なぜ塩蔵では食塩が食品の中へ入り水分が外へ移動するのか?

魚や肉、野菜へ塩を振ると、しばらくして表面に水分が出てきたり、食品の中まで塩味が入ったりします。塩は表面にしか触れていないのに、なぜ水は外へ出て、食塩は食品の内部へ入っていくのでしょうか。

塩蔵で水分が外へ移動し、食塩が食品の中へ入るのは、食品内部と外側の濃い食塩水との間に、水と溶質の濃度差・化学ポテンシャル差が生じるためです。その差を小さくする方向へ、水は食品から外へ、食塩成分は外側から食品内部へ移動します。この二つの物質移動が同時に進むことが、塩蔵の基本的な仕組みです。

目次

塩を振ると、まず食品表面に濃い食塩水ができる

食品の表面へ塩を振ると、表面にある水分へ食塩が溶けます。すると食品の外側には、内部よりも食塩濃度の高い液体層ができます。

このとき、食品内部には水が多く、外側には溶けた塩が多いという差が生まれます。物質はこの差を小さくする方向へ移動するため、水は食品内部から外へ出やすくなり、同時に食塩成分は外側から内部へ入りやすくなります。

2024年の浸透脱水に関するレビューでも、高張な溶液へ食品を浸すと、水が食品から外へ失われる一方、溶質が食品中へ取り込まれるという、双方向の物質移動が起こると整理されています。

水が外へ出るのはなぜ?

食品の外側が高濃度の食塩水になると、外側の水は食塩と強く関わり、食品内部より「自由な水」が少ない状態になります。

その結果、食品内部の水は、より水の化学ポテンシャルが低い外側へ移動します。一般的には浸透圧による脱水として説明されます。

果物や野菜の浸透脱水に関するレビューでは、高濃度の糖液や食塩水へ食品を浸すと、水分が食品から外へ移動し、同時に溶質が食品へ入ることが示されています。

つまり、塩蔵で水が出るのは、塩が水を「吸い出す」からというより、食品内部と外側の濃い食塩水の間に生じた熱力学的な差によって、水が移動するためです。

食塩が食品内部へ入るのはなぜ?

外側の食塩濃度が高く、食品内部の食塩濃度が低い場合、食塩成分はその濃度差を小さくする方向へ内部へ移動します。

食品への食塩浸透を調べた日本の研究では、食品やゲルの水分量が多いほど食塩の取り込み量が多くなる傾向が確認され、取り込まれた食塩の多くは食品中の水分へ溶けた状態で存在すると考えられています。

つまり、塩は固体の粒のまま食品内部へ進むのではなく、表面で水に溶け、ナトリウムイオンと塩化物イオンとして食品中の水相を通じて移動していきます。

水の移動と塩の移動は同時に起こる

塩蔵では、水が外へ出る現象と、塩が内部へ入る現象が別々に起こるわけではありません。

高濃度の塩水へ食品を浸す浸透脱水では、食品からの水分損失と、溶液から食品への溶質取り込みが同時に進みます。これらは互いに影響しながら進むため、食品の最終的な水分量、塩分、食感、重量が変わります。

近年のレビューでも、浸透脱水では水分移動と溶質移動の両方が製品品質を決める重要な要因とされており、食品組織の構造や処理条件によってそのバランスが変わると説明されています。

食品の水分量が多いほど塩は入りやすい?

食品中の水は、塩が移動する経路の一つになります。そのため、水分が多い食品では食塩が溶けて移動しやすい場合があります。

1971年の日本の研究では、食品モデルのゲルで水分含量が多いほど吸塩量が大きく、天然食品でもおおむね同様の傾向が見られました。

ただし、水分量だけで浸透速度が決まるわけではありません。細胞膜、筋繊維、デンプン組織、皮など、食品内部の構造も物質移動を妨げたり、経路を変えたりします。

食品の大きさや厚さで塩の入り方が変わる

同じ食品でも、大きな塊と薄い切り身では塩の入り方が違います。

表面から中心までの距離が短いほど、食塩は内部まで到達しやすくなります。反対に厚い食品では、表面近くの塩分が先に高くなり、中心部へ達するには時間がかかります。

そのため、肉や魚の塩漬けでは、食品の厚さや切り方に応じて塩漬け時間を調整します。短時間では表面だけが塩辛く、中心部まで十分に塩が入らないことがあります。

温度が高いと塩の移動は速くなる?

