空気はほとんど透明で、屈折率も1に非常に近いですが、完全に一定ではありません。しかも、その屈折率は光の波長だけでなく、気温・気圧・湿度によってもわずかに変化します。
なぜ、空気の分散は環境条件によって変わるのでしょうか。
結論からいうと、空気の屈折率は波長ごとの分子分極応答と、単位体積あたりの分子数、そして水蒸気を含む気体組成で決まるためです。気温や気圧が変わると密度が変わり、湿度が変わると乾燥空気と水蒸気の割合が変わるため、各波長での屈折率がわずかに変化します。
分散とは、屈折率が波長によって異なる性質です。したがって、環境条件によって屈折率そのものが変われば、波長ごとの差、つまり分散もわずかに変わります。
空気にも分散はある
空気の屈折率nは1に近い値ですが、波長によって同じではありません。
OpenStaxも、屈折率は媒質だけでなく波長によって変化し、それが分散を生むと説明しています。
可視光では一般に短波長側の屈折率がわずかに大きく、青や紫の光のほうが赤い光より少し強く曲がります。
この差はガラスほど大きくありませんが、高精度な測長や天文観測では無視できないことがあります。
なぜ気圧が上がると空気の屈折率が変わるのか
気圧が上がると、同じ温度なら単位体積あたりの空気分子数が増えます。
光の電場に応答する分子が増えるため、空気全体の分極応答も大きくなり、屈折率は1からより離れる方向へ変化します。
RP Photonicsも、気体の屈折率は圧力、つまり気体密度に依存すると説明しています。
NISTの空気屈折率計算でも、気圧は主要な入力パラメータの一つです。
なぜ気温が上がると屈折率が変わるのか
同じ気圧なら、気温が上がるほど空気は膨張し、密度は下がります。
すると単位体積あたりの分子数が減るため、空気の屈折率は一般に1へ近づく方向へ変化します。
NISTのCiddor式・修正Edlén式でも、空気温度は屈折率計算の基本入力です。
J-STAGEの高精度計測研究でも、空気屈折率は気温・気圧などの環境条件に左右されるため、干渉計による長さ測定では補正が必要だとされています。
湿度が変わるとなぜ屈折率も変わるのか
湿度が上がると、空気中の水蒸気の割合が増えます。
乾燥空気を構成する窒素・酸素などと、水蒸気では分極応答が同じではありません。
そのため、同じ気温・気圧でも水蒸気量が変わると空気全体の屈折率が変わります。
NISTの空気屈折率計算は、波長・温度・気圧とともに湿度を入力して屈折率を求める構成になっています。
分散の変化とは何が変わることなのか
分散は、たとえば二つの波長λ₁、λ₂での屈折率差
Δn = n(λ₁) − n(λ₂)
として考えられます。
気温・気圧・湿度が変わると、n(λ₁)とn(λ₂)がまったく同じ割合で変わるとは限りません。
そのため、二つの屈折率差Δnもわずかに変化します。
これが「空気の分散が環境条件で変わる」という意味です。
なぜ波長ごとに環境依存が少し違うのか
気体分子の分極応答は、光の周波数によって完全に一定ではありません。
そのため、密度や組成が変化したときの屈折率変化も、すべての波長で完全に同じにはなりません。
RP Photonicsは、屈折率の波長依存性を色分散として説明し、気体では圧力・温度・組成も屈折率へ影響するとしています。
つまり、環境条件は「屈折率の高さ」だけでなく、「波長に対する屈折率曲線のわずかな形」にも影響します。
高精度計測ではなぜ空気の分散補正が必要なのか
レーザー干渉計では、光の波長を長さのものさしとして使います。
しかし、空気中の波長は真空中の波長より短く、
λair = λvac / n
で表されます。
したがって空気の屈折率が変わると、実際に使っている光学的なものさしの長さも変わります。
NISTは、この補正のためにCiddor式や修正Edlén式を使い、波長・温度・気圧・湿度・CO₂濃度から空気屈折率を計算しています。
二つの波長を使う測定では分散が特に重要
二色法や複数波長の干渉計では、異なる波長が空気中を進むときの屈折率差を利用します。
そのため、環境条件によって二波長間の屈折率差が変わると、測定結果にも影響します。
