なぜ冷蔵庫は食品を低温に保てるのか?

冷蔵庫の中は、部屋よりずっと低い温度に保たれています。しかも、庫内には電熱線のような「冷たさを作る装置」が見えるわけではありません。それなのに、なぜ食品を低温に保てるのでしょうか。

冷蔵庫が食品を低温に保てるのは、冷媒という物質を循環させながら、庫内の熱を吸収して外へ運び出す「冷凍サイクル」を繰り返しているためです。冷たさを作るというより、庫内から熱を取り除き、その熱を冷蔵庫の外へ捨て続けていると考えるとわかりやすいでしょう。

目次

冷蔵庫は「冷気を作る」より「熱を外へ運ぶ」装置

温度とは、物質を構成する分子の運動状態と関係しています。食品や庫内の空気が温かいということは、それだけ多くの熱エネルギーを持っているということです。

冷蔵庫は、その熱を庫内から外部へ移動させます。自然のままでは熱は温かい方から冷たい方へ流れやすいため、低温の庫内から高温の室内へ熱を移すには外部から仕事を加える必要があります。その仕事を担う中心がコンプレッサーです。

日本冷凍空調学会では、一般的な冷蔵・空調装置の基本として蒸気圧縮冷凍サイクルを挙げ、圧縮機、凝縮器、蒸発器、膨張弁などを主要な構成要素として整理しています。

冷媒とは何をしているのか?

冷蔵庫の中では「冷媒」と呼ばれる物質が配管の中を循環しています。冷媒は、圧力を変えることで蒸発や凝縮を起こしやすく、その相変化を利用して熱を運びます。

液体が蒸発するときには周囲から熱を吸収します。反対に、気体が凝縮して液体へ戻るときには周囲へ熱を放出します。

冷蔵庫はこの性質を利用し、庫内側では冷媒を蒸発させて熱を吸収し、庫外側では冷媒を凝縮させて熱を放出します。冷媒自体は配管の中を循環し続け、何度も熱を運ぶ役割を果たします。

第1段階:蒸発器で庫内の熱を吸収する

庫内を冷やす中心となる部分が蒸発器です。蒸発器の中では、低温・低圧の冷媒が液体から気体へ変わります。

冷媒が蒸発するには熱が必要です。その熱を庫内の空気や食品から受け取るため、庫内側の熱エネルギーが減り、温度が下がります。

米国エネルギー省の家庭用冷蔵庫技術資料でも、家庭用冷蔵庫は庫内の空気から熱を除去することで冷却し、その主要構成要素として蒸発器、圧縮機、凝縮器、流量制御部を挙げています。

多くの冷蔵庫ではファンを使って、蒸発器で冷やした空気を庫内へ循環させます。これにより、冷却された空気が食品の周囲へ届き、庫内全体の温度を下げます。

第2段階:圧縮機が冷媒を高温・高圧にする

蒸発器を出た冷媒は低圧の気体です。この冷媒を圧縮機が吸い込み、強く圧縮します。

気体を圧縮すると圧力が上がり、温度も高くなります。日本冷凍空調学会の教材でも、圧縮機で冷媒ガスを圧縮すると、高温・高圧の過熱蒸気になると説明されています。

ここで冷媒を高温にするのは、次の凝縮器で周囲の空気へ熱を放出しやすくするためです。冷蔵庫の背面や側面が温かく感じられることがあるのは、この後に冷媒が庫内から運んできた熱と、圧縮機が加えたエネルギーを外へ放出するためです。

第3段階:凝縮器で熱を室内へ放出する

高温・高圧になった冷媒は凝縮器へ送られます。凝縮器は、冷蔵庫の外部へ熱を逃がす熱交換器です。

冷媒は周囲の空気より高温なので、熱を外へ放出します。熱を失った冷媒は、気体から液体へ凝縮していきます。

つまり、蒸発器で食品や庫内から受け取った熱は、最終的に凝縮器から部屋の空気へ捨てられます。

米国エネルギー省の技術資料でも、家庭用冷蔵庫の凝縮器は外側に配置された熱交換器であり、冷媒が持つ熱を周囲へ放出する役割を持つとされています。

第4段階:細い管や膨張装置で冷媒の圧力を下げる

凝縮器を出た冷媒は高圧の液体です。このままでは庫内で十分に低い温度で蒸発できないため、次に圧力を下げる必要があります。

家庭用冷蔵庫では、細い毛細管や流量制御装置を通して冷媒の圧力を大きく下げます。圧力が下がると冷媒は低温になり、再び蒸発器で蒸発しやすい状態になります。

こうして、蒸発器→圧縮機→凝縮器→膨張部→蒸発器という流れが繰り返されます。この循環が冷凍サイクルです。

なぜ冷媒の圧力を変えると冷やせるのか?

