果物を濃い砂糖液に漬けると、時間がたつにつれて果物から水分が抜け、同時に糖が内部へ入り込んで甘味が強くなります。砂糖は外側にあるのに、なぜ水分は外へ、糖は内側へと反対方向に動くのでしょうか。
糖蔵で水分が外へ移動し、糖が食品の中へ入る主な理由は、食品内部と外側の高濃度糖液との間に水分状態や溶質濃度の差が生じ、その差を小さくする方向へ水と糖が同時に移動するためです。水は主に食品から外へ、糖は外側から食品内部へ移動し、この双方向の物質移動が糖蔵の基本的な仕組みです。
砂糖を溶かすと食品の外側に高濃度の糖液ができる
果物などを濃い砂糖液へ入れると、食品内部より外側のほうが糖濃度の高い状態になります。
高濃度の糖液では、糖分子が水と強く関わるため、自由に動ける水の割合が低くなります。食品内部にはそれより水の多い状態が残っているため、両者の間に水分状態の差が生じます。
この差が物質移動の駆動力となり、水は食品から糖液側へ移動します。食品科学では、このような高張液を利用した水分除去を浸透脱水と呼びます。
水が外へ出るのはなぜ?
食品内部と高濃度糖液の間には、水の化学ポテンシャルの差が生じます。簡単にいえば、食品内部のほうが水が移動しやすい状態にあり、外側の糖液のほうが水を保持しやすい状態になっています。
そのため、水は食品内部から外側の糖液へ移動します。浸透脱水に関する2024年のレビューでも、高張液へ食品を浸すと、食品から水が失われる一方で溶質が内部へ取り込まれることが基本原理として整理されています。
つまり、砂糖が食品から水を「吸い取る」という表現は直感的には近いものの、実際には食品と糖液の間の水分状態の差によって移動が起きています。
糖が食品の中へ入るのはなぜ?
外側の糖液では糖濃度が高く、食品内部では低いため、糖は濃度差を小さくする方向へ内部へ移動します。
糖は食品中の水分や細胞間隙を通じて移動します。果実や野菜の浸透脱水に関するレビューでは、水分損失とともに溶質取り込みが起こり、最終的な食品の糖度、重量、食感、風味へ影響することが示されています。
ただし、糖の移動は単純な拡散だけで完全に説明できるわけではありません。食品の細胞構造、表面状態、糖液の粘度、組織の損傷なども溶質移動へ影響します。
水分移動と糖の移動は同時に進む
糖蔵では、水が外へ出る現象と、糖が内部へ入る現象が同時に進みます。
浸透脱水では、この二つを「water loss」と「solid gain」として評価することがあります。水分損失が大きいほど食品は軽くなりやすく、糖の取り込みが大きいほど固形分は増えます。
最終的な重量変化は、この二つのバランスで決まります。水が多く抜ければ重量は減り、糖の取り込みが多ければその減少の一部が相殺されます。
糖液の濃度が高いほど水分は抜けやすい?
一般に、糖液の濃度が高いほど食品内部との水分状態の差が大きくなり、水分移動の駆動力は強くなります。
日本食品保蔵科学会誌の渋ガキを用いた研究では、50°Brixや66°Brixのショ糖液で浸透脱水が進み、濃度が高い条件ほど脱水が進みやすい傾向が確認されています。
ただし、糖液の濃度を上げれば必ず比例して速くなるわけではありません。高濃度になると糖液の粘度が高まり、食品表面での物質移動が遅くなる場合もあります。
温度が高いと物質移動が速くなりやすい
温度が高くなると、一般に分子の運動が活発になり、水や糖の移動速度は速くなりやすくなります。
渋ガキの浸透脱水研究でも、同じショ糖濃度では保持温度が高いほど脱水が速く進む傾向が見られました。
一方、温度を上げすぎると、食品の軟化、色の変化、香りの損失、熱による品質低下などが起こる可能性があります。そのため実際の加工では、物質移動の速さだけでなく品質とのバランスを取る必要があります。
食品の大きさや厚さでも糖の入り方は変わる
同じ糖液に漬けても、食品の大きさや厚さによって糖の浸透速度は異なります。
薄く切った食品では、表面から中心までの距離が短いため、水も糖も比較的移動しやすくなります。反対に大きな果実や厚い組織では、中心まで糖が到達するのに時間がかかります。
そのため、砂糖漬けや浸透脱水では、食品の大きさを揃えることが均一な仕上がりに重要です。
果物や野菜の組織構造も物質移動に影響する
果物や野菜には、細胞壁、細胞膜、細胞間隙などの構造があります。
これらは、水や糖が自由に通過する単純なスポンジではありません。組織の硬さ、細胞の大きさ、空隙の多さ、成熟度などによって物質移動のしやすさが変わります。
溶質移動に関するレビューでも、果物や野菜への糖の取り込みは単純な分子拡散だけでは説明できず、植物組織の微細構造や表面状態との関係が重要だと指摘されています。
