なぜ米・小麦・トウモロコシのでんぷんは同じ加熱でも性質が違うのか?

米、小麦、トウモロコシは、どれもでんぷんを多く含む穀物です。それなのに、同じように水を加えて加熱しても、やわらかさ、粘り、膨らみ方、冷えた後の硬さは同じになりません。

この違いは、でんぷんという名前が同じでも、その中身が完全に同じではないためです。アミロースとアミロペクチンの割合、アミロペクチンの枝の長さ、でんぷん顆粒の大きさや形、結晶構造、たんぱく質や脂質との共存状態が穀物ごとに異なります。さらに、水分量や加熱温度、冷却条件によって、その違いの現れ方も変わります。

目次

結論:同じ「でんぷん」でも分子構造と顆粒構造が違うため、同じ加熱でも挙動が変わる

米・小麦・トウモロコシのでんぷんに違いが生まれる主な理由は、次の四つです。

  • アミロースとアミロペクチンの割合が品種や穀物によって異なる
  • アミロペクチンの枝の長さや分布が異なり、結晶構造の安定性が変わる
  • でんぷん顆粒の大きさ・形・分布が異なり、水や熱の入り方が変わる
  • たんぱく質・脂質・水分量・加熱履歴が、膨潤や糊化、粘度、老化を変える

つまり、穀物でんぷんの性質は「でんぷん量」だけでは決まりません。分子から顆粒、食品全体までの構造と、調理条件の組み合わせで決まります。

でんぷんは、アミロースとアミロペクチンからできている

穀物のでんぷんの主成分は、アミロースとアミロペクチンです。

アミロースは比較的直線的な鎖が多く、アミロペクチンは多数の枝分かれを持つ巨大分子です。両者は同じグルコースからできていますが、分子の形が違うため、水や熱への応答も異なります。

一般に、アミロースが多いでんぷんは膨潤が抑えられやすく、加熱後の粘度が低くなることがあります。また、冷却すると分子鎖が再会合しやすいため、硬さが増えやすい傾向があります。

一方、アミロペクチンが多いでんぷんは、十分な水と熱があると膨潤しやすく、粘度や粘着性が高くなりやすい傾向があります。

同じ米でも、アミロース量が違えば性質は変わる

でんぷんの違いは、穀物の種類だけでなく、同じ穀物の品種間にもあります。

日本で育成された米のでんぷんを比較した研究では、もち米、低アミロース米、中程度のアミロース米、高アミロース米で、アミロース含量、アミロペクチン側鎖長分布、糊化温度、粘度特性、膨潤力などが異なりました。

真のアミロース含量が高いほどRVAで測ったピーク粘度が低くなる傾向も報告されています。

このことから、「米でんぷん」という一つの名前だけでは、調理時の性質を十分に予測できないことがわかります。

アミロペクチンの枝の長さも重要

アミロペクチンは枝分かれした分子ですが、すべての枝が同じ長さではありません。

枝の長さによって、二重らせんを作りやすさや、結晶領域の安定性が変わります。短い枝が多いか、長い枝が多いかによって、糊化温度や膨潤、冷却後の再結晶化が変わります。

そのため、アミロース含量が似ていても、アミロペクチンの枝の分布が違えば、加熱時や冷却時の性質が異なる場合があります。

「アミロース何%か」だけでは説明しきれない差が出るのは、このためです。

でんぷん顆粒の大きさや形も穀物ごとに違う

生のでんぷんは、植物細胞の中で顆粒として蓄えられています。この顆粒の大きさや形も穀物によって異なります。

米のでんぷん顆粒は比較的小さく、複数の小顆粒が集まったような構造をとることがあります。トウモロコシでは多角形に近い顆粒が多く、小麦では大きいA型顆粒と小さいB型顆粒が共存する二峰性の粒径分布が特徴です。

小麦でんぷんのレビューでは、A型顆粒は直径10マイクロメートルを超える大きな顆粒、B型顆粒は10マイクロメートル以下の小さな顆粒として整理され、それぞれ分子構造や糊化、ペースト特性、消化性に違いがあるとされています。

顆粒サイズが違えば、表面積、水の入り方、膨潤の進み方も変わるため、食品加工時の挙動にも差が出ます。

大麦と小麦は似ていても、同じではない

普通種大麦のでんぷんをトウモロコシ、米、小麦のでんぷんと比較した日本の研究では、大麦でんぷんはアミロース含量や分子構造の一部で小麦でんぷんに近い特徴を持つことが報告されています。

一方、同じ大麦でも品種によってピーク粘度やブレークダウン、アミロースの糊化度に差がありました。

つまり、植物分類が近い穀物でも、でんぷんの機能特性が完全に同じになるわけではありません。

同じ温度で加熱しても、糊化の進み方が違う

でんぷんの糊化は、水と熱によって顆粒の結晶秩序が崩れ、膨潤や分子の溶出が進む現象です。

しかし、結晶構造の安定性やアミロース量、顆粒構造が違えば、同じ温度でも変化の進み方は異なります。

各種でんぷんを比較した研究では、米、トウモロコシ、小麦などでアミロースの糊化の進み方が異なり、高温まで加熱しても同じ糊化度にはならないことが報告されています。

したがって、「70℃ならどのでんぷんも同じ状態になる」という一つの温度だけで考えることはできません。

水分量が違うと、穀物間の差も変わって見える

でんぷんの性質を比べるとき、水分量は非常に重要です。

水が十分にある条件では、顆粒が水を取り込み、結晶構造の崩壊や膨潤が進みやすくなります。一方、水が少ない条件では、水和が十分に進まず、より高温にならないと構造変化が進みにくい場合があります。

