なぜ砂糖菓子・チョコレート・アイスクリームでは結晶化の制御方法が違うのか?

砂糖菓子、チョコレート、アイスクリームはいずれも結晶化が品質を左右する食品です。しかし、理想とされる結晶の状態は同じではありません。

フォンダンでは砂糖を小さく多数の結晶として作ることが、なめらかな食感につながります。チョコレートではココアバターを望ましい結晶多形へ導くことが、光沢・スナップ性・口どけに重要です。アイスクリームでは、氷結晶を小さく保ち、保存中の再結晶化を抑えることが、ざらつき防止につながります。

つまり結晶化制御が食品ごとに違うのは、何を結晶化させるのか、どの結晶形を選ぶのか、どの大きさに保つのかという品質目標が違うからです。

目次

「結晶化を促す」と「結晶化を抑える」は食品によって意味が違う

結晶化は、単純に多ければよい、少なければよいという現象ではありません。

砂糖菓子では、結晶を作らないハードキャンディーもあれば、微細な糖結晶を積極的に作るフォンダンもあります。

チョコレートでは、結晶化そのものを止めるのではなく、複数あるココアバター結晶多形のうち、望ましい型を優先的に作る必要があります。

アイスクリームでは凍結時に氷結晶は必要ですが、保存中にそれが粗大化する再結晶化は抑えたい現象です。

フォンダンでは「多数の微細な砂糖結晶」が必要

フォンダンは、砂糖を高濃度に溶かした溶液を過飽和状態にし、撹拌しながら多数の結晶核を発生させて作ります。

核が多数できると、溶けている砂糖が多くの結晶へ分配されるため、一つ一つの結晶は大きくなりにくくなります。

その結果、舌でざらつきを感じにくい微細な結晶構造になります。

一方、核の数が少ないと、限られた結晶へ砂糖が集まり、大きな結晶が成長しやすくなります。

砂糖菓子では過飽和度が結晶数と大きさを変える

砂糖溶液を冷却すると、温度低下によって溶解度が下がり、過飽和状態になります。

過飽和度が高いほど核生成の駆動力が大きくなり、一般に多数の核が生じやすくなります。

国内の糖・糖アルコールを用いたフォンダン研究でも、過飽和度が大きくなるにつれて結晶化速度が速まり、結晶が小さくなる傾向が報告されています。

このためフォンダンでは、冷却温度と撹拌開始のタイミングが重要です。

撹拌が微細結晶化を助けるのはなぜ?

過飽和溶液を撹拌すると、分子が結晶核へ運ばれやすくなるだけでなく、局所的な濃度差が減り、新しい核が生まれやすくなります。

また、できた結晶が衝突して微小な結晶片を生じ、それが新たな核として働くこともあります。

そのため、適切な温度まで冷やしてから撹拌することで、多数の小さな結晶を作りやすくなります。

ハードキャンディーでは逆に結晶化を避ける

ハードキャンディーでは、砂糖を結晶ではなく非晶質のガラス状態として固めます。

そのため、製造中や保存中に結晶核が生じると、白濁やざらつきの原因になります。

水あめや転化糖を加えるのは、ショ糖分子が規則的に並んで結晶化するのを妨げる効果があります。

同じ砂糖菓子でも、フォンダンでは結晶化を促し、ハードキャンディーでは結晶化を抑えるという逆の制御が必要です。

チョコレートでは「結晶の大きさ」だけでなく「多形」が重要

チョコレートの連続相となるココアバターには、同じ化学組成でも分子の並び方が異なる複数の結晶多形があります。

国内の総説では、ココアバターにはI〜VI型の多形があり、チョコレート製品ではV型が光沢、スナップ性、口どけの面で重要とされています。

したがってチョコレートでは、単に結晶をたくさん作ればよいのではなく、どの多形を作るかを制御する必要があります。

テンパリングはなぜ温度を上げ下げするのか?

