光の偏光状態は、偏光板を通す、ガラスや水面で反射させる、複屈折結晶や波長板を通すといった操作で変化します。しかし、その変わり方は同じではありません。
偏光板は特定方向の電場成分を選んで通し、反射面はs偏光とp偏光で反射率を変え、複屈折結晶は二つの直交偏光成分に異なる位相遅れを与えます。
なぜ、同じ「偏光を変える光学素子」なのに作用が違うのでしょうか。
結論からいうと、それぞれが偏光に対して異なる物理量へ作用するからです。偏光板は主に振幅を選別し、反射面は境界条件によってs成分とp成分の反射振幅・位相を変え、複屈折結晶は偏光方向ごとの屈折率差によって位相差を蓄積させます。
この記事では、三つの仕組みを「振幅を変える」「反射率を変える」「位相差を作る」という観点で比較します。
偏光状態は何で決まるのか
偏光は、光の電場が時間とともにどの方向へどのように振動するかを表す性質です。
直線偏光では電場の向きが一定の直線上にあり、円偏光や楕円偏光では電場ベクトルの先端が時間とともに円や楕円を描きます。
偏光状態を決めるには、互いに直交する二つの電場成分について、
- それぞれの振幅がどれくらいか
- 二成分の位相差がどれくらいか
を考える必要があります。
したがって、偏光を変える方法は大きく分けて、振幅比を変える方法と位相差を変える方法に整理できます。
偏光板は「通す成分」と「止める成分」を選ぶ
一般的な線偏光板は、ある方向の偏光成分を通し、それと直交する成分を強く弱めます。
RP Photonicsは偏光子を、透過率が偏光方向に強く依存する光学フィルターとして説明しています。吸収型偏光板では、分子や微粒子の配向によって一方向の電場成分が強く吸収され、直交方向が比較的よく透過します。
そのため、無偏光や任意方向の直線偏光を入れると、出射光では特定方向の電場成分が優勢になります。
つまり偏光板の中心的な作用は、二つの偏光成分の振幅比を変えることです。
偏光板を回すと明るさがcos²θで変わる理由
直線偏光した光を偏光板へ入れ、入射偏光方向と偏光板の透過軸の角度をθとします。
透過軸方向の電場成分はベクトルの射影によって
E = E₀ cosθ
になります。
光強度は電場振幅の二乗に比例するため、
I = I₀ cos²θ
となります。
このマリュスの法則は、「偏光板が位相差を作る」というより、主に不要な方向成分を減らす素子であることを示しています。
偏光板は円偏光をそのまま円偏光として通せるのか
通常の線偏光板へ円偏光を入れると、出射光は基本的に偏光板の透過軸方向の直線偏光になります。
円偏光は二つの直交成分が同じ振幅で90度の位相差を持つ状態です。しかし線偏光板は、そのうち透過軸方向の成分を選び、直交成分を強く減らします。
その結果、二成分で作られていた円偏光の条件が失われ、一本の直線偏光になります。
この意味でも、偏光板は主に振幅選別型の素子です。
反射面ではs偏光とp偏光の反射率が違う
光が斜めにガラスや水の表面へ当たると、電場の向きによって反射のされやすさが変わります。
入射面に垂直な電場成分をs偏光、入射面内の電場成分をp偏光と呼びます。
フレネルの式では、s偏光とp偏光の反射係数は一般に異なります。
OpenStaxも、斜め入射した無偏光光では、反射後にs成分とp成分の割合が変化し、反射光が部分偏光になることを説明しています。
つまり反射面も二成分の振幅比を変えますが、その理由は偏光板の吸収ではなく、電磁場が境界で満たすべき条件がs偏光とp偏光で異なることです。
ブリュースター角ではなぜp偏光が反射しなくなるのか
透明な誘電体の境界では、ある入射角でp偏光の反射率が理想的に0になります。
この角度がブリュースター角です。
ブリュースター角では
tanθB = n₂ / n₁
が成り立ちます。
この条件では反射光にp偏光がほとんど含まれず、反射光は強くs偏光へ偏ります。
J-STAGE掲載のHe-Neレーザーの研究でも、ブリュースター窓を用いた光学系で偏光状態が光学面の異方性や反射条件の影響を受けることが示されています。
