なぜ果物・野菜・パン・肉では褐変の起こり方が違うのか?

切ったリンゴやナスは常温でも茶色くなりますが、パンの表面や焼いた肉の焼き色は、強く加熱したときに目立ちます。同じ「褐変」でも、起こっている反応は同じではありません。

果物や野菜では、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)がポリフェノールを酸化する酵素的褐変が中心になりやすい一方、パンや肉では、還元糖とアミノ酸・たんぱく質が加熱によって反応するメイラード反応が重要になります。

つまり食品によって褐変の起こり方が違うのは、含まれる基質、酵素の有無、温度、pH、水分活性、酸素への触れ方が違うためです。

目次

果物・野菜では酵素的褐変が起こりやすい

リンゴ、ナシ、ジャガイモ、ナス、アボカドなどの植物性食品には、ポリフェノール類とPPOが含まれています。

通常の細胞内では、酵素と基質が別々の場所に隔てられているため、強い反応は起こりにくくなっています。

しかし切断、打撲、すりおろしなどで細胞構造が壊れると、PPO、ポリフェノール、酸素が接触します。

PPOがポリフェノールをキノンへ酸化し、その後の非酵素的な結合・重合反応によって褐色色素が形成されます。

同じ果物でも褐変速度が違うのはなぜ?

果物や野菜の種類によって、PPO活性、ポリフェノールの種類と量、細胞内pH、抗酸化成分などが異なります。

そのため、同じように切って空気へさらしても、短時間で強く褐変する食品と、比較的変化が小さい食品があります。

2023年の酵素的褐変レビューでも、PPOの基質特異性と、どのフェノール性化合物が存在するかが褐変の進み方へ強く関与すると整理されています。

酸素への触れ方でも果物・野菜の褐変は変わる

PPOによる酸化には酸素が必要です。

切断面を空気へさらすと褐変しやすくなりますが、水中へ沈めたり、真空に近い環境へ置いたりすると、酸素供給が減って反応が遅くなる場合があります。

一方、細かく刻んだりすりおろしたりすると表面積が増え、細胞破壊も大きくなるため、酸素と酵素・基質の接触が増え、褐変が速くなることがあります。

レモン汁で果物の褐変が遅くなるのはなぜ?

レモン汁にはクエン酸やアスコルビン酸が含まれます。

酸性化によってPPOの働きに適さないpHへ近づけたり、アスコルビン酸が生成したキノンを還元したりすることで、褐変を遅らせることがあります。

つまり果物の褐変防止では、酵素活性、酸素供給、キノンの反応性を抑える方法が有効になります。

加熱した果物・野菜では酵素的褐変が止まることがある

PPOはたんぱく質でできた酵素です。

十分な加熱を受けるとPPOは変性し、触媒として働きにくくなります。

そのため、短時間のブランチングによって酵素的褐変を抑える加工が使われます。

ただし高温加熱では、酵素的褐変が止まっても、別の非酵素的褐変が進む場合があります。

パンの褐変ではメイラード反応が中心になる

パンの表面を焼くと、きつね色になり香ばしい香りが生まれます。

この変化には、還元糖のカルボニル基と、アミノ酸やたんぱく質のアミノ基が反応するメイラード反応が大きく関与します。

メイラード反応は加熱によって進みやすく、シッフ塩基、アマドリ化合物、α-ジカルボニル化合物など多数の中間体を経て、香気成分や褐色色素を作ります。

2025年のレビューでも、メイラード反応速度には温度、時間、pH、水分活性が強く影響するとされています。

パンの表面は褐変するのに内部は白いのはなぜ?

パン内部は焼成中も水分が多く、水の蒸発によって温度が比較的上がりにくくなります。

一方、表面では水分が蒸発して乾燥が進み、温度が高くなります。

そのため、表面ではメイラード反応やカラメル化が進みやすく、褐色と香ばしい香りが形成されます。

内部と表面で温度と水分状態が違うことが、同じパンの中でも褐変程度を大きく変えます。

水分が多すぎるとメイラード反応が進みにくい

メイラード反応には糖とアミノ化合物が出会う必要があります。

水分が非常に多いと反応物が希釈され、食品温度も水の沸点付近へ制約されやすくなります。

一方、水分が少なすぎると分子が動きにくくなります。

そのためメイラード反応は、中程度の水分活性領域で進みやすい場合があります。

肉の焼き色もメイラード反応が重要

肉の表面を焼くと、褐色化とともにロースト香が生まれます。

肉にはアミノ酸・たんぱく質が豊富で、少量の還元糖も存在します。

高温加熱によってメイラード反応が進み、ピラジン類、ストレッカーアルデヒドなど多様な香気成分が形成されます。

このため肉の褐変は、見た目の色だけでなく風味形成と強く結びついています。

肉では色素変化も同時に起こる

肉の色変化はメイラード反応だけではありません。

筋肉色素であるミオグロビンは、加熱によって変性し、赤色から褐色系へ変化します。

そのため焼いた肉の色は、ミオグロビンの熱変性と表面でのメイラード反応が重なって形成されます。

「肉が茶色くなった」という同じ見た目でも、内部と表面で主な原因が違うことがあります。

肉の表面をしっかり乾かすと焼き色が付きやすいのはなぜ?