チョコレートのテンパリングでは、いったんココアバターを十分に融かした後、冷却して結晶核を作り、再び少し温度を上げます。

この温度操作によって、不安定な低融点多形を融かし、望ましいV型結晶を残して成長させやすくします。

最終的に、適切なV型結晶核が十分に存在する状態で成形・冷却することで、均一な結晶ネットワークを形成します。

この工程が不十分だと、光沢不足、軟らかさ、収縮不良、ブルームなどが起こりやすくなります。

チョコレートでは種結晶も使える

テンパリングでは温度履歴によって目的の結晶核を作りますが、あらかじめ望ましい結晶構造を持つ種結晶を加える方法もあります。

種結晶が足場になると、ゼロから核を作る必要が減り、目的の多形を選択的に増やしやすくなります。

2020年のレビューでも、シーディングは従来のテンパリングに代わる前結晶化技術の一つとして整理されています。

なぜチョコレートは保存中に白くなることがある?

チョコレート表面が白っぽくなるファットブルームは、油脂結晶の再配列や粗大化、別の多形への転移などと関係します。

ココアバターは時間や温度変動によって結晶状態を変えるため、製造時に望ましいV型を作っても、保存条件が悪ければ結晶構造が変化します。

そのためチョコレートでは、製造時の結晶化だけでなく、保存中の温度変動を抑えることも重要です。

アイスクリームでは水を氷結晶として作る

アイスクリームでは、冷却によって水の一部を氷結晶へ変えます。

しかし水を全部大きな結晶へするのではなく、非常に多数の小さな氷結晶を作ることが滑らかな食感に重要です。

氷結晶が大きいと、舌で粗さを感じやすくなり、ざらざらした食感になります。

急速凍結で氷結晶が小さくなりやすい理由

急速に温度を下げると過冷却が大きくなり、多数の氷核が生じやすくなります。

同じ量の水が多数の氷結晶へ分配されるため、一つ一つの結晶は小さくなりやすくなります。

反対にゆっくり凍結すると核の数が少なく、既存の結晶へ水が集まる時間が長いため、大きな氷結晶ができやすくなります。

撹拌しながら凍らせる理由

アイスクリーム製造では、冷却と同時に撹拌します。

撹拌によって、冷却面付近にできた氷結晶を全体へ分散させ、局所的な粗大化を防ぎます。

また空気を取り込みながら脂肪球の部分合一なども進み、アイスクリーム特有の複雑な構造が形成されます。

つまりアイスクリームの結晶化制御は、氷だけでなく空気・脂肪・未凍結相を含む多相構造全体の設計です。

アイスクリームでは保存中の「再結晶化」が問題

凍結直後に氷結晶が小さくても、保存中に結晶が大きくなることがあります。

小さな氷結晶が消え、大きな結晶が成長したり、隣り合う結晶が結合したりする現象を再結晶化と呼びます。

国内の凍結食品研究では、氷結晶の再結晶化は凍結食品の品質劣化原因であり、凍結濃縮相の水の運動性と強く関係することが示されています。

温度変動で再結晶化が進みやすいのはなぜ?

冷凍庫内の温度が上がると、一部の小さな氷結晶が融けます。

その後再び温度が下がると、その水は新しい多数の小結晶として戻るとは限らず、既存の大きな氷結晶へ取り込まれやすくなります。

この融解と再凍結を繰り返すと、平均氷結晶径が大きくなります。

そのためアイスクリームでは、低温を保つだけでなく、保存・流通中の温度変動を小さくすることが重要です。

安定剤は氷結晶の成長を遅らせる

アイスクリームに使われる増粘多糖などの安定剤は、未凍結相の粘度を高め、水分子の移動を遅くします。

水の移動が遅くなれば、小さな氷結晶から大きな氷結晶へ水が移動する速度も低下し、再結晶化を抑えやすくなります。

凍結食品研究でも、凍結濃縮相の水の拡散係数が再結晶化速度と強く関係することが報告されています。

砂糖はアイスクリームでも結晶化制御に関わる

アイスクリーム中の砂糖は甘味を与えるだけでなく、凝固点を下げます。

そのため一定温度でも、砂糖が多いほど未凍結水が増え、氷の量や硬さが変わります。

また、未凍結相の濃度やガラス転移挙動も変わり、再結晶化速度へ影響します。

つまりアイスクリームでは、砂糖そのものの結晶化ではなく、水の氷結晶化を間接的に制御する成分としても働きます。

三つの食品で「理想の結晶」は何が違う?

