なぜ甘味は冷やすと最初の強さと慣れ方が別々に変わるのか?

甘い飲み物を冷やすと「甘さが弱くなった」と感じることがあります。ところが、温度の影響はそれだけではありません。

ヒトの実験では、37℃から21℃程度へ軽く冷やしても最初の甘味はあまり弱くならない一方、その後同じ甘味を味わい続けると甘味が弱くなる「順応」が速くなることがあります。さらに5〜12℃まで強く冷やすと、今度は最初の甘味そのものも弱くなることがあります。

つまり、冷却は「最初にどれくらい甘く感じるか」と「その甘さがどれくらい早く薄れるか」という二つの過程へ別々に影響します。

目次

結論:冷却は甘味の初期強度と、反復刺激への順応速度へ別々に作用するから

  • 軽い冷却では、最初の甘味強度が大きく変わらないことがある
  • 同じ条件でも、甘味への順応は速くなることがある
  • 5〜12℃の強い冷却では、初期甘味そのものも低下することがある
  • 温度効果はスクロース、グルコース、フルクトース、人工甘味料などで同じではない
  • 味細胞の温度感受性やT1R2/T1R3周辺の信号伝達が関係すると考えられている
  • 実際の食品では香りや粘度も温度で変わるため、単純溶液よりさらに複雑になる

そのため、「冷たいほど甘くない」という一つの法則だけでは、甘味と温度の関係を説明できません。

「最初の甘さ」と「慣れて弱くなる速さ」は別の現象

甘味を感じた直後の強さを「初期甘味強度」と考えることができます。

一方、同じ甘味刺激を数秒間続けたり、短い間隔で繰り返したりすると、だんだん甘味が弱くなることがあります。これは甘味順応です。

この二つは関連しますが、同じ現象ではありません。

温度は初期甘味をほとんど変えずに、順応だけを速める場合があります。

21℃程度の軽い冷却では、最初の甘味が弱くならないことがある

2015年のヒト研究では、舌を37℃付近から21℃程度へ冷やしたとき、スクロースの最初の甘味強度は大きく低下しませんでした。

つまり、少し冷たい程度では「最初の一口の甘さ」は保たれる場合があります。

この結果は、「温度が下がれば必ず甘味が弱くなる」という単純な考え方に当てはまりません。

でも、軽い冷却で甘味への順応は速くなる

同じ研究では、21℃程度への冷却で初期甘味が保たれていても、同じ甘味刺激へ3秒、10秒とさらした後には甘味の低下が大きくなりました。

つまり、最初は同じくらい甘くても、時間がたつと冷たい条件の方が早く甘さが薄れて感じられることがあります。

このことから、温度は甘味受容の「立ち上がり」と「持続」を別々に調節していると考えられます。

5〜12℃まで冷やすと、最初の甘味も弱くなる

さらに低い温度まで冷やすと、初期甘味そのものも低下します。

2015年の実験では、5〜12℃の強い冷却で、スクロースなど複数の甘味刺激の甘味強度が直接低下しました。

つまり、冷却の効果には少なくとも二段階あります。

軽い冷却では主に順応速度が変わり、強い冷却では初期甘味にも影響が出やすくなります。

なぜ軽い冷却と強い冷却で作用が違うの?

完全な仕組みはまだ解明されていません。

甘味受容では、T1R2/T1R3甘味受容体から細胞内シグナルが伝わり、TRPM5などを介して味細胞が興奮します。

TRPM5は温度感受性を持つため、温度が下がると甘味信号が弱くなる可能性があります。

一方、軽い冷却で初期甘味が保たれたまま順応だけが変わることから、TRPM5だけでは説明しきれず、T1R2/T1R3より上流または周辺の過程も温度の影響を受ける可能性が指摘されています。

甘味料の種類によって温度効果が違う

同じ「甘味」でも、すべての甘味料が同じ温度依存性を示すわけではありません。

2015年のヒト研究では、スクロース、グルコース、フルクトース、スクラロース、アスパルテーム、サッカリンで温度効果の大きさが異なりました。

これは、甘味物質ごとに受容体との結合位置や活性化様式が異なるためと考えられます。

日本の研究でも、甘味料ごとに温度差が違った

日本の官能研究では、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、糖アルコールなど8種類の甘味料溶液を7℃、25℃、43℃で比較しました。

