士、恒星同士など、質量をもつ物体の間には基本的に同じ形の重力が働きます。
OpenStaxは、ニュートンの大きな洞察として、地表付近の落下運動と月の運動を同じ重力法則で結びつけたことを説明しています。
「地上の物理」と「天上の物理」を別々に考えるのではなく、同じ自然法則で扱えるようになったことが、万有引力の法則の歴史的な重要性です。
地上で物体が落ちるのはどう説明できるのか
地球の質量をM、地球中心から物体までの距離をr、物体の質量をmとします。
物体が受ける重力は
F = GMm / r2
です。
一方、ニュートンの第2法則では
F = ma
なので、両者を組み合わせると
a = GM / r2
となります。
ここで物体自身の質量mが消えています。空気抵抗などを無視すれば、同じ場所では重い物体も軽い物体もほぼ同じ重力加速度で落ちる理由を、この式から説明できます。
地球表面付近のgはどこから出てくるのか
地球表面付近では、地球中心からの距離rはおおよそ地球半径Rで一定とみなせます。
そのため、
g = GM / R2
と置けば、地表付近の重力加速度を表せます。
つまり、学校で使うF = mgは、万有引力の法則を地球表面付近で簡単な形にしたものと考えられます。
地球から高く離れるとrが大きくなるため、gは小さくなります。そのため、重力加速度は宇宙空間へ行った瞬間にゼロになるのではなく、距離とともに徐々に弱くなります。
月はなぜ地球へ落ちないのか
月にも地球の重力が働いています。したがって月は、実は常に地球へ向かって「落ち続けて」います。
それでも地表へ衝突しないのは、月が横方向にも大きな速度を持っているからです。
もし重力がなければ、月は慣性によってほぼ直線方向へ進みます。しかし地球の重力が中心方向へ働くため、その進行方向が少しずつ曲げられます。
月が進む間に地球表面も曲がって遠ざかるため、月は地球へ向かって落下しながら地表を外し続けます。その結果が公転軌道です。
OpenStaxでは、ニュートンが地上の落下と月の軌道運動を結びつけたことを、万有引力の中心的な考えとして説明しています。
人工衛星も「落ち続けている」のか
人工衛星も同じです。
JAXAによると、地表に近い低軌道の人工衛星はおよそ8 km/sという大きな速度で地球のまわりを飛んでいます。地球から離れるほど重力が弱くなるため、円軌道に必要な速度も変わります。
人工衛星は重力がほとんどない場所を飛んでいるのではありません。地球の重力を受けながら自由落下し続けています。
ただし横方向の速度が十分に大きいため、落下する軌道が地球表面と交わらず、地球のまわりを回り続けます。
円軌道の速さはどう決まるのか
単純化して、質量mの人工衛星が地球質量Mのまわりを半径rの円軌道で回るとします。
円運動に必要な向心力は
F = mv2 / r
です。
この向心力を万有引力
F = GMm / r2
が担うので、
mv2 / r = GMm / r2
となります。
整理すると、
v = √(GM / r)
です。
この式から、軌道半径rが大きいほど、円軌道に必要な速度は小さくなることが分かります。JAXAが「軌道が高くなるほど人工衛星の速度は遅くなる」と説明する内容と一致します。
なぜ遠くなると重力は距離の2乗に反比例するのか
ニュートンの万有引力の法則では、重力は1/r2に比例して弱くなります。
これは「逆二乗則」と呼ばれます。
直感的には、中心から広がる影響が、半径rの球面全体へ広がっていくことと関係づけて考えられます。球面の面積は4πr2なので、距離が大きくなるほど同じ“広がり”がより大きな面積へ分散します。
ただし、万有引力の逆二乗則そのものは観測と理論によって確立された自然法則です。球面への広がりは理解を助ける説明ですが、それだけで法則の根本原因を完全に導いたことにはなりません。
ケプラーの法則と万有引力はどうつながるのか
ニュートン以前、ケプラーは観測データから惑星運動の規則性を三つの法則としてまとめていました。
代表的には、惑星は太陽を焦点の一つとする楕円軌道を動くことや、公転周期と軌道の大きさの間に一定の関係があることです。
NASAは、ケプラーの法則がニュートンの万有引力理論の発展に重要な役割を果たし、ニュートンの理論が惑星の軌道を生む力を説明したと紹介しています。
つまり、ケプラーの法則は「惑星がどのように動くか」を観測から記述し、ニュートンの万有引力は「なぜそのように動くのか」を力学で説明したと整理できます。
公転周期と軌道半径の関係も重力から説明できる
円軌道で近似すると、軌道速度vは
v = 2πr / T
と書けます。Tは公転周期です。
これを
v = √(GM / r)
と組み合わせると、
T2 = 4π2r3 / GM
