玄米を白米にしたり、小麦を小麦粉にしたりするとき、穀物は削る・砕く・ふるい分けるといった工程を通ります。このような精製では、同じ原料を使っても、処理時間や機械の力、摩擦で生じる温度、どこまで外層を取り除くかによって、仕上がりが変わります。
その理由は、穀物が外側から内側まで同じ成分でできているわけではなく、外皮・ぬか・胚芽・胚乳などの層ごとに成分や硬さが異なるからです。精製が進むほど外側の層が除かれ、色や食感、吸水性は変わりますが、同時に脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなども減少します。また、処理を強く・長くしすぎると摩擦熱や機械的な損傷が増え、砕粒や損傷でんぷんの増加につながることがあります。
つまり、穀物の精製は単に「長く削ればきれいになる」という操作ではありません。処理時間・温度上昇・圧力や摩擦・原料の硬さや水分・目標とする精製度を組み合わせて調整する工程です。
穀物の精製では、外側の層から順に取り除かれる
穀粒は均一な塊ではありません。たとえば米では、玄米の表面に果皮、種皮、ぬか層などがあり、その内側に主としてでんぷんを含む胚乳があります。小麦でも、外側にはふすまになる層があり、その内側に胚乳があります。
精米や製粉では、こうした組織の硬さや結びつきの違いを利用して、外側の組織と内側の胚乳を分けていきます。摩擦式の精米では、米粒同士や米粒と機械表面との摩擦によってぬか層が削られます。小麦のローラー製粉では、粒を段階的に割りながら、胚乳を粉にし、ふすまをふるい分けます。
そのため、精製度が変わると、取り除かれる層も変わります。近年の玄米研究では、搗精度が高くなるにつれて、外側の組織が段階的に除去され、たんぱく質、脂質、食物繊維、ミネラルなどが減る一方、相対的にでんぷんの割合が高くなることが示されています。
処理時間が長いほど精製度は上がりやすい
精米機や製粉機の中で穀粒が機械的な力を受ける時間が長くなると、一般には外層の除去が進みます。米では、処理が進むほどぬかが除かれて白度が上がり、玄米から白米へ近づきます。
しかし、精製時間を長くすればするほど品質が必ずよくなるわけではありません。必要以上に処理すると、胚乳まで削られて歩留まりが下がったり、米粒が割れて砕米が増えたりします。
摩擦式精米の研究では、ぬか層が均一に取れるかどうかは、米粒が精米室内でどのように移動し、どの程度摩擦を受けるかに左右されます。処理が不均一な場合、時間を延ばしても一部の粒は削られすぎ、別の粒にはぬかが残ることがあります。
つまり重要なのは単なる処理時間ではなく、短時間でも均一に必要な力がかかるかどうかです。
精製中に温度が上がるのはなぜ?
精米や製粉では、機械の回転や穀粒同士の接触によって摩擦が生じます。その機械的エネルギーの一部は熱に変わるため、処理中に穀粒や粉の温度が上昇します。
特に精米では、米粒がローラーやスクリーンに繰り返し接触するため、処理条件によってはかなりの温度上昇が起こります。研究では、摩擦式や研削式の精米で発生する熱が米粒内部に熱応力を与え、亀裂や砕粒を増やす要因になり得ることが報告されています。
また、精製中の発熱は原料の成分にも影響します。米粉に関する研究では、精米機の違いによって、その後に製粉した米粉の損傷でんぷん量が大きく異なり、圧力や摩擦熱が一因と考えられています。
そのため、工業的な精製では、処理能力を上げるだけでなく、温度上昇を抑えるための空気流や段階処理も重要になります。
温度が高すぎると、なぜ品質が低下することがあるのか?
