食品を凍らせると、内部の水が一度に全部氷になるわけではありません。多くの場合、食品の表面や核生成が起きた場所から氷が形成され、その氷の領域が少しずつ内部へ広がっていきます。
このとき、氷結晶は水分子を規則正しく取り込みますが、糖、塩、有機酸、アミノ酸など多くの溶質は氷結晶へ入りにくく、凍っていない液体部分へ追い出されます。
その結果、凍結が進むほど未凍結部分の溶質濃度は高くなります。つまり食品凍結は、氷の前線が移動しながら水を固相へ取り込み、溶質を液相側へ濃縮する相分離の過程でもあります。
食品は表面から内部へ向かって凍ることが多い
食品を冷たい空気や冷媒で凍らせると、熱は食品内部から表面を通って外へ逃げます。
そのため表面近くから温度が下がり、核生成条件が整うと氷が形成されます。氷ができた部分と、まだ液体の水を含む部分の境界が凍結界面です。
冷却が続くと、この凍結界面は食品内部へ向かって移動します。
2021年の国内総説でも、食品中の氷構造は、移動する氷前線における熱移動と水分移動のバランスによって強く決まると整理されています。
氷の前線が進むには熱を外へ逃がす必要がある
液体の水が氷になるときには、凝固潜熱が放出されます。
したがって凍結界面を前進させるには、その潜熱を食品外へ運び出さなければなりません。
食品表面から十分に熱を除去できれば、界面は内部へ進みます。反対に熱が逃げにくければ、凍結界面の移動は遅くなります。
このため食品の厚さ、熱伝導率、冷媒温度、空気流速、包装などが凍結速度へ影響します。
氷結晶はなぜ水だけを選んで取り込むのか?
氷結晶では、水分子が規則的な結晶格子を作っています。
糖や塩、有機酸などの溶質分子やイオンは、この氷格子へ入りにくいため、氷が成長すると多くの溶質は結晶から排除されます。
その結果、凍結界面の液体側では水の割合が減り、溶質濃度が上昇します。
この現象が凍結濃縮です。
凍結が進むほど未凍結相は濃くなる
凍結初期には、食品中の水の一部だけが氷になります。
氷が増えるほど、糖や塩などは残った液体部分へ集まります。そのため、未凍結相では溶質濃度が次第に高くなります。
濃度が高くなると、その液体部分の凝固点はさらに低下します。
つまり、凍結が進むほど残った液体は凍りにくくなり、温度をさらに下げなければ追加の氷は形成されません。
だから食品は一つの温度で全部凍らない
純水なら0℃付近で液体と氷の平衡を考えられますが、食品は多成分系です。
凍結が進むたびに未凍結相の濃度が変わり、その凝固点も変わります。
このため、食品では温度を下げるにつれて氷の割合が連続的に増えていきます。
食品の氷含量は温度依存的であり、凍結食品の熱物性や品質変化を考える上で重要な指標です。
未凍結部分では浸透圧も高くなる
凍結濃縮によって溶質濃度が上がると、未凍結相の浸透圧も上昇します。
細胞を持つ野菜、果物、肉などでは、細胞外の液体が先に凍ると、外側の未凍結液が濃縮されます。
すると細胞内外に浸透圧差が生じ、水が細胞内部から外へ移動することがあります。
この脱水と濃縮は、細胞膜やたんぱく質へ負担をかけ、凍結・解凍後の食感変化やドリップへつながる場合があります。
凍結界面では「熱移動」と「水分移動」が競合する
凍結界面の形と進み方は、熱がどれだけ速く外へ逃げるかだけでは決まりません。
まだ凍っていない部分の水が、成長する氷結晶へどれだけ速く移動できるかも重要です。
熱を非常に速く除去して界面が急速に進むと、水分子が長距離移動する時間が少なくなり、多数の細かな氷結晶が形成されやすくなります。
一方、ゆっくり凍結すると、水が既存の氷結晶へ移動する時間が長くなり、大きな氷結晶が成長しやすくなります。
氷の形は凍結界面の安定性で変わる
凍結界面が平らなまま進む場合もあれば、枝分かれした樹枝状の氷構造になる場合もあります。
界面前方で溶質が濃縮されると、局所的に凝固点が下がります。
温度勾配と濃度勾配の条件によっては、平らな界面が不安定になり、突起部分だけが先へ成長しやすくなります。
このような界面不安定性は、食品中の氷結晶の形やサイズへ影響します。
凍結速度が速いほど凍結濃縮はなくなるのか?