一般に、温度が高くなると分子の運動が活発になり、拡散や物質移動は速くなりやすくなります。

浸透脱水のレビューでも、処理温度は水分損失と溶質移動の速度へ影響する重要な条件として挙げられています。

ただし、食品保存では温度を上げればよいわけではありません。温度が高いと微生物が増えやすくなったり、たんぱく質や色、香りが変化したりするため、実際の塩蔵では安全性や品質とのバランスを考える必要があります。

塩水の濃度が高いほど水は出やすい?

外側の食塩濃度が高いほど、食品内部との濃度差・化学ポテンシャル差は大きくなります。そのため、一般には水分損失と食塩移動の駆動力が大きくなります。

ただし、濃度を上げれば比例して無限に速くなるわけではありません。食品表面で組織が締まったり、外側の溶液が粘くなったりすると、物質移動が遅くなる場合もあります。

また、塩分が高すぎると味が強くなりすぎ、食感やたんぱく質の状態も大きく変わります。実際の食品加工では、保存効果だけでなく品質も考えて塩濃度を調整します。

植物と肉・魚では塩の入り方が同じではない

野菜や果物では、細胞壁、細胞膜、細胞間隙が物質移動へ影響します。肉や魚では、筋繊維、結合組織、たんぱく質、水分保持構造が重要です。

そのため、同じ濃度の食塩水へ入れても、水の出方や塩の入り方は食品ごとに異なります。

植物食品の浸透脱水に関するレビューでは、溶質移動は単純な分子拡散だけでは説明できず、食品の微細構造や表面状態も重要であると指摘されています。

「濃度差があれば同じように塩が入る」と考えるのではなく、食品構造を含めて考える必要があります。

塩蔵すると重量が減るのはなぜ?

塩蔵中には水が食品から外へ出るため、食品の重量は減ることがあります。

一方で、食塩は食品内部へ入るため、固形分は増えます。つまり最終的な重量変化は、「失われた水の量」と「取り込まれた塩の量」の差で決まります。

浸透脱水ではこの二つを「water loss」と「solid gain」として評価することが多く、食品加工では両方を測定して処理条件を設計します。

塩が入ると食感が変わるのはなぜ?

塩蔵によって変わるのは水分量だけではありません。

肉や魚では、食塩がたんぱく質の電荷状態や水との結びつきへ影響し、保水性や組織の締まり方を変えることがあります。野菜では、細胞から水が抜けることで張りが変わり、食感が変化します。

そのため、同じ「塩を入れる」処理でも、食品によって硬くなったり、しんなりしたり、結着性が変わったりします。

塩蔵は物質移動だけでなく、食品成分と食塩の相互作用を通して食感も変える加工法です。

塩蔵で長持ちする理由とは別の話

塩蔵すると食品が長持ちする主な理由は、食塩によって水分活性が下がり、高い浸透圧環境で多くの微生物が増殖しにくくなるためです。

一方、この記事で扱っているのは、「なぜ塩が食品内部へ入り、水が外へ出るのか」という物質移動の仕組みです。

保存性の向上は、この物質移動の結果として食品内の塩分と水分状態が変わることで生じます。つまり、塩蔵の保存効果を理解するには、まず塩と水がどう移動するかを理解することが重要です。

家庭の塩もみでも同じ現象が起きている

きゅうりやキャベツへ塩を振ってもむと、短時間で水が出てきます。これも基本的には同じ現象です。

塩が表面の水へ溶けて高濃度の塩水を作り、食品内部との濃度差によって水が外へ移動します。さらに時間がたつと、塩も内部へ浸透していきます。

塩もみでは、水を抜くことで野菜の体積を減らし、食感や味を整えます。長期保存を目的とする本格的な塩蔵とは処理時間や塩分濃度が異なりますが、根本の物質移動は共通しています。

まとめ

塩蔵で食塩が食品の中へ入り、水分が外へ移動するのは、食品内部と外側の高濃度食塩水の間に生じた濃度差・化学ポテンシャル差を小さくする方向へ、水と食塩成分が同時に移動するためです。

水は主に食品から外へ、食塩成分は外側から食品内部へ移動します。その速さや程度は、塩濃度、温度、時間、食品の厚さ、水分量、細胞や組織の構造などに左右されます。

塩蔵とは、単に食品へ塩味を付ける操作ではありません。水分損失と食塩浸透という二つの物質移動を利用して、食品の水分状態、塩分、食感、保存性を変える加工技術なのです。

参考資料

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