砂糖菓子のフォンダンでは、理想は多数の微細な砂糖結晶です。

チョコレートでは、ココアバターの望ましいV型多形と、均一な微細結晶ネットワークが重要です。

アイスクリームでは、氷結晶を小さく保ち、保存中の粗大化を抑えることが重要です。

このように、結晶の化学成分も品質目標もまったく異なります。

同じ「冷却」でも目的が違う

フォンダンでは過飽和を作り、多数の砂糖核を発生させるために冷却します。

チョコレートでは、特定の油脂多形を選択するために冷却と再加温を組み合わせます。

アイスクリームでは、多数の氷核を作り、氷結晶を小さくするために急速冷却します。

したがって、同じ「温度を下げる」という操作でも、その役割は食品ごとに異なります。

同じ「撹拌」でも目的が違う

フォンダンでは、撹拌は多数の糖結晶核の形成と微細化を助けます。

チョコレートでは、温度を均一にし、結晶核を全体へ分散させます。

アイスクリームでは、氷結晶を分散させながら空気を取り込み、局所的な結晶粗大化を防ぎます。

操作名が同じでも、制御している構造が違うのです。

保存中にも結晶は変化し続ける

結晶化制御は製造時に終わるわけではありません。

砂糖菓子では、吸湿や温度変化によって砂糖の再結晶化や粗大化が起こることがあります。

チョコレートでは、温度変動によって多形転移やファットブルームが進むことがあります。

アイスクリームでは、温度変動によって氷結晶の再結晶化が進みます。

つまり品質保持には、製造時の結晶化だけでなく保存中の結晶安定性も重要です。

結晶化制御の共通原理は「核生成と成長のバランス」

三つの食品は目的が違っても、根本では核生成と結晶成長のバランスを制御しています。

多数の核を作れば一般に結晶は小さくなりやすく、核が少なければ既存結晶が大きく成長しやすくなります。

さらにチョコレートでは多形選択、アイスクリームでは再結晶化、砂糖菓子では非晶質化や糖の種類が加わります。

食品ごとの違いは、この共通原理に「何を結晶化させるか」という材料固有の条件が重なって生まれます。

まとめ:目標とする結晶が違うため、結晶化制御も違う

砂糖菓子・チョコレート・アイスクリームで結晶化の制御方法が違うのは、品質を決める結晶の種類・大きさ・多形が異なるためです。

フォンダンでは、過飽和と撹拌を利用して多数の微細な砂糖結晶を作ります。チョコレートでは、テンパリングによってココアバターを望ましいV型多形へ導きます。アイスクリームでは、急速凍結によって氷結晶を微細化し、保存中の再結晶化を抑えます。

つまり結晶化制御を理解するには、結晶化を促すか抑えるかではなく、どの結晶を、どの大きさ・形・多形で作り、その状態をどれだけ維持したいのかを見ることが重要です。

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主な参考資料

  • 本同宏成・上野聡「チョコレートにおける油脂の結晶制御と物性」色材協会誌、2018年。
  • 藤井恵子ほか「健康志向型食材としての糖および糖アルコールの物性と嗜好性」日本家政学会大会研究発表要旨集、2010年。
  • 萩原知明「凍結食品中の氷結晶成長の予測と制御」日本食品工学会誌、2018年。
  • Mirzaee-Ghaleh E. et al. “Molecular Origins of Polymorphism in Cocoa Butter.” Annual Review of Food Science and Technology, 2021.
  • Afoakwa E. O. et al. “Pre-crystallization process in chocolate: Mechanism, importance and novel aspects.” 2020.
  • “Innovative Ingredients and Emerging Technologies for Controlling Ice Recrystallization, Texture, and Structure Stability in Frozen Dairy Desserts: A Review.” 2014.

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