となります。
これは、公転周期の2乗が軌道半径の3乗に比例するというケプラー第3法則につながります。
OpenStaxでも、ニュートンの万有引力と運動方程式からケプラー第3法則を導けることが説明されています。
惑星の軌道はなぜ円ではなく楕円になるのか
円軌道は理解しやすい特別な場合です。実際の惑星軌道は一般に楕円です。
物体の初速度と位置がちょうど円軌道の条件を満たさなければ、重力の下で軌道は楕円などになります。
重力は常に中心天体の方向へ働きますが、物体は同時に慣性によって進み続けます。その組み合わせによって、軌道が形成されます。
NASAは、惑星が楕円軌道を描き、太陽に近いところでは速く、遠いところでは遅く動くというケプラーの法則を紹介しています。
重力は離れると0になるのか
万有引力は距離の2乗に反比例して弱くなりますが、理想的なニュートン重力では有限の距離で突然0にはなりません。
遠く離れるほど非常に小さくなりますが、どこまで行っても理論上は残ります。
そのため、太陽の重力は惑星だけでなく、非常に遠い小天体の運動にも影響します。銀河や連星など、宇宙の大規模な運動も重力によって形づくられています。
なぜ宇宙飛行士は無重力のように見えるのか
国際宇宙ステーションの宇宙飛行士は、ふわふわと浮いて見えます。しかし、地球の重力がなくなったわけではありません。
宇宙船も宇宙飛行士も、ほぼ同じ重力加速度で地球へ向かって自由落下しています。
床が宇宙飛行士を支えて押し上げる必要がないため、体重を感じにくくなります。これが「無重量状態」と呼ばれる状態です。
OpenStaxも、軌道上の宇宙飛行士は重力がないのではなく、宇宙船とともに自由落下しているために重さを感じないと説明しています。
地上の落下と公転は何が同じで、何が違うのか
共通しているのは、どちらも重力によって加速度を受けていることです。
違うのは、主に初速度の向きと大きさです。
- ほぼ静かに手を離した物体:横方向の速度が小さいため、地表へ落下する
- 十分な横速度を持つ人工衛星:地球へ落ちながら地表を外し続け、軌道を回る
- さらに大きな速度:条件によっては地球の重力圏から遠くへ離れる軌道になる
つまり、落下と公転は「重力が違う」のではなく、重力を受ける物体の運動条件が違うのです。
万有引力の法則はどこまで正確なのか
ニュートンの万有引力は、地上の多くの現象、人工衛星、惑星運動などを非常に高い精度で扱えます。
しかし、極端に強い重力場や非常に高精度な測定では、アインシュタインの一般相対性理論が必要になります。
たとえば水星の近日点移動、光の曲がり、ブラックホール周辺、重力による時間の遅れなどは、一般相対論によってより正確に説明されます。
それでも、人工衛星の基本的な軌道や惑星運動の多くでは、ニュートンの万有引力は今も極めて有用な近似です。
「重力がなぜ存在するか」と「重力がどう働くか」は別の問い
万有引力の法則は、「質量と距離から重力がどれくらいの大きさになるか」「その力で物体がどう動くか」を説明します。
一方、「なぜ質量やエネルギーがあるとそもそも重力が生じるのか」という問いは、より根本的なテーマです。
現代物理では、その仕組みを一般相対性理論が時空の曲がりとして説明します。
したがって、万有引力の記事では重力の法則と運動への効果を理解し、一般相対論の記事では重力そのもののより深い仕組みを扱う、と分けると理解しやすくなります。
まとめ
地上の落下と天体の公転を同じ法則で説明できるのは、どちらも質量をもつ物体同士に働く万有引力によって生じる運動だからです。
万有引力の大きさは
F = Gm1m2 / r2
で表され、質量が大きいほど強く、距離が大きいほど弱くなります。
地表付近ではこの法則がF = mgという形につながり、物体の落下を説明します。一方、月や人工衛星は横方向の速度を持ちながら重力で中心方向へ加速するため、地球へ落ちながら地表を外し続け、公転軌道を描きます。
ニュートンの大きな成果は、「リンゴが落ちること」と「月が地球を回ること」を別々の現象ではなく、同じ重力法則の異なる現れとして統一したことです。
関連記事
参考資料
- JAXA 有人宇宙技術部門「人工衛星はどのくらいの速さで地球の周りをまわっているのでしょうか」
- OpenStax「Newton’s Law of Universal Gravitation」
- OpenStax Astronomy 2e「Newton’s Universal Law of Gravitation」
- NASA Science「Orbits and Kepler’s Laws」

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