水を満たしたペットボトルの中に、少量の空気を含む小さな容器を浮かべます。ペットボトルを手で押すと、その小さな容器は沈み、手を離すと再び浮き上がります。
このおもちゃは浮沈子、英語ではCartesian diverと呼ばれます。
なぜ、外からペットボトルを押しただけで浮沈子が沈んだり浮いたりするのでしょうか。
ポイントは、圧力が上がると浮沈子の中の空気が圧縮され、浮沈子全体の体積や平均密度が変化することです。
その結果、浮力と重力の大小関係が変わり、沈む・浮くが切り替わります。
浮沈子はどんなしくみなのか
浮沈子には、スポイトや小さな容器などが使われます。
その中には水と少量の空気が入っており、最初は水面近くでぎりぎり浮くように調整されています。
ペットボトルを押すと内部の圧力が上がり、浮沈子内の空気が小さくなります。
開いたタイプでは、その分だけ水が浮沈子の中へ入り、浮沈子全体の質量が増えます。
すると平均密度が水より大きくなり、沈み始めます。
手を離すと圧力が下がり、空気が膨らんで水を押し出すため、平均密度が小さくなって再び浮きます。
なぜペットボトルを押すと中の圧力が上がるのか
密閉されたペットボトルを押すと、容器内部の体積を小さくしようとします。
水は非常に圧縮されにくいため、押した力によって主に内部の圧力が上昇します。
この圧力上昇は水を通して浮沈子へ伝わります。
浮沈子の中の空気は水よりはるかに圧縮されやすいため、外圧が上がると空気部分の体積が小さくなります。
圧力は水の中をどのように伝わるのか
密閉された流体へ加えた圧力は、流体を通して各方向へ伝わります。
浮沈子では、ペットボトルの壁を押したことで生じた圧力上昇が、水を通じて浮沈子の外側へ伝わります。
Virginia Techの物理デモでも、ペットボトルを押すと水中の圧力が増え、その圧力が浮沈子内部の空気を圧縮することで沈むと説明されています。
空気が圧縮されると何が変わるのか
浮沈子内部の空気は、圧力が高くなると体積が小さくなります。
温度変化が小さい近似では、気体について
pV ≈ 一定
というボイルの法則で考えられます。
圧力pが大きくなると、空気体積Vは小さくなります。
浮沈子はこの空気体積の変化を利用して、自分の平均密度や押しのける水の体積を変えています。
開いた浮沈子ではなぜ水が中へ入るのか
下側が開いた浮沈子では、内部に空気が閉じ込められています。
外部の水圧が上がると、その水が開口部から浮沈子の中へ入り込みます。
入ってきた水が内部の空気をさらに圧縮します。
UCSBの物理デモでも、圧力を上げると水が浮沈子内部へ入り、空気を圧縮し、浮沈子の密度を高めるため沈むと説明されています。
平均密度が変わるとなぜ浮いたり沈んだりするのか
物体が水中で浮くか沈むかは、物体全体の平均密度と水の密度を比べると理解しやすくなります。
平均密度は、
ρobj = m/V
です。
浮沈子の平均密度が水より小さければ浮き、水より大きければ沈みます。
最初は水よりわずかに小さい密度になるよう調整されています。
ペットボトルを押すと、内部へ水が入ったり空気体積が小さくなったりして、平均密度が大きくなります。
水より大きくなれば、浮沈子は沈みます。
浮力の式ではどう説明できるのか
浮力はアルキメデスの原理により、押しのけた水の重さに等しく、
FB = ρwaterVdispg
と表せます。
ρwaterは水の密度、Vdispは押しのけた水の体積です。
浮沈子の重力は
W = mg
です。
FB > Wなら上向きに加速し、FB < Wなら下向きに加速します。
浮沈子は圧力によってVやmの条件を変え、この大小関係を切り替えています。
「水が入って重くなる」だけで説明してよいのか
開いたスポイト型の浮沈子なら、「水が中へ入って質量が増える」という説明は有効です。
ただし浮沈子には、柔らかい密閉容器のように、外圧で容器全体の体積が小さくなるタイプもあります。
