「作用反作用の力は同じ大きさで反対向きなら、打ち消し合ってゼロになるのでは?」という疑問は、ニュートンの第3法則で最も起こりやすい混乱の一つです。
答えは、どの物体を一つの「系」として考えているかで変わります。
一つの物体だけを見ると、作用反作用の2力は別々の物体に働くため、同じ運動方程式の中で打ち消し合いません。一方、相互作用する2物体をまとめて一つの物体系として見ると、その2力は系の内部で働く内力となり、全物体について足し合わせたときに相殺します。
この違いを理解すると、作用反作用、自由物体図、内力・外力、運動量保存が一つにつながります。
作用反作用の法則を確認する
物体Aが物体Bに力を及ぼすと、物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を及ぼします。
AがBに及ぼす力をFAB、BがAに及ぼす力をFBAとすると、
FAB = −FBA
です。
OpenStaxも、ニュートンの第3法則について、二つの物体は互いに同じ大きさで反対向きの力を及ぼし合うと説明しています。
重要なのは、FABはBに働き、FBAはAに働くという点です。
なぜ一つの物体では打ち消し合わないのか
物体Aだけの運動を考えてみます。
Aに働く力を全部足して、ニュートンの第2法則
ΣFA = mAaA
を使います。
この式に入れるのは、Aに働く力だけです。
BがAに及ぼす力FBAは入りますが、AがBに及ぼす力FABはBに働く力なので、Aの運動方程式には入りません。
したがって、作用反作用の2力をAの式の中で足してゼロにすることはできません。
自由物体図では「その物体に働く力」だけを描く
この考え方は自由物体図で特に重要です。
たとえば、人が壁を押しているとします。
人の自由物体図には、
- 壁が人を押す力
- 地面から人が受ける摩擦力
- 重力
- 床からの垂直抗力
などを描きます。
一方、「人が壁を押す力」は壁に働く力なので、人の自由物体図には描きません。
OpenStaxも、泳ぐ人と壁の例で、人が壁を押す力と壁が人を押す力は別々の物体に働くため、泳ぐ人だけを系とした自由物体図では互いに打ち消し合わないと説明しています。
では、いつ作用反作用の力は相殺するのか
人と壁の両方をまとめて「人+壁」という一つの系として考えると状況が変わります。
人が壁を押す力と、壁が人を押す力は、どちらもその系の内部で物体同士が及ぼし合う力になります。
このような力を内力と呼びます。
ニュートンの第3法則により、内力は対になって
FAB + FBA = 0
となるため、系全体について力を足したときに相殺します。
内力と外力の違い
内力とは、選んだ系の中にある物体同士が及ぼし合う力です。
外力とは、系の外部にある物体が、系の中の物体へ及ぼす力です。
たとえば「2台の台車AとB」を一つの系とします。
- AがBを押す力:内力
- BがAを押す力:内力
- 人がAを外から押す力:外力
- 床からA・Bに働く摩擦力:系に床を含めなければ外力
同じ力でも、どこまでを系に含めるかによって内力・外力の分類は変わります。
物体系全体の運動方程式を作る
物体AとBの運動方程式をそれぞれ書きます。
Aについて、
mAaA = FA,ext + FBA
Bについて、
mBaB = FB,ext + FAB
です。
この2式を足すと、
mAaA + mBaB = FA,ext + FB,ext + FBA + FAB
となります。
第3法則により、
FBA + FAB = 0
なので、
mAaA + mBaB = Fext,total
となります。
つまり、系全体の運動を変えるのは、内力ではなく外力の合計です。
なぜ内力は系全体の運動量を変えないのか
運動量を使うと、この関係はさらに分かりやすくなります。
物体AとBの全運動量を
P = pA + pB
とします。
各物体についてF = dp/dtを使い、全物体について足し合わせると、
dP/dt = Fext,total + Fint,total
です。
内力が作用反作用の対として相殺するなら、
Fint,total = 0
なので、
dP/dt = Fext,total
となります。
MIT OpenCourseWareの系の運動量に関する教材でも、ニュートンの第3法則によって内力が対で相殺し、系全体の運動量変化は外力の合計で決まると説明されています。