J-STAGEの空気屈折率測定研究では、空気中の光路長が屈折率と幾何学長の積で決まるため、高精度測定では空気屈折率の正確な把握が必要とされています。
気温・気圧・湿度のうち、どれが最も重要なのか
一般に、通常の地上環境では気圧と気温による密度変化の影響が大きく、湿度も高精度測定では無視できません。
ただし、どの要因が支配的かは測定精度、波長、環境変動の大きさによって変わります。
そのため、NISTの計算ツールのように複数の環境パラメータを同時に扱う方法が使われます。
湿度が高いと必ず屈折率が大きくなるのか
必ずしもそうではありません。
湿度の影響は、乾燥空気と水蒸気の分極応答の違い、温度、圧力との組み合わせで決まります。
したがって、「水蒸気が増えるから単純に屈折率が上がる」と考えるのは不正確です。
高精度計算では、水蒸気分圧を含む経験式を用いて評価します。
天文観測でも空気の分散は問題になる
星の光は大気を斜めに通ると、波長ごとにわずかに異なる角度で屈折します。
そのため、低い高度にある天体では像が色ごとにずれる大気分散が現れます。
気温・気圧・湿度によって空気の屈折率が変われば、この大気分散量もわずかに変化します。
高精度な天文観測では、こうした環境条件を考慮して大気分散を補正します。
虹の分散と空気の分散は同じものなのか
基本原理は同じです。
どちらも、屈折率が波長によって違うために色ごとに進行方向が変わる現象です。
ただし虹では主に水滴の屈折率分散が効きます。一方、ここで扱っているのは空気そのものの屈折率分散です。
空気の分散は水やガラスより小さいですが、長い光路や高精度測定では重要になります。
空気の分散は日常生活で見えるのか
通常の短い距離では非常に小さいため、肉眼で直接感じることはほとんどありません。
しかし、長距離の大気伝搬、高精度干渉計、天文観測、測地、レーザー測距などでは積み重なって無視できない効果になります。
つまり、空気の分散は「小さいがゼロではない」現象です。
既存の分散記事とは何が違うのか
「なぜ光は波長によって屈折率が変わり、色に分かれるのか?」では、分散が生じる一般原理を扱っています。
また、光学ガラスの記事では、材料組成によって分散の大きさが異なる理由を比較しています。
本記事では、同じ空気という媒質でも、気温・気圧・湿度という環境条件が変わることで屈折率と波長依存性がどう変化するかに焦点を限定しています。
まとめ
空気の分散が気温・気圧・湿度によって変わるのは、空気の屈折率が波長だけでなく、気体密度と組成にも依存するからです。
- 空気にも波長による屈折率差があり、分散が存在する
- 気圧が上がると分子密度が増え、屈折率は変化する
- 気温が上がると密度が下がり、屈折率は一般に1へ近づく方向へ変わる
- 湿度が変わると水蒸気の割合が変わり、空気全体の屈折率も変わる
- 各波長の屈折率変化が完全には同じでないため、分散もわずかに変化する
- 高精度干渉計や二色法、天文観測ではこの差を補正する必要がある
つまり、空気の分散は空気に固定された一つの値ではなく、波長・気温・気圧・湿度・組成で決まる環境依存の光学特性なのです。
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参考資料
- 長谷川文唯ほか「空気屈折率測定用可変長真空チャンバの設計と位相変調干渉計の適用」精密工学会学術講演会講演論文集
- NIST: Index of Refraction of Air
- NIST Engineering Metrology Toolbox: Refractive Index of Air Calculator Documentation
- RP Photonics Encyclopedia: Refractive Index
- OpenStax University Physics Volume 3: Dispersion

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