その場合は質量がほぼ同じでも、外形体積が小さくなり、押しのける水の体積Vdispが減るため浮力が小さくなります。
したがって本質は、圧力によって空気体積が変わり、平均密度や排水体積が変わることです。
柔らかい密閉浮沈子ではなぜ沈むのか
柔らかい密閉容器に空気が入っているタイプでは、外圧が上がると容器自体が少し縮みます。
質量mがほぼ一定でも体積Vが小さくなるため、
ρ = m/V
で平均密度が大きくなります。
同時に押しのける水の体積も減るため、浮力も小さくなります。
UCSBの解説でも、密閉タイプでは圧力で浮沈子が圧縮され、排水体積が減るため沈むと説明されています。
なぜ水そのものはほとんど縮まないのか
液体の水は、気体に比べて非常に圧縮されにくい物質です。
そのため、ペットボトルを手で押す程度の圧力変化では、水の体積はほとんど変わりません。
一方、空気は圧縮されやすいため、圧力変化の効果は主に空気部分へ現れます。
浮沈子が動く鍵が「水の圧縮」ではなく「空気の圧縮」にあるのはこのためです。
なぜ最初からぎりぎり浮くように調整するのか
浮沈子の密度が水よりずっと小さいと、少し圧力を上げただけでは水より重くなりません。
逆に最初から密度が水より大きければ、何もしなくても沈んでしまいます。
そこで、初期状態では水よりわずかに小さい平均密度になるよう、水やおもりの量を調整します。
すると小さな圧力変化だけで、浮く・沈むの境界を越えられるようになります。
浮沈子を途中の深さで止められるのはなぜか
ペットボトルを押す強さを細かく調整すると、浮沈子を水中の途中でほぼ静止させることができます。
このとき、浮力と重力がほぼ等しく、
FB ≈ W
となっています。
平均密度で言えば、浮沈子全体の平均密度が水とほぼ同じ状態です。
Virginia Techも、浮力と重力を釣り合わせるよう調整すると浮沈子を中間位置に保てると説明しています。
中性浮力とは何か
上向きの浮力と下向きの重力がほぼ等しく、上にも下にも加速しない状態を中性浮力と呼びます。
潜水艦やダイバーも、この考え方を利用して深さを調整します。
浮沈子は、非常に簡単な装置で中性浮力の考え方を体験できる実験です。
浮沈子と潜水艦は同じ原理なのか
完全に同じ装置ではありませんが、平均密度を変えて浮沈を調整する点は共通しています。
潜水艦はバラストタンクへ海水を入れたり、圧縮空気で海水を押し出したりして全体の平均密度を変えます。
浮沈子は外部圧力で内部空気の体積を変え、結果として平均密度や排水体積を変えます。
どちらも、重力と浮力の大小関係を操作して沈む・浮くを切り替えています。
ペットボトルを強く押すほど速く沈むのか
ある範囲では、強く押すほど圧力が高くなり、空気がより圧縮されます。
すると平均密度がより大きくなったり、排水体積がより小さくなったりして、重力と浮力の差が大きくなります。
その結果、下向きの加速度が大きくなり、沈みやすくなります。
ただし実際の速度は水の抵抗も受けるため、圧力だけで単純には決まりません。
手を離すとなぜ元に戻るのか
手を離すと、ペットボトル内部の圧力は元へ戻ります。
圧縮されていた空気は再び膨張します。
開いたタイプでは、その膨張した空気が内部の水を外へ押し出します。
すると質量が減り、平均密度が小さくなります。
密閉タイプでは外形体積が戻り、押しのける水の体積が増えます。
どちらも浮力が重力を上回る方向へ戻るため、浮沈子は上昇します。
なぜ深く沈むとさらに沈みやすくなる場合があるのか
水圧は深くなるほど大きくなります。
浮沈子内部の空気が外部水圧とつながっている場合、深くなるにつれて空気がさらに圧縮されることがあります。
すると平均密度がさらに大きくなり、沈む傾向が強まることがあります。
一方、上昇すると圧力が下がって空気が膨らみ、さらに浮きやすくなる場合があります。
そのため中性浮力の状態は、装置によっては不安定になりやすいことがあります。
なぜ浮沈子は圧力の実験でもあるのか