その結果、フルクトースとキシリトールでは温度による甘味強度の変化が見られましたが、ほかの甘味料では明瞭な変化が見られませんでした。

このことからも、温度効果は「甘味」というカテゴリー全体で一様ではありません。

市販飲料では温度差がさらに大きくなることがある

同じ日本の研究では、市販甘味飲料11種類も7℃、25℃、43℃で比較されました。

こちらでは7℃で甘味が弱く、43℃で甘味が強く感じられる飲料が多く、飲料群全体では温度の主効果が有意でした。

単純な甘味料溶液より実際の飲料で温度差が大きく出たことから、香り、酸味、粘度など甘味以外の要素も影響していると考えられます。

冷たい飲み物で「最初は甘いのに、途中から甘くなくなる」ことはある?

あります。

軽い冷却で初期甘味が保たれ、順応だけが速くなる条件では、最初の一口では十分甘く感じても、連続して飲むうちに甘味が弱く感じられる可能性があります。

このような時間変化は、一口だけの官能評価では見逃されることがあります。

飲料の甘さを設計するときには、「最初の甘さ」だけでなく「数口後の甘さ」も重要です。

逆に、温かいと甘味が長く続くの?

条件によっては、冷却より順応が遅くなるため、甘味が長く保たれる場合があります。

ただし、温度を上げると香りの揮発や口当たりも変わるため、実際の食品での甘味持続は味覚順応だけでは決まりません。

温かい飲料では香りが強まり、それが甘味を増強することもあります。

舌の温度も重要

温度効果では、飲み物そのものの温度だけでなく、刺激前の舌の温度も重要です。

連続して冷たいものを口にすると、舌の表面も冷えます。

すると次の一口は、同じ温度の飲み物でも、最初の一口とは違う状態で受け取られます。

そのため、数口飲んだときの甘味変化には、味覚順応と口腔内温度の変化の両方が関係します。

口腔内を強く冷やすと、甘味以外の味も弱くなる

2023年のヒト研究では、口腔内冷却によってスクロース、NaCl、キニーネなどの味覚が一時的に低下しました。

冷却終了後は回復傾向を示しましたが、すぐには完全に元へ戻らない味もありました。

つまり、強い冷却では甘味だけでなく味覚全体が一時的に鈍くなる可能性があります。

甘味順応には温度以外の条件も影響する

甘味への順応は、温度だけで決まりません。

甘味料の種類、濃度、刺激時間、口をすすぐかどうか、次の刺激までの間隔などでも変わります。

そのため、ある研究で21℃で順応が大きかったからといって、すべての冷たい飲料で同じ変化が起こるとは限りません。

冷たい食品では香りの弱まりも加わる

実際の食品では、低温になると香気成分が揮発しにくくなることがあります。

甘い印象を持つ香りが弱くなれば、糖濃度が同じでも甘味の印象が低下することがあります。

そのため、アイスクリームや冷たい飲料で感じる甘味低下には、味覚受容だけでなく嗅覚も関係します。

食品開発ではなぜ重要なの?

冷たい清涼飲料やアイスデザートは、実際に食べる温度で甘さを評価する必要があります。

常温でちょうどよい甘味でも、冷やすと初期甘味が弱くなったり、数口後の甘味が早く下がったりすることがあります。

そのため、糖や甘味料の種類、香り、酸味を含め、提供温度と時間変化を考えた設計が重要です。

まとめ

甘味は冷やすと、最初の強さと慣れ方が別々に変わることがあります。

21℃程度への軽い冷却では最初の甘味が大きく変わらなくても、同じ甘味への順応が速くなることがあります。

さらに5〜12℃まで強く冷やすと、初期甘味そのものも低下しやすくなります。

この二段階の違いには、甘味受容体T1R2/T1R3からTRPM5へ至る信号伝達の温度感受性や、甘味料ごとの受容様式の違いが関わると考えられています。

つまり、「冷たいほど甘くない」のではなく、冷却は甘味の立ち上がりと持続を別々に変えるのです。

参考資料

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