なぜ乾燥食品の吸湿量は湿度に比例せず増えるのか?

乾燥食品を湿った空気に置くと、水分は少しずつ増えていきます。しかし、相対湿度が2倍になったからといって、食品が吸う水分量も単純に2倍になるわけではありません。

多くの乾燥食品では、湿度が低い間は吸湿量の増加が小さく、中程度の湿度で徐々に増え、高湿度になると急に多くの水を吸うことがあります。この非線形な関係は、食品表面での水分子の結びつき方が、湿度の上昇とともに変わるためです。

つまり、乾燥食品の吸湿量が湿度に比例しないのは、低湿度では限られた高エネルギー部位への吸着、中湿度では多分子層形成、高湿度では水同士の相互作用や毛管凝縮、可溶成分の溶解などが加わり、水を保持する仕組みそのものが変わるからです。

目次

水分収着等温線とは何か?

一定温度で、食品の平衡水分量と水分活性の関係を表した曲線を水分収着等温線と呼びます。

食品を一定の湿度環境へ置くと、最初は水分を吸ったり放出したりしますが、十分な時間がたつと周囲との水分交換がほぼつり合います。そのときの水分量が平衡含水率です。

横軸に水分活性、またはそれに対応する平衡相対湿度、縦軸に平衡含水率を取ると、水分収着等温線になります。

多くの食品では、この曲線は直線ではなくS字型になります。国内の食品物性に関する総説でも、多くの食品の水分収着等温線はGAB式によって良好に表せると整理されています。

低湿度では「強く結びつく場所」から水が付く

非常に乾いた食品でも、表面や内部には水分子と強く相互作用できる部位があります。

たとえば、たんぱく質や多糖、糖などが持つ極性基やイオン性部位は、水分子と水素結合や静電的相互作用を作りやすい場所です。

低湿度では水分子の数が少ないため、まずこうした結合力の強い部位へ優先的に水が吸着します。

この段階では、水分子は食品固体へ強く拘束されており、水分活性が少し上がっても吸湿量は急激には増えません。

「単分子層水分量」は何を表す?

食品表面の主要な吸着部位が、一層の水分子でほぼ覆われた状態を考えるときに使われる概念が単分子層水分量です。

BET式やGAB式などの水分収着モデルでは、この単分子層水分量を推定できます。

単分子層付近では、水は固体表面との相互作用を強く受けており、自由に動きにくい状態です。このため、食品の化学的・物理的安定性を考える際の一つの目安として使われます。

ただし、実際の食品表面は均一ではなく、単分子層が物理的に完全な一枚の水膜として存在しているわけではありません。モデル上、強く結合した水の領域を表す概念と考える方が適切です。

湿度が上がると水の上にさらに水が付く

低湿度で主要な吸着部位が水分子に覆われると、その後に入ってくる水は、食品固体だけでなく、すでに吸着している水分子とも相互作用するようになります。

この段階では、第二層、第三層というように、水分子が多層的に集まる状態として扱われます。

食品固体に直接触れている水より拘束が弱くなり、水分子は次第に動きやすくなります。

そのため、中程度の湿度領域では、湿度上昇に伴って吸湿量の増え方が大きくなっていきます。

高湿度ではなぜ吸湿量が急増しやすいのか?

高湿度になると、水分子は食品表面の特定部位だけに付くのではなく、水同士の相互作用によって集団を作りやすくなります。

食品内部の微細な孔や毛細管では、水蒸気が凝縮して液体状の水として存在する毛管凝縮が起こることがあります。

さらに糖や塩などの水溶性成分では、吸湿した水によって固体表面が部分的に溶解し、その溶液がさらに水を取り込むことで吸湿量が大きく増える場合があります。

こうして高湿度領域では、水分を保持する機構が複数重なり、収着等温線の傾きが急になります。

なぜ「湿度50%なら25%の2倍吸う」とならないのか?

もし食品表面のすべての場所が同じ強さで水を引きつけ、水分子同士の相互作用もなければ、吸湿量は湿度に近い比例関係を示すかもしれません。

しかし実際の食品では、強い吸着部位と弱い吸着部位が混在し、水分子同士も相互作用します。

さらに、高湿度になると毛管凝縮や固体成分の溶解、構造変化まで起こります。

そのため、湿度が上がるにつれて「水が付く場所」と「水を保持する仕組み」が段階的に変わり、吸湿量は非線形になります。

食品によって収着等温線の形が違うのはなぜ?

食品は、たんぱく質、でんぷん、糖、塩、脂質、食物繊維などを異なる割合で含んでいます。

これらの成分は、水との相互作用の強さが異なります。極性基を多く持つたんぱく質や多糖は水を結合しやすく、糖や塩は高湿度で溶解して強い吸湿性を示すことがあります。

一方、脂質は水となじみにくいため、脂質を多く含む食品では乾物重量当たりの吸湿量が比較的小さくなることがあります。

また、食品が結晶質か非晶質か、孔が多いか少ないかによっても収着挙動は変わります。

非晶質食品はなぜ吸湿で急に性質が変わることがある?