浮沈子は浮力だけを示す実験ではありません。
J-STAGE「物理教育通信」203巻には、「浮沈子」とペットボトルによる圧力実験が教材として掲載されています。
この実験では、外から加えた圧力が水を通じて内部へ伝わり、気体の体積変化を起こすことが目で確認できます。
そのため、圧力、気体の圧縮、浮力、密度を一つの実験で結び付けて理解できます。
なぜ空気が全く入っていない物体では同じ動きになりにくいのか
空気のない硬い固体は、手で押す程度の圧力では体積がほとんど変わりません。
質量も体積もほぼ一定なので、平均密度も変わりません。
そのため、ペットボトルを押しただけで浮沈状態を大きく変えることは困難です。
浮沈子がうまく働くのは、内部に圧縮しやすい空気があるからです。
空気の量が多すぎるとどうなるのか
空気が多すぎると、浮沈子の平均密度が水よりかなり小さくなります。
多少圧縮してもまだ浮力が十分大きく、沈まないことがあります。
逆に空気が少なすぎると、最初から沈んでしまいます。
浮沈子を作るときは、最初にぎりぎり浮く程度へ調整するのが重要です。
水の温度で動き方が変わることはあるのか
精密には変わることがあります。
水温が変われば水の密度が変わり、空気の体積や圧力関係も温度の影響を受けます。
ただし、通常の教室実験では温度変化は小さいため、主な効果は圧力による空気体積の変化として説明できます。
なぜ浮力そのものは圧力が高いほど直接大きくなるわけではないのか
ここは誤解しやすい点です。
浮力は単に「周囲の圧力が高いほど大きい」というものではありません。
一様な密度の水中では、浮力は基本的に
FB = ρVg
で決まります。
浮沈子では、圧力上昇が空気体積Vや浮沈子内部の水量を変えるため、結果として浮力や平均密度が変化します。
つまり、圧力が浮力を直接増減させるのではなく、圧力によって浮沈子の状態量が変わることが重要です。
既存の「浮力が条件で変わる」記事とは何が違うのか
既存の記事では、海水・真水・空気の違い、水温・塩分・気圧などによる流体密度の変化を中心に、浮力F=ρVgがどう変わるかを扱っています。
一方、この記事では、同じ水の中でも、外部圧力によって浮沈子内部の空気体積が変わり、平均密度や排水体積が変化することで浮沈が切り替わる理由に絞っています。
つまり、前者は主に「流体側の条件」、本記事は「浮く物体側の圧縮可能な空気と体積変化」が主題です。
まとめ
ペットボトルを押すと浮沈子が沈み、離すと浮くのは、外部圧力によって浮沈子内部の空気体積が変化するからです。
ボトルを押すと圧力が上がり、空気が圧縮されます。
開いたタイプでは水が内部へ入り、質量が増えて平均密度が大きくなります。
密閉して柔らかいタイプでは、外形体積が小さくなり、押しのける水の量が減って浮力が小さくなります。
その結果、重力が浮力を上回れば沈みます。
手を離すと圧力が下がり、空気が膨張して元の状態へ戻るため、平均密度が小さくなったり排水体積が増えたりして、再び浮き上がります。
つまり、浮沈子は「圧力が気体体積を変えること」と「浮力・平均密度が浮沈を決めること」を一つにつないだ実験なのです。
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参考資料
- J-STAGE「物理教育通信 203巻」―「浮沈子」と「ペットボトルと風船で作る肺のモデル」
- Virginia Tech Department of Physics「Cartesian Divers Project」
- University of California, Santa Barbara「Cartesian Divers」
- OpenStax「Archimedes’ Principle and Buoyancy」

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