米、小麦、大麦、トウモロコシ、オーツ麦などの穀物は、どれも乾いた食品に見えます。しかし、同じ場所に同じ方法で保存すればよいわけではありません。玄米と精白米、粒のままの小麦と小麦粉、全粒粉と白い小麦粉でも、劣化しやすさは異なります。
その理由は、穀物の保存性が水分、温度、酸素、粒の構造、脂質や酵素の量の組み合わせで決まるからです。特に、水分が多く温度が高いほど、微生物や害虫の活動、穀粒自身の呼吸、脂質の酸化などが進みやすくなります。一方、ぬかや胚芽を残した穀物や、粉砕して内部が空気に触れやすくなった食品では、別の劣化も起こりやすくなります。
穀物の保存を左右する基本条件は水分・温度・酸素
穀物は収穫後も完全に「変化しない物質」になるわけではありません。粒の内部ではゆっくりと呼吸や化学反応が続き、周囲の湿度に応じて水分を吸ったり放出したりします。
FAOの穀物貯蔵資料では、保存中の劣化を左右する主要因として温度、水分、酸素が挙げられています。水分が多く、温度も高い条件では、カビなどの微生物や害虫の活動が活発になりやすく、品質低下の危険性が高まります。
反対に、穀物を適切な水分状態に保ち、低めで安定した温度に置くと、多くの劣化反応は遅くなります。ただし、「何%なら安全」という水分値は穀物の種類、保存期間、温度、保存設備などで異なるため、すべての穀物に共通する一つの数字で決めることはできません。
なぜ穀物の種類によって保存性が違うのか?
穀物ごとに、粒の大きさや皮の構造、脂質量、酵素活性などが違うためです。保存中に問題となる反応も、それぞれ同じではありません。
たとえば米では、玄米の表層にぬか層と胚芽が残っています。これらの部分には脂質が比較的多く含まれ、保存中には脂質の分解や酸化が起こります。日本の研究では、玄米を開放状態で保存すると、過酸化物価やカルボニル価、脂肪酸度といった脂質劣化に関係する指標が時間とともに変化することが報告されています。
一方、精白米ではぬか層や胚芽の多くが取り除かれています。そのため玄米とは脂質量や酵素の分布が異なり、保存中に起こる変化のバランスも違います。これは「玄米のほうが必ず悪い」「精白米なら劣化しない」という単純な話ではなく、どの成分が残っているかによって注意すべき劣化経路が変わる、という意味です。
同じ米でも保存温度や水分で品質変化が違う
穀物の保存では、種類だけでなく保存条件の組み合わせが重要です。米を使った研究では、そのことがはっきり示されています。
籾を異なる水分と温度で17か月保存した研究では、4℃では糊化特性の変化が小さかった一方、20℃では徐々に変化し、35℃ではより速く変化しました。また、その変化の大きさは籾の水分量にも左右されました。つまり、温度だけ、水分だけを見るのではなく、両方を組み合わせて考える必要があります。
別の精米の研究でも、保存温度が高いほど脂肪酸度が増えやすく、低い温度では多くの理化学的変化が抑えられる傾向が示されています。家庭で同じ銘柄の米を買っても、夏場の高温環境と涼しい環境では、時間の経過による品質変化が同じとは限りません。
粒のままと粉では、なぜ保存性が変わるのか?
穀粒は、内部の成分を外気からある程度守る天然の構造を持っています。ところが粉砕すると、その構造が壊れ、内部の脂質や酵素が酸素や水分と接触しやすくなります。
特に全粒粉は、ふすまや胚芽を含むため脂質や脂質分解酵素も残っています。全粒小麦粉に関するレビューでは、白い小麦粉に比べて保存期間が短くなりやすく、その一因として脂質分解や酸化が挙げられています。
このため、「小麦という同じ穀物だから保存性も同じ」とは言えません。粒の小麦、全粒粉、精製した小麦粉では、表面積や脂質量、酵素の働き方が違います。粉にすると調理しやすくなる一方で、空気に触れる面積が増え、保存上は不利になる場合があります。
ぬかや胚芽が残る食品では脂質の変化に注意が必要
玄米、全粒粉、胚芽を含む製品などでは、精製度の高い穀物食品より脂質の影響が大きくなることがあります。脂質は保存中に分解されて遊離脂肪酸を生じたり、酸化されてにおいの原因となる物質を生じたりします。
長期貯蔵した玄米と精白米を比較した研究では、玄米の表層部にある脂質の変化と、貯蔵に伴うにおい成分の増加との関係が調べられています。また、玄米を精白すると、長期貯蔵米で増えた一部のにおい成分が減少することも示されています。
穀物を保存するときに「湿気だけ避ければ十分」とは言い切れないのは、このように酸素や光、脂質、酵素なども品質に関わるためです。
密閉すれば何でも長持ちするわけではない
密閉は外部からの湿気や害虫の侵入を抑えるうえで役立つことがありますが、保存前の状態が悪ければ万能ではありません。
たとえば、もともと水分が多い穀物を密閉すると、その水分が容器内に残ります。温度差によって結露が起これば、局所的に湿った部分ができることもあります。そのため、大規模な穀物貯蔵では、乾燥、温度管理、換気、害虫管理などを組み合わせて品質を保ちます。
また、酸素を減らす方法は脂質酸化や一部の害虫対策に有効な場合がありますが、水分や温度の問題をすべて解決するわけではありません。保存法は一つの条件だけで決めず、食品の状態全体を見る必要があります。
家庭では「未開封・開封後・粉か粒か」を分けて考える
家庭で穀物食品を保存するときは、専門設備の数値をそのまま当てはめるより、食品の形態と包装表示を確認するほうが実用的です。
- 未開封品は、まずメーカーが指定する保存方法と賞味期限に従う
- 開封後は湿気やにおい移り、虫の侵入を避け、容器や袋をきちんと閉じる
- 玄米や全粒粉など、ぬか・胚芽を含むものは脂質の変化も意識する
- 粉状の食品は粒より空気に触れる面積が大きいことを考慮する
- 高温多湿になりやすい場所や、温度変化が大きく結露しやすい場所を避ける
冷蔵や冷凍が適するかどうかは食品や包装によって異なります。冷たい場所から取り出した際に容器内で結露すると、かえって水分を増やす可能性もあるため、製品の表示やメーカーの案内を優先することが大切です。
穀物ごとに保存法が違うのは「劣化しやすい条件」が違うから
穀物の保存方法が種類や条件によって変わるのは、それぞれの食品で水分の持ち方、脂質量、酵素活性、粒の構造、粉砕の程度が違うからです。
保存中の品質を左右する基本条件は水分、温度、酸素ですが、玄米や全粒粉のようにぬかや胚芽を含む食品では脂質の酸化や分解も重要になります。また、粒を粉にすると表面積が増え、内部成分が空気と接触しやすくなるため、同じ穀物でも保存性は変化します。
したがって、穀物を保存するときは「穀物は乾物だから全部同じ」と考えるのではなく、何の穀物か、粒か粉か、どの程度精製されているか、どのくらいの水分と温度に置かれるかを分けて考えることが重要です。
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主な参考資料
- グエン クォクトアンほか「糊化特性による長期貯蔵米の品質評価に関する研究」農業機械学会誌、2005年。
- 奥西智哉・大坪研一「玄米保管時における酸化劣化とその抑制方法」日本食品科学工学会誌、2008年。
- Food and Agriculture Organization of the United Nations, Grain storage techniques.
- Pomeranz Y. et al.に関連する全粒小麦粉の製粉・保存性レビュー資料。

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