急速凍結でも、氷結晶が純粋な水を主体として形成される以上、凍結濃縮そのものは起こります。
ただし、凍結速度が速いと、溶質や水が長距離移動する時間が短くなります。
その結果、濃縮領域が細かく分散し、氷結晶も小さくなりやすくなります。
ゆっくり凍結では、水分移動が進む時間が長いため、大きな氷結晶と局所的に強い濃縮領域が形成されることがあります。
凍結濃縮でpHや塩濃度が変わることがある
凍結によって水が氷へ移ると、未凍結相では塩、糖、有機酸、緩衝成分などが濃縮されます。
そのため、局所的なイオン強度や浸透圧が上がり、場合によってはpHも変化します。
こうした環境変化は、たんぱく質の溶解性、酵素活性、細胞膜の安定性などへ影響します。
したがって、凍結による品質変化は氷の物理的な圧力だけでは説明できません。
たんぱく質は濃縮された未凍結相の影響も受ける
肉、魚、乳製品などでは、凍結濃縮によって塩類や溶質濃度が高くなると、たんぱく質周辺の環境が変わります。
イオン強度やpHの変化、分子同士の接近、低温での脱水などによって、たんぱく質の構造や保水性が変化することがあります。
その結果、解凍時に水を保持しにくくなり、ドリップや食感変化につながる場合があります。
細胞食品では氷前線が組織構造の影響を受ける
野菜、果物、肉などは均一な液体ではなく、細胞膜、細胞壁、筋繊維、細胞間隙など複雑な構造を持っています。
そのため氷前線は一直線に進むとは限らず、細胞間隙や水の多い経路に沿って成長する場合があります。
細胞外で氷が成長すると、細胞内の水が外へ移動し、細胞が脱水されます。
逆に急激な凍結では細胞内にも氷が形成される場合があり、細胞膜へ強い損傷を与えることがあります。
氷含量が増えると食品の熱の伝わり方も変わる
氷と液体水では熱物性が異なります。
凍結が進み氷の割合が増えると、食品全体の熱伝導率、比熱、エンタルピーなども変わります。
そのため凍結工程では、食品を一定の熱物性を持つ材料として扱うことはできません。
温度によって氷含量が変わり、その氷含量の変化が再び熱移動へ影響します。
氷の前線を利用して液体食品を濃縮する技術もある
凍結濃縮は、品質劣化の原因になるだけではありません。
水を氷として分離し、残った液体を濃縮する凍結濃縮技術として利用することもできます。
特に氷前線を一定方向へ進めながら氷を成長させる進行凍結濃縮では、香りや熱に弱い成分を比較的保持しながら液体食品を濃縮できる利点があります。
2021年の国内総説でも、移動する氷前線を制御することで高品質な凍結濃縮へ応用できると説明されています。
未凍結相は低温でも完全に静止しているわけではない
冷凍食品では大部分の水が氷になっていても、濃縮された未凍結相が残っています。
この未凍結相では、分子運動や化学反応が完全に止まるわけではありません。
脂質酸化、酵素反応、たんぱく質変化などが非常にゆっくり進むことがあります。
つまり冷凍保存中の変化を理解するには、「氷になった部分」だけでなく「濃縮された未凍結部分」を見る必要があります。
温度をさらに下げると未凍結水は減る
凍結濃縮によって残った液体は、溶質濃度が高いため凝固点が低くなっています。
それでも温度をさらに下げれば、追加の水が氷になります。
そのたびに未凍結相はさらに濃縮されます。
こうして温度低下に伴って氷分率は増えますが、食品によっては非常に低温まで一部の未凍結水が残ります。
凍結の仕組みを理解するには「温度」だけでなく界面を見る
食品凍結を単純に「温度が0℃以下になったから水が凍った」と考えると、実際の構造変化を十分に説明できません。
重要なのは、氷と未凍結相の境界がどこにあり、どの速度で進み、その前方へ溶質と水分がどう移動するかです。
この界面の動きが、氷結晶の大きさ、未凍結相の濃度、細胞脱水、熱物性、最終的な食感にまで影響します。
まとめ:氷の前線が水を取り込み、溶質を未凍結相へ押し出すため濃縮が起こる
食品の凍結では、冷却面から熱が奪われることで氷が形成され、その氷と未凍結部分の境界である凍結界面が内部へ進みます。
氷結晶は主に水分子を結晶格子へ取り込むため、糖、塩、有機酸など多くの溶質は未凍結液へ排除されます。
その結果、凍結が進むほど未凍結相は濃縮され、凝固点が下がり、浸透圧・イオン強度・pHなどの局所環境も変化します。
さらに氷前線の移動速度と、水分・熱の移動速度のバランスが、氷結晶の形や大きさ、細胞損傷、凍結後品質を左右します。
つまり食品凍結の構造を理解するには、温度だけでなく、動く氷前線と、その前方に形成される濃縮未凍結相を見ることが重要です。
関連記事
主な参考資料
- 宮脇長人「食品における凍結と氷結晶構造について」日本食品科学工学会誌、2021年。
- 安藤泰雅ほか「食品の冷凍および解凍に関する技術開発の現状と今後の課題」日本食品科学工学会誌、2017年。
- Fikiin K. A. “Ice content prediction methods during food freezing: a survey of the Eastern European literature.” Journal of Food Engineering, 1998.

コメント