そのため、同じ種類のでんぷんでも、パン生地のような低水分条件と、粥やでんぷん糊のような高水分条件では、糊化の進み方や粘度が大きく異なります。

穀物間の比較では、原料だけでなく水分条件をそろえないと、公平な比較になりません。

たんぱく質が多い食品では、でんぷんだけの挙動とは違う

実際の穀物食品では、でんぷんは単独で存在していません。

小麦粉では、でんぷん顆粒の周囲にグルテンたんぱく質があり、水を奪い合ったり、顆粒の膨潤を物理的に制限したりします。

米にもたんぱく質があり、含量や分布によって吸水やでんぷん膨潤が変わります。

このため、精製した純粋なでんぷんで測った性質と、米粒や小麦粉として調理したときの性質は同じではありません。

脂質も糊化や粘度を変える

穀物のでんぷん顆粒には、少量の脂質が結びついていることがあります。

特にアミロースは脂質と複合体を作ることがあり、これによってアミロースが水中へ溶出しにくくなったり、顆粒の膨潤が抑えられたりする場合があります。

米でんぷんのレビューでも、アミロース・アミロペクチンだけでなく、脂質やたんぱく質などの非でんぷん成分が機能特性へ影響することが整理されています。

したがって、「でんぷんだけを比較して食品の違いをすべて説明する」ことはできません。

加熱中の粘度は、何で変わる?

でんぷん懸濁液を加熱すると、顆粒が膨潤し、分子が溶出して粘度が上がります。

しかし、膨らんだ顆粒がどこまで壊れずに保たれるかは、でんぷんの種類によって異なります。

加熱や撹拌を続けて顆粒が壊れると粘度が下がります。このピーク粘度やその後の低下量は、RVAなどで測定され、でんぷんや穀粉の加工特性を比較する指標として使われます。

同じ穀物でも品種によってRVA特性が異なるため、加工用途に応じた品種選択が重要になります。

冷やした後にも違いが出る

糊化したでんぷんを冷やすと、アミロースやアミロペクチンの鎖が再び近づき、老化が進みます。

アミロース量が多い、再配列しやすい長い鎖が多いなどの条件では、冷却後の硬化やゲル化が進みやすいことがあります。

反対に、枝分かれ構造や水分条件によっては、再結晶化が遅く、やわらかさを保ちやすい場合があります。

このため、炊きたてでは似た食感でも、冷蔵・冷却後に差が大きくなる食品があります。

調理方法が違えば、同じ原料でも別の性質になる

同じ米でんぷんでも、炊飯、蒸し、押出加工、せんべいの焼成などでは、水分量、温度、圧力、せん断力が異なります。

小麦でも、パン、麺、クッキーでは加える水の量や加熱履歴が大きく違います。

そのため、「この穀物のでんぷんは粘る」「このでんぷんは硬い」と固定的に考えるより、どんな条件で使うかまで含めて評価する必要があります。

消化のされやすさにも違いが出る

でんぷんの消化性も、分子構造と顆粒構造、加工条件によって変わります。

一般に、十分な水と熱で糊化すると酵素が作用しやすくなります。一方、高アミロースでんぷん、結晶性の高い構造、冷却後に再結晶化した構造などでは、消化酵素が作用しにくい部分が増えることがあります。

ただし、食品中では細胞壁、たんぱく質、脂質なども消化性へ影響するため、アミロース量だけで消化速度を決めることはできません。

「米でんぷん」「小麦でんぷん」という名前だけで性質は決まらない

同じ米でも、もち米、低アミロース米、高アミロース米では大きく性質が違います。

同じ小麦でも、顆粒サイズ分布や品種、栽培環境によってでんぷん特性は変わります。

さらに、同じ品種でも登熟温度などの生育条件によってアミロペクチンの構造や糊化特性が変わることがあります。

したがって、穀物でんぷんの性質は「植物種」「品種」「生育条件」「加工条件」の四つを分けて考えることが大切です。

比較するときは、何をそろえるべき?

でんぷんの違いを公平に比べるには、少なくとも次の条件をそろえる必要があります。

  • でんぷん濃度や水分量
  • 加熱温度と加熱時間
  • 撹拌やせん断の強さ
  • 冷却温度と保存時間
  • 純粋なでんぷんか、穀粉・穀粒として比べるか

条件が違えば、同じ原料でも測定結果は変わります。「どの穀物のでんぷんが一番粘るか」のような問いには、まず測定条件を決める必要があります。

まとめ

米・小麦・トウモロコシのでんぷんが同じ加熱でも異なる性質を示すのは、同じ「でんぷん」という名前でも、分子構造と顆粒構造が同じではないためです。

アミロースとアミロペクチンの割合、アミロペクチンの枝長分布、顆粒の大きさや形、結晶構造が違えば、水の入り方、糊化温度、膨潤、粘度、冷却後の老化が変わります。さらに、たんぱく質や脂質、水分量、温度、加熱時間などの条件によって、その違いは強まったり弱まったりします。

つまり、穀物でんぷんの違いを理解するには、「何の穀物か」だけでなく、「どんな構造のでんぷんを、どんな条件で扱ったか」をセットで考える必要があるのです。

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