外力が0なら運動量が保存する
もし系に働く外力の合計が0なら、
dP/dt = 0
です。
したがって、
P = 一定
となり、系全体の運動量が保存されます。
つまり、ニュートン力学では「内力の作用反作用」と「運動量保存」は深く結びついています。
衝突で二つの物体が大きく運動を変えるのに、なぜ全運動量は保存できるのか
二つの台車が衝突すると、それぞれの速度は大きく変わります。
これは、衝突中に互いへ大きな内力を及ぼし合うからです。
AはBから力を受けて運動量を変え、BもAから反対向きの力を受けて運動量を変えます。
しかし、作用反作用の力は同じ大きさで反対向きなので、同じ時間だけ作用すれば力積も反対向きで等しくなります。
そのため、
ΔpA = −ΔpB
となり、
Δ(pA + pB) = 0
です。
各物体の運動量は変わっても、2物体全体の運動量は変わりません。
ロケットでは作用反作用の力がどう働くのか
ロケットはガスを後方へ噴射し、ガスから前向きの力を受けます。
ロケットだけを系とすれば、ガスがロケットへ及ぼす力は外力として扱われます。
一方、ロケットと噴射されたガスをまとめて一つの系とすれば、両者が及ぼし合う力は内力になります。
外部からの力を無視できる範囲では、ロケットが前向きの運動量を得ると同時に、ガスが後ろ向きの運動量を得て、系全体の運動量は保存されます。
人が歩くときは内力だけで前進できるのか
人の体の内部で筋肉が及ぼし合う力だけでは、人の重心を外部に対して加速させることはできません。
人が歩くときは、足で地面を後ろへ押し、地面から前向きの摩擦力を受けます。
「人」だけを系とすれば、地面からの摩擦力は外力です。
この外力が人の運動量を変え、人を前へ加速させます。
一方、「人+地球」を一つの系に広げれば、人と地面の摩擦は内力となり、人が前へ進む分だけ地球側にもごく小さな反対向きの運動量変化が生じます。
二人がスケート上で押し合うとどうなるのか
摩擦の小さい氷の上で二人が互いに押し合うと、二人は反対方向へ離れていきます。
Aだけを見れば、Bから受ける力がAを加速します。
Bだけを見れば、Aから受ける反対向きの力がBを加速します。
AとBを一つの系として見ると、この押し合う力は内力として相殺します。
外力がほぼ0なら、二人全体の運動量は保存されます。
最初に二人が静止していたなら、
mAvA + mBvB = 0
となります。
質量が違っても作用反作用の力は同じなのか
同じです。
たとえば重い人と軽い人がスケート上で押し合っても、互いに及ぼす力の大きさは同じです。
ただし、加速度は
a = F/m
なので、質量が小さい人の方が大きく加速します。
作用反作用の「力が等しいこと」と、「運動の変化が同じこと」は別です。
力のつり合いと内力の相殺は何が違うのか
この二つも混同されやすい概念です。
力のつり合いは、一つの物体に働く複数の力の合力が0になることです。
内力の相殺は、複数物体を一つの系として合計したとき、物体同士の相互作用力が作用反作用の対として消えることです。
力のつり合いでは「同じ物体」に働く力を足します。
内力の相殺では「別々の物体」に働く力を、系全体の式を作るために全物体について足します。
似ていますが、計算の意味は異なります。
机の上の本で考える
机の上の本には、下向きの重力と上向きの垂直抗力が働きます。
本が静止していれば、この2力がつり合っています。
しかし、この2力は作用反作用の組ではありません。
作用反作用の組は、
- 机が本を上向きに押す力
- 本が机を下向きに押す力
です。
「本だけ」を系とすると、机が本を押す力だけが本の運動方程式に入ります。
「本+机」を系とすると、この2力は内力として相殺します。
重力の作用反作用も系を変えると内力になる
地球が物体を下向きに引くと、物体も地球を上向きに同じ大きさで引きます。
物体だけを系とすれば、地球から受ける重力は外力です。
地球と物体を一つの系とすれば、両者の重力は内力になります。
その場合、地球と物体の全運動量は、外力がなければ保存されます。
物体だけが地球へ落ちているように見えますが、実際には地球も物体側へごくわずかに動いています。
なぜ「系の選び方」が重要なのか
物理問題では、最初に何を系として扱うかを決めると整理しやすくなります。
系を狭く取れば、外力として扱う力が増えます。
系を広く取れば、物体同士の相互作用の多くが内力となり、系全体の式では相殺できます。