反射面は位相も変えることがある
反射では、s偏光とp偏光の反射率だけでなく、位相変化にも差が生じる場合があります。
特に金属反射や全反射などでは、二つの偏光成分に異なる位相差が生じ、直線偏光が楕円偏光へ変わることがあります。
したがって、反射面は条件によって「振幅比を変える素子」であると同時に「位相差を変える素子」にもなります。
ただし、透明誘電体の通常の反射で目立つのは、まずs/p反射率の違いです。
複屈折結晶は偏光方向ごとに屈折率が違う
複屈折を持つ結晶では、光の偏光方向によって屈折率が異なります。
RP Photonicsは複屈折を「屈折率が偏光方向に依存する性質」と説明しています。
たとえば二つの主軸方向に対して屈折率がn₁、n₂と異なれば、同じ距離を進んでも二つの偏光成分の位相の進み方が異なります。
そのため、複屈折結晶の中心的な作用は、二つの直交偏光成分に異なる位相遅れを与えることです。
位相差はどうやって生まれるのか
厚さdの複屈折材料を通るとき、二つの偏光成分の位相差δは概略的に
δ = (2π/λ) Δn d
と表せます。
ここでΔnは二つの主軸方向の屈折率差、λは真空中波長です。
つまり、複屈折が大きいほど、また材料が厚いほど位相差は大きくなります。
この位相差によって、直線偏光を円偏光や楕円偏光へ変えたり、直線偏光の向きを回転させたりできます。
4分の1波長板はなぜ直線偏光を円偏光にできるのか
4分の1波長板は、二つの直交偏光成分に90度、つまりπ/2の位相差を与えるよう設計された複屈折素子です。
直線偏光を波長板の主軸に対して45度で入れると、二つの主軸方向へ等しい振幅に分解されます。
そこへ90度の位相差が加わると、二成分の振幅が同じで位相差が90度という条件になり、円偏光になります。
RP Photonicsも、4分の1波長板は二つの直交偏光成分へπ/2の位相差を与え、直線偏光と円偏光の変換に使われると説明しています。
2分の1波長板はなぜ直線偏光の向きを変えられるのか
2分の1波長板では、二つの主軸成分に180度、つまりπの位相差を与えます。
この位相反転によって、出射する直線偏光の方向が変わります。
入射偏光と波長板の軸の角度をαとすると、理想的には偏光方向は軸に対して反対側へ同じ角度だけ移り、結果として2αだけ回転します。
つまり、2分の1波長板は不要成分を吸収して偏光方向を選ぶのではなく、二成分の位相関係を変えることで直線偏光の向きを変えるのです。
偏光板と波長板の決定的な違い
偏光板と波長板は見た目が似た薄い光学素子でも、作用は本質的に違います。
| 素子 | 主な作用 | 光強度 | 偏光状態 |
|---|---|---|---|
| 線偏光板 | 一方向成分を通し、直交成分を減らす | 一般に減る | 主に直線偏光へ選別 |
| 4分の1波長板 | 二成分へ90度の位相差を与える | 理想的には大きく減らさない | 直線偏光と円・楕円偏光を相互変換 |
| 2分の1波長板 | 二成分へ180度の位相差を与える | 理想的には大きく減らさない | 直線偏光の方向を回転 |
偏光板は振幅を選び、波長板は位相を変えるという違いが基本です。
反射面と偏光板は何が違うのか
どちらもs成分とp成分の割合を変えることがありますが、仕組みが異なります。
偏光板では、材料内部の異方的な吸収や反射・分離によって特定偏光を選びます。
反射面では、境界条件と入射角によってs偏光とp偏光の反射係数が変わります。
したがって、偏光板は素子固有の透過軸を持つのに対し、反射面では「入射面」がs/p偏光の基準を決めます。
複屈折結晶でも光線が二つに分かれることがある
カルサイトなどの複屈折結晶では、一つの入射光が常光線と異常光線の二つに分かれることがあります。
これは偏光方向によって屈折率が異なるため、二つの成分の進行方向や位相速度が違うからです。