穀物にはでんぷん、たんぱく質、脂質などが含まれています。これらは熱や機械的な力の影響を受けるため、精製中の温度が高くなりすぎると、原料の性質が変わることがあります。
米では、精米時の急な温度上昇や温度差によって粒内部に応力が生じ、微細な亀裂が入りやすくなります。亀裂がある米は、その後の精米や搬送で割れやすくなり、完全な粒として得られる割合が低下します。
小麦粉や米粉では、強い粉砕によって粒子が細かくなる一方、でんぷん粒そのものが機械的に傷つくことがあります。損傷でんぷんは水を吸いやすく、製パンや製菓の際の吸水量や生地特性に影響するため、粉を細かくすれば必ず品質が高くなるとは限りません。
2024年の米粉製粉レビューでも、乾式製粉は水を使わず効率的である一方、過度の機械エネルギーと発熱によって粉の機能性が低下する場合があると整理されています。
精製度が高くなると栄養成分も変わる
穀物の外側には、胚乳より多くの脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルが含まれる部分があります。したがって、外層を多く取り除くほど、見た目や食感は変わりますが、栄養成分も同時に変化します。
米の研究では、搗精度が進むにつれて粗たんぱく質や粗脂肪が減り、吸水性や糊化特性も変化することが示されています。また、2026年の多段階精米研究では、ぬか層と胚芽の除去が進むにつれて、脂質、食物繊維、ビタミンB1、ビタミンEなどが段階的に減少しました。
これは、精製度を高めることに利点がないという意味ではありません。外層を取り除くことで食感がやわらかくなったり、調理時間が短くなったり、見た目が整ったりする場合があります。精製は、栄養、食感、保存性、加工性、歩留まりのバランスを取る工程と考えると理解しやすくなります。
原料の水分によっても精製しやすさが変わる
穀粒の硬さや割れやすさは、水分量によって変わります。乾燥しすぎた穀粒はもろくなりやすく、反対に水分が多いと柔らかくなったり粘りやすくなったりします。
小麦製粉では、製粉前に一定量の水を加えて休ませる「調質」が行われます。これは、外側のふすまを適度に強くし、胚乳を粉砕しやすい状態に整えるためです。水分を調整せずにそのまま製粉すると、ふすまが細かく砕けて粉に混ざりやすくなったり、胚乳が思うように粉にならなかったりします。
米でも、原料水分や温度によって粒の機械的な強さや亀裂の入りやすさが変わります。したがって、精製条件は機械側だけでなく、処理前の穀物の状態にも合わせる必要があります。
同じ穀物でも精製方法によって粉の性質が変わる
小麦では石臼製粉とローラー製粉、米では乾式・湿式・半湿式など、複数の製粉方法があります。どの方法を使うかによって、粒度、でんぷん損傷、ぬかや胚芽の混入割合、温度上昇などが変わります。
小麦について石臼製粉とローラー製粉を比較した系統的レビューでは、製粉方式によって粉の栄養成分、生地のレオロジー、パンの性質が異なることが整理されています。ローラー製粉は段階的に分離しやすく、比較的発熱を抑えながら均質な粉を得やすい一方、石臼製粉では外層や胚芽を含みやすく、粉の性質が異なります。
米粉でも、乾式製粉は効率が高い一方で損傷でんぷんが増えやすく、湿式製粉では粉の品質を保ちやすいものの、水処理や乾燥工程が必要になります。つまり、精製方法は最終用途に合わせて選ぶ必要があります。
「強く・長く・細かく」が最適とは限らない
精製では、白度や粒度だけを高めようとすると、別の品質が低下することがあります。
- 精米時間を長くすると、ぬか除去は進むが歩留まりが低下しやすい
- 摩擦や圧力を強くすると、処理は速くなるが発熱や砕粒が増えることがある
- 粉砕を強くすると粒子は細かくなるが、損傷でんぷんが増える場合がある
- 精製度を上げると食感や外観が変わる一方、外層由来の栄養成分は減る
- 原料水分が合っていないと、外皮と胚乳を効率よく分離しにくい
このため、精製では目的に応じた「適度な処理」が重要です。白米として食べるのか、米粉にするのか、パン用小麦粉にするのかによって、最適な処理条件は変わります。
まとめ:穀物の精製は機械的な力と熱、処理時間のバランスで決まる
穀物の精製が温度や時間などで変化するのは、精米や製粉が、外側の組織を機械的に削り、割り、分離する工程だからです。
処理時間が長く、摩擦や圧力が強いほど精製は進みやすくなりますが、同時に温度上昇、砕粒、損傷でんぷん、歩留まり低下などの問題も起こりやすくなります。さらに、原料の水分や硬さ、精製方法、どこまで外層を取り除くかによって、栄養成分や吸水性、加工適性も変わります。
したがって、穀物の精製は温度・処理時間・機械的な力・原料水分・目標とする精製度を組み合わせて調整する工程です。最適な条件は、穀物の種類と最終的な用途によって変わります。
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主な参考資料
- 「搗精度が米の性状に及ぼす影響」日本家政学会誌、1997年。
- 「精米条件が米粉の澱粉損傷度に及ぼす影響」美味技術学会誌、2025年。
- Cappelli A. et al. “Stone milling versus roller milling: A systematic review of the effects on wheat flour quality, dough rheology, and bread characteristics.” Trends in Food Science & Technology, 2020.
- “Effects of Milling Methods on Rice Flour Properties and Rice Product Quality: A Review.” Rice Science, 2024.
- “Development of rice quality during multi-stage industrial milling: A comprehensive analysis.” Journal of Stored Products Research, 2026.

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