たとえば衝突問題では、衝突する2物体をまとめて一つの系にすると、大きな衝突力を直接計算しなくても運動量保存を使える場合があります。
内力なら何でも必ず相殺するのか
通常のニュートン力学で、2物体間の力がニュートンの第3法則を満たすなら、内力のベクトル和は対ごとに0になります。
ただし、現代物理で電磁場などを含む一般的な状況では、物体同士の機械的な力だけを取り出すと単純な作用反作用の形にならない場合があります。
その場合でも、場が持つ運動量まで含めた全体系では、運動量保存が成り立つ形で記述されます。
したがって、学校物理や通常のニュートン力学では「内力は第三法則により相殺する」と扱えますが、より一般的な理論では系に何を含めるかがさらに重要になります。
内力が相殺しても内部で何も起こらないわけではない
内力の総和が0でも、系の中では各物体が大きく運動を変えることがあります。
衝突、爆発、ばねでつないだ物体、ロケットと排気ガスなどがその例です。
内力は個々の物体の運動量を交換させます。
ただし、系全体で見ると、その交換はプラスとマイナスが対応するため、全運動量は外力によってしか変わりません。
重心の運動ともつながる
系の全質量をM、重心加速度をaCMとすると、ニュートン力学では
M aCM = Fext,total
と書けます。
内力は系全体で相殺するため、重心の運動を変えるのは外力だけです。
系の内部で爆発や衝突が起きても、外力が0なら重心は等速直線運動を続けます。
MIT OpenCourseWareでも、系の内部力が相殺することから、系の運動量や重心運動が外力によって決まることが説明されています。
作用反作用を考えるときの3つの確認点
混乱を避けるには、次の順序で考えると分かりやすくなります。
- どの物体に働く力か:作用反作用の2力は別々の物体に働く。
- 何を系として選んだか:系の内部に両方の物体があれば、その相互作用は内力になる。
- 何を求めたいか:個々の物体の運動なら各自由物体図、系全体の運動なら外力と全運動量を見る。
この3点を区別すれば、「打ち消し合うのか、打ち消し合わないのか」という矛盾はなくなります。
既存の「作用反作用とは何か」という説明とは何が違うのか
作用反作用そのものを扱う記事では、「同じ大きさ・反対向き・同時に・別々の物体に働く」というニュートンの第3法則の意味が中心です。
一方、この記事では、その2力がなぜ一つの物体では相殺せず、複数物体を一つの系として足し合わせたときには内力として相殺するのかを重点的に扱っています。
つまり、前者は第三法則の「意味」、本記事は第三法則を「物体系と運動量保存へどう使うか」が主題です。
まとめ
作用反作用の力が別々の物体では打ち消し合わないのは、二つの力が同じ物体ではなく、それぞれ別の物体に働いているからです。
物体Aの運動方程式にはAに働く力だけを入れ、物体Bの運動方程式にはBに働く力だけを入れます。そのため、第三法則の2力を一つの物体の式の中で相殺することはできません。
一方、AとBをまとめて一つの物体系とすると、AとBが及ぼし合う力は内力になります。ニュートンの第3法則により、その内力は全物体について足し合わせたときに相殺します。
その結果、系全体については
dP/dt = Fext,total
となり、外力が0なら全運動量が保存されます。
つまり、作用反作用の力は「いつでも打ち消し合う」のでも「決して打ち消し合わない」のでもありません。個々の物体を見るか、物体系全体を見るかによって、力の扱いが変わるのです。
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参考資料
- 名古屋大学学術機関リポジトリ「運動の法則と運動方程式」関連教材
- OpenStax「Newton’s Third Law of Motion」
- MIT OpenCourseWare「External and Internal Forces and the Change in Momentum of a System」
- MIT OpenCourseWare「Momentum, System of Particles, and Conservation of Momentum」

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