肉表面に水分が多いと、まずその水を蒸発させるために熱が使われます。

水分が残っている間は表面温度が上がりにくく、メイラード反応が進みにくくなります。

表面水分が減って温度が上がると、糖とアミノ化合物の反応が速くなり、焼き色と香りが形成されやすくなります。

pHが高いとメイラード反応が進みやすいことがある

メイラード反応はpHにも強く影響されます。

一般に中性からアルカリ性側では、アミノ基の反応性が高まり、褐変が速くなることがあります。

逆に酸性条件では、反応速度が低下したり、別の中間体経路が優勢になったりします。

そのため食品のpHが違えば、同じ温度・時間でも褐変速度と生成する香気成分が変わります。

糖の種類でも褐変速度が違う

メイラード反応では、カルボニル基を持つ還元糖が反応します。

グルコースやフルクトースなどは反応に参加できますが、糖の種類によって反応性が異なります。

ショ糖はそのままでは非還元糖ですが、加水分解されてグルコースとフルクトースになれば反応へ参加しやすくなります。

食品ごとの糖組成が違うことも、褐変速度の違いを生む要因です。

アミノ酸の種類も香りと色を変える

メイラード反応では、どのアミノ酸が反応するかによって生成するストレッカーアルデヒドや香気成分が変わります。

そのためパン、肉、乳製品、コーヒーなどでは、同じメイラード反応でも香りの特徴が異なります。

褐色の強さだけでなく、食品固有の香ばしさは原料中のアミノ酸・糖組成に依存します。

カラメル化は酵素的褐変やメイラード反応と違う

糖を高温で加熱すると、アミノ化合物がなくても脱水・分解・重合によって褐色物質と香気成分が生じます。これがカラメル化です。

パンや菓子などの高温加熱では、メイラード反応とカラメル化が同時に進む場合があります。

一方、切ったリンゴの褐変では、通常カラメル化は主要因ではありません。

同じ褐色でも、温度と原料成分によって関与する反応が違います。

果物の褐変とパンの褐変では「温度依存性」が逆に見えることがある

果物の酵素的褐変では、ある範囲までは温度上昇で酵素反応が速くなりますが、さらに高温になるとPPOが変性して反応は弱くなります。

一方、メイラード反応は一般に高温ほど速く進みます。

そのため、加熱すると果物の酵素的褐変を止められる一方、パンや肉では高温加熱によって褐変を強くすることができます。

この違いは、酵素反応と非酵素的化学反応の違いに由来します。

冷蔵保存で褐変が遅くなる理由も食品ごとに違う

切った果物では、低温によってPPO反応や分子移動が遅くなり、褐変速度が低下します。

一方、保存中のメイラード反応でも低温化は反応速度を低下させます。

ただし、どちらも完全に停止するわけではありません。

さらに冷凍・解凍で細胞が壊れると、解凍後の果物ではPPOと基質が接触しやすくなり、褐変が進む場合があります。

同じ果物でも成熟度で褐変しやすさが変わる

果実が成熟すると、ポリフェノール組成、酵素活性、細胞構造、pHなどが変化します。

そのため、同じ品種でも収穫時期や成熟度によって褐変速度が異なることがあります。

保存中の生理変化もPPOと基質の状態を変えるため、褐変しやすさは固定ではありません。

加工方法が褐変反応を選び分ける

切る・すりおろす操作は、植物細胞を壊して酵素的褐変を促進しやすくなります。

ブランチングはPPOを失活させ、酵素的褐変を抑えます。

焼く・炒める・焙煎する操作では高温と水分低下によってメイラード反応やカラメル化が進みます。

つまり同じ原料でも、加工方法を変えると主役となる褐変反応が切り替わることがあります。

褐変は食品によって「悪い変化」と「良い変化」が逆になる

切ったリンゴやジャガイモの褐変は、外観や鮮度感を損なうため一般に抑えたい変化です。

一方、パンのクラスト、焼いた肉、焙煎コーヒーでは、適度な褐変が好ましい色と香りを作ります。

食品加工では、褐変をすべて防ぐのではなく、食品ごとに「抑える褐変」と「利用する褐変」を分けて制御しています。

褐変を比較するときは反応の入口を見る

褐変を見た目の色だけで比較すると、異なる現象を同じものとして扱ってしまいます。

果物・野菜では、PPO・ポリフェノール・酸素の組み合わせが反応の入口です。

パン・肉では、還元糖・アミノ化合物・熱がメイラード反応の入口になります。

さらに高温の糖質系ではカラメル化も加わります。

つまり褐変の違いを理解するには、何が茶色くなったかではなく、どの反応が最初に始まったかを見ることが重要です。

まとめ:食品ごとに基質・酵素・温度・水分条件が違うため、褐変の主役も変わる

果物や野菜では、細胞損傷によってPPO、ポリフェノール、酸素が接触し、酵素的褐変が起こりやすくなります。

パンや肉では、加熱によって還元糖とアミノ化合物のメイラード反応が進み、褐色と香ばしい香りが形成されます。

さらに温度、pH、水分活性、糖やアミノ酸の種類、酸素量、加工方法によって、褐変速度と生成物は大きく変わります。

つまり食品による褐変の違いは、どの反応材料を持ち、どの反応条件へ置かれているかの違いによって生まれるのです。

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主な参考資料

  • 村田容常「食品の褐変機構および制御方法」色材協会誌、2025年。
  • Tilley A. et al. “Enzymatic browning: The role of substrates in polyphenol oxidase mediated browning.” Current Research in Food Science, 2023.
  • “Maillard Reaction: Mechanism, Influencing Parameters, Advantages, Disadvantages, and Food Industrial Applications: A Review.” Foods, 2025.

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