粉末食品、キャンディー、乾燥果実などには、糖質が規則的な結晶を作らず、非晶質のガラス状態で存在するものがあります。

ガラス状態では分子運動が小さく、食品は硬く、脆く、流動しにくい状態を保ちます。

ところが水分を吸うと、水は食品高分子や糖質の間へ入り、分子を動きやすくする可塑剤として働きます。

その結果、ガラス転移温度が低下し、保存温度がガラス転移温度を上回ると、食品はラバー状へ移行して急に軟らかくなったり、べたついたりします。

2020年の国内総説でも、水分収着に伴うガラス転移温度の低下は、水の可塑効果と密接に関係すると整理されています。

粉末がある湿度を超えると急に固まるのはなぜ?

乾燥粉末は低湿度では粒子表面が硬く、粒子同士が接触しても簡単には融合しません。

しかし吸湿によってガラス転移温度が低下し、保存温度より低くなると、粒子表面がラバー状になって粘着性を持ちます。

すると粒子同士が接着し、凝集や固結が進みます。

海外の非晶質糖質食品の研究でも、水分活性の上昇によってガラス転移が起こる臨界水分活性を超えると、粉末のケーキングが起こりやすくなると示されています。

このため、粉末食品では吸湿量そのものだけでなく、ガラス転移を起こす臨界湿度を超えない包装設計が重要です。

結晶性の糖や塩は別の吸湿挙動を示すことがある

結晶性の砂糖や塩では、非晶質食品のように低湿度から連続的に大きく吸湿するとは限りません。

結晶表面への吸着が小さい物質では、ある湿度まではほとんど水を吸わず、特定の相対湿度を超えると急に水を取り込んで溶液化することがあります。

この現象は潮解と呼ばれます。

つまり「高湿度で吸湿量が急増する」理由は、食品によって多分子層吸着や毛管凝縮の場合もあれば、結晶性成分の潮解の場合もあります。

GAB式はなぜ食品の吸湿に広く使われるのか?

GAB式は、水分収着を単分子層とその上に形成される多分子層として扱うモデルです。

多くの食品が示す広い水分活性範囲のS字型収着等温線を比較的よく表現できるため、食品科学で広く使われています。

GABモデルからは単分子層水分量などのパラメータを求めることができ、乾燥条件や包装設計、保存安定性の評価に利用されます。

ただしGAB式は食品内部で起こるすべての分子現象を一つ一つ再現したものではなく、実測データを有用に整理するモデルです。

吸湿と乾燥で同じ曲線を通らないことがある

食品では、乾いた状態から吸湿させたときの曲線と、湿った状態から乾燥させたときの曲線が一致しないことがあります。

これを収着ヒステリシスと呼びます。

食品内部の細孔構造、毛管凝縮、たんぱく質や多糖の構造変化、でんぷんの状態などが、吸湿時と脱湿時で完全には同じ経路をたどらないためです。

そのため、ある湿度での水分量は、現在の湿度だけでなく、その食品がそれまで乾燥してきたのか、吸湿してきたのかにも影響されます。

温度が変わると収着等温線も変わる

水分収着等温線は温度ごとに異なります。

温度が上がると水分子の運動が活発になり、食品表面へ保持される水の量が変わります。多くの食品では、同じ水分活性でも高温ほど平衡含水率が低くなる傾向があります。

さらにガラス転移は温度と水分量の両方で決まるため、同じ湿度でも保存温度が高ければ、べたつきや固結が起こる危険が高くなることがあります。

そのため、吸湿性を評価するときは湿度だけでなく温度もセットで考える必要があります。

包装設計では「平均湿度」より臨界湿度が重要になる

乾燥食品の品質を守るとき、単に水分量を低く保つだけでは十分でない場合があります。

たとえば、ある水分活性を超えると急にガラス転移が起こり、サクサク感が失われたり粉末が固まったりする食品では、その臨界点を超えないことが重要です。

このため、防湿包装では食品の水分収着等温線と、包装材料の水蒸気透過性、保存温度、保存期間を組み合わせて設計します。

「少し湿度が上がっただけ」に見えても、収着等温線の急峻な領域へ入れば、吸湿量と品質変化が急に大きくなることがあります。

まとめ:湿度が上がるにつれて、水を保持する仕組み自体が変わるため比例しない

乾燥食品の吸湿量が湿度に単純比例しないのは、水分子の吸着機構が湿度によって変化するためです。

低湿度では食品表面の高エネルギー部位へ水が強く吸着し、中湿度ではその水の上へさらに水分子が多層的に集まります。高湿度では水同士の相互作用が強まり、毛管凝縮や可溶成分の溶解・潮解なども加わるため、吸湿量が急に増えることがあります。

さらに、非晶質食品では吸湿した水が可塑剤として働き、ガラス転移温度を下げるため、ある湿度を境に軟化・べたつき・固結などの品質変化が急に現れます。

つまり、食品の吸湿を仕組みから理解するには、湿度の数値だけでなく、単分子層、多分子層、毛管凝縮、潮解、ガラス転移といった水の存在状態の変化を見ることが重要です。

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主な参考資料

  • 熊谷仁「食品の物性そして水-水分活性とガラス転移」日本食品工学会誌、2020年。
  • 熊谷仁「食品の物性と水」日本食品科学工学会誌、2015年。
  • 川井清司「食品の物性制御における水の役割」日本食品科学工学会誌、2019年。
  • “Water Sorption Isotherm and Critical Water Activity of Amorphous Water-Soluble Carbohydrates Characterized by the Glass Transition Temperature.” 2024.
  • “Hygroscopic properties and glass transition of dehydrated mango, apple and banana.” Journal of Food Science and Technology, 2018.

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