米麹、麦麹、豆麹、しょうゆ麹、焼酎麹などは、どれも「麹」と呼ばれます。しかし、同じ麹菌を使っても原料が違えば酵素活性や香りが変わり、同じ原料でも黄麹菌・白麹菌・黒麹菌など菌の種類が違えば、酸の作り方や耐酸性酵素の量が変わります。さらに、温度、水分、通気、製麹時間といった条件でも、できあがる麹の性質は変化します。
麹の性質が原料や製麹条件によって違うのは、麹菌が周囲にあるデンプン、タンパク質、脂質、細胞壁多糖などを感知し、それらを利用するための酵素を作り分けるうえ、菌種・菌株ごとに酸生成能や酵素生産能が異なり、さらに温度・水分・酸素などが菌糸の生長と酵素発現を変えるからです。つまり、麹の違いは「原料」「麹菌」「製麹条件」の組み合わせで生まれます。
麹は「原料+麹菌+製麹条件」で決まる
麹は、蒸した米、麦、大豆などへ麹菌を生育させたものです。麹菌は原料の表面から菌糸を伸ばし、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、セルラーゼ、β-グルカナーゼ、リパーゼなど、さまざまな酵素を分泌します。
ただし、どの酵素をどれだけ作るかは一定ではありません。麹菌は、周囲にどのような成分があるかによって酵素遺伝子の働きを変えます。また、麹菌の種類や菌株によっても、もともとの酵素生産能や酸生成能が異なります。
そのため、麹を比較するときには「米麹と麦麹」という原料差だけでなく、「黄麹と白麹」という菌種差や、「高温経過と低温経過」という製麹条件差も分けて考える必要があります。
米麹はデンプン分解が重要になりやすい
米はデンプンを多く含むため、米麹ではアミラーゼやグルコアミラーゼなどの糖化酵素が重要になります。
清酒では、米麹の酵素が蒸米のデンプンをブドウ糖などへ分解し、その糖を酵母がアルコール発酵に利用します。甘酒でも、米麹の糖化酵素によってデンプンが糖へ変わることが甘味の形成につながります。
一方、米麹でも、原料米の吸水状態や蒸し上がり、菌株、温度経過によって酵素活性は変わります。つまり「米を使えば同じ米麹になる」わけではありません。
麦麹では麦特有の細胞壁成分への対応が加わる
麦にはデンプンだけでなく、β-グルカンなど米とは異なる細胞壁成分が多く含まれます。そのため、麦麹ではこれらを分解する酵素の重要性が高くなります。
麦麹と米麹を比較した国内研究では、同じ麹菌でも麦の割合が高いほどβ-グルカナーゼ活性が高くなり、麦100%では米100%より高い活性を示しました。また、麹菌の種類によっても活性に大きな差がありました。
この結果は、麹菌が「どの原料上で育っているか」に応じて酵素生産のパターンを変えることを示しています。
豆麹ではタンパク質分解がより重要になる
大豆は米や麦に比べてタンパク質と脂質を多く含みます。そのため、豆麹ではプロテアーゼやペプチダーゼなど、タンパク質を分解する酵素の重要性が高くなります。
タンパク質が分解されると、ペプチドやアミノ酸が生じます。これらは味噌やしょうゆのうま味成分になるだけでなく、後の発酵で酵母や乳酸菌が利用する栄養源にもなります。
また、大豆などタンパク質に富む基質では、米麹では目立ちにくいリパーゼ活性などが高くなる例も報告されています。つまり、原料成分が違えば、麹菌にとって必要な分解酵素の組み合わせも変わります。
しょうゆ麹は大豆と小麦を同時に分解する
しょうゆ麹では、一般に大豆と小麦を組み合わせた原料へ麹菌を生育させます。
大豆からはタンパク質、小麦からはデンプンや炭水化物が供給されるため、しょうゆ麹にはプロテアーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、グルタミナーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなど、多種類の酵素が求められます。
2024年のしょうゆ麹に関するレビューでも、Aspergillus oryzaeやAspergillus sojaeなどの種麹と、その多種類の酵素が原料分解に重要であることが整理されています。