熟度によって水分の抜け方が変わることもある
果物では、未熟なものと熟したものとで細胞壁や細胞膜の状態が異なります。
渋ガキの浸透脱水研究では、熟度によって脱水速度や果肉の軟化の程度が変わることが示されています。
熟度が進むと組織が軟らかくなり、物質移動が変化するだけでなく、糖液処理中の食感変化も大きくなることがあります。
そのため、糖蔵では原料の成熟度も品質を左右する重要な条件です。
糖の種類によって移動や保存性が変わる
糖蔵に使われる糖はショ糖だけではありません。ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめなども利用されます。
糖の種類によって分子量、浸透圧、甘味、粘度、水との結びつき方が異なるため、水分移動や糖の浸透、最終的な水分活性も変わります。
日本食品工業学会誌の果実砂糖づけ研究では、ショ糖の一部をブドウ糖や転化糖へ置き換えることで水分活性が低下し、カビの発生を抑えやすくなることが示されています。
つまり「砂糖の量」だけでなく、「どの糖を使うか」も糖蔵食品の保存性と品質に関係します。
糖蔵すると食品がしんなりするのはなぜ?
食品から水が外へ出ると、細胞内の水分が減り、細胞の張りが失われます。
その結果、果物や野菜ではしんなりしたり、軟らかくなったりします。浸透脱水では食品の体積が小さくなる場合もあります。
一方で、糖が内部へ入ることで固形分濃度は高まり、食感や粘り、甘味も変わります。
糖蔵は保存性だけでなく、食品の物性や食感を同時に変える加工法です。
梅酒づくりでも似た物質移動が起こる
梅酒では梅、砂糖、アルコールを一緒に漬け込みます。製造初期にはショ糖の影響で梅果実から水分が外へ移動し、果実重量が減ることがあります。
日本食品工業学会誌の研究では、ショ糖を加えた梅酒製造の初期に梅果実重量が減少し、その後は外側の液が果実内部へ浸透する現象も観察されています。
このように、実際の食品では時間とともに外液の組成や食品内部の状態が変化するため、物質移動の方向や速度も一定ではありません。
糖蔵で長持ちする理由とは別の話
砂糖を多く使うと食品を保存しやすくなる主な理由は、糖によって水分活性が下がり、多くの微生物が増殖に利用できる水が減るためです。
一方、この記事で扱っているのは、その保存効果が生まれる前段階として、なぜ水分が食品から外へ出て、糖が内部へ入るのかという物質移動の仕組みです。
糖蔵の保存性は、この物質移動によって食品内部の糖濃度と水分状態が変わることで生まれます。
糖蔵と塩蔵は似ているが同じではない
糖蔵と塩蔵は、どちらも高濃度の溶液を利用して食品から水を移動させ、溶質を食品内部へ取り込ませる点で共通しています。
ただし、食塩と砂糖では分子・イオンの大きさ、浸透圧、味への影響、食品成分との相互作用が異なります。
同じ重量を加えた場合、食塩は水中でイオンへ分かれるため、一般に砂糖より浸透圧への影響が大きくなります。一方、砂糖は甘味や保水性、食感形成にも大きく関与します。
まとめ
糖蔵で砂糖が食品の中へ入り、水分が外へ移動するのは、食品内部と外側の高濃度糖液との間に生じた水分状態や溶質濃度の差を小さくする方向へ、水と糖が同時に移動するためです。
水は主に食品から外へ、糖は外側から食品内部へ移動します。その速さや程度は、糖液濃度、温度、食品の大きさ、組織構造、熟度、糖の種類などに左右されます。
糖蔵とは、単に食品へ甘味を付ける方法ではありません。水分損失と糖の浸透という双方向の物質移動を利用して、食品の水分状態、糖度、食感、保存性を変える加工技術なのです。
参考資料
- 浸透圧を利用した渋ガキ果肉の脱水と脱渋 日本食品保蔵科学会誌
- 飯山一伸・石井幹郎「中間水分食品技術の菓子類への応用―果実砂糖づけの品質改良―」日本食品工業学会誌
- Asghari A, et al. Review of osmotic dehydration: Promising technologies for enhancing products’ attributes, opportunities, and challenges for the food industries.
- Muñiz-Becerá S, et al. Solute Transfer in Osmotic Dehydration of Vegetable Foods: A Review.

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