電磁石の鉄心を用途や周波数で使い分けるのは、強い磁場を作る能力だけでなく、磁化のしやすさ、残留磁化、磁気飽和、そして交流時の損失が材料ごとに大きく異なるからです。
直流で使う電磁石では、低い磁場でもよく磁化され、電流を切ると磁化が戻りやすい軟磁性材料が適します。一方、交流や高周波では磁化が繰り返し反転するため、ヒステリシス損失や渦電流損失を小さくすることが重要になります。そのため薄い電磁鋼板を積層した鉄心や、電気抵抗の高いフェライトなどが使われます。
つまり鉄心材料の選定は、「一番強く磁化できる材料を選ぶ」ことではありません。磁場の強さ、応答速度、損失、発熱、残留磁化、飽和磁束密度を用途ごとにバランスさせる設計です。
鉄心の役割はコイルの磁場を強めること
コイルに電流を流すと磁場が生じます。そこへ強磁性体の鉄心を入れると、鉄心内部の磁区が外部磁場方向へそろい、鉄心自身も磁化されます。その磁場がコイルの磁場へ加わるため、空芯コイルより大きな磁束密度を得やすくなります。
OpenStaxは、強磁性体をソレノイドへ入れると磁気双極子の整列によって内部磁場が大きく増えると説明しています。
直流用では磁化しやすさと残留磁化の小ささが重要
リレー、電磁弁、吸着用電磁石など、主に直流でオン・オフする装置では、電流を流したときに強く磁化され、切ったときに磁力が残りすぎないことが重要です。
そのため軟鉄や低炭素鋼など、保磁力が小さく、磁壁が比較的動きやすい軟磁性材料が使われます。残留磁化が大きすぎると、電流を切っても可動部が離れにくくなることがあります。
交流では鉄心の磁化が何度も反転する
交流電流では、電流の向きが周期的に変化します。そのためコイルの磁場も反転し、鉄心の磁化も正負方向へ何度も切り替わります。
このとき鉄心では、磁壁移動や磁気モーメントの回転に伴ってエネルギー損失が生じます。これがヒステリシス損失です。
交流機器では、この損失が発熱や効率低下につながるため、狭いヒステリシスループを持つ軟磁性材料が有利です。
導電性の高い金属鉄心では渦電流が生じる
変化する磁場の中に導電性の金属を置くと、電磁誘導によって鉄心内部に渦状の電流が流れます。これが渦電流です。
渦電流は鉄心内部でジュール熱を生み、電力損失になります。周波数が高くなるほど磁場の変化も速くなるため、渦電流損失は無視しにくくなります。
そのため交流用の鉄心では、単なる大きな鉄の塊よりも、渦電流の通り道を断つ構造が重要です。
電磁鋼板を薄く積層するのはなぜか
変圧器やモーターなどでは、薄い電磁鋼板を何枚も積層して鉄心を作る方法が広く使われます。
鋼板同士を電気的に絶縁して積層すると、鉄心内部を大きく回る渦電流を分断できます。その結果、渦電流損失を小さくできます。
薄くするほど渦電流経路は短くなりやすい一方、製造コストや機械強度、加工性とのバランスも必要です。
高周波ではフェライトが有利になる
フェライトは鉄を含む酸化物系の磁性材料で、金属磁性材料に比べて電気抵抗が高いことが大きな特徴です。
電気抵抗が高いと渦電流が流れにくいため、高周波でも渦電流損失を抑えやすくなります。このためスイッチング電源、インダクタ、高周波トランスなどで広く使われます。
東北大学の研究例でも、高周波フェライト磁心では周波数上昇に伴う鉄損と温度上昇を考慮した設計が重要とされています。
フェライトにも弱点がある
フェライトは高周波で有利ですが、金属系軟磁性材料より飽和磁束密度が低い場合があります。
そのため同じ断面積で非常に大きな磁束を通したい用途では、早く飽和へ近づくことがあります。また脆いセラミック材料なので、機械的な衝撃や加工性にも注意が必要です。
高周波特性だけでなく、必要な磁束密度と機械条件まで含めて選定する必要があります。
高周波化では材料損失そのものが設計課題になる
NIMSは、トランスやパワー回路の高周波化によって軟磁性材料の電力損失が増大することが課題であり、ナノ組織や磁区構造の制御で損失を低減する研究を進めています。
これは、高周波用途では「透磁率が高いか」だけでなく、実際に何kHzや何MHzでどれだけ損失が出るかが重要であることを示しています。
周波数が上がるほど、ヒステリシス損失、渦電流損失、動的な磁化応答など複数の要因を考える必要があります。
飽和磁束密度も材料選定を左右する
鉄心は外部磁場を強くすれば無限に磁化できるわけではありません。磁気モーメントがほぼそろうと磁化は飽和します。
飽和磁束密度が高い材料なら、大きな磁束を比較的小さな鉄心断面で扱いやすくなります。一方、飽和磁束密度が低い材料では、同じ磁束を扱うために断面積を大きくする必要がある場合があります。
高周波損失と飽和磁束密度はしばしばトレードオフになるため、用途ごとに最適点を探します。
リレーと高周波トランスでは求める鉄心が違う
直流リレーでは、低い電流で十分な吸引力が得られ、電流を切ると磁力がすぐ弱まることが重要です。そのため低保磁力の軟磁性金属が向いています。
一方、高周波トランスでは磁化が高速で反転するため、低損失と高電気抵抗が重要です。そのためフェライトや高周波向け軟磁性材料が使われます。
同じ「鉄心」でも、装置の目的が違えば最適材料も変わります。
モーターでは周波数と機械強度の両方を見る
モーターの鉄心には、回転磁場によって時間的に変化する磁束が通ります。そのため交流損失を抑えるために積層電磁鋼板が多く使われます。
同時に、回転体では機械強度、加工精度、コストも重要です。磁気性能だけを最大化すればよいわけではありません。
高回転化や高周波駆動が進むほど、薄板化や材料組織の最適化が重要になります。
永久磁石用材料と電磁石鉄心用材料は目的が逆に近い
永久磁石では、いったん磁化した後に磁化が消えにくい高保磁力材料が求められます。
一方、電磁石の鉄心では、電流の変化に合わせて磁化がすばやく変わる方が望ましいため、一般に低保磁力の軟磁性材料が適します。
同じ「磁性材料」でも、磁化を残したいのか、すぐ変えたいのかで求められる性質は反対になります。
鉄心材料は一つの性能だけで決めない
鉄心材料を選ぶときは、透磁率、飽和磁束密度、保磁力、ヒステリシス損失、電気抵抗、周波数特性、温度特性、機械強度、コストなどを総合して判断します。
直流電磁石なら磁化しやすさと低残留磁化、商用周波数の変圧器やモーターなら積層による渦電流低減、高周波ならフェライトや低損失軟磁性材料というように、用途で優先順位が変わります。
電磁石の鉄心を用途や周波数で使い分けるのは、材料ごとに得意な磁場の作り方と損失の出方が違うからです。最適な鉄心とは、最も強く磁化される材料ではなく、必要な磁束を最小の損失と発熱で安定して扱える材料なのです。
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参考資料
- 物質・材料研究機構(NIMS)「電力ロスを大幅に低減!革新的な鉄系磁性材料を開発」
- 東北大学 研究者紹介「スイッチング電源用高周波フェライト直交磁心の電気-磁気-熱連成解析手法」
- OpenStax University Physics Volume 2「Magnetism in Matter」

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