このように、しょうゆ麹は「糖化だけ」「タンパク質分解だけ」ではなく、複数の原料成分を同時に分解することが特徴です。
原料が違うと同じ麹菌でも酵素バランスが変わる
麹菌は、すべての酵素を常に同じ量だけ作っているわけではありません。周囲の基質を感知し、必要な酵素遺伝子の発現を変えます。
麦でβ-グルカナーゼ活性が高まりやすいことや、タンパク質の多い基質でタンパク質分解系の酵素が重要になることは、この基質応答の例です。
したがって、「米麹はこの酵素、麦麹はこの酵素」と完全に固定された分類ではありません。同じ麹菌でも、原料配合や原料処理が変われば、酵素活性の比率は変化します。
黄麹・白麹・黒麹では菌そのものの性質が違う
麹の違いは原料だけではありません。使用する麹菌の系統そのものでも大きく変わります。
黄麹菌は清酒、味噌、しょうゆなどで広く利用されます。白麹菌や黒麹菌は焼酎や泡盛で重要です。
焼酎用の黄麹・白麹・黒麹を同じ原料条件で比較した研究では、白麹・黒麹は黄麹よりクエン酸生成量が多く、もろみのpHを低く保ちやすいことが示されています。また、酵素活性のバランスも異なり、黄麹ではα-アミラーゼ活性が高い一方、白麹・黒麹では耐酸性α-アミラーゼ、β-グルコシダーゼ、セルラーゼ、酸性プロテアーゼなどが高い傾向が報告されています。
白麹・黒麹はなぜ焼酎で使われるのか
焼酎の仕込みでは、温暖な地域でも雑菌増殖を抑えながら安定して発酵させることが重要です。
白麹菌や黒麹菌は多量のクエン酸を作るため、もろみのpHを低下させます。この酸性環境が、不要な微生物の増殖を抑える助けになります。
さらに、白麹菌はデンプンを糖へ分解するアミラーゼ類も作ります。2022年の白麹菌レビューでも、白麹菌は糖化酵素を供給すると同時に、多量のクエン酸を分泌して焼酎もろみの安定化に寄与することが説明されています。
つまり、焼酎用麹では「デンプンを糖化する能力」だけでなく、「酸を作って発酵環境を整える能力」も重要です。
同じ原料でも麹菌を変えると味や発酵状態が変わる
麹菌の違いは、酵素分析上の数値だけでなく、後の発酵にも影響します。
芋焼酎で黄麹、白麹、黒麹を比較した研究では、白麹・黒麹ではクエン酸が多く、もろみのpHが低くなりました。また、プロテアーゼやセルラーゼなどの活性差が原料の分解状態、アミノ酸濃度、もろみの流動性、アルコール生成へ影響しました。
このため、麹菌を変えることは、単に「色の違う麹」を選ぶことではなく、原料分解・酸性化・香味形成の条件を変えることでもあります。
温度によって「菌を増やす」か「酵素や酸を作らせる」かが変わる
製麹中の温度は、菌糸生長と酵素生産の両方へ影響します。
一般に、温度が適した範囲では麹菌の生育が速くなります。しかし、目的は菌体量を最大化することだけではありません。必要な酵素や酸を十分に作らせることも重要です。
焼酎麹では、製麹後半の温度管理がクエン酸生成や酵素活性へ影響します。白麹のβ-グルコシダーゼ活性を調べた研究では、製麹終盤に活性が増加し、クエン酸生成に適した後半の温度経過で活性が高くなることが示されています。
したがって、製麹温度は「高いほどよい」「低いほどよい」ではなく、どの段階で何を作らせたいかによって調整されます。
水分が違うと菌糸の伸び方と酵素生産が変わる
麹は固体培養なので、原料の水分状態が非常に重要です。
水分が少なすぎると胞子の発芽や菌糸伸長が遅くなり、酵素反応も進みにくくなります。一方、水分が多すぎると原料粒が粘って空隙が減り、酸素が届きにくくなります。
米麹の酵素生産に関する研究でも、原料米の吸水量とアミラーゼ・プロテアーゼなどの酵素力との関係が調べられており、水分条件が麹の酵素活性を左右することが示されています。
同じ米と同じ麹菌を使っても、吸水や蒸しの状態が違えば、最終的な麹の性質は変わります。
通気と原料のほぐれ方も違いを作る
麹菌は好気性の糸状菌なので、生育には酸素が必要です。