この性質を利用して、二つの偏光成分を空間的に分離する結晶偏光子も作られます。
つまり「複屈折」は位相差板だけに使われる性質ではなく、偏光分離にも利用できます。
同じ素子でも波長が変わると作用が変わるのか
変わります。
偏光板の透過率や消光比、反射面のフレネル係数、複屈折材料のΔnは、いずれも波長依存性を持ちます。
特に波長板では
δ = (2π/λ)Δnd
なので、波長が変わると位相差が直接変わります。
そのため、特定波長用の4分の1波長板を別の波長で使うと、正確な90度位相差にならない場合があります。
入射角が変わると作用が変わるのか
反射面では特に大きく変わります。
s偏光とp偏光の反射率は入射角の関数であり、ブリュースター角ではp偏光の反射率が最小になります。
波長板でも斜め入射すると、実効的な光路長や見かけの複屈折が変わるため、位相差が設計値からずれることがあります。
偏光板も実際の製品では入射角によって透過特性が変化する場合があります。
したがって、偏光光学素子は波長だけでなく角度条件にも依存します。
偏光サングラスはどの仕組みを使っているのか
偏光サングラスは主に線偏光板を使います。
道路や水面から斜めに反射した光は、s偏光成分が相対的に強くなるため、水平面からのぎらつきは特定方向へ偏光しやすくなります。
サングラスの透過軸を適切な方向に配置すると、この強い反射偏光成分を抑えられます。
つまり、反射面で偏光が生まれ、その偏光を偏光板で選択的に遮るという二つの機構を組み合わせています。
液晶ディスプレイでは複数の偏光作用を組み合わせる
液晶ディスプレイでは、偏光板で直線偏光を作り、液晶層で偏光状態を電気的に変え、最後の偏光板で光強度へ変換します。
液晶層は異方的な屈折率を持つため、偏光成分の位相や向きを変えることができます。
その変化を後段の偏光板で明暗へ変換することで、画素の明るさを制御します。
つまり実用的な光学装置では、振幅選別と位相変換を組み合わせることが多くあります。
既存の偏光記事とは何が違うのか
偏光の一般記事では、光が横波であること、偏光板・反射・散乱・複屈折などで偏光が生じることを広く扱っています。
本記事では、その一般原理を前提に、偏光板は振幅、反射面はs/p反射係数、複屈折結晶は位相差へ主に作用するという機構の違いに焦点を当てています。
偏光板を回したときの透過強度がcos²θになる理由については、別記事で詳しく解説しています。
まとめ
偏光板・反射面・複屈折結晶で偏光状態の変わり方が違うのは、それぞれが偏光の異なる要素へ作用するからです。
- 偏光板は主に二つの偏光成分の振幅比を変える
- 線偏光板は特定方向の電場成分を通し、直交成分を抑える
- 反射面ではs偏光とp偏光の反射係数が異なり、部分偏光が生じる
- ブリュースター角ではp偏光の反射率が理想的に0になる
- 複屈折結晶では偏光方向ごとに屈折率が違い、位相差が生じる
- 4分の1波長板は90度の位相差、2分の1波長板は180度の位相差を利用する
- 実際の偏光光学系では、振幅選別と位相変換を組み合わせて使う
つまり、「偏光を変える」という同じ目的でも、振幅を選ぶのか、境界でs/p成分を別々に扱うのか、位相差を蓄積させるのかによって、出てくる偏光状態は大きく変わるのです。
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参考資料
- 宮内建興・鈴木武臣「ブリュースター窓を有するHe-Neレーザーの偏光状態」応用物理
- 増子寛「偏光板を透過した光の強度測定」物理教育通信
- OpenStax University Physics Volume 3: Polarization
- RP Photonics Encyclopedia: Waveplates
- RP Photonics Encyclopedia: Polarizers

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