液体が沸騰する温度は圧力によって変わります。圧力が低いほど、より低い温度で蒸発できます。

冷蔵庫では、蒸発器側の圧力を低く保つことで、冷媒が庫内より低い温度で蒸発できるようにします。その結果、庫内の空気や食品から冷媒へ熱が移動します。

一方、凝縮器側では圧力を高くし、冷媒が室温より高い温度で凝縮できるようにします。すると今度は、冷媒から室内の空気へ熱を放出できます。

同じ冷媒を、低圧側では「熱を吸う」、高圧側では「熱を捨てる」状態へ切り替えることが、冷蔵庫の基本原理です。

コンプレッサーはずっと動いているわけではない

冷蔵庫は常に同じ強さで冷やし続けているわけではありません。庫内温度をセンサーで監視し、必要に応じて圧縮機の運転を調整します。

庫内温度が設定値より上がると冷却運転を強め、十分に冷えると停止または低出力運転へ移ります。

近年の冷蔵庫ではインバーター制御などによって圧縮機の回転数を変え、必要な冷却能力に合わせて効率よく運転する方式も一般的です。

このため、冷蔵庫は「冷やしすぎないようにしながら、必要な温度を保つ」制御装置でもあります。

断熱材があるから冷やした温度を保ちやすい

冷凍サイクルだけでは、冷蔵庫は効率よく低温を維持できません。外から熱がどんどん入ってくれば、冷却してもすぐ温まってしまうからです。

そこで冷蔵庫の壁には断熱材が入れられています。断熱材は、室内の熱が庫内へ伝わる速度を遅らせます。

米国エネルギー省の資料でも、冷蔵庫の消費電力は断熱性能、扉のすき間、開閉などによる熱侵入の影響を受けるとされています。

つまり冷蔵庫は、「熱を外へ運び出す仕組み」と「外から熱を入れにくくする仕組み」を組み合わせて低温を保っています。

扉を開けると温度が上がりやすいのはなぜ?

冷蔵庫の扉を開けると、室内の暖かい空気が庫内へ入り、冷たい空気が外へ逃げます。

その結果、庫内の温度が上がり、冷蔵庫は増えた熱を再び外へ運び出す必要があります。開けている時間が長いほど、冷却に必要な仕事も増えます。

ENERGY STARも、冷蔵庫の省エネルギー対策として、扉の開放時間を短くすること、扉のシールを適切に保つこと、放熱しやすいよう冷蔵庫の周囲に空間を確保することを勧めています。

冷蔵庫の周りに空間が必要なのはなぜ?

冷蔵庫は庫内から集めた熱を、外側の凝縮器などから周囲へ放出します。そのため、冷蔵庫の背面や側面で空気が流れにくいと、熱を捨てにくくなります。

凝縮器の周囲が高温になると、冷媒から外気へ熱を移すためにより大きな仕事が必要になり、効率が低下します。

冷蔵庫を壁へ密着させすぎない、放熱部にほこりをためない、オーブンや直射日光の近くを避ける、といった使い方が推奨されるのは、外へ熱を逃がしやすくするためです。

冷蔵庫の中で霜がつくのはなぜ?

庫内の空気には水蒸気が含まれています。扉の開閉によって湿った外気が入ると、その水分が低温の蒸発器表面で結露し、さらに凍って霜になることがあります。

霜が厚くなると、空気と蒸発器の間の熱交換を妨げ、冷却効率が低下します。

そのため、多くの家庭用冷蔵庫には自動霜取り機能があります。米国エネルギー省の技術資料では、自動霜取り冷蔵庫にタイマー、ヒーター、霜取り用サーモスタットなどが用いられることが説明されています。

霜取り中は一時的にヒーターを使って蒸発器周辺の霜を溶かし、その後ふたたび冷却運転へ戻ります。

冷蔵室と冷凍室で温度が違うのはどう作っている?

冷蔵庫には冷蔵室、冷凍室、野菜室など複数の温度帯があります。

多くの機種では、蒸発器で作った冷気をファンやダクトで各室へ分配し、風量や運転時間を調整することで温度差を作ります。高機能機種では、複数の蒸発器やセンサーを使って、各室をより独立して制御する場合もあります。

冷凍室は水が凍る温度より十分低く保ち、冷蔵室は食品を凍らせずに微生物の増殖や化学反応を遅らせる温度帯へ保ちます。

冷蔵庫の冷却機構は共通でも、冷気の配分と制御によって用途の異なる温度帯を作っているのです。

冷蔵庫の設定温度を低くすればするほどよい?

食品を低温にすれば、多くの微生物の増殖や化学反応は遅くなります。しかし、必要以上に温度を下げればよいわけではありません。

温度を下げるほど冷蔵庫は多くの熱を外へ運ぶ必要があり、消費電力が増えます。また、冷蔵室の温度を下げすぎると食品が凍結し、野菜や果物などの食感が損なわれることがあります。

ENERGY STARでは家庭用冷蔵庫の目安として、冷蔵室を華氏35〜38度、約1.7〜3.3℃程度に保つことを案内しています。ただし実際には各製品の取扱説明書や食品の保存表示を優先する必要があります。

冷蔵庫は食品を「長持ちさせる仕組み」と「冷やす仕組み」が別

冷蔵庫が低温を作る仕組みと、低温で食品が長持ちする理由は、関連はありますが別の話です。

冷蔵庫側では、冷媒と冷凍サイクルを利用して庫内の熱を外へ運び出します。一方、食品側では、温度が下がることで多くの微生物の増殖速度や酵素反応、化学反応が遅くなります。

つまり「なぜ冷蔵庫は冷えるのか」は熱工学・機械の仕組みの問題であり、「なぜ冷蔵すると食品が長持ちするのか」は食品科学・微生物学の問題です。

この二つが組み合わさることで、冷蔵庫は家庭で食品を低温保存する装置として機能します。

まとめ

冷蔵庫が食品を低温に保てるのは、冷媒を循環させ、蒸発器で庫内の熱を吸収し、圧縮機で冷媒を高温・高圧にし、凝縮器からその熱を室内へ放出する冷凍サイクルを繰り返しているためです。

さらに、断熱材で外部からの熱侵入を抑え、温度センサーやファンで冷却量を制御し、必要に応じて霜取りを行うことで、安定した低温環境を維持しています。

冷蔵庫は「冷たさを作る箱」ではなく、電気の力を使って庫内の熱を外へ運び続ける装置です。この仕組みを理解すると、扉を長く開けないことや、冷蔵庫の周囲に放熱スペースを確保することが、なぜ大切なのかもわかります。

参考資料

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