原料粒が密着して空気が通りにくいと、内部では酸素不足になりやすくなります。逆に、強く乾燥させすぎる通気では表面の水分が失われ、菌糸生長が抑えられることがあります。
このため製麹では、原料をほぐす「手入れ」、送風、原料層の厚さ調整などによって、温度・水分・酸素を同時に整えます。
麹の違いは原料や菌種だけでなく、こうした物理的な培養環境によっても生まれます。
製麹時間で酵素バランスが変わる
麹菌は、製麹開始から終了まで同じ速度で同じ酵素を作るわけではありません。
初期には胞子が発芽して菌糸を増やし、中盤以降に原料分解酵素の生産が高まるものがあります。酵素ごとに増えやすい時期も異なります。
そのため、出麹のタイミングを変えると、菌糸量だけでなく、アミラーゼ、プロテアーゼ、β-グルコシダーゼなどの活性バランスも変わります。
必要な麹の性質に合わせて製麹時間を調整することは、最終製品の糖化、うま味、香り、発酵速度を調整することにつながります。
清酒用・味噌用・しょうゆ用・焼酎用で重視する性質が違う
麹に求められる性質は、最終的に何を作るかによって変わります。
- 清酒用:米デンプンを酵母が利用できる糖へ変える糖化力が重要
- 甘酒用:高い糖化力と甘味形成が重要
- 味噌用:糖化に加えてタンパク質分解とうま味形成が重要
- しょうゆ用:大豆タンパク質と小麦炭水化物の両方を分解する多酵素系が重要
- 焼酎用:糖化酵素に加えてクエン酸生成と酸性条件で働く酵素が重要
この違いに合わせて、原料、種麹、製麹温度、製麹時間などが選ばれます。
「米麹か麦麹か」だけで品質を決めることはできない
原料名は麹の特徴を理解する重要な手がかりですが、原料だけで品質が決まるわけではありません。
同じ麦麹でも、使う麹菌の菌株が違えばβ-グルカナーゼ活性などが大きく異なることがあります。同じ米麹でも、清酒用の黄麹と焼酎用の白麹では、クエン酸生成や耐酸性酵素の特徴が異なります。
さらに、同じ菌株でも温度・水分・通気・時間によって酵素活性が変化します。
したがって、麹の違いを理解するときには「何の原料か」「何の麹菌か」「どの条件で作ったか」をセットで見る必要があります。
まとめ
麹の性質が原料や製麹条件によって違うのは、麹菌が周囲の基質に応じて酵素生産を変え、さらに麹菌の菌種・菌株ごとに酵素生産能や酸生成能が異なり、温度・水分・酸素・時間によってその働き方が変わるからです。
米麹ではデンプン分解、麦麹ではβ-グルカンなど麦特有の成分分解、豆麹ではタンパク質分解がより重要になります。しょうゆ麹では大豆と小麦を同時に分解する多種類の酵素が必要です。
さらに、黄麹・白麹・黒麹ではクエン酸生成や酵素活性のバランスが異なります。白麹・黒麹は焼酎で酸性環境を作るのに適し、黄麹は清酒など別の発酵食品で利用されています。
つまり、「麹の違い」は一つの原因ではなく、原料成分、麹菌の遺伝的性質、製麹環境が組み合わさって生まれます。麹を比較するときは、この三つの軸を分けて見ることが重要です。
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参考資料
- 松田茂樹・工藤康文「麦麹の製麹におけるβ-グルカンとβ-グルカナーゼ活性の変化」日本食品保蔵科学会誌, 2000.
- 麹菌菌種の違いが芋焼酎の香味形成に及ぼす影響(第1報)酵素活性と芋焼酎醪の差異, 日本醸造協会誌, 2021.
- Starter molds and multi-enzyme catalysis in koji fermentation of soy sauce brewing: A review. Food Research International, 2024.
- The white koji fungus Aspergillus luchuensis mut